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第百十六話 流通経路とインフラ
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お店のオープンの為に足りないものを確認する。
先日、クランリー農場で行った試食会ではどの料理も概ね好評だった。気をよくした私は喜々として開店準備を行っていた。
取り敢えず最初は入手しやすい材料を元にメニューを考えた方がいいだろう。やっぱり海の幸は定期的に仕入れたいわね。
「うーん、入手経路よねぇ。魚介類は新鮮度が大切だからこのままじゃエンサの町からここまで運ぶのはむずかしいかぁ……」
『難しくはないと思うぞ。其に乗って行けば直ぐ行けるからな』
「それはそうなんだけどね、お店をオープンしたらあまり時間も採れなくなると思うのよ。ウォルフ様に流通経路を早急に確保して貰うようにお願いしてみようかしら……それと、公共交通機関も何とかならないかしら? 私の店って森の中だからヨダの町からも結構歩くのよね」
私は、直ぐにウォルフ様に相談したいことがあると手紙を書いて宅送鳥で飛ばした。すると直ぐに来週クランリー農場で会うことになった。どうやらダンテさんとセレンさん、それにエミュウさんも交えて工房地帯建設の最終会議を行うらしい。
今日はクランリー農場でウォルフ様に会う日だ。ずっと引き籠もって料理を作っていた私は、久しぶりに森に降り注ぐマイナスイオンの中で深呼吸する。この世界に来たばかりのとき感じた時よりも空気が冷たい。
冬に向けて季節が移りゆくことを実感した。この国の冬は雪が降るほど寒くはならないと聞いて安心していたが、全く寒くならない訳では無い様なので暖房設備は必要らしい。
女神様仕様のこの家は家全体が魔導具の様なので寒さに震えることはないのはありがたい。
思いっきり新鮮な空気を堪能した私は、グレンの背に乗ってクランリー農場へ向かった。久しぶりの外出なので自然の景色に癒されながらゆっくりと進む。
森を抜けて少し経つと、等間隔で木の柱で囲まれている場所が見えてきた。かなり範囲が広く感じる。
きっとそこがウォルフ様が言っていた、ヨダの町とクランリー農場の間に建設する工房地帯建設予定地なのだろう。その為の区画整理が行われているに違いない。良く見ると、工房の建設場所と労働者居住地が明確に分かれ、後は着工を待つばかりのようだ。
私は先日、ウォルフ様に聞いた事を思い出した。
『建築に特化した錬金魔導師が足りないからクラレシアの民達にも協力して貰う事になったよ。マーカスの話では彼らはかなり優秀らしいからな』
マーカス様と言うのは、難民キャンプがあるパスティナ領の領主様らしい。
クラレシア人は魔法力も錬金技術も優れているので、彼らには予め設計依頼し、到着次第建設に取りかかって貰うことにしたそうだ。
建設予定地を横目に草原を駆け抜け、真っ直ぐクランリー農場を目指す。
農場の門を抜けて、家屋に近づくと直ぐにダンテさんとセレンさんが出迎えてくれた。いつもの様にセレンさんが私を優しく抱きしめると「良く来たわね、カリンちゃん。待っていたわ」とまるで久しぶりに会ったかのように歓迎してくれた。
リビングに案内されるとウォルフ様が「よう、来たな」と軽く挨拶をし、エミュウさんは「カリンちゃん、この前の試食会の料理美味しかったわ。お礼に良いもの作ってきたの」と言って私に駆け寄ってきた。
良いものとは何だろうと思っていたら、私の両手をとって掌を上に向けると黒い板のようなものを乗せてきた。
「え?」
私は訳が分からなくて、掌にのせられたものをジッと見つめた。長方形の両手の平大のプラスチックの素材とも思わせる軽い板だ。
「ねぇ、カリンちゃん。ちょっとこの板に魔力を流して見て」
エミュウさんの目が私の反応を待ちきれないと言うように急かされた。言われるがままに掌に乗せられた板に魔力を流す。
すると、黒い板が僅かに光り白い画面になった。画面上には、文字が入った様々な色の小さな四角い画像が3つ程並んでいた。
「ティディアール王国の歴史」「魔法力の基礎知識」「薬草の種類」とそれぞれの四角い画像に書かれた文字を読んで私はハッとした。
これは、もしかして……
「ふっ、ふっ、ふっ……これは魔導図書よ~」
エミュウさんが得意げに言った。所謂、前世でいう電子書籍である。
エミュウさんが言うには、本にこの板を翳して魔力を流すとその本自体を取り込むことが出来るそうだ。
いや、前世の電子書籍だってこの機能はなかったよね。板に翳すだけで本の内容を読み込むことが出来るなんてこれは大発明なんじゃないの? この板さえあれば好きなだけ本の内容を取り込めるよね。本屋さんや図書館なんていらなくなるのでは?
そう考えていたら、ウォルフ様が難しい顔をして唸っていた。きっと私と同じ事を考えたのだろう。
「エミュウ、後で話がある」ってエミュウさんに言っていたもの。
魔導カーを発明したときもウォルフ様に色々言われていたみたいだけど、エミュウさんも懲りないわよね。
でも、この電子書籍……もとい魔導図書はありがたく頂いておくことにしたわ。
私はエミュウさんにお礼を言うと、昨日作ったチョコレートのお菓子をみんなにふるまった。持参したのはブラウニー、チョコプリン、チョコマフィンの三種類だ。前回ここに訪れた時に、ダンテさんがカクオを沢山頂いたのでそのお礼も兼ねている。
ダンテさんの一番上のお兄様であるカザフ領領主に働きかけてくれたのだ。
ダンテさんがお兄様にカクオの注文をした時、元々薬としてしか使われていなかったカクオを大量に欲しがる理由を問い詰められたそうだ。そこで、私が以前お土産に持って言ったチョコレートをお兄さんに持っていったとのこと。
その味に魅せられたカザフ領領主であるダンテさんのお兄様は執拗にレシピが欲しいと懇願してきたそうだ。
うん、チョコレート、美味しいもんね。
もちろん私は美味しいものをどんどん作って欲しいので快く承諾してレシピを渡していた。
結局、チョコレートには大量の砂糖も必要でタングスティン領とカザフ領でお互いに足りないものを補いながら両方の領地でチョコレート工房を建設することになったそうだ。
ということで、私には両方の領地からレシピのアイデア料が支払われることになった。
私自身が考えたわけではないのに受け取るのは本当に恐縮だったのだけど、領主の立場からすると契約の元、対価を支払うことによって心置きなく産業として利用するためには必要なことだとダンテさんに説得された。
私の預金額はもはや確認するのも恐ろしいほど凄いことになっているだろう。実は未だ怖くて確認出来てない。前世の貧乏性がここに来て顔を出しているのだ。
以前の話し合いでは、砂糖工房、チーズ工房、バター工房、ヨーグルト工房、カクオ工房の他に自動車工場を建設する予定だったが、自動車工場は王城預かりとなって、王都周辺に建設されることになったそうだ。
輸送用魔導カーも製造され、流通経路も確保されるだろう。
ここで私はダンテさんに公共交通機関の整備もお願いした。インフラが整えば経済が益々発展することになる。領主であるウォルフ様にも大きなメリットになる事は間違いない。
日本だって、高度成長期時代のインフラの発展によって急速な経済成長を遂げたのだ。
ウォルフ様は私の話に納得したものの、領地主体では厳しくこの案件は王城に持って行く必要があるとのことだった。
それでも一歩前に進んだのは間違いないと思い満足のいく話し合いとなった。
家に帰って束の間、魔通器にショウから連絡が入った。これから帰るという報告はまるで出張中の夫が妻に伝える様で若干擽ったく感じた。それにしても、最後に放った言葉が気になった。私に重要な話があると言っていたけど、何なのだろうか?
まぁ、気にしてもしょうがないか? ショウが帰ってきたら直ぐに分かる事だし。
私は相変わらずのスルースキルで、ショウの帰りを楽しみに待つのだった。
先日、クランリー農場で行った試食会ではどの料理も概ね好評だった。気をよくした私は喜々として開店準備を行っていた。
取り敢えず最初は入手しやすい材料を元にメニューを考えた方がいいだろう。やっぱり海の幸は定期的に仕入れたいわね。
「うーん、入手経路よねぇ。魚介類は新鮮度が大切だからこのままじゃエンサの町からここまで運ぶのはむずかしいかぁ……」
『難しくはないと思うぞ。其に乗って行けば直ぐ行けるからな』
「それはそうなんだけどね、お店をオープンしたらあまり時間も採れなくなると思うのよ。ウォルフ様に流通経路を早急に確保して貰うようにお願いしてみようかしら……それと、公共交通機関も何とかならないかしら? 私の店って森の中だからヨダの町からも結構歩くのよね」
私は、直ぐにウォルフ様に相談したいことがあると手紙を書いて宅送鳥で飛ばした。すると直ぐに来週クランリー農場で会うことになった。どうやらダンテさんとセレンさん、それにエミュウさんも交えて工房地帯建設の最終会議を行うらしい。
今日はクランリー農場でウォルフ様に会う日だ。ずっと引き籠もって料理を作っていた私は、久しぶりに森に降り注ぐマイナスイオンの中で深呼吸する。この世界に来たばかりのとき感じた時よりも空気が冷たい。
冬に向けて季節が移りゆくことを実感した。この国の冬は雪が降るほど寒くはならないと聞いて安心していたが、全く寒くならない訳では無い様なので暖房設備は必要らしい。
女神様仕様のこの家は家全体が魔導具の様なので寒さに震えることはないのはありがたい。
思いっきり新鮮な空気を堪能した私は、グレンの背に乗ってクランリー農場へ向かった。久しぶりの外出なので自然の景色に癒されながらゆっくりと進む。
森を抜けて少し経つと、等間隔で木の柱で囲まれている場所が見えてきた。かなり範囲が広く感じる。
きっとそこがウォルフ様が言っていた、ヨダの町とクランリー農場の間に建設する工房地帯建設予定地なのだろう。その為の区画整理が行われているに違いない。良く見ると、工房の建設場所と労働者居住地が明確に分かれ、後は着工を待つばかりのようだ。
私は先日、ウォルフ様に聞いた事を思い出した。
『建築に特化した錬金魔導師が足りないからクラレシアの民達にも協力して貰う事になったよ。マーカスの話では彼らはかなり優秀らしいからな』
マーカス様と言うのは、難民キャンプがあるパスティナ領の領主様らしい。
クラレシア人は魔法力も錬金技術も優れているので、彼らには予め設計依頼し、到着次第建設に取りかかって貰うことにしたそうだ。
建設予定地を横目に草原を駆け抜け、真っ直ぐクランリー農場を目指す。
農場の門を抜けて、家屋に近づくと直ぐにダンテさんとセレンさんが出迎えてくれた。いつもの様にセレンさんが私を優しく抱きしめると「良く来たわね、カリンちゃん。待っていたわ」とまるで久しぶりに会ったかのように歓迎してくれた。
リビングに案内されるとウォルフ様が「よう、来たな」と軽く挨拶をし、エミュウさんは「カリンちゃん、この前の試食会の料理美味しかったわ。お礼に良いもの作ってきたの」と言って私に駆け寄ってきた。
良いものとは何だろうと思っていたら、私の両手をとって掌を上に向けると黒い板のようなものを乗せてきた。
「え?」
私は訳が分からなくて、掌にのせられたものをジッと見つめた。長方形の両手の平大のプラスチックの素材とも思わせる軽い板だ。
「ねぇ、カリンちゃん。ちょっとこの板に魔力を流して見て」
エミュウさんの目が私の反応を待ちきれないと言うように急かされた。言われるがままに掌に乗せられた板に魔力を流す。
すると、黒い板が僅かに光り白い画面になった。画面上には、文字が入った様々な色の小さな四角い画像が3つ程並んでいた。
「ティディアール王国の歴史」「魔法力の基礎知識」「薬草の種類」とそれぞれの四角い画像に書かれた文字を読んで私はハッとした。
これは、もしかして……
「ふっ、ふっ、ふっ……これは魔導図書よ~」
エミュウさんが得意げに言った。所謂、前世でいう電子書籍である。
エミュウさんが言うには、本にこの板を翳して魔力を流すとその本自体を取り込むことが出来るそうだ。
いや、前世の電子書籍だってこの機能はなかったよね。板に翳すだけで本の内容を読み込むことが出来るなんてこれは大発明なんじゃないの? この板さえあれば好きなだけ本の内容を取り込めるよね。本屋さんや図書館なんていらなくなるのでは?
そう考えていたら、ウォルフ様が難しい顔をして唸っていた。きっと私と同じ事を考えたのだろう。
「エミュウ、後で話がある」ってエミュウさんに言っていたもの。
魔導カーを発明したときもウォルフ様に色々言われていたみたいだけど、エミュウさんも懲りないわよね。
でも、この電子書籍……もとい魔導図書はありがたく頂いておくことにしたわ。
私はエミュウさんにお礼を言うと、昨日作ったチョコレートのお菓子をみんなにふるまった。持参したのはブラウニー、チョコプリン、チョコマフィンの三種類だ。前回ここに訪れた時に、ダンテさんがカクオを沢山頂いたのでそのお礼も兼ねている。
ダンテさんの一番上のお兄様であるカザフ領領主に働きかけてくれたのだ。
ダンテさんがお兄様にカクオの注文をした時、元々薬としてしか使われていなかったカクオを大量に欲しがる理由を問い詰められたそうだ。そこで、私が以前お土産に持って言ったチョコレートをお兄さんに持っていったとのこと。
その味に魅せられたカザフ領領主であるダンテさんのお兄様は執拗にレシピが欲しいと懇願してきたそうだ。
うん、チョコレート、美味しいもんね。
もちろん私は美味しいものをどんどん作って欲しいので快く承諾してレシピを渡していた。
結局、チョコレートには大量の砂糖も必要でタングスティン領とカザフ領でお互いに足りないものを補いながら両方の領地でチョコレート工房を建設することになったそうだ。
ということで、私には両方の領地からレシピのアイデア料が支払われることになった。
私自身が考えたわけではないのに受け取るのは本当に恐縮だったのだけど、領主の立場からすると契約の元、対価を支払うことによって心置きなく産業として利用するためには必要なことだとダンテさんに説得された。
私の預金額はもはや確認するのも恐ろしいほど凄いことになっているだろう。実は未だ怖くて確認出来てない。前世の貧乏性がここに来て顔を出しているのだ。
以前の話し合いでは、砂糖工房、チーズ工房、バター工房、ヨーグルト工房、カクオ工房の他に自動車工場を建設する予定だったが、自動車工場は王城預かりとなって、王都周辺に建設されることになったそうだ。
輸送用魔導カーも製造され、流通経路も確保されるだろう。
ここで私はダンテさんに公共交通機関の整備もお願いした。インフラが整えば経済が益々発展することになる。領主であるウォルフ様にも大きなメリットになる事は間違いない。
日本だって、高度成長期時代のインフラの発展によって急速な経済成長を遂げたのだ。
ウォルフ様は私の話に納得したものの、領地主体では厳しくこの案件は王城に持って行く必要があるとのことだった。
それでも一歩前に進んだのは間違いないと思い満足のいく話し合いとなった。
家に帰って束の間、魔通器にショウから連絡が入った。これから帰るという報告はまるで出張中の夫が妻に伝える様で若干擽ったく感じた。それにしても、最後に放った言葉が気になった。私に重要な話があると言っていたけど、何なのだろうか?
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