深淵に眠る十字架

scene 12

１０

「エルスール、ケイトはどうした？」

「……ケイトは来ない…」

「どうしたんだ？何かあったのか…？！」

「ケイトは…農薬を飲んで死んだらしい…」

「な…なんだって？！
なぜ？ケイトがなぜそんなことに…？！」

「…詳しいことはわからないんだ。
泣きながら戻って来て、そして、少し目を離した隙にそんなことになっていたらしい…」

「オルジェだけじゃなく、ケイトまでが…！？
嘘だろ？
トレル、ボクには信じられないよ。
しばらく離れてる間にこんなことになってるなんて…嘘だ…
嘘だ！！！」

誰も話すものはいなかった。
驚きと悲しみと苛立ちが入り混じり、皆、自分自身の気持ちがわからない状況だった。



しばらくして、最初に口を開いたのはトレルだった。



「エルスール…アズラエルは戻っていたか？」

「いや、いなかった。
奴がどうかしたのか？」

「そうじゃないんだけどな…
イアン牧師…それで、これからどうするんだ？」

「今は、待つしかないでしょう…
リンクがいない以上、奴はスィーク・レノには入れない。
いや、もともと、リンクが入口を開く事も出来なかったし、奴がスィーク・レノに入ることも出来なかったのですが…」

「でも、アズラエルが入れたってことはどういうことなんだ？」

「それが…わからないのです。
本当にその悪魔はスィーク・レノに行ったのでしょうか？」

「ボクが入口を開くことが出来なかったっていうのはどういうことなんだい？」

「リンク、空を見たでしょう？
あの入口は流星群が出ている時にしか開けないのですよ。
数十年に一度の星祭りの夜とそしてそれから約一週間後のある特定の時間にだけ。
ほとんどの人々は、星祭りの夜の後にまたほんの一時流星が降ることさえ知らないはずです。」

「ボクも知らなかったよ。」

「ルシファーもそのことを知らなければ良いのですが…
とにかく、その時はこちらに戻って来るアルグ達をなんとしてでも守らねばなりません。
……場合によってはミューラントも同行しているかもしれませんからね。」

「そうか…わかった。
その時まで農場に戻っても良いだろうか？
ケイトのことが気になる…」

「……それはすべてが終わってからにしましょう。
私達の行動から、計画が失敗してしまってはまずいですから。」




トレルは洞窟の壁を思いっきりこぶしで殴りつけた。