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第52話:敬称の圧
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「え、えええ~!」
予期せぬ現象に、ネオンはとても驚いた。
ブリジットは剣を引き抜き、険しい顔で一歩前に出る。
「ネオン様、魔物の可能性があります! 私の後ろにお下がりを!」
「い、いや、僕も戦うよ!」
慌てて戦闘態勢を取るが、ジャンヌに至極冷静に制された。
『まぁ、落ち着くんじゃ、ネオンにブリジット。こいつは魔物ではない。ウンディーネじゃ』
「「……ウンディーネ?」」
ジャンヌの言葉に、思わず動きを止める。
――ウンディーネって、あの水の妖精だよね? 人型でいることが多いと聞くけど……。
やや薄れたものの警戒心を持ったまま注意深く見ていると、水の塊は井戸からずるりと這い出た。
徐々に水が人の形らしき物に変わっていく。
この頃になると騒ぎを聞きつけ、スパイ三人とその他の領民も周囲に集まっていた。
「おい、ネオン、無事か!? ……って、なんだこいつ!」
「途方もない水の魔力を感じるよ! ボクの防御魔法を展開するよ!」
「魔物の侵入でしょうか!? 警戒していたのに、いつの間に……!」
ネオンは「大丈夫です。どうやら、ウンディーネらしいです」と伝え、驚くみんなと一緒に行方を見守る。
数分も経たぬ内に、水は美しい女性の姿に変化した。
途端に、ブリジットは顔をしかめ、一方の水人間は丁寧に頭を下げた。
『驚かせてしまい申し訳ありません。私はウンディーネのリロイと申します。この土地を放浪していたらあまりにも綺麗な水を見つけ、勝手に入ってしまいました。それもまた申し訳ありません。水を吸いすぎてしまったため、通常の形態から大きく逸脱してしまったのです』
「「なるほど……」」
『ですが、おかげさまで傷つき疲れ切った身体がバッチリ回復いたしました。本当にありがとうございました』
やはり、本当にウンディーネだったらしい。
ジャンヌは自分の予想が的中し、うんうんと満足げにうなずく。
――最初から正体がわかっていたのか。さすがは地底エルフのリーダーだね。
概ね、その想像通りであり、ネオンはリロイに自己紹介する。
「初めまして、リロイさん。僕はネオンと言いまして、この土地の領主を務めさせてもらっています。よろしくお願いします」
『こちらこそよろしくお願いいたしします。……実は、あなたのことはもう知っているんです』
「えっ、そうなんですか!?」
ブリジットの顔はさらに険しくなるが、リロイは気にも留めず話を続ける。
『井戸や水路の中を行ったり来たりしているうちに、領地のことを耳に挟んだのです。領主はネオン殿ちゃんさん君様で、瘴気に汚染された土地を懸命に開拓して、そのおかげでこんなに豊かになったことも知っております』
「そうでしたか~、ありがとうございます」
――すごい敬称の圧……。
と思うネオンの手を握り、リロイはさらに興奮して捲し立てる。
『ネオン殿ちゃんさん君様は本当に素晴らしいです! これほどの瘴気 ぜひ近くで見学させてもらえませんか!?』
「ええ、それはもちろ……」
そこまで話したところで、不意に何者かに回収された。
ブリジットだ。
水も凍りそうなほどの凍てついた瞳でリロイを見る。
「必要以上にネオン様に近寄らないように。よろしいですか? 私はネオン様の……」
『知ってますよ。奥様ですよね。いやはや、これは誠に失礼いたしました』
「……わかればよいです」
ブリジットは満足げに言う。
ネオンはホッとひと息ついた後、領地全体を案内することにした。
畑や水路、輝く土壌を見るリロイは感嘆の声が止まらない。
居住区外の領地は瘴気がまだまだ色濃く、放浪する彼女もダメージを受けてしまった。
リロイは領地を見学しながら、心中で思う。
(外とは、まさしく……天と地ほどの差がありますね。ネオン殿ちゃんさん君様のスキルで浄化された水がなかったら、私も今頃どうなっていたかわかりません)
ウンディーネの健康的な暮らしには、清純な水がたくさん必要だ。
放浪の旅で消耗した身体に、"捨てられ飛び地"の清らかな水は、文字通り身体の隅々にまで染み入った。
リロイはネオンから貰った追加の水を飲みながら、飛び地を訪れた理由を話す。
『実は、私は遠く離れたアルバティス王国で一族とともに暮らしておりまして、諸事情で引っ越し先を探していたのです』
彼女の話を聞き、ネオンはひやりと心臓が冷たくなるのを感じた。
――諸事情って……まさか……。
思い当たる可能性について、ネオンは尋ねる。
どうか違っていてくれ、と祈りながら。
予期せぬ現象に、ネオンはとても驚いた。
ブリジットは剣を引き抜き、険しい顔で一歩前に出る。
「ネオン様、魔物の可能性があります! 私の後ろにお下がりを!」
「い、いや、僕も戦うよ!」
慌てて戦闘態勢を取るが、ジャンヌに至極冷静に制された。
『まぁ、落ち着くんじゃ、ネオンにブリジット。こいつは魔物ではない。ウンディーネじゃ』
「「……ウンディーネ?」」
ジャンヌの言葉に、思わず動きを止める。
――ウンディーネって、あの水の妖精だよね? 人型でいることが多いと聞くけど……。
やや薄れたものの警戒心を持ったまま注意深く見ていると、水の塊は井戸からずるりと這い出た。
徐々に水が人の形らしき物に変わっていく。
この頃になると騒ぎを聞きつけ、スパイ三人とその他の領民も周囲に集まっていた。
「おい、ネオン、無事か!? ……って、なんだこいつ!」
「途方もない水の魔力を感じるよ! ボクの防御魔法を展開するよ!」
「魔物の侵入でしょうか!? 警戒していたのに、いつの間に……!」
ネオンは「大丈夫です。どうやら、ウンディーネらしいです」と伝え、驚くみんなと一緒に行方を見守る。
数分も経たぬ内に、水は美しい女性の姿に変化した。
途端に、ブリジットは顔をしかめ、一方の水人間は丁寧に頭を下げた。
『驚かせてしまい申し訳ありません。私はウンディーネのリロイと申します。この土地を放浪していたらあまりにも綺麗な水を見つけ、勝手に入ってしまいました。それもまた申し訳ありません。水を吸いすぎてしまったため、通常の形態から大きく逸脱してしまったのです』
「「なるほど……」」
『ですが、おかげさまで傷つき疲れ切った身体がバッチリ回復いたしました。本当にありがとうございました』
やはり、本当にウンディーネだったらしい。
ジャンヌは自分の予想が的中し、うんうんと満足げにうなずく。
――最初から正体がわかっていたのか。さすがは地底エルフのリーダーだね。
概ね、その想像通りであり、ネオンはリロイに自己紹介する。
「初めまして、リロイさん。僕はネオンと言いまして、この土地の領主を務めさせてもらっています。よろしくお願いします」
『こちらこそよろしくお願いいたしします。……実は、あなたのことはもう知っているんです』
「えっ、そうなんですか!?」
ブリジットの顔はさらに険しくなるが、リロイは気にも留めず話を続ける。
『井戸や水路の中を行ったり来たりしているうちに、領地のことを耳に挟んだのです。領主はネオン殿ちゃんさん君様で、瘴気に汚染された土地を懸命に開拓して、そのおかげでこんなに豊かになったことも知っております』
「そうでしたか~、ありがとうございます」
――すごい敬称の圧……。
と思うネオンの手を握り、リロイはさらに興奮して捲し立てる。
『ネオン殿ちゃんさん君様は本当に素晴らしいです! これほどの瘴気 ぜひ近くで見学させてもらえませんか!?』
「ええ、それはもちろ……」
そこまで話したところで、不意に何者かに回収された。
ブリジットだ。
水も凍りそうなほどの凍てついた瞳でリロイを見る。
「必要以上にネオン様に近寄らないように。よろしいですか? 私はネオン様の……」
『知ってますよ。奥様ですよね。いやはや、これは誠に失礼いたしました』
「……わかればよいです」
ブリジットは満足げに言う。
ネオンはホッとひと息ついた後、領地全体を案内することにした。
畑や水路、輝く土壌を見るリロイは感嘆の声が止まらない。
居住区外の領地は瘴気がまだまだ色濃く、放浪する彼女もダメージを受けてしまった。
リロイは領地を見学しながら、心中で思う。
(外とは、まさしく……天と地ほどの差がありますね。ネオン殿ちゃんさん君様のスキルで浄化された水がなかったら、私も今頃どうなっていたかわかりません)
ウンディーネの健康的な暮らしには、清純な水がたくさん必要だ。
放浪の旅で消耗した身体に、"捨てられ飛び地"の清らかな水は、文字通り身体の隅々にまで染み入った。
リロイはネオンから貰った追加の水を飲みながら、飛び地を訪れた理由を話す。
『実は、私は遠く離れたアルバティス王国で一族とともに暮らしておりまして、諸事情で引っ越し先を探していたのです』
彼女の話を聞き、ネオンはひやりと心臓が冷たくなるのを感じた。
――諸事情って……まさか……。
思い当たる可能性について、ネオンは尋ねる。
どうか違っていてくれ、と祈りながら。
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