転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百十九話 王女との邂逅

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 ショウとアークトゥルスとの会談の後、アーニャはワシリーとエゴンに念話で連絡を入れることにした。

『ワシリー、エゴン。ベアトリーチェ様の行方が分かった。ベアトリーチェ様はタングスティン領にいるそうだ』
『なんだと?』
『それは本当か?』
 ワシリーとエゴンはアーニャの言葉に驚きながらも歓喜に震えていた。だが、次のアーニャの言葉に戸惑うことになる。

『ああ、ベアトリーチェ様の友人だという者から話を聞いた。だが……』
『だが、どうしたんだ?』
『ベアトリーチェ様は記憶を失っているそうだ』
『記憶を……?』

 アーニャの言った意味が即座に理解できず、言葉を失うワシリーとエゴン。
『多分、メディアーナ様の死が関係しているのだろう。ベアトリーチェ様の目の前でメディアーナ様が命を失ったために心を閉ざしてしまったとしか考えられない』
『ベアトリーチェ様…………』
『なんとお労しい……』
『兎に角、ベアトリーチェ様は記憶を失っているが元気でいることは間違いないらしい。私は予定通りにクラレシアの民達とタングスティン領に向かう。ワシリーとエゴンも合流してくれ』
『分かった直ぐに向かう』
 アーニャはワシリーとエゴンへの連絡を終えるとタングスティン領へ向かう準備を行うことにした。

 ベアトリーチェのことを考えるといても立ってもいられないアーニャだったが、ショウとの約束もある。そう思うと記憶喪失になるほど心に重い傷を負ったベアトリーチェ様に急いで会うのも憚られた。

 きっとショウがベアトリーチェ様に自分達のことを上手く説明してくれてるだろう。アーニャはそう前向きに考えて会ったときにどう対峙しようかシミュレーションすることにした。

 それから数日、あっという間にタングスティン領に向かう日の朝を迎えた。アーニャがクラレシア人難民キャンプの前に行くと冒険者達の話し声が聞こえてきた。

「そうよ。凄く美味しいんだから、カリンの店は!」
「そうだな。あのパンケーキっていうのは絶品だったな」
「ベッキーったら3回もおかわりしていたもんね」
「まじかよ! それってどこにあるんだ?」
「タングスティン領ヨダの町の近くにあるガイストの森にあるの」
「へぇ、森の中にある食堂かぁ、行ってみたいな」
「うん、是非行ってみて。まだ、カリンに聞いてみないといつオープンか分からないけどね」

 アーニャが冒険者達に近づくと「カリン」と言う名前が耳に入ってきた。アーニャは、先日冒険者ショウが言っていたベアトリーチェ様が名乗っている名だと言うことに気付き声をかけた。

「ちょっとすまない、今カリンと聞こえたんだが……」
「えっとぉ……」
「ああ、私は元クラレシア神聖王国騎士アーニャと申す」
「アーニャさん……? あっ、私は冒険者パーティ乾坤の戦乙女のベッキー、そしてこちらが同じパーティーのメラニーとティアです」
「メラニーです。よろしくお願いします」
「ティアです。私もよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。それで、カリンと言う名が聞こえたんだが、君たちは彼女を知っているのか?」

「はい、私達は数ヶ月前にタングスティン領にあるヨダの町を拠点にしていたんです。その近くに有るガイストの森でカリンと言う名前の少女に会いました。ギルドの依頼達成で疲れ果てていた私達に料理をご馳走してくれたんです」
「それは本当か?」
 アーニャは食いつくようにベッキーの腕を掴んだ。
「えっ? えーと……本当です」
「あっ、すまない。つい興奮してしまった。私は彼女を捜していたんだ。彼女は我々の国の王女ベアトリーチェ様の可能性が高い」

「「「えっ? 王女様?」」」
 アーニャの言葉にベッキー、メラニー、ティアは驚きの声をあげた。
「ああ、カリンと言う少女は私達クラレシア人と同じ藍色の髪、そして瞳は瑠璃色なのではないか? その色は王族の血筋だという証だ」
「はい、その通りです。でも、私達はカリンがクラレシア人だと言うことは推測していましたが、まさか王女様だったなんて全然思いもよりませんでした」
 ベッキーはアーニャが言った言葉にカリンの瞳だけがクラレシア人達の灰色の瞳と違っていたことを思い出した。



 クラレシア人難民達の大移動は、パスティナ領からタングスティン領のヨダの町まで2週間程の日数がかかった。その間にワシリーとエゴンが合流した。

 目的地に辿り着いた一行は、気の杭で囲われた工房地帯予定地に入場し、空いている場所に次々と仮テントを設置し始めた。生活必需品はある程度用意されており、予め設置されている炊事場で食事の支度を各々し始めた。食料庫も予め設置されており、その中には十分に食料も備蓄してあった。

 旅の疲れを癒すために翌日は休み、翌々日から錬金建築魔法の使い手を中心に住居や工房を建てることになった。アーニャ、ワシリー、エゴンは翌日クランリー農場でベアトリーチェと面会する予定である。

 一夜明けて、三人は逸る気持ちを抑えてクランリー農場に向かった。

 ヨダの町とは反対の方角に向けて騎乗して暫く行くとかなりの高さがある金属ポールが等間隔に並んでいる場所に辿り着いた。
「おそらくここがクランリー農場の入り口だと思うのだが、はて、どうやって中に入ればいいのか……?」
 ワシリーがそう言葉を零した瞬間、金属ポールの一部が地面に吸い込まれ、正面の少し離れた場所で牛たちが草を食んでいるのが見えた。

「良く来てくれた。このまま案内するから後についてきてくれ」
 そこに現れたのは、先日会ったばかりの冒険者のショウだった。ショウも騎乗していると言うことは農場だけあって家屋まで歩くのは時間がかかるのかも知れない。アーニャはショウの実家だと言うことは予め聞いていたので、訝しがることもなくワシリーとエゴンに目で合図して黙って着いて行くことにした。

 その間に、ショウと初めて会ったワシリーとエゴンが挨拶した。

「こっちだ。俺の父と母も同席して良いか? カリンのことを心配しているから」
「ああ、構わない」
 ショウの言葉にアーニャが返事をし、ワシリーとエゴンも頷いた。

 応接室に入るとショウの父親であるダンテ、母親であるセレン、そしてその真ん中にカリンが立っていた。

 カリンは三人を目にした途端、心の中に得たいの知れない渦が巻き起こり意識が途絶えそうになっていたが、この時はまだその様子に誰も気付かなかった。

「カリン、父さん、母さん、こちらがアーニャ殿、ワシリー殿、エゴン殿だ」
「初めてお目にかかる、ショウの父親のダンテだ。こっちが妻のセレン」
「初めまして、セレンです」
 ダンテとセレンが挨拶した後、アーニャ、ワシリー、エゴンの三人がカリンを凝視して息を呑んだ。

「「「ベアトリーチェ様……!」」」
 アーニャ、ワシリー、エゴンの三人が瞳を潤ませ感極まったようにカリンに向かって言葉をかけた。

「えっ? カリン、大丈夫?」
 ショウは瞳を丸くして呆然と立っているカリンに声をかけた。
 カリンの顔から次第に血の気がなくなっていき、身体がゆっくりと床に向かって傾いていった。

「「カリン!!」」「カリンちゃん!」「「「ベアトリーチェ様!!」」」

 カリンの後ろにいたダンテがカリンの身体を支えた。

「アー……ニャ…………」
 カリンは小さく呟いた後、ダンテの腕の中で全身から力が抜けたようにぐったりすると、意識を失った。その場にいた誰もがその状況に直ぐに反応できず呆然としたのだった。
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