Angel's Ring

Angel's Ring

６

「ファビアンさん、こっちです…」

私は一足先に宿の裏口に行くと、あたりに人影がないことを確かめてファビアンさんを手招きしました。



「お…おぅ！」

ファビアンさんは小走りに裏口に走りこみ、後手に扉を閉じられました。



「遅かったじゃないですか…お部屋はこちらです…さ、早く、こちらへ！」

宿の息子さんが小声でそう囁き、私達を部屋へ案内して下さいました。
そこは、一階の一番奥の厨房の隣の部屋でした。



「ここは以前おやじが使ってた部屋なんだ。
ごくたまに、部屋がいっぱいの時だけ使う部屋なんだよ。
泊り客は皆二階だからこっちの方が誰にも顔を合わせなくて良いと思ってね。」

「部屋なんてどこでも構いませんよ。
本当にありがとうございます！」

「今、食事を運んで来るから待ってておくれ！」



部屋の中は、清潔できっちりと片付いていました。
テーブルの上には花まで飾ってあります。



「おぉ…屋根だ…立派な屋根がある！
シーツもこんなにノリがきいて…」

ファビアンさんは部屋のあちこちをまるで点検するように見て回っては、目を潤ませていらっしゃいました。



＊



「お待たせ！」

息子さんがワゴンに載せた食事を運んで来て下さったのです。



料理の皿がテーブルに並ぶ間、ファビアンさんは目頭をハンカチで押さえながら、その動作を愛しそうに眺めてらっしゃいました。



「すごいご馳走ですね！
早速、いただきましょう！」

「う…うぅ…
あんたはすごい人だな！
俺をこうして本当に宿屋に泊めてくれたんだからな。」

「何をおっしゃってるんです。
私はお金もありませんし、あなたがいて下さらなかったら、野宿するしかなかったのは私の方なのですよ。
こちらこそ感謝しています。」

「あんたと出会えて本当に良かった…
これからも、どうか仲良くしてくれよな…！」

「ファビアンさん、私の方こそどうぞよろしくお願いします！」



なんという料理かはわかりませんでしたが、どれもとても美味しいものでした。
今日はいろんなことがあったせいかおなかも減っていたようで、二人でいろんな話をしながら食べていると、あっという間にすべての料理を食べきっていました。
おなかがいっぱいになると、今度は猛烈に眠くなってきました。
そして、ベッドに横になった途端、私は眠りに就いていました。