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片方だけの手袋
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(……ん?)
薄暗くなり始めた空の色に負ける事なく、そいつは道端で自分の存在をアピールしていた。
まるで、「早く拾って!」とでも言うかのように。
素直な俺はそいつに近付き、腰をかがめてそっとそれを手に取った。
ビビットなピンクの手袋…
手の甲にはハートの模様が浮かび上がり、手首にはポンポンが二つ並んで付いている。
いかにも若い女の子が好みそうなデザインだ。
俺の家の近くには、けっこう同年代の女の子が住んでいる。
隣の子は確か中3と小5だ。
斜め向かいには俺より一つ年上の高3が、そして、曲がり角には俺と同じクラスの陽奈がいて、その二軒先には違うクラスの遥がいる。
実は、俺は少し前からその遥に惚れていて…
同じ中学だったけど、当時は全く意識したことはなかった。
だけど、高校に入ってからの遥は別人みたいに変わったんだ。
バレー部をやめたからだろうか?
男みたいに短かった髪が伸び、スマートになって来て、おしゃれな女に変わっていった。
家の近くでは私服で会うことも多かったけど、まさに、ファッション雑誌から抜け出して来たようにおしゃれで可愛くて……
学校では「はーたん」と呼ばれ、ちょっとしたアイドル状態なんだ。
友達には遥と家が近くて羨ましいなんてよく言われるけど、家が近いからって特にメリットがあるわけじゃない。
現に俺は、遥とはほとんど話したことさえないんだから。
でも、もしも、これが遥の手袋だったら、これはチャンスだ!
それに、よく考えてみてもその可能性はすごく高い。
だって、陽奈はピンクなんて絶対に身に付けないタイプだし、向かいの子もいつも愛想のない色を好んで着てる。
隣の子は中3にしてはすごく小さくて小学生に間違えられる程だから、きっともっと小さな手袋を使ってる筈。
そうなると、この近くでこんな可愛らしい手袋を使うのは、やっぱり遥しかいない!
そう思うと、俺の胸は俄かにときめき、手袋をポケットに突っ込んで家に走って帰った。
家に戻るとすぐに私服に着替えた。
年末に思いきって買った新品のジャケットだ。
本当はクリスマスに遥を誘おうなんて思って気合いを入れて買ったものなんだけど、勇気がなくて声をかけることが出来なかったんだ。でも、今日ついに出番がやって来た。
鏡の中の俺はなかなかイケてる。
「あら、光彦…出掛けるの?」
玄関先でちょうど帰って来たおふくろと出会った。
「ちょっと……」
「あーーー!」
「わ、な、何!?」
おふくろは俺の手から遥の手袋を奪い取った。
「これ、どこにあったの?
今、探しに行ったんだけどみつからないから戻って来た所だったのに…」
な、なんだって……それじゃあ、まさかこの手袋は……
嬉しそうなおふくろとは裏腹に、俺はがっくりと肩を落とした。
薄暗くなり始めた空の色に負ける事なく、そいつは道端で自分の存在をアピールしていた。
まるで、「早く拾って!」とでも言うかのように。
素直な俺はそいつに近付き、腰をかがめてそっとそれを手に取った。
ビビットなピンクの手袋…
手の甲にはハートの模様が浮かび上がり、手首にはポンポンが二つ並んで付いている。
いかにも若い女の子が好みそうなデザインだ。
俺の家の近くには、けっこう同年代の女の子が住んでいる。
隣の子は確か中3と小5だ。
斜め向かいには俺より一つ年上の高3が、そして、曲がり角には俺と同じクラスの陽奈がいて、その二軒先には違うクラスの遥がいる。
実は、俺は少し前からその遥に惚れていて…
同じ中学だったけど、当時は全く意識したことはなかった。
だけど、高校に入ってからの遥は別人みたいに変わったんだ。
バレー部をやめたからだろうか?
男みたいに短かった髪が伸び、スマートになって来て、おしゃれな女に変わっていった。
家の近くでは私服で会うことも多かったけど、まさに、ファッション雑誌から抜け出して来たようにおしゃれで可愛くて……
学校では「はーたん」と呼ばれ、ちょっとしたアイドル状態なんだ。
友達には遥と家が近くて羨ましいなんてよく言われるけど、家が近いからって特にメリットがあるわけじゃない。
現に俺は、遥とはほとんど話したことさえないんだから。
でも、もしも、これが遥の手袋だったら、これはチャンスだ!
それに、よく考えてみてもその可能性はすごく高い。
だって、陽奈はピンクなんて絶対に身に付けないタイプだし、向かいの子もいつも愛想のない色を好んで着てる。
隣の子は中3にしてはすごく小さくて小学生に間違えられる程だから、きっともっと小さな手袋を使ってる筈。
そうなると、この近くでこんな可愛らしい手袋を使うのは、やっぱり遥しかいない!
そう思うと、俺の胸は俄かにときめき、手袋をポケットに突っ込んで家に走って帰った。
家に戻るとすぐに私服に着替えた。
年末に思いきって買った新品のジャケットだ。
本当はクリスマスに遥を誘おうなんて思って気合いを入れて買ったものなんだけど、勇気がなくて声をかけることが出来なかったんだ。でも、今日ついに出番がやって来た。
鏡の中の俺はなかなかイケてる。
「あら、光彦…出掛けるの?」
玄関先でちょうど帰って来たおふくろと出会った。
「ちょっと……」
「あーーー!」
「わ、な、何!?」
おふくろは俺の手から遥の手袋を奪い取った。
「これ、どこにあったの?
今、探しに行ったんだけどみつからないから戻って来た所だったのに…」
な、なんだって……それじゃあ、まさかこの手袋は……
嬉しそうなおふくろとは裏腹に、俺はがっくりと肩を落とした。
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