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 煌びやかな装飾がなされたパーティー会場は普段カトリーナが過ごしている神殿とは違いとても騒がしく、慣れないせいか、普段履かないヒールのせいか、立っているのもやっとだった。
「カトリーナ。紹介する、こちらは──」
 レジスの言葉になんとか笑顔を浮かべたけれど息が苦しくなるのを感じた。初めて見る料理も、飲み慣れていない酒も。あんなに楽しみにしていたのに今はここから出て少しでも外の風に当たりたい。
 遠くから焼けるような視線は感じていたけれどカトリーナに話しかけてくる者はいなかった。見定めるような視線も、彼女にとっては初めてのものだ。
「レジス」
 ようやく二人になれたところで勇気を振り絞る。
「ごめんなさい、人に酔ったようなの。少し外の風を吸いたくて」
「あぁ……気が付かなくてすまなかった、あっちに行こう」
 テラスの方を指さされほっと安心する。行こうと私の腰に彼が手を添えたけれど、彼を呼ぶ声がした。
「レジス殿下。少しよろしいですか?」
「ジャック。カトリーナ、彼はジャック・ディモン。ディモン伯爵家の次男で俺の数少ない友人だ」
「まぁ……初めまして、カトリーナと申します」
 痛みに耐えて足を軽く曲げ挨拶をした私をじろじろと見下ろしたその男はふっと鼻で笑った。
「あぁ、話は聞いている。平民上がりの聖女だろう?レジスが婚約者に望んでいると聞いた時は驚いたよ」
 他人と関わることも滅多になかった私は不躾なその男に蔑まれているのだと気付くまでに少し時間がかかった。
「ジャック!そんな言い方はやめろ、彼女に失礼だろう」
 私を庇うように言うレジスに、一瞬頭に上りかけた血がするすると引いていく。
「なにがだ?本当のことだろう。いいことじゃないか、聖女に選ばれたというだけで豊かで安全な暮らしが保障されて。挙句にはお前の婚約者にまでなったんだ」
「ジャック」
「それにしても聖女とやらと会うのは初めてだが、普通の人間と大して変わらないな。偽物なんじゃないのか?」
 けらけらと笑う彼になんと失礼な人だろうと拳を握りしめた時、横にいたレジスの方が怒っていることを感じ取る。
「お前、いい加減にしろと言ってるだろ」
「いいのレジス」
 私のために友人との諍いを作ってほしくはない。世間知らずの私が彼の恋人でいることを快く思わない人がいるだろうことは分かっていた。
「私、少しテラスで休んでいるわね。私のことは気にしないでご友人とゆっくり話して」
「カトリーナ、でも」
「大丈夫よ。そこにいるわ」
 これ以上この恋人の友人とやらの顔を見ていたくない。ふいっと顔を背けてテラスへ向かった私を、レジスが追いかけてくることはなかった。
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