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復讐の連鎖

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 「……ルキティア、大丈夫かな…」

 隣の部屋から聞こえて来る物音とルキティアの悲鳴に、オルジェスは顔を曇らせる。



 「なぁ、ルーク、止めに行かなくて大丈夫だろうか?
ベルナールはずいぶん感情的になってたみたいだし、まさか……」

 心の中の不安を堪えきれないように、オルジェスはルークに問いかけた。



 「……オルジェス…
君はまだわかってないの?
ベルナールがあんなに怒ってるのは君のことも大きいんだよ…」

 「……俺のこと…?」

 「そうだよ。
 彼はもしかしたらルキティアがここにいるんじゃないかって心配してた。
もしも、そんなことになったら、君がどれほど傷付くことかって…そのことをすごく心配してたんだ。
だから、ここには近付かないようにしようって言われた。
でも、僕はあえてその逆のことをした…
それは、その方が君のためになると思ったからだ。
 現実を知った方が君のためになると思ったからなんだ。
……オルジェス…君は以前僕に言ったことがあったよね。
ベルナールはとても優しいって…
君の言った通りだ。
 彼はとても優しい…特に君には優し過ぎる。
その優しさが、却って君をだめにするんじゃないかって思うほどだよ…」

そう呟くルークのどこか寂しそうな視線は、遠くをみつめる。



 「ベルナールがそんなことを…
それに、おまえも…そんなに俺のことを考えてくれてたのか…」

 「オルジェス…僕にはもう家族はいない…
君とベルナールは…僕にとってとても大切な人なんだ…」

 「ルーク……」

オルジェスはルークの身体を抱き締めた。



 「ルーク、ありがとう…
俺…最近、おまえのことがわからなくなりかけてた…
俺は…ルキティアのことで頭がどうかしてたのかもしれないな…
馬鹿だな…俺って…」

オルジェスは、頭を抱え俯いた。



 「君は子供の頃から、なにかに夢中になるとそれ以外に気が回らない所があったよね。」

 「……言われてみればその通りだな。
でも、おまえはそんな俺にも愛想を尽かさなかった。」

 「君だって、いつも僕のことを助けてくれたじゃない…
僕は、君みたいに強くなるのが夢だった。」

 「ルーク……
おまえはとても強くなったよ。
それに…悔しいけど、俺よりずっと大人だな。」

 二人は見詰め合い、顔を見合せて微笑んだ。
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