3 / 66
第一章 田舎娘とお猫様の日常
田舎娘は、にゃんこをプレゼンする
しおりを挟む
ざりざりとした何かが私の顔面を舐め回している。それが地味に痛くて、私は懐かしい夢の世界から戻って来た。
「ゥルルニャアン」
私が目覚めたことに気付いたのか、茶色の毛玉……もとい、愛猫のマロンが甘え声を出す。久しく聞いていなかった鳴き声に、顔面の筋肉が弛緩していくのを自覚した。
ああ、私の願いごとはようやく叶ったんだな。
たぶん、今の私の表情はだらしなく緩みきっていることだろう。それは仕方がないことだ。猫を前にした全人類たぶんこうなる。可愛いは正義。
固い地面に横たわっていたせいか体が痛い。しかしそんなことは愛するマロンの前では些事だ。背負ったままの籠が邪魔で動きにくかったけれど、意地でさっさと起き上がる。ベキベキという、人体が発してはいけない音が鳴ったような気がしたが、たぶん気のせいだ。
「マロン!」
体の痛みから目を背けながら愛猫の名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうに私の足に擦り寄ってくる。もうほとんど頭突きと言っていいすりすりも懐かしいもので、なんだか涙が出そうだった。
私はマロンを抱き上げると、久し振りの柔らかな体を撫でくり回す。前世ではツルツルとしたまるで絹のような触り心地だった茶色い毛は、今はゴワゴワしていた。この感じ、どうやらずっと外にいたようだ。
「マロン、おうちに帰ったら体を洗おうね」
「ミャッ!?」
「こら、嫌がらないの! ほっといたら皮膚病になっちゃうかもしれないじゃない!」
それに、このままでは私がこの子を吸えない。マロンの背中やお腹に顔を埋めて深呼吸するという至福の時間を取り戻すためにも、彼女を綺麗にしなければ。
「ほら、マロンはブラッシング好きだったでしょ? 体を洗ったらやってあげるから」
「ゥミュー……」
お風呂は嫌だがブラッシングはして欲しい、とでも思っているのだろう。マロンはうにゃうにゃと気の抜けるような声で鳴いていた。
さて、今日の所はもう帰ろう。食料が何一つ採取できなかったのは痛手だが、夜の森に居座る方が危険だ。神獣だっているかもしれないのに。
そこまで考えて、私はハッとした。ようやく再開できたマロンを飼う気満々だったけれど、お父さんが許してくれるだろうか。だってこの世界、猫がいないんだもの。
基本的に魔獣も神獣も大型だから、小さいマロンはその二種とは違う生き物だと思われるだろう。そうなると、人族の国に生息している動物か何かだと考えられるかもしれない。
「というか、そう言い張るしかないよねぇ……」
実際のところ、動物も基本的に小型種はいないのだと人づてに聞いたことがある。そのため愛玩動物という概念が希薄なんだとか。物好きな金持ちがペットとして大人しい種を飼うことはあるらしいけれど、もちろん一般的なことではない。
愛玩動物という概念なら、むしろ魔王国の方が浸透しているだろう。だって魔獣は魔族に従順だ。テティラビーなんかは見た目もどことなく前世で言うところのウサギを彷彿とさせるし、もふもふで愛らしいので貴族のご婦人やご令嬢に人気が高いとも聞く。まあでも、私は食べるんですけどね。
今日の夕食はテティラビーの干し肉スープにしようかなぁ、などと呑気に考えながらマロンの顎をくすぐると、彼女はゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らす。このゴロゴロ音も本当に久し振りに聞いた。ああ、なんでこんなにも愛おしいのだろう。
私はマロンを撫で撫でしながら森の出口へと歩き出そうとした。すると、またガサガサという音が聞こえてきたので足がすくんでしまう。まさか魔獣か、もしくは神獣か。
マロンが私の腕から飛び降りて、音の聞こえてきた方向にシャーシャーと勇ましく威嚇する。マロンと一緒に注意深く観察した先に立っていたのは、なんとお父さんだった。
「アイラ! 無事だったか!」
「え、お父さん?」
お父さんは私を見て、ホッと安心したように息をつく。
「全然帰ってこないから心配したぞ」
「あ……ごめんなさい」
「謝らなくていい。森がおかしいのは分かっていたんだから、お父さんがお前を止めるべきだったんだ」
お父さんは言いながら私の元に一歩近付いて、ようやくマロンの存在に気が付いたらしい。初めて見るであろう魔獣でも神獣でもない動物らしき生き物を見て、お父さんは大いに困惑していた。
「あ、アイラ、それはなんだ……?」
それ、とお父さんが震える手で指したのはもちろんマロンだ。マロンは私がお父さんに対して警戒していないことが分かったようで、今は威嚇していない。だけどまだ興奮はしているらしく、尻尾はボンと膨らんでいた。
そういえば、尻尾が膨らんでいる状態のことを「ぽんぽこ」なんて言っていたなぁ。狸の尻尾みたいだからって。なんて、本当にどうでもいいことを考えていると、「あー」とか「うー」とか言葉になっていないお父さんの声が聞こえてきた。
いけないいけない、マロンのことをお父さんにちゃんと説明しないと。だけど、なんて言えばいいだろうか。最終目標はこの子をうちで飼うことなので、マロンが危ない生き物じゃないってことを分かってもらわなければならない。
ようやく尻尾がスマートになったマロンを私は抱き上げ、ほら! とお父さんに見せた。ここからは私の実力が試される。そう、猫ちゃんという生き物の可愛さをお父さんにプレゼンするのだ!
「この子は、ええと……その、危険な子じゃないよ! こんなに小さくて可愛い!」
「う、うむ……確かにこんなに小さな生き物は見たことがないが……しかし、なんなんだ? 魔獣や神獣でもなさそうだし」
魔王国に住んでいる人間なら当然抱く疑問だろう。そんなことは想定済みなので、私は予め用意していたそれっぽい説明をお父さんに伝えた。
「たぶんだけど、人族の国にいる動物ってやつじゃないかな?」
「動物? これが?」
私の説明に納得がいっていないのか、お父さんはマロンをまじまじと見つめる。マロンは少々居心地が悪そうにしながらも、私とお父さんが親しげに話をしていることを理解したのか、ふにゃん、と小さな鳴き声を漏らした。
「……確かに、ずいぶんと大人しいな」
「でしょう?」
お父さんに説明しながらも、私はマロンを撫で続けていた。彼女は気持ちよさそうに目を細め、私の手のひらに頭を押しつけてくる。
「はぁ、可愛い」
どこが可愛いのかと問われたら、それこそ全部だと答える自身がある。猫といえばツンデレだという世の中の風潮にあって、マロンはツンがほとんど存在しないデレデレの甘えん坊にゃんこだ。友人から猫界のレアキャラと評されたこともある。
そんなマロンだが、なんだかんだ賢い子だ。なんて言ったって、この子は自分が可愛いことを理解している。理解しているからこそ、とてもあざと可愛い鳴き声を上げたり、動作をしたり、表情を浮かべたりするのだ。
「ゥルニャァン?」
そう、こんなふうに可愛い声で鳴いて、くりくりのまあるい黄色のお目々を甘えたい対象に向け、こてんと首を傾げてみせる。
「ウッ」
この愛嬌振りまき攻撃にお父さんが呻き声を漏らしながら胸を押さえた。分かる。私もきっとそうなる。
「た、確かに、アイラの言う通り可愛いな」
お父さんは言いながら、おっかなびっくりマロンに手を伸ばす。そして私の手つきを真似て、マロンの頭を撫でてあげた。
「柔らかいな……」
「でしょう? とてもモフモフしてて気持ちいいの」
初めてにしては上手にマロンを撫でているお父さんだったが、マロンが喉を鳴らしたのでバッと手を離した。
「な、なんかゴロゴロって音が聞こえるぞ。手にも振動がっ」
「ああ、それはこの子が喉を鳴らしてるんだよ。気持ち良かったり嬉しかったりするとゴロゴロいうみたい。顎の下とか撫でてあげると、特にゴロゴロいうよ」
私もさっき知ったんですよ、という体で話す。お父さんは無事に信じてくれたらしく、今度はマロンの顎を指先で撫でた。
ゴロゴロゴロ、と抱っこしている私にもその振動が伝わってくる。ああ、本当に気持ちいいみたいだ。マロンは幸せそうに目を細めていた。
そんなマロンを見つめるお父さんだが、頬が緩みまくっており少しだらしない。たぶん、さっきまで私も同じような表情を浮かべていたはずだ。誰にも見られなくて良かった。
……じゃ、なかった。もしかしたら、今ならお父さんにこの子を飼うことを許してもらえるのでは?
私は何度か深呼吸して、意を決して口を開いた。
「お父さん、あの……この子、うちで飼っちゃだめ?」
「かう……? それは、ええと」
あ、これは『飼う』という意味がよく分かってないな。
すぐに察した私は、お父さんに『飼う』という言葉の意味を教えた。
「飼うっていうのは、飼育するってことだよ。ほら、貴族様が時々テティラビーとかを飼ってペットにしてるって聞くじゃない」
「ああ、その『飼う』か! だが、そんなことができるのか?」
「できると思うよ。ほら、この子、甘えん坊だし大人しいよ」
「確かに、その通りだとは思うが……」
私の説明で『飼う』ということをお父さんは理解できたらしいけれど、我が家に迎え入れることは渋る。うーん、もう一押し必要だろうか。
どうやってお父さんを説得しようかと悩んでいると、マロンがのそりと顔を上げた。そのままお父さんをまっすぐに見つめると、たった一言。
「ニャン!」
と、元気良く笑うように鳴いた。
これにはお父さんも見事にノックアウト。
こうして無事に、マロンは我が家に迎え入れられることになった。
後で分かったことだけど、お父さんはマロンに対して、赤ん坊に抱くような愛おしさを感じたのだという。
その話を聞いて思い出したのだが、人間が猫を可愛いと感じるのは、顔のパーツ配置が赤ちゃんの特徴と同じだかららしい。
ちなみに猫過激派の私の考えは逆で、猫の顔パーツ配置と同じだから人間の赤ちゃんも可愛いと感じるのだと思っている。猫好きの人ならばきっと同意してくれることだろう。
「ゥルルニャアン」
私が目覚めたことに気付いたのか、茶色の毛玉……もとい、愛猫のマロンが甘え声を出す。久しく聞いていなかった鳴き声に、顔面の筋肉が弛緩していくのを自覚した。
ああ、私の願いごとはようやく叶ったんだな。
たぶん、今の私の表情はだらしなく緩みきっていることだろう。それは仕方がないことだ。猫を前にした全人類たぶんこうなる。可愛いは正義。
固い地面に横たわっていたせいか体が痛い。しかしそんなことは愛するマロンの前では些事だ。背負ったままの籠が邪魔で動きにくかったけれど、意地でさっさと起き上がる。ベキベキという、人体が発してはいけない音が鳴ったような気がしたが、たぶん気のせいだ。
「マロン!」
体の痛みから目を背けながら愛猫の名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうに私の足に擦り寄ってくる。もうほとんど頭突きと言っていいすりすりも懐かしいもので、なんだか涙が出そうだった。
私はマロンを抱き上げると、久し振りの柔らかな体を撫でくり回す。前世ではツルツルとしたまるで絹のような触り心地だった茶色い毛は、今はゴワゴワしていた。この感じ、どうやらずっと外にいたようだ。
「マロン、おうちに帰ったら体を洗おうね」
「ミャッ!?」
「こら、嫌がらないの! ほっといたら皮膚病になっちゃうかもしれないじゃない!」
それに、このままでは私がこの子を吸えない。マロンの背中やお腹に顔を埋めて深呼吸するという至福の時間を取り戻すためにも、彼女を綺麗にしなければ。
「ほら、マロンはブラッシング好きだったでしょ? 体を洗ったらやってあげるから」
「ゥミュー……」
お風呂は嫌だがブラッシングはして欲しい、とでも思っているのだろう。マロンはうにゃうにゃと気の抜けるような声で鳴いていた。
さて、今日の所はもう帰ろう。食料が何一つ採取できなかったのは痛手だが、夜の森に居座る方が危険だ。神獣だっているかもしれないのに。
そこまで考えて、私はハッとした。ようやく再開できたマロンを飼う気満々だったけれど、お父さんが許してくれるだろうか。だってこの世界、猫がいないんだもの。
基本的に魔獣も神獣も大型だから、小さいマロンはその二種とは違う生き物だと思われるだろう。そうなると、人族の国に生息している動物か何かだと考えられるかもしれない。
「というか、そう言い張るしかないよねぇ……」
実際のところ、動物も基本的に小型種はいないのだと人づてに聞いたことがある。そのため愛玩動物という概念が希薄なんだとか。物好きな金持ちがペットとして大人しい種を飼うことはあるらしいけれど、もちろん一般的なことではない。
愛玩動物という概念なら、むしろ魔王国の方が浸透しているだろう。だって魔獣は魔族に従順だ。テティラビーなんかは見た目もどことなく前世で言うところのウサギを彷彿とさせるし、もふもふで愛らしいので貴族のご婦人やご令嬢に人気が高いとも聞く。まあでも、私は食べるんですけどね。
今日の夕食はテティラビーの干し肉スープにしようかなぁ、などと呑気に考えながらマロンの顎をくすぐると、彼女はゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らす。このゴロゴロ音も本当に久し振りに聞いた。ああ、なんでこんなにも愛おしいのだろう。
私はマロンを撫で撫でしながら森の出口へと歩き出そうとした。すると、またガサガサという音が聞こえてきたので足がすくんでしまう。まさか魔獣か、もしくは神獣か。
マロンが私の腕から飛び降りて、音の聞こえてきた方向にシャーシャーと勇ましく威嚇する。マロンと一緒に注意深く観察した先に立っていたのは、なんとお父さんだった。
「アイラ! 無事だったか!」
「え、お父さん?」
お父さんは私を見て、ホッと安心したように息をつく。
「全然帰ってこないから心配したぞ」
「あ……ごめんなさい」
「謝らなくていい。森がおかしいのは分かっていたんだから、お父さんがお前を止めるべきだったんだ」
お父さんは言いながら私の元に一歩近付いて、ようやくマロンの存在に気が付いたらしい。初めて見るであろう魔獣でも神獣でもない動物らしき生き物を見て、お父さんは大いに困惑していた。
「あ、アイラ、それはなんだ……?」
それ、とお父さんが震える手で指したのはもちろんマロンだ。マロンは私がお父さんに対して警戒していないことが分かったようで、今は威嚇していない。だけどまだ興奮はしているらしく、尻尾はボンと膨らんでいた。
そういえば、尻尾が膨らんでいる状態のことを「ぽんぽこ」なんて言っていたなぁ。狸の尻尾みたいだからって。なんて、本当にどうでもいいことを考えていると、「あー」とか「うー」とか言葉になっていないお父さんの声が聞こえてきた。
いけないいけない、マロンのことをお父さんにちゃんと説明しないと。だけど、なんて言えばいいだろうか。最終目標はこの子をうちで飼うことなので、マロンが危ない生き物じゃないってことを分かってもらわなければならない。
ようやく尻尾がスマートになったマロンを私は抱き上げ、ほら! とお父さんに見せた。ここからは私の実力が試される。そう、猫ちゃんという生き物の可愛さをお父さんにプレゼンするのだ!
「この子は、ええと……その、危険な子じゃないよ! こんなに小さくて可愛い!」
「う、うむ……確かにこんなに小さな生き物は見たことがないが……しかし、なんなんだ? 魔獣や神獣でもなさそうだし」
魔王国に住んでいる人間なら当然抱く疑問だろう。そんなことは想定済みなので、私は予め用意していたそれっぽい説明をお父さんに伝えた。
「たぶんだけど、人族の国にいる動物ってやつじゃないかな?」
「動物? これが?」
私の説明に納得がいっていないのか、お父さんはマロンをまじまじと見つめる。マロンは少々居心地が悪そうにしながらも、私とお父さんが親しげに話をしていることを理解したのか、ふにゃん、と小さな鳴き声を漏らした。
「……確かに、ずいぶんと大人しいな」
「でしょう?」
お父さんに説明しながらも、私はマロンを撫で続けていた。彼女は気持ちよさそうに目を細め、私の手のひらに頭を押しつけてくる。
「はぁ、可愛い」
どこが可愛いのかと問われたら、それこそ全部だと答える自身がある。猫といえばツンデレだという世の中の風潮にあって、マロンはツンがほとんど存在しないデレデレの甘えん坊にゃんこだ。友人から猫界のレアキャラと評されたこともある。
そんなマロンだが、なんだかんだ賢い子だ。なんて言ったって、この子は自分が可愛いことを理解している。理解しているからこそ、とてもあざと可愛い鳴き声を上げたり、動作をしたり、表情を浮かべたりするのだ。
「ゥルニャァン?」
そう、こんなふうに可愛い声で鳴いて、くりくりのまあるい黄色のお目々を甘えたい対象に向け、こてんと首を傾げてみせる。
「ウッ」
この愛嬌振りまき攻撃にお父さんが呻き声を漏らしながら胸を押さえた。分かる。私もきっとそうなる。
「た、確かに、アイラの言う通り可愛いな」
お父さんは言いながら、おっかなびっくりマロンに手を伸ばす。そして私の手つきを真似て、マロンの頭を撫でてあげた。
「柔らかいな……」
「でしょう? とてもモフモフしてて気持ちいいの」
初めてにしては上手にマロンを撫でているお父さんだったが、マロンが喉を鳴らしたのでバッと手を離した。
「な、なんかゴロゴロって音が聞こえるぞ。手にも振動がっ」
「ああ、それはこの子が喉を鳴らしてるんだよ。気持ち良かったり嬉しかったりするとゴロゴロいうみたい。顎の下とか撫でてあげると、特にゴロゴロいうよ」
私もさっき知ったんですよ、という体で話す。お父さんは無事に信じてくれたらしく、今度はマロンの顎を指先で撫でた。
ゴロゴロゴロ、と抱っこしている私にもその振動が伝わってくる。ああ、本当に気持ちいいみたいだ。マロンは幸せそうに目を細めていた。
そんなマロンを見つめるお父さんだが、頬が緩みまくっており少しだらしない。たぶん、さっきまで私も同じような表情を浮かべていたはずだ。誰にも見られなくて良かった。
……じゃ、なかった。もしかしたら、今ならお父さんにこの子を飼うことを許してもらえるのでは?
私は何度か深呼吸して、意を決して口を開いた。
「お父さん、あの……この子、うちで飼っちゃだめ?」
「かう……? それは、ええと」
あ、これは『飼う』という意味がよく分かってないな。
すぐに察した私は、お父さんに『飼う』という言葉の意味を教えた。
「飼うっていうのは、飼育するってことだよ。ほら、貴族様が時々テティラビーとかを飼ってペットにしてるって聞くじゃない」
「ああ、その『飼う』か! だが、そんなことができるのか?」
「できると思うよ。ほら、この子、甘えん坊だし大人しいよ」
「確かに、その通りだとは思うが……」
私の説明で『飼う』ということをお父さんは理解できたらしいけれど、我が家に迎え入れることは渋る。うーん、もう一押し必要だろうか。
どうやってお父さんを説得しようかと悩んでいると、マロンがのそりと顔を上げた。そのままお父さんをまっすぐに見つめると、たった一言。
「ニャン!」
と、元気良く笑うように鳴いた。
これにはお父さんも見事にノックアウト。
こうして無事に、マロンは我が家に迎え入れられることになった。
後で分かったことだけど、お父さんはマロンに対して、赤ん坊に抱くような愛おしさを感じたのだという。
その話を聞いて思い出したのだが、人間が猫を可愛いと感じるのは、顔のパーツ配置が赤ちゃんの特徴と同じだかららしい。
ちなみに猫過激派の私の考えは逆で、猫の顔パーツ配置と同じだから人間の赤ちゃんも可愛いと感じるのだと思っている。猫好きの人ならばきっと同意してくれることだろう。
0
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる