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第百十七話 記憶がなくても大丈夫?
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ショウから連絡があってから私はせっせと料理を作り続けた。作りながらショウが美味しそうに食べる姿を思い浮かべるとついつい顔がにやけてしまうのは仕方が無いだろう。
エンサの町で入手した海鮮料理を初め、チョコレート菓子やフカフカのパンもたっぷり作った。
また食事会でもしようかな?
そんな事を考えながら作り続けるが、作るそばからあまり増えないのはグレンが試食と称して食べ続けているからだろう。
『ふむ、これも中々……』
ブツブツ言いながら美味しそうに食べるグレンを見ているとほっこりしてしまう。白いもふもふのグレンは口の周りについたチョコレートがとても目立っている。
神獣とは思えぬその様子を見ながら、
ああ、そうか。猫はチョコレートを食べられないからやっぱりグレンは神獣なのね。
と、変なところで神獣という事実に納得してしまう。
穏やかな日々が流れ、あっという間に数日経った時だった。相変わらず私が料理をしてグレンが試食をしていると、突然グレンの身体がピクリと反応した。
『ん? どうやら来た様だぞ』
森にある大通りの方に顔を向けるとグレンが言った。
グレンが言った誰かと言うのは直ぐにショウの事だと分かった。私が店のエントランスから外に出ると、丁度下馬するショウが見えた。
「カリン……元気そうで良かった」
私に気付いたショウが直ぐにそう言って破顔した。
「ショウ、お帰りなさい。ショウも元気そうね。さあ、入って、お茶を煎れるわ」
ショウを促して店に招き入れる。数ヶ月しか離れていなかったのに心なしか逞しくなったショウを真っ直ぐ見る事が出来なかった。
いやだわ、私ったら。何だかショウが眩しくて緊張してしまう。落ち着け、私。
そう心に言い聞かせて、ショウに気付かれないように深呼吸をした。
「えっと……適当に座って」
そう声をかけてからお茶を煎れるために厨房に向かおうとするとショウが私の手首を掴んだ。
「ショウ?」
「あっ、えっとお土産、お土産があるんだ」
手渡されたのはショウの瞳と同じ色の深緑の宝石がついたネックレスだった。
太陽の光りに照らされた森を思わせるようなフォレストグリーンの輝きは艶やかで希少性を感じさせた。これはアレキサンドライトという宝石だとショウが教えてくれた。私はそういえば前世でもそんな名前の宝石があったなぁと思い出し、やっぱりかなり高額だということを確信した。
「え? ショウ、これとっても高そうなんですけど。こんなの貰っていいのかしら?」
「もちろんだよ。カリンの為に買ったんだから受け取って貰えないと哀しいな。今回の依頼で結構な報酬を貰ったから金額は気にしないで。着けてあげるよ、後ろを向いて」
ショウは、私の掌からネックレスを掴むと私の首につけてくれた。
こんな高価そうなものを貰って置いて何のお返しも出来ないなんて心苦しい。何とかお礼がしたいけど私が出来ることと言ったら美味しい料理を提供することぐらいだ。
「ショウ、お腹すいてる? お店のメニューの試作も兼ねて色々作って置いたからよかったら食べて貰えると嬉しいんだけど」
「え? いいの? ずっとカリンの料理が食べたかったんだ。すっごく嬉しい」
ショウはそう言って私の作った料理を夢中になって食べてくれた。「カリンはやっぱり天才だね」とお決まりのセリフを吐きながら。
グレンもショウにつられるように一緒になって料理を食べていたけどさっきまで結構食べていたのにまだ食べるのかと内心突っ込んだ。それにしてもあんな小さな身体なのによくそれだけの食べ物が入るなぁと感心する。ああ、でも今の姿は仮の姿だから関係無いのかしら……? まぁ、いつもの事なので気にしないことにしよう。
何はともあれ、やっぱり美味しそうに食べてくれるのを見ていると作った甲斐があると言うものだ。
「ふぅ……それで、カリン。魔通器でも言ったけど、大事な話があるんだ」
料理を食べ終わって一段落するとショウは一つ溜息を吐いて言葉を押し出した。
「大事な話……?」
「そう、カリンの過去についてだ。カリンはもう自分がクラレシア神聖王国出身だと気付いていると思う」
「ええ、そうね。私のこの髪の色はクラレシア人の特徴みたいだからね。あれだけみんなにそう言われると多分間違いないんでしょうね」
「でも、それだけじゃない」
「え? それだけじゃないってどういう事?」
「君は、クラレシア神聖王国の王族であり王女なんだよ。その瞳の色がその証拠だ。クラレシア人の瞳はみんな灰色なんだ。だが、カリンの瞳は君の母親と同じ瑠璃色だ。しかも最後の王族だ。もうクラレシアの王族は君しかいない」
「え……?」
私はショウの言葉に何も返す言葉が見つからなかった。私が王女? え? 王女?
いやいやいや、待って、女神様……なんちゅう身体に転生させてくれちゃってるの? これってトラブルの予感しかしないんですけど!
心の中で女神様に毒づきながらハッとしてグレンの方に目を向けた。
ん? 逸らしやがった。これは知っていたわね。知っていて黙っていたわね。と言うかそもそもグレンは私が聞けば教えてくれたけど、積極的にグレンから何かを教えてくれることはなかったわよね。その意図は何なのか分からないけど。
うーん、どうしようか……
王女なんて言われても私は知らない……まてよ、やっぱり知らないんだから記憶喪失でいいのでは? よし、そうしよう。引き続き記憶喪失と言うことで。記憶喪失……なんていう便利設定!
「ごめんなさい、ショウ。やっぱりそう言われても分からないわ。記憶がないの」
「記憶がなくても大丈夫だ。でも、カリンにはやって貰いたいことがあるんだ。精霊の血を引いた君にしか出来ない事なんだ」
「精霊の血? え? 精霊? どういうこと?」
ショウの度重なる開示に私の頭の中で混乱の渦が巻き起こったのだった。
エンサの町で入手した海鮮料理を初め、チョコレート菓子やフカフカのパンもたっぷり作った。
また食事会でもしようかな?
そんな事を考えながら作り続けるが、作るそばからあまり増えないのはグレンが試食と称して食べ続けているからだろう。
『ふむ、これも中々……』
ブツブツ言いながら美味しそうに食べるグレンを見ているとほっこりしてしまう。白いもふもふのグレンは口の周りについたチョコレートがとても目立っている。
神獣とは思えぬその様子を見ながら、
ああ、そうか。猫はチョコレートを食べられないからやっぱりグレンは神獣なのね。
と、変なところで神獣という事実に納得してしまう。
穏やかな日々が流れ、あっという間に数日経った時だった。相変わらず私が料理をしてグレンが試食をしていると、突然グレンの身体がピクリと反応した。
『ん? どうやら来た様だぞ』
森にある大通りの方に顔を向けるとグレンが言った。
グレンが言った誰かと言うのは直ぐにショウの事だと分かった。私が店のエントランスから外に出ると、丁度下馬するショウが見えた。
「カリン……元気そうで良かった」
私に気付いたショウが直ぐにそう言って破顔した。
「ショウ、お帰りなさい。ショウも元気そうね。さあ、入って、お茶を煎れるわ」
ショウを促して店に招き入れる。数ヶ月しか離れていなかったのに心なしか逞しくなったショウを真っ直ぐ見る事が出来なかった。
いやだわ、私ったら。何だかショウが眩しくて緊張してしまう。落ち着け、私。
そう心に言い聞かせて、ショウに気付かれないように深呼吸をした。
「えっと……適当に座って」
そう声をかけてからお茶を煎れるために厨房に向かおうとするとショウが私の手首を掴んだ。
「ショウ?」
「あっ、えっとお土産、お土産があるんだ」
手渡されたのはショウの瞳と同じ色の深緑の宝石がついたネックレスだった。
太陽の光りに照らされた森を思わせるようなフォレストグリーンの輝きは艶やかで希少性を感じさせた。これはアレキサンドライトという宝石だとショウが教えてくれた。私はそういえば前世でもそんな名前の宝石があったなぁと思い出し、やっぱりかなり高額だということを確信した。
「え? ショウ、これとっても高そうなんですけど。こんなの貰っていいのかしら?」
「もちろんだよ。カリンの為に買ったんだから受け取って貰えないと哀しいな。今回の依頼で結構な報酬を貰ったから金額は気にしないで。着けてあげるよ、後ろを向いて」
ショウは、私の掌からネックレスを掴むと私の首につけてくれた。
こんな高価そうなものを貰って置いて何のお返しも出来ないなんて心苦しい。何とかお礼がしたいけど私が出来ることと言ったら美味しい料理を提供することぐらいだ。
「ショウ、お腹すいてる? お店のメニューの試作も兼ねて色々作って置いたからよかったら食べて貰えると嬉しいんだけど」
「え? いいの? ずっとカリンの料理が食べたかったんだ。すっごく嬉しい」
ショウはそう言って私の作った料理を夢中になって食べてくれた。「カリンはやっぱり天才だね」とお決まりのセリフを吐きながら。
グレンもショウにつられるように一緒になって料理を食べていたけどさっきまで結構食べていたのにまだ食べるのかと内心突っ込んだ。それにしてもあんな小さな身体なのによくそれだけの食べ物が入るなぁと感心する。ああ、でも今の姿は仮の姿だから関係無いのかしら……? まぁ、いつもの事なので気にしないことにしよう。
何はともあれ、やっぱり美味しそうに食べてくれるのを見ていると作った甲斐があると言うものだ。
「ふぅ……それで、カリン。魔通器でも言ったけど、大事な話があるんだ」
料理を食べ終わって一段落するとショウは一つ溜息を吐いて言葉を押し出した。
「大事な話……?」
「そう、カリンの過去についてだ。カリンはもう自分がクラレシア神聖王国出身だと気付いていると思う」
「ええ、そうね。私のこの髪の色はクラレシア人の特徴みたいだからね。あれだけみんなにそう言われると多分間違いないんでしょうね」
「でも、それだけじゃない」
「え? それだけじゃないってどういう事?」
「君は、クラレシア神聖王国の王族であり王女なんだよ。その瞳の色がその証拠だ。クラレシア人の瞳はみんな灰色なんだ。だが、カリンの瞳は君の母親と同じ瑠璃色だ。しかも最後の王族だ。もうクラレシアの王族は君しかいない」
「え……?」
私はショウの言葉に何も返す言葉が見つからなかった。私が王女? え? 王女?
いやいやいや、待って、女神様……なんちゅう身体に転生させてくれちゃってるの? これってトラブルの予感しかしないんですけど!
心の中で女神様に毒づきながらハッとしてグレンの方に目を向けた。
ん? 逸らしやがった。これは知っていたわね。知っていて黙っていたわね。と言うかそもそもグレンは私が聞けば教えてくれたけど、積極的にグレンから何かを教えてくれることはなかったわよね。その意図は何なのか分からないけど。
うーん、どうしようか……
王女なんて言われても私は知らない……まてよ、やっぱり知らないんだから記憶喪失でいいのでは? よし、そうしよう。引き続き記憶喪失と言うことで。記憶喪失……なんていう便利設定!
「ごめんなさい、ショウ。やっぱりそう言われても分からないわ。記憶がないの」
「記憶がなくても大丈夫だ。でも、カリンにはやって貰いたいことがあるんだ。精霊の血を引いた君にしか出来ない事なんだ」
「精霊の血? え? 精霊? どういうこと?」
ショウの度重なる開示に私の頭の中で混乱の渦が巻き起こったのだった。
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