【序章完】ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
5 / 50
序章

第1話(4)巫女、大暴れ

しおりを挟む
「な、なんだ⁉」

「どうした⁉」

「い、いや、戦場に巫女さんが!」

「巫女だあ~? そりゃ神社の境内にはいるだろう!」

「どうしますか?」

「どうするもこうするもない! まとめて殲滅する!」

「ええっ⁉」

「何を驚く必要がある。反乱分子をかくまう動きも見せた! 証拠は十二分だ!」

「りょ、了解しました!」

「……」

 敵兵たちが国崩しを連続で発射する。そこには伊那の姿もあった。

「御神楽さま! 避けないと!」

「いや、甘い、何らかの術で防ぐんだ!」

「駄目だ、間に合わんでごわす!」

「御神楽さまー! ……⁉」

「おらあああ!」

 鍋釜たちは自分の目を疑った。ついでに常識も。伊那は素手で砲弾を殴り次々と相手に向かって打ち返していく。鍋釜らは驚く。

「し、信じられんたい……」

「な、なんということばい……」

「まず思うことと言えば……」

「「「術は⁉」」」

「え?」

「いや、え?じゃなくて……不可思議な術を期待していたのですが……」

「あれは面倒だからな……」

「面倒?」

「そう、色々と読み上げないといけないからな」

「時間がかかってしょうがないと」

「そういうこと!」

 鍋釜の言葉に伊那が反応しビシっと指を差す。

「相手は混乱状態です……」

「だろうな。だが、神聖な境内を滅茶苦茶に荒らした罰はこんなもんじゃないぜ、徹底的にやってやるからな、覚悟しとけよ」

 伊那はゆっくりと、敵兵たちの下へ歩み寄る。

「御神楽さま! いや、大丈夫か……」

 鍋釜は伊那の戦いぶりを見守る。

「ふふっ……」

「巫女さんが向かってきます!」

「あ、あんな巫女がいてたまるか!」

「で、では巫女らしきもの?」

「ああ、そうだ!」

「ど、どうしますか?」

「砲弾を撃って、撃って、撃ちまくれ!」

「はっ!」

「おらあ!」

「! まだだ!」

「ははっ!」

「うらあ!」

「‼ まだまだ!」

「は、ははっ!」

「そらあ!」

「⁉ ま、まだ……!」

「ほ、砲弾がもう尽きました……」

「な、なんだと⁉」

「ど、どうしましょうか?」

「て、撤退だ!」

 砲撃部隊が撤退を始める。伊那が笑う。

「そうは……いかねえよ!」

「なっ⁉」

 相手は驚く、伊那がすぐそばまで迫ってきたからである。

「み、巫女らしきもの、接近してきます!」

「な、なんだ、この距離を一瞬で詰めた……! ば、化物か⁉」

「随分な言われようだな……」

「ひいっ⁉」

「ひ、怯むな、数では多い! 囲んで捕らえろ!」

 部隊長が刀を抜く。部下たちもそれに従い、伊那を包囲する。

「まだ戦意を完全に失っていないのは大したもんだ……」

「か、かかれ!」

「一気に片付ける!」

「⁉」

 伊那が火を纏った拳を振り回す。その不可思議さと強烈な威力に砲撃部隊は大混乱に陥り、ばったばったと倒されていく。伊那が振り返って鍋釜に問う。

「おーい! こいつら倒したらどうするつもりだ?」

「え?」

「見事に三勢力まとめて敵に回すことになっちまいそうだが……」

「ああ、まずこの近くにある『火京(かきょう)』へ向かいます。ご存知の通りこの九州の州都です。三勢力ともそこを狙っています」

「迫ってくる敵を迎撃か?」

「いえ、火京を抑えたとなれば、味方も増え、敵の離反者も増えます。一石二鳥の策です」

「ほう……」

「もちろん、体勢が整い次第、こちらから打って出ます!」

「おっ!」

「守るより、攻める方が御神楽さまの性に合うようなので」

「分かってんじゃねえか、お前ら気に入ったぜ!」

「!」

 伊那はそこからほとんど一瞬で残存の敵部隊を沈黙させた。伊那は鍋釜に声をかける。

「よっしゃ、行こうか、火京へ」 

――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――

 日本は十の道州と二つの特別区に別れた。

 十の道州の内の一つ、九州は戦国時代にタイムスリップしたかのような状態になり、高島津、大友部、竜勝寺の三氏が鼎立する『九州三国志』の様相を呈していた。

 終わりの見えない争いに疲弊した民衆の声を聴いた有力家臣たちの子は争いを集結に導ける可能性を秘めた巫女を探し求め、ついに見つけた。

 あるいは、古代の大国が女の王を立てたことにより、平和を取り戻したという言い伝えを信じたのか、それを踏襲しようとしたのか。いずれにせよ彼らは女王の代わりに不思議な存在感を持つ巫女を求めた。

 そんな彼らの思惑はまんまと外れてしまった。いや、外れた方が良かったのかもしれない。

 齢不詳な少女は不可思議な術を使う。

 形代に息を吹き込んで意思を持った人形のように扱える。

 ただ、戦いにおいてはそのような術はまず使わない。

 神秘性と暴力性の天秤は後者に傾いた。彼女にとってはそれこそ望むところだった。

『武闘派巫女(ぶとうはみこ)』

 御神楽伊那(みかぐらいな)

 かつて火の国と呼ばれた土地から立ち上がる。

 最後に笑うのは誰だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...