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scene 5

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「本当に…こっちで…あってるん…でしょうね…!」

「あぁ、こっちで間違いない。」

息をきらし汗まみれになっているケイトの問いに、オルジェの肩で悠々と鼻唄を歌っていたリンクが答えた。



脇道に入ってから山はどんどんと深くなっていった。
ケイトやオルジェの背丈よりもずっと高い植物が生い茂る中をかきわけながら進むのは、簡単なことではなかった。



「な、なぁ…
どこかで…少し…休んで…いかないか?」

「なんだ?
もうへばったのか?
だらしない奴だなぁ…」

「よ…よく、言うわ…
こんな道…猪だって、進めやしないわ!」

「じゃ、ケイトは猪以上だってことだな!」

リンクはそんな軽口を言って高い声で笑う。




「………あ、あんたねぇ!!」

ケイトは素早い動きでオルジェの肩からリンクを持ち上げると、近くの木の枝にリンクの襟をひっかけた。




「こ、こらっ!
何てことするんだ!
降ろせっ!降ろせっ!」

「さ…オルジェ…行くわよ!」

「で、でも…」

オルジェは不安そうに、リンクをみつめる。



「良いのよ!」

「こら~っ!
ボクがいないと、行き先がわからないくせに…!
どうするつもりだ!」

「かまわないわ!
私達、あんたをここに置いて帰るから!」

「ば、馬鹿な!
帰ったら、またユフィルの村から出られなくなるぞ!
それでも良いのか!」

「じゃ、オルジェと二人でどこかの町に行くわ!」

「二人でって…あ…あの、ケイトさん…では、ボクは…?」

「あぁ、あんたもいたわね。
どうする?アルグ…
あんたもおじさんとここに残る?」

ケイトは意地の悪い顔つきで、アルグに問う。



「い…いえっ!
ボクはどこまでもケイトさんについていきます!」

「な、な、なに~~っっ!
こら~~っ!
アルグ!
血の繋がったボクを裏切るのか~!!」

「裏切るだなんて…
人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。
そんなことより、おじさん…早く、ケイトさんに謝って…!」

「な、な、なんで、ボクが謝らないといけないんだ!!」

「そうよねぇ…
謝る必要なんてないわよね…
リンクはここにいるのよね。
このあたりは大きな鳥や蛇もいるだろうから、食べられないように気を付けなさいね。
アルグのことは心配しないで。
じゃ…リンク、さようなら~
きっともう会う事はないと思うけど…」

「お、おい、ケイト…」

「行くわよ、オルジェ!」

ケイトの瞳が鋭く光った。



「は、はいっ!」

三人はリンクに背を向け、道なき道を進んで行く。
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