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第15話:アトリス王代理(Side:ルドウェン③)
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外国に行っていた父上と母上が、王宮に帰ってきた。
「父上、母上、お帰りなさいませ。お元気そうで何よりでございました」
「ただいま、ルドウェンちゃん」
「ただいま。どうやら、召使いの数が減っているようだが、留守の間に何かあったのか?そういえば、ブライアスもいないが、どうした?」
――ちっ、やっぱり父上は面倒だな。
ブライアスはあの一件以来、王宮には二度と帰ってこなかった。しかし、召使いどもが何か言うとまずい。
「はい、それがロミリアさんの大叔母様が急に体調を悪くされたそうで……。急遽、ロミリアさんが看病に向かうことになったのです。そのため、王宮からいくらか人をやっています。ブライアスも、彼女に同行させました」
俺は賢い頭を働かせて、上手い言い訳を思いついた。
もちろん、ロミリアの大叔母は実在する。
しかも、これならあいつらが今いないことにも、ちゃんと説明がついた。
「そうだったのか。ロミリア嬢に会えるのも楽しみだったのだが……。しかし、そういうことなら、急いで医術師を派遣しないといけないな」
「ロミリアさん一人では荷が重いでしょうに」
父上と母上が召使いを呼ぼうとする。
――まずいぞ、何とかしなければ。
「お待ちください。私の婚約者のことなので、私が直接手配いたします」
「いや、しっかり人選しなければならないから、私たちがやろう」
――クソっ、どうする。
「いいじゃない、あなた。ルドウェンももう大人なのだから、任せましょう」
ありがたいことに、母上が助け舟を出してくれた。
母上は昔から俺に甘い。
「そうか、頼むぞ、ルドウェン」
父上も厳しいようで、なんだかんだ俺に甘かった。
「ありがとうございます。責任を持ってやらせていただきます。ところで、父上と母上の帰国祝いということで、ロミリアさんからぶどう酒を預かっております。それと、彼女の義妹のダーリーさんからも、同じくぶどう酒を頂きました」
この言い方なら、ダーリーはあくまでおまけ、という雰囲気になる。
「ほう、そうか。それは楽しみだ」
じきに日が暮れて、夕食の時間になった。
今日は久しぶりに、家族三人だけの食事だ。
「しかし、今回はだいぶ長旅になって疲れたな」
「私も、もうヘトヘトですわ」
「本当にお疲れ様でございました。では、さっそくぶどう酒をいただきますか?」
「そうだな。今宵は、ロミリア嬢の大叔母様のご健康を祝って乾杯しよう」
俺は自分で二本のぶどう酒を持ってくる。
召使いのゴミが間違えたら台無しだからな。
「こちらがロミリアさんから頂いたぶどう酒、こちらがダーリーさんから頂いたぶどう酒でございます」
「そうか。まずは、ロミリア嬢からのぶどう酒を頂くことにしよう」
そう父上が言ったので、俺は安物の方のぶどう酒をトクトクとグラスに注いでいく。
「では、彼女の大叔母様のご健康を祝って、乾杯!」
カチーンッ! ゴクッ。
――ゲェッ、やっぱり安物はまずいな。
俺は昔から良い食事しかしたことがないから、安物ってだけで吐きそうになる。
ちょっと一口飲んだだけで、飲むのを止めてしまった。
二人の目を盗み、こっそり床に捨てる。
父上と母上は普通に飲んでいるが、やはり少々物足りないといった表情だ。
「いかがでございますか?父上、母上」
「うむ。まあまあと言ったところだな」
「これはこれで美味しいわ」
――よしっ、次はダーリーのぶどう酒だ。いや、ヘンリックの言うように一杯飲むまでは待つか。
父上と母上のグラスが空いたのを見て、ダーリーからのぶどう酒を注ぐ。
「こちらがダーリーさんからのぶどう酒でございます」
トクトクトク。
もちろん、俺のグラスにもさっさと注いでしまった。
ゴクッ。
――これは上手い! さすが良い物は違うな!
俺は自分の舌には自信がある。
「ほう、これはなかなか美味いじゃないか。ダーリー嬢も良い目をしているな」
「ほんとね。さっきのぶどう酒も美味しかったけど、これはもっと美味しいわ」
いいぞ、作戦成功だ。
これでロミリアの評価がめちゃくちゃに下がることは間違いなしだな。
逆にダーリーの評価はうなぎ登りだ。
さすがはヘンリック、と言ったところか。
――このまま、婚約破棄のことも言ってしまうか? いや、今夜は酒が入っているから、忘れられると面倒だな。
婚約破棄の件については、明日言うことにした。
しかし、翌日になると父上と母上が体調を崩してしまった。
医術師は旅の疲れが出たのでしょう、と言っていた。
――もしかして、ぶどう酒にあたったのか? いや、ぶどう酒なら俺も飲んだじゃないか。
昨夜飲んだぶどう酒のことが一瞬頭によぎったが、すぐに追い払う。
念のため、俺は父上と母上の寝室に行った。
「父上、母上。具合は大丈夫でございますか?」
二人ともベッドに横たわっている。
「ルドウェンか。あぁ、大丈夫だ。医術師の言うように、疲れが出たのだろう」
「少し休んでればそのうち治っちゃうわよ」
だが、数日経っても父上と母上の体調は戻らない。
立ち上がろうとするとフラフラし、一日中横になっていないと辛いようだ。
もちろん、命に別状はないのだが、悪くもならないし良くもならない。
「うーむ、いつもはこんなことはないのだがな。わしももう歳ということか?」
「もしかしたら、流行り病でももらってきちゃったのかしらね」
「王様、王妃様、今日は別のお薬を試してみましょう」
医術師も薬を調合しているが、なかなか効果がないようだ。
――さっさと治せ、このヤブが!
ゴミ医術師を後ろから睨んでいると、父上が俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ルドウェン、ちょっと来てくれ」
「父上、どうされましたか?」
「このままでは国政が滞ってしまう。そこで、お前を一時的に国王代理にしようと思う。お前は国務をやったことがあまりないが、パトリーに聞けば大体わかるはずだ。代理といえど、その責任は正式な国王と同じだ。心してかかれ」
――ちょっと、待て。パトリーはもうクビにしちまったぞ。
「そうね、むしろ良い経験になるかもしれないわ。いずれはあなたがこの国を引き継ぐのだからね」
母上も父上の意見に賛成する。
――……いや、何も慌てることはない。
父上たちの言うとおり、俺は国務についてはまるっきり関わっていなかった。
だが、特に問題はないだろう。
この前パトリーが持ってきた書類だって、すぐに内容を理解できたじゃないか。
――大丈夫、俺は優秀なんだ。
その日、俺は父上と母上からアトリス王代理を任ぜられた。
「父上、母上、お帰りなさいませ。お元気そうで何よりでございました」
「ただいま、ルドウェンちゃん」
「ただいま。どうやら、召使いの数が減っているようだが、留守の間に何かあったのか?そういえば、ブライアスもいないが、どうした?」
――ちっ、やっぱり父上は面倒だな。
ブライアスはあの一件以来、王宮には二度と帰ってこなかった。しかし、召使いどもが何か言うとまずい。
「はい、それがロミリアさんの大叔母様が急に体調を悪くされたそうで……。急遽、ロミリアさんが看病に向かうことになったのです。そのため、王宮からいくらか人をやっています。ブライアスも、彼女に同行させました」
俺は賢い頭を働かせて、上手い言い訳を思いついた。
もちろん、ロミリアの大叔母は実在する。
しかも、これならあいつらが今いないことにも、ちゃんと説明がついた。
「そうだったのか。ロミリア嬢に会えるのも楽しみだったのだが……。しかし、そういうことなら、急いで医術師を派遣しないといけないな」
「ロミリアさん一人では荷が重いでしょうに」
父上と母上が召使いを呼ぼうとする。
――まずいぞ、何とかしなければ。
「お待ちください。私の婚約者のことなので、私が直接手配いたします」
「いや、しっかり人選しなければならないから、私たちがやろう」
――クソっ、どうする。
「いいじゃない、あなた。ルドウェンももう大人なのだから、任せましょう」
ありがたいことに、母上が助け舟を出してくれた。
母上は昔から俺に甘い。
「そうか、頼むぞ、ルドウェン」
父上も厳しいようで、なんだかんだ俺に甘かった。
「ありがとうございます。責任を持ってやらせていただきます。ところで、父上と母上の帰国祝いということで、ロミリアさんからぶどう酒を預かっております。それと、彼女の義妹のダーリーさんからも、同じくぶどう酒を頂きました」
この言い方なら、ダーリーはあくまでおまけ、という雰囲気になる。
「ほう、そうか。それは楽しみだ」
じきに日が暮れて、夕食の時間になった。
今日は久しぶりに、家族三人だけの食事だ。
「しかし、今回はだいぶ長旅になって疲れたな」
「私も、もうヘトヘトですわ」
「本当にお疲れ様でございました。では、さっそくぶどう酒をいただきますか?」
「そうだな。今宵は、ロミリア嬢の大叔母様のご健康を祝って乾杯しよう」
俺は自分で二本のぶどう酒を持ってくる。
召使いのゴミが間違えたら台無しだからな。
「こちらがロミリアさんから頂いたぶどう酒、こちらがダーリーさんから頂いたぶどう酒でございます」
「そうか。まずは、ロミリア嬢からのぶどう酒を頂くことにしよう」
そう父上が言ったので、俺は安物の方のぶどう酒をトクトクとグラスに注いでいく。
「では、彼女の大叔母様のご健康を祝って、乾杯!」
カチーンッ! ゴクッ。
――ゲェッ、やっぱり安物はまずいな。
俺は昔から良い食事しかしたことがないから、安物ってだけで吐きそうになる。
ちょっと一口飲んだだけで、飲むのを止めてしまった。
二人の目を盗み、こっそり床に捨てる。
父上と母上は普通に飲んでいるが、やはり少々物足りないといった表情だ。
「いかがでございますか?父上、母上」
「うむ。まあまあと言ったところだな」
「これはこれで美味しいわ」
――よしっ、次はダーリーのぶどう酒だ。いや、ヘンリックの言うように一杯飲むまでは待つか。
父上と母上のグラスが空いたのを見て、ダーリーからのぶどう酒を注ぐ。
「こちらがダーリーさんからのぶどう酒でございます」
トクトクトク。
もちろん、俺のグラスにもさっさと注いでしまった。
ゴクッ。
――これは上手い! さすが良い物は違うな!
俺は自分の舌には自信がある。
「ほう、これはなかなか美味いじゃないか。ダーリー嬢も良い目をしているな」
「ほんとね。さっきのぶどう酒も美味しかったけど、これはもっと美味しいわ」
いいぞ、作戦成功だ。
これでロミリアの評価がめちゃくちゃに下がることは間違いなしだな。
逆にダーリーの評価はうなぎ登りだ。
さすがはヘンリック、と言ったところか。
――このまま、婚約破棄のことも言ってしまうか? いや、今夜は酒が入っているから、忘れられると面倒だな。
婚約破棄の件については、明日言うことにした。
しかし、翌日になると父上と母上が体調を崩してしまった。
医術師は旅の疲れが出たのでしょう、と言っていた。
――もしかして、ぶどう酒にあたったのか? いや、ぶどう酒なら俺も飲んだじゃないか。
昨夜飲んだぶどう酒のことが一瞬頭によぎったが、すぐに追い払う。
念のため、俺は父上と母上の寝室に行った。
「父上、母上。具合は大丈夫でございますか?」
二人ともベッドに横たわっている。
「ルドウェンか。あぁ、大丈夫だ。医術師の言うように、疲れが出たのだろう」
「少し休んでればそのうち治っちゃうわよ」
だが、数日経っても父上と母上の体調は戻らない。
立ち上がろうとするとフラフラし、一日中横になっていないと辛いようだ。
もちろん、命に別状はないのだが、悪くもならないし良くもならない。
「うーむ、いつもはこんなことはないのだがな。わしももう歳ということか?」
「もしかしたら、流行り病でももらってきちゃったのかしらね」
「王様、王妃様、今日は別のお薬を試してみましょう」
医術師も薬を調合しているが、なかなか効果がないようだ。
――さっさと治せ、このヤブが!
ゴミ医術師を後ろから睨んでいると、父上が俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ルドウェン、ちょっと来てくれ」
「父上、どうされましたか?」
「このままでは国政が滞ってしまう。そこで、お前を一時的に国王代理にしようと思う。お前は国務をやったことがあまりないが、パトリーに聞けば大体わかるはずだ。代理といえど、その責任は正式な国王と同じだ。心してかかれ」
――ちょっと、待て。パトリーはもうクビにしちまったぞ。
「そうね、むしろ良い経験になるかもしれないわ。いずれはあなたがこの国を引き継ぐのだからね」
母上も父上の意見に賛成する。
――……いや、何も慌てることはない。
父上たちの言うとおり、俺は国務についてはまるっきり関わっていなかった。
だが、特に問題はないだろう。
この前パトリーが持ってきた書類だって、すぐに内容を理解できたじゃないか。
――大丈夫、俺は優秀なんだ。
その日、俺は父上と母上からアトリス王代理を任ぜられた。
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