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第百二十一話 記憶の渦【其の一】
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ふわふわと体が揺れている感覚に心地よさが目覚めを誘う。ゆっくりと重い瞼を上げボンヤリと辺りの様子を窺った。
あれ? 地面がない? 私、浮いているみたい。と言うか、前後左右も上下も曖昧だわ。
自分の感覚では真っ白な世界に直立している感じだ。
この風景には既視感があった。この世界に転生する前にグレンと女神様に初めて出会った場所にそっくりだ。
え? また私逆戻りしちゃったの?
状況がすぐに掴めず狼狽えてしまう。
えーと、ちょっと待って、何がどうなってここにいるのかしら? どうすればここから出られるの? 暫くキョロキョロして辺りを見回す。どこまでも白い世界はまるで濃い霧がかかったようだ。
あら? あれは何かしら?
正面の方から金色の光りが近づいて来た。良く見るとその光りの中心には白い扉らしきものが見えた。
出口だわ!
その扉に意識を向けると直ぐに私の前まで近づいて来た。私は即座に扉のトッテに手をかけた。
ーーーーちょっと待って! その扉を開けたらダメよ!
頭の中で聞き覚えのある声が響いた。
誰?
辺りを見回し声の主を捜しても見つけることが出来ない。まるで私以外の人間は存在しないかのように静けさだけがただ漂っている。
どちらにせよ止められてもこの世界から脱出する為にはこの扉を開けるしか選択肢がない様に思えた。
私は思い切って目の前の扉を開けた。
「ベティ様、ベティ様、こんな所でうたた寝をしていては風邪を引きます。さあ、お城の中に入りましょう」
その刹那、女性が誰かを呼ぶ声が聞こえその声の主の方に顔を向けた。懐かしいけど知らない顔……
そういえばさっき意識を失う前に見た顔だ。私がこの白い世界に来る直前に。
そうだ、思い出した。あの時、クランリー農場で私の事を探しているというクラレシア神聖王国の騎士と顔を合わせた瞬間に意識が遠くなったんだった。
と言うことは、ここは夢の中なのかも知れない。だってこんなに近くにいるのに彼女達には私の姿が見えないみたいなんだもの。
様々な色とりどりの花々が風に揺れ、その中央にある美しい彫刻が施された白銀のガゼボ。
周りには光りを纏い浮遊する精霊達。
その中で藍色の髪に瑠璃色の瞳の少女が微笑んでいる。
私? ……ああ、違うか見た目はそっくりだけど私が転生する前の本当のこの身体の持ち主だわ。ショウから教えてもらったのは……確か名前はベアトリーチェ。クラレシア神聖王国の王女で精霊姫だったわね。
そこまで思い出した私は、再び二人の方に注意を向けた。
「ああ、アーニャ。私、いつの間にか眠ってしまったみたいね」
ベアトリーチェは侍女に向かって親しげに返事をした。
過去の私……この身体に私が転生する前の記憶……
そう、きっと彼女の記憶なのだろう。この身体の奥底に刻まれた彼女の記憶が私に過去の自分を見せているのだろうか?
でも、何故だろう……とても懐かしく感じる。
アーニャがベアトリーチェを呼ぶ声に涙が零れそうになった。
白亜のお城に向かうベアトリーチェとアーニャの後をついて行く。
出迎えてくれたのは藍色の髪に瑠璃色の瞳の今の私とそっくりな美しい女性だ。
きっとベアトリーチェの母親、つまりクラレシア神聖王国の女王……確か名前はメディアーナ。
「まぁ、ベティ。お帰りなさい。もうすぐ夕食のお時間よ。お勉強は進んでいるのかしら?」
慈愛に満ちた微笑みはその美しさを一層際立たせている。
「えっとぉ……」
そっと目を逸らすベアトリーチェ。
「まぁ、いけない子ねぇ。明日こそはちゃんとやらなきゃダメよ」
「はい。明日はちゃんとやるわ。でも、お母様、私はいつになったら森の向こうに行けるのかしら?」
「それは16才の成人の儀が済んでからよ。それまでの5年間はしっかりと外の世界の事も学ぶ必要があるの。外の世界は危険なのですから」
「分かりました。お母様、しっかりお勉強しますわ」
ベアトリーチェは笑顔でそう言った。
私は、二人の親子らしい会話を聞きながらこの頃のベアトリーチェは幸せに満ちていたことを知った。16才の成人、あと5年間のキーワードからこの時のベアトリーチェの年齢は11才であることが推測できる。
と言うことは、この後直ぐにドメル帝国に侵略されたのだろう。その事を思うと心が痛んだ。
突然、周りが歪む。
気がつくとまた白い世界にいて、また扉があった。
私はそっとその扉の取っ手に手をかけた。
ーーーーダメッ! その扉を開けてはダメッ!
また心の奥底で私を止める声が聞こえた。
でも、この扉を開かないとここから出られないわ。
そう思った私はゆっくりと第二の扉を開けた。
するといつの間にか森の中にいた。
そうだ。この時私はお母様やアーニャの目を盗んでこっそりと結界外にある森に足を踏み入れてしまったのだ。神苑の森。確かそう呼ばれていたはずだ。
そんな記憶が頭に過ぎった。すると、私が進む先にベアトリーチェの姿が目に入った。近づいてもベアトリーチェは私の姿に気がつかない。彼女にはやっぱり私の姿が見えないようだ。
ベアトリーチェの周りには精霊達がふよふよと浮かんでいた。きっと彼女を守る精霊達なのであろう。
彼女は精霊の守りの安心感から一人でも結界の外に行っても大丈夫だという根拠のない自信に囚われているのかも知れない。
「やあ、お嬢さん。こんな所に一人でいては危険ですよ」
木の陰から現れたのは金髪碧眼の眉目秀麗の男性だった。後ろに数人の騎士達が護衛している所を見るとそれなりの身分がある者だと窺い知れた。
「え? …………お父様?」
目を丸くして零したベアトリーチェの言葉に私は驚き固まったのだった。
あれ? 地面がない? 私、浮いているみたい。と言うか、前後左右も上下も曖昧だわ。
自分の感覚では真っ白な世界に直立している感じだ。
この風景には既視感があった。この世界に転生する前にグレンと女神様に初めて出会った場所にそっくりだ。
え? また私逆戻りしちゃったの?
状況がすぐに掴めず狼狽えてしまう。
えーと、ちょっと待って、何がどうなってここにいるのかしら? どうすればここから出られるの? 暫くキョロキョロして辺りを見回す。どこまでも白い世界はまるで濃い霧がかかったようだ。
あら? あれは何かしら?
正面の方から金色の光りが近づいて来た。良く見るとその光りの中心には白い扉らしきものが見えた。
出口だわ!
その扉に意識を向けると直ぐに私の前まで近づいて来た。私は即座に扉のトッテに手をかけた。
ーーーーちょっと待って! その扉を開けたらダメよ!
頭の中で聞き覚えのある声が響いた。
誰?
辺りを見回し声の主を捜しても見つけることが出来ない。まるで私以外の人間は存在しないかのように静けさだけがただ漂っている。
どちらにせよ止められてもこの世界から脱出する為にはこの扉を開けるしか選択肢がない様に思えた。
私は思い切って目の前の扉を開けた。
「ベティ様、ベティ様、こんな所でうたた寝をしていては風邪を引きます。さあ、お城の中に入りましょう」
その刹那、女性が誰かを呼ぶ声が聞こえその声の主の方に顔を向けた。懐かしいけど知らない顔……
そういえばさっき意識を失う前に見た顔だ。私がこの白い世界に来る直前に。
そうだ、思い出した。あの時、クランリー農場で私の事を探しているというクラレシア神聖王国の騎士と顔を合わせた瞬間に意識が遠くなったんだった。
と言うことは、ここは夢の中なのかも知れない。だってこんなに近くにいるのに彼女達には私の姿が見えないみたいなんだもの。
様々な色とりどりの花々が風に揺れ、その中央にある美しい彫刻が施された白銀のガゼボ。
周りには光りを纏い浮遊する精霊達。
その中で藍色の髪に瑠璃色の瞳の少女が微笑んでいる。
私? ……ああ、違うか見た目はそっくりだけど私が転生する前の本当のこの身体の持ち主だわ。ショウから教えてもらったのは……確か名前はベアトリーチェ。クラレシア神聖王国の王女で精霊姫だったわね。
そこまで思い出した私は、再び二人の方に注意を向けた。
「ああ、アーニャ。私、いつの間にか眠ってしまったみたいね」
ベアトリーチェは侍女に向かって親しげに返事をした。
過去の私……この身体に私が転生する前の記憶……
そう、きっと彼女の記憶なのだろう。この身体の奥底に刻まれた彼女の記憶が私に過去の自分を見せているのだろうか?
でも、何故だろう……とても懐かしく感じる。
アーニャがベアトリーチェを呼ぶ声に涙が零れそうになった。
白亜のお城に向かうベアトリーチェとアーニャの後をついて行く。
出迎えてくれたのは藍色の髪に瑠璃色の瞳の今の私とそっくりな美しい女性だ。
きっとベアトリーチェの母親、つまりクラレシア神聖王国の女王……確か名前はメディアーナ。
「まぁ、ベティ。お帰りなさい。もうすぐ夕食のお時間よ。お勉強は進んでいるのかしら?」
慈愛に満ちた微笑みはその美しさを一層際立たせている。
「えっとぉ……」
そっと目を逸らすベアトリーチェ。
「まぁ、いけない子ねぇ。明日こそはちゃんとやらなきゃダメよ」
「はい。明日はちゃんとやるわ。でも、お母様、私はいつになったら森の向こうに行けるのかしら?」
「それは16才の成人の儀が済んでからよ。それまでの5年間はしっかりと外の世界の事も学ぶ必要があるの。外の世界は危険なのですから」
「分かりました。お母様、しっかりお勉強しますわ」
ベアトリーチェは笑顔でそう言った。
私は、二人の親子らしい会話を聞きながらこの頃のベアトリーチェは幸せに満ちていたことを知った。16才の成人、あと5年間のキーワードからこの時のベアトリーチェの年齢は11才であることが推測できる。
と言うことは、この後直ぐにドメル帝国に侵略されたのだろう。その事を思うと心が痛んだ。
突然、周りが歪む。
気がつくとまた白い世界にいて、また扉があった。
私はそっとその扉の取っ手に手をかけた。
ーーーーダメッ! その扉を開けてはダメッ!
また心の奥底で私を止める声が聞こえた。
でも、この扉を開かないとここから出られないわ。
そう思った私はゆっくりと第二の扉を開けた。
するといつの間にか森の中にいた。
そうだ。この時私はお母様やアーニャの目を盗んでこっそりと結界外にある森に足を踏み入れてしまったのだ。神苑の森。確かそう呼ばれていたはずだ。
そんな記憶が頭に過ぎった。すると、私が進む先にベアトリーチェの姿が目に入った。近づいてもベアトリーチェは私の姿に気がつかない。彼女にはやっぱり私の姿が見えないようだ。
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彼女は精霊の守りの安心感から一人でも結界の外に行っても大丈夫だという根拠のない自信に囚われているのかも知れない。
「やあ、お嬢さん。こんな所に一人でいては危険ですよ」
木の陰から現れたのは金髪碧眼の眉目秀麗の男性だった。後ろに数人の騎士達が護衛している所を見るとそれなりの身分がある者だと窺い知れた。
「え? …………お父様?」
目を丸くして零したベアトリーチェの言葉に私は驚き固まったのだった。
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