竜王はワシじゃろ?

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第6話(2)データギャル

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「そだよ~♪」
 ギャルが手を左右に振る。
「なるほどな……」
 竜子が腕を組む。
「うん?」
「さきほど声をかけてきたのは……」
 竜子が目を閉じる。
「……」
「ワシの動揺を誘う為か?」
 竜子が片目を開いて問う。
「ええ?」
「違うのか?」
「うん、まあ、そうだよ」
「やはり違うか……な、なにっ⁉」
 竜子が両目をガバッと見開いて驚く。
「あはは、そのリアクション、ウケる~」
 ギャルが口元を抑えながら、竜子を指差して笑う。
「わ、笑うな!」
「めんご、めんご」
 ギャルが右手を縦にして謝る。
「まったく……油断も隙もない……」
「『盤外戦術』ってやつだよ」
「ばんがいせんじゅつ?」
「そう、対局以外のところで、相手の動揺を誘ったりするの~」
「な、なんということを……」
「勝つためにはなんでもやるよ~♪」
「呑気な物言いでとんでもないことを言うやつじゃの……」
 竜子がギャルを睨む。
「あれ? 怒った?」
「……まあいい」
「あら?」
「そのような搦め手でくるほど、ワシのことを恐れているんじゃろう?」
 竜子が問いかける。
「まあ、そうだね……」
「これも実力者の宿命というやつじゃな……」
 竜子が自らの顎をさすりながらうんうんと頷く。
「それは保険みたいなものなんだけどね……」
「なに?」
「ん~ん、なんでもない♪」
 ギャルが首を左右に振る。
「?」
 竜子が首を捻る。
「……それでは振り駒を……」
 係員が声をかける。
「は~い♪」
 ギャルが駒を振る。
「年上……まあ、それはそうじゃろうな」
 竜子が呟く。
「ほい♪」
 歩の方が多く出る。
「またもや後手か……」
 竜子が苦笑する。
「ウチが先手だね~♪」
 二人は駒を並べ始める。
「やれやれ……今日はとことんツイてないのう……」
「ウチはとことんツイているよ……」
「え?」
「なんでもないよ……」
 ギャルが再び首を左右に振る。
「……?」
「………」
 二人が駒を並べ終える。時計を確認し、係員が告げる。
「……時間になりました。それでは対局を始めてください」
「お願いしま~す♪」
「お願いします」
 ギャルと竜子が互いに頭を下げる。
「緊張するな~」
「まあ、胸を貸してやる。思いっきりぶつかってくるがいい……」
 竜子が自らの胸をとんと軽く叩く。
「良いの?」
「ああ、構わんぞ」
「へえ……」
「うん……?」
「余裕だね~」
「そうだ、余裕だ。油断しているわけではないぞ?」
「では、お言葉に甘えて……」
「む……?」
「あ、すいません~」
 ギャルが手を挙げて、係員に話しかける。
「なんでしょうか?」
「緊張しまくりで眼鏡かけ忘れていました。かけていいですか?」
「……ええ、どうぞ」
「ありがとうございます~」
「眼鏡じゃと?」
「うん、ウチ視力あんまり良くないんだよね……」
 ギャルが眼鏡をポケットから取り出してかける。
「……⁉」
 竜子の顔色が変わる。ギャルが放つ圧力を感じ取ったからである。
「へえ……分かるんだ」
「分かる……というか、感じ取ったというべきか……」
「それなら意外と楽しめそうだね~♪」
「い、意外とじゃと?」
「優勝候補が遊んであげるよ、ダークホースちゃん♪」
「ダ、ダークホースじゃと⁉」
「うん」
「だ、誰のことじゃ⁉」
「そりゃあ、もちろん……」
「もちろん?」
「君のことだよ」
「‼」
 ギャルが竜子のことを指差す。
「な、舐めるなよ!」
「舐めてはいないよ……」
「な、なんじゃと?」
「要警戒している……」
 ギャルが眼鏡をクイっと上げる。
「むっ……」
「さて……」
 ギャルが一手を指す。
「ふん……」
 竜子も最初の一手を指す。
「…………」
「……………」
 しばらく手が進んでからギャルが口を開く。
「将野竜子、振り飛車党……」
「ふ、振り飛車党?」
「振り飛車を好む人ってこと」
「あ、ああ……」
「今日の六局はすべて振り飛車で臨んでいる……」
「なっ⁉」
「戦法に絶対の自信を持っている……それもあるけど……」
「それもあるけど?」
「棋歴が乏しい為に、他の戦法を試す期間が限られていた……それによって、振り飛車にこだわらざるを得ない……」
「な、なんじゃと……!」
「当たっているでしょう?」
 ギャルが首を傾げる。
「な、なにを馬鹿な……」
「ごまかしても無駄だよ……駒を持つ手つきのおぼつかなさで分かっちゃうから……」
「!」
「ふふっ、図星みたいだね……さあ、将棋を楽しもうか……」
 ギャルが両手を広げる。
「お、お主、なんなんじゃ?」
「ウチ? ウチは『データギャル』って呼ばれているね……」
「デ、データギャルじゃと?」
「そう、データで戦うんだよ」
 ギャルがとんとんと自らの側頭部をとんとんと叩く。
「データで戦う……」
「ウチのこの頭の中には、実力者のデータがほとんどすべて入っていると言っても過言ではないんだよね~」
「は、はったりじゃ!」
「どうしてそう思うの?」
「ワ、ワシはこの大会が初めての参加じゃ! ワシのデータなどないじゃろう!」
「………………」
 ギャルが沈黙する。
「ほ、ほら、やはりじゃ! ワシに関してはすっかりお手上げじゃろう⁉」
「いや~それはまったくもってそうなんだよね~」
「むっ……?」
「てっきり、『彩りのゴスロリ』、田中真理ちゃんか、『左右問わずのバランサー』、郷右近左京ちゃんのどちらかが勝ち上がってくるかと思ったからね~」
 ギャルが額を抑えて、軽く首を振る。
「ふ、ふん! 当てが外れたのう! 残念じゃったな!」
「……とはいえ、ウチはツイているんだよ」
「なに?」
「ウチはGブロック……君のHブロックとは隣のスペースだった……」
「! ま、まさか……」
「ああ、君の対局はほとんどすべて見ることが出来たんだよね~」
「む、むう……」
「君にとって、ウチは初見の相手になるわけだけど、ウチにとってはそうじゃない……」
「くっ……」
「はるばる千葉から東京までやって来た甲斐があったよ……今日は優勝する確率がグンと上がったからね」
「な、なにを……」
「この外海央美(とのうみおうみ)が胸を貸してあげるよ……」
 央美と名乗ったギャルが不敵な笑みを浮かべる。
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