合魂‼

阿弥陀乃トンマージ

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第1章

第7話(1)とりま、役割分担

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「さて、我々はこのK棟の攻略だが……」

 校舎を改めて見上げて姫乃が呟く。

「先手必勝! 一気に突っ込む!」

「燦太郎、待て」

 走り出そうとする燦太郎を姫乃は冷静に制す。亜門が尋ねる。

「やはり警戒されていますか?」

「いや、この時間帯はちょうど手薄になる時間帯だということは調査済みだ」

「ほお……」

 亜門はわざとらしく顎に手を当てて感心した様子を示す。姫乃が目を細める。

「その、ほお……とはどういう意味だ?」

「いえ、意外と考えがおありなのだなと思いまして」

「れ、礼沢! 失礼だろう!」

 亜門の物言いに仁が慌てる。姫乃が笑う。

「この校舎を根城にしている連中は他よりも若干ではあるが手ごわい奴らが揃っているからな、それなりの対策はとるさ」

「対策ですか?」

「役割を簡単にだが割り振ろうと思う。あくまで流動的なものだ、バトルフィールドの中では何が起こるか分からんからな、それでも基本的な方針を定めておきたい」

「ふむ……」

 姫乃の説明に亜門が頷く。

「ここまではいいな?」

「ええ」

「それでタンク役なのだが、優月が向こうの商学部攻略に行ってしまって不在なのだ……困ったことにな」

「あみだくじで決めなければ良かったでしょう」

 亜門は間髪入れず正論をぶつける。仁が再び慌てる。

「礼沢、たとえ本当のことでももうちょっとオブラートに包んで……」

「取り繕っている場合じゃあねえだろう」

「そ、それはそうだが……」

「優月の無駄なタフさが無いのは痛いな……」

 姫乃が顎に手を当てて呟く。仁が苦笑する。

「いや、無駄なって」

「そんなにタフなのかい、あの眼鏡くん?」

「ええ、タフさしか取り柄がありません」

 燦太郎の問いに亜門が答える。仁が再び苦笑する。

「いや、それしか取り柄が無いって言うのも……」

「……それじゃあ、姉御、俺が前線でタンク役になろうか? 走り回るのは得意だぜ?」

 燦太郎は開いていたジャージの前をビシっと閉めて、不敵な笑みを浮かべる。

「燦太郎のスピードは厄介だ、相手の目を引くことは間違いないだろう……だが、耐久力に若干の不安が残るな」

「む……」

「ここの連中は一撃一撃が強力だからな」

「ならばどうするんで?」

 燦太郎が首を傾げて姫乃に尋ねる。姫乃は一呼吸空けて答える。

「……貴様には『メイカー』を頼もう」

「え?」

「え?」

 燦太郎と仁が同時に首を捻る。姫乃が説明を続ける。

「ムードメイカーというか、この場合はリズムメイカーか。縦横無尽に走り回って、相手のペースやリズムをとことんかき回してくれ!」

「おおっ! 分かったぜ、姉御!」

「自慢の俊足、大いに期待している」

「任せろ! ちょっとこの辺走ってきて良いかい?」

「作戦開始には少々早いが……まあ、いいだろう。任せる」

「うおっしゃ! いっくぜー!」

 燦太郎が校舎に向かって走り出す。仁が呟く。

「も、もう、あんなところまで……」

「……むしろトラブルメイカーでは?」

「……そうとも言うかもな」

 亜門の指摘に姫乃は笑ってウインクする。仁が三度慌てる。

「い、いや、えっと、その……!」

「一旦落ち着け、外國」

 姫乃の言葉で一度深呼吸した仁が口を開く。

「……早く役回りを決めて、朝日先輩を追いかけないと! そ、それと、俺の役回りはメイカーじゃないんですか?」

「もっともな疑問だな」

 姫乃は笑って頷く。

「お、お言葉ですが、笑っている場合ではなくてですね……!」

「……貴様には今回、『タンク』をお願いする」

「え、ええっ⁉」

 姫乃の発言に仁が驚愕する。

「そんなに驚くことか?」

「そ、そりゃあ、驚きますよ! 俺は超慈ほどのタフさは無いですよ!」

「タンク役とはいえ、馬鹿正直に全ての攻撃を喰らう必要はない」

「は、はあ……」

「貴様の意外な身軽さを生かして、攻撃を引き付けてくれればそれでいい」

「い、意外な身軽さって。そりゃあ、新体操やっていましたけどね……」

「ここ最近の成長も目を見張るものがある……鬼龍との特訓の成果かな?」

「あ、ご存知だったんですか?」

「部長だぞ、部員のことは把握しているつもりだ」

 そう言って姫乃は笑う。仁は照れ臭そうに鼻の頭を掻く。

「だ、だいぶ、鍛えられました……」

「あんなマイナー忍術の相手をしてやるとは、随分と面倒見が良いな……」

「お、お前と超慈が相手してやらないからだろう!」

 亜門に対し、仁が声を上げる。姫乃が両手を叩く。

「……ということで、暫定的ではあるがタンク役は決まった。『ヒーラー』役だが……礼沢、貴様にお願いするぞ」

「分かりました……ただ、バトルフィールド内ではどのように戦況が変わるか分かりません。自由に動いても問題ないですよね?」

「もちろんだ」

「了解……それじゃあ、さっさと行きましょう」

「ちょ、ちょっと待て!」

 仁が歩き出す姫乃と亜門を呼び止める。亜門が首を捻る。

「なんだ? この期に及んで怖気づいたか?」

「そ、そうじゃねえよ!」

「じゃあなんだ?」

「大事なことを忘れている!」

「大事なこと?」

「『アタッカー』だよ! いつもの切り込み隊長、鬼龍がいないから、相手に向かっていくアタッカーがいないんだよ!」

「さっき突っ込んでいった先輩が実質アタッカーみたいなもんだろう。必要とあらば、俺とお前が兼任すれば済むことだ」

「付け焼刃的なマルチロールで勝てるほど甘い相手だとは思えない!」

「何を弱腰な……ん?」

「え?」

 亜門と仁の視線の先には入念な準備体操を行う姫乃の姿がある。姫乃は片手を挙げる。

「……アタッカーならここにいるぞ」
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