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第32話:引っ越し
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〔まぁ……あんまり変わらないラビね〕
やや疲れた笑顔で話すティアナの言葉を聞き、ネオンの表情は暗くなった。
彼女は王国内で最大手の商会、“ペルジック・リベル商会”のトップを務めている。
従業員は全て“兎人族”で、みなアルバティス王国に住んでいる。
先々代、つまり祖父の代までは友好条約を結んで、互いに尊重し合う関係だった。
だが、現国王になってから条約が改悪され、商会も"兎人族"も極めて不利な立場にされたのだ。
商売の取引でも不当な扱いを受けるだけでなく、国外に拠点を移したら叛逆と見なされ、王国の討伐対象に認定されてしまう。
そのような辛い背景を思うと、ネオンは自然と首が垂れた。
「……王国がごめんなさい」
〔いやいや! ネオン殿が謝る必要はないラビ! むしろ守ってくれたとき、あちしも一族のみんなもすごい勇気を貰ったラビよ!〕
ティアナは慌てて話す。
以前、ネオンはティアナと王国の取り引きに偶然居合わせたとき、"不当な条約は撤回"するよう国王と双子兄に進言した。
だが、逆にネオンは殴られてしまい、その場から追放された。
それ以来、取引の場に同席することは許されず、今に至るのであった。
「もしよかったら、一族丸ごと、この飛び地に引っ越してきませんか?」
〔ラビ!?〕
「飛び地も王国の領地なので、条約も破ってはいません」
〔たしかに……ラビ〕
ネオンが提案すると、ティアナは顎に手を当て思案を始める。
やがて、すごくありがたいラビが……と切り出した。
〔でも、ネオン殿の迷惑にならないラビか? 国王殿や双子王子殿が腹いせに攻め込んできたり……〕
たしかに、その可能性はある。
父や双子兄のことだから、逆恨みしてくるかもしれない。
だけど……。
「ティアナさんたちが苦しめられているのは、王子として見過ごせません。たとえ、父上たちが攻め込んできても僕が守ります。僕は……領主ですから」
領主たるもの、領民の平和な暮らしを守ることが何よりの務めだ。
飛び地に来てまだ一ヶ月も経っていないが、ネオンの心には確固たる強い意志が宿っていた。
彼の後ろで、ブリジットは静かに感激する。
(ネオン様……っ! ご立派です! あなたこそ真の王子でございます!)
ティアナの瞳もまた、硬い決意を聞いてうるうると潤んだ。
〔ネオン殿ぉ……怖メイドぉ……。あちしもここで住みたいラビよぉ……。みんなと一緒に楽しく暮らしたいラビィ……。王国に帰ったら、すぐに仲間と来るからラビねぇ……〕
「ええ、受け入れ体勢を整えておきます。一緒に楽しく暮らしましょう。……あっ、となると、僕も王宮に行った方がいいですよね。父上たちに直接言わないと……」
“兎獣人”の立場がより悪くなるのでは……とネオンが思案していると、ティアナが首を振りながら言った。
〔いや、それには及ばないラビ。あちしが伝えるラビよ。ネオン殿が守ってくれたように、今度はあちしが戦うんだラビ〕
「ティアナさん……」
硬く拳を握る彼女の目は、戦士のように力強い。
〔その代わりと言ったらあれラビが、一筆書いてほしいラビ〕
「もちろんです」
さらさらとティアナの差し出した紙に書き、一筆は完了した。
彼女らのためにも頑張らなきゃとネオンは思うが、次の瞬間にはとんでもないことに気づいた。
――……し、しまった! ブリジットの意見を聞いていなかった! ただでさえ当たりが強いのに……。
微塵切りにして燃やし尽くすのでは……。
ごくりと唾を飲みながら、緊張して意見を仰ぐ。
「ブ、ブリジットはどうかな? ティアナさんたちが一緒に住めば、もっと賑やかになるかな~、なんて……」
「よろしいかと思います。"兎人族"が合流すれば、領地もさらに発展することでしょう」
「! ありがとう!」
断られるのでは……と思っていたので、すごく安心した。
〔じゃあ、さっそく商売の時間ラビー!〕
ティアナは飛び地で採れた輝く野菜や、純粋極まる水、魔物の素材に土などを大変な高値で買い取ってくれた。
〔次は一族総出で来るラビよー!〕
「おおおー!」
ネオンはティアナと一緒に拳を突き上げる。
……だが直後、ブリジットはギロンッ!とティアナを見た。
「ただし、ネオン様に触れたら微塵切りにして燃やし尽くしますので、どうぞそのつもりで」
「ブリジット! お願いだから!」
〔怖メイドはやっぱり怖メイドだったラビ! ネオン殿、お助けを~!〕
「言った傍からネオン様に触れましたね!」
「お、お願いだから剣を仕舞って~!」
わちゃわちゃし始める三人を見ながら、ルイザ、ベネロープ、キアラは静かに思った。
(……ネオンのヤツ、結構な人望があるんだな)
(“兎獣人”か……連邦にもいない亜人だ)
(ネオンさんが皇国の仲間になったら、彼らも仲間にできるかもしれませんね……)
色々と思われているとも知らないネオンは、ブリジットともに笑顔でティアナを見送る。
一緒に暮らせる日に思いを馳せながら。
やや疲れた笑顔で話すティアナの言葉を聞き、ネオンの表情は暗くなった。
彼女は王国内で最大手の商会、“ペルジック・リベル商会”のトップを務めている。
従業員は全て“兎人族”で、みなアルバティス王国に住んでいる。
先々代、つまり祖父の代までは友好条約を結んで、互いに尊重し合う関係だった。
だが、現国王になってから条約が改悪され、商会も"兎人族"も極めて不利な立場にされたのだ。
商売の取引でも不当な扱いを受けるだけでなく、国外に拠点を移したら叛逆と見なされ、王国の討伐対象に認定されてしまう。
そのような辛い背景を思うと、ネオンは自然と首が垂れた。
「……王国がごめんなさい」
〔いやいや! ネオン殿が謝る必要はないラビ! むしろ守ってくれたとき、あちしも一族のみんなもすごい勇気を貰ったラビよ!〕
ティアナは慌てて話す。
以前、ネオンはティアナと王国の取り引きに偶然居合わせたとき、"不当な条約は撤回"するよう国王と双子兄に進言した。
だが、逆にネオンは殴られてしまい、その場から追放された。
それ以来、取引の場に同席することは許されず、今に至るのであった。
「もしよかったら、一族丸ごと、この飛び地に引っ越してきませんか?」
〔ラビ!?〕
「飛び地も王国の領地なので、条約も破ってはいません」
〔たしかに……ラビ〕
ネオンが提案すると、ティアナは顎に手を当て思案を始める。
やがて、すごくありがたいラビが……と切り出した。
〔でも、ネオン殿の迷惑にならないラビか? 国王殿や双子王子殿が腹いせに攻め込んできたり……〕
たしかに、その可能性はある。
父や双子兄のことだから、逆恨みしてくるかもしれない。
だけど……。
「ティアナさんたちが苦しめられているのは、王子として見過ごせません。たとえ、父上たちが攻め込んできても僕が守ります。僕は……領主ですから」
領主たるもの、領民の平和な暮らしを守ることが何よりの務めだ。
飛び地に来てまだ一ヶ月も経っていないが、ネオンの心には確固たる強い意志が宿っていた。
彼の後ろで、ブリジットは静かに感激する。
(ネオン様……っ! ご立派です! あなたこそ真の王子でございます!)
ティアナの瞳もまた、硬い決意を聞いてうるうると潤んだ。
〔ネオン殿ぉ……怖メイドぉ……。あちしもここで住みたいラビよぉ……。みんなと一緒に楽しく暮らしたいラビィ……。王国に帰ったら、すぐに仲間と来るからラビねぇ……〕
「ええ、受け入れ体勢を整えておきます。一緒に楽しく暮らしましょう。……あっ、となると、僕も王宮に行った方がいいですよね。父上たちに直接言わないと……」
“兎獣人”の立場がより悪くなるのでは……とネオンが思案していると、ティアナが首を振りながら言った。
〔いや、それには及ばないラビ。あちしが伝えるラビよ。ネオン殿が守ってくれたように、今度はあちしが戦うんだラビ〕
「ティアナさん……」
硬く拳を握る彼女の目は、戦士のように力強い。
〔その代わりと言ったらあれラビが、一筆書いてほしいラビ〕
「もちろんです」
さらさらとティアナの差し出した紙に書き、一筆は完了した。
彼女らのためにも頑張らなきゃとネオンは思うが、次の瞬間にはとんでもないことに気づいた。
――……し、しまった! ブリジットの意見を聞いていなかった! ただでさえ当たりが強いのに……。
微塵切りにして燃やし尽くすのでは……。
ごくりと唾を飲みながら、緊張して意見を仰ぐ。
「ブ、ブリジットはどうかな? ティアナさんたちが一緒に住めば、もっと賑やかになるかな~、なんて……」
「よろしいかと思います。"兎人族"が合流すれば、領地もさらに発展することでしょう」
「! ありがとう!」
断られるのでは……と思っていたので、すごく安心した。
〔じゃあ、さっそく商売の時間ラビー!〕
ティアナは飛び地で採れた輝く野菜や、純粋極まる水、魔物の素材に土などを大変な高値で買い取ってくれた。
〔次は一族総出で来るラビよー!〕
「おおおー!」
ネオンはティアナと一緒に拳を突き上げる。
……だが直後、ブリジットはギロンッ!とティアナを見た。
「ただし、ネオン様に触れたら微塵切りにして燃やし尽くしますので、どうぞそのつもりで」
「ブリジット! お願いだから!」
〔怖メイドはやっぱり怖メイドだったラビ! ネオン殿、お助けを~!〕
「言った傍からネオン様に触れましたね!」
「お、お願いだから剣を仕舞って~!」
わちゃわちゃし始める三人を見ながら、ルイザ、ベネロープ、キアラは静かに思った。
(……ネオンのヤツ、結構な人望があるんだな)
(“兎獣人”か……連邦にもいない亜人だ)
(ネオンさんが皇国の仲間になったら、彼らも仲間にできるかもしれませんね……)
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