転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

文字の大きさ
58 / 93
連載

第百二十一話 記憶の渦【其の一】

しおりを挟む
 ふわふわと体が揺れている感覚に心地よさが目覚めを誘う。ゆっくりと重い瞼を上げボンヤリと辺りの様子を窺った。

 あれ? 地面がない? 私、浮いているみたい。と言うか、前後左右も上下も曖昧だわ。

 自分の感覚では真っ白な世界に直立している感じだ。

 この風景には既視感があった。この世界に転生する前にグレンと女神様に初めて出会った場所にそっくりだ。

 え? また私逆戻りしちゃったの?

 状況がすぐに掴めず狼狽えてしまう。

 えーと、ちょっと待って、何がどうなってここにいるのかしら? どうすればここから出られるの? 暫くキョロキョロして辺りを見回す。どこまでも白い世界はまるで濃い霧がかかったようだ。

 あら? あれは何かしら?

 正面の方から金色の光りが近づいて来た。良く見るとその光りの中心には白い扉らしきものが見えた。

 出口だわ!

 その扉に意識を向けると直ぐに私の前まで近づいて来た。私は即座に扉のトッテに手をかけた。

 ーーーーちょっと待って! その扉を開けたらダメよ!

 頭の中で聞き覚えのある声が響いた。

 誰?

 辺りを見回し声の主を捜しても見つけることが出来ない。まるで私以外の人間は存在しないかのように静けさだけがただ漂っている。

 どちらにせよ止められてもこの世界から脱出する為にはこの扉を開けるしか選択肢がない様に思えた。

 私は思い切って目の前の扉を開けた。

「ベティ様、ベティ様、こんな所でうたた寝をしていては風邪を引きます。さあ、お城の中に入りましょう」

 その刹那、女性が誰かを呼ぶ声が聞こえその声の主の方に顔を向けた。懐かしいけど知らない顔……

 そういえばさっき意識を失う前に見た顔だ。私がこの白い世界に来る直前に。

 そうだ、思い出した。あの時、クランリー農場で私の事を探しているというクラレシア神聖王国の騎士と顔を合わせた瞬間に意識が遠くなったんだった。

 と言うことは、ここは夢の中なのかも知れない。だってこんなに近くにいるのに彼女達には私の姿が見えないみたいなんだもの。

 様々な色とりどりの花々が風に揺れ、その中央にある美しい彫刻が施された白銀のガゼボ。
 周りには光りを纏い浮遊する精霊達。
 その中で藍色の髪に瑠璃色の瞳の少女が微笑んでいる。

 私? ……ああ、違うか見た目はそっくりだけど私が転生する前の本当のこの身体の持ち主だわ。ショウから教えてもらったのは……確か名前はベアトリーチェ。クラレシア神聖王国の王女で精霊姫だったわね。

 そこまで思い出した私は、再び二人の方に注意を向けた。

「ああ、アーニャ。私、いつの間にか眠ってしまったみたいね」
 ベアトリーチェは侍女に向かって親しげに返事をした。

 過去の私……この身体に私が転生する前の記憶……
 そう、きっと彼女の記憶なのだろう。この身体の奥底に刻まれた彼女の記憶が私に過去の自分を見せているのだろうか?

 でも、何故だろう……とても懐かしく感じる。

 アーニャがベアトリーチェを呼ぶ声に涙が零れそうになった。


 白亜のお城に向かうベアトリーチェとアーニャの後をついて行く。
 出迎えてくれたのは藍色の髪に瑠璃色の瞳の今の私とそっくりな美しい女性だ。

 きっとベアトリーチェの母親、つまりクラレシア神聖王国の女王……確か名前はメディアーナ。
 
「まぁ、ベティ。お帰りなさい。もうすぐ夕食のお時間よ。お勉強は進んでいるのかしら?」
 慈愛に満ちた微笑みはその美しさを一層際立たせている。

「えっとぉ……」
 そっと目を逸らすベアトリーチェ。

「まぁ、いけない子ねぇ。明日こそはちゃんとやらなきゃダメよ」

「はい。明日はちゃんとやるわ。でも、お母様、私はいつになったら森の向こうに行けるのかしら?」
「それは16才の成人の儀が済んでからよ。それまでの5年間はしっかりと外の世界の事も学ぶ必要があるの。外の世界は危険なのですから」
「分かりました。お母様、しっかりお勉強しますわ」
 ベアトリーチェは笑顔でそう言った。

 私は、二人の親子らしい会話を聞きながらこの頃のベアトリーチェは幸せに満ちていたことを知った。16才の成人、あと5年間のキーワードからこの時のベアトリーチェの年齢は11才であることが推測できる。

 と言うことは、この後直ぐにドメル帝国に侵略されたのだろう。その事を思うと心が痛んだ。

 突然、周りが歪む。



 気がつくとまた白い世界にいて、また扉があった。

 私はそっとその扉の取っ手に手をかけた。

 ーーーーダメッ! その扉を開けてはダメッ!

 また心の奥底で私を止める声が聞こえた。

 でも、この扉を開かないとここから出られないわ。

 そう思った私はゆっくりと第二の扉を開けた。

 するといつの間にか森の中にいた。

 そうだ。この時私はお母様やアーニャの目を盗んでこっそりと結界外にある森に足を踏み入れてしまったのだ。神苑の森。確かそう呼ばれていたはずだ。

 そんな記憶が頭に過ぎった。すると、私が進む先にベアトリーチェの姿が目に入った。近づいてもベアトリーチェは私の姿に気がつかない。彼女にはやっぱり私の姿が見えないようだ。

 ベアトリーチェの周りには精霊達がふよふよと浮かんでいた。きっと彼女を守る精霊達なのであろう。

 彼女は精霊の守りの安心感から一人でも結界の外に行っても大丈夫だという根拠のない自信に囚われているのかも知れない。

「やあ、お嬢さん。こんな所に一人でいては危険ですよ」
 木の陰から現れたのは金髪碧眼の眉目秀麗の男性だった。後ろに数人の騎士達が護衛している所を見るとそれなりの身分がある者だと窺い知れた。

「え? …………お父様?」
 目を丸くして零したベアトリーチェの言葉に私は驚き固まったのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。