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第百二十三話 記憶の渦【其の三】
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ベアトリーチェは白い箱を抱え神苑の森からクラレシアの結界内に戻って行った。
直ぐに私もベアトリーチェの後を追う。白亜の城の周辺にある庭園に足を踏み入れると、私がこの夢の中の扉を開けて最初に見た景色が目に入った。
色とりどりの花々の周りに精霊達が纏う景色は幻想的で、この世界がファンタジーに溢れていることを実感する。だというのに、私の心の中には不安ばかりが押し寄せて来る。
ベアトリーチェは白銀のガゼボの中にある白い椅子に座るとさっき手にしたばかりの白い箱をテーブルに置いてじっくりと眺めている。
私はガゼボの外側に立ちベアトリーチェの様子を覗う。
お願い、その箱に魔力を流さないで。その箱を結界の外に捨ててきて。
そんな私の願いが届くはずもなくベアトリーチェはフェルカドの指示に素直に従ってしまう。
「えーと、この箱に魔力を流せばいいのね」
ベアトリーチェは箱に魔力を流そうと手を翳す。
それを見ていた私は思わず届かない言葉を投げかけた。
ーーーーベアトリーチェ! ダメよ! それに魔力を流してはダメ!
心が締め付けられるように苦しい。これ以上見ていられないのに目が離せない。この先に訪れる最悪の事態を知っているかのように私の心の中に不安の影が渦巻いた。
ああ、ベアトリーチェが「破魔の筺体」に魔力を注いでいく……
破魔の筐体……? なぜ私はその魔導具の名称を知っているのかしら?
そんなことがチラリと頭に過ぎったが、私はそれどころではなかった。ただベアトリーチェがそれに魔力を注ぐのを見ていることしか出来ない事がもどかしかった。
もう過ぎてしまった事なのにそれを認めるのが怖い。
ベアトリーチェが魔力を流すと次第に白い箱の色が変化していった。
白から黒へ……
その時だった。
「ベティ様、こちらにいたんですね。探しましたよ」
焦った声をあげながら、藍色の髪を後ろの高い位置で一つに結んだ女性アーニャがベアトリーチェに近づいて来た。
「アーニャ……あっ……」
ベアトリーチェはテーブルに置いてあった箱を後ろに隠すように立ち上がった。アーニャの目を逸らすベアトリーチェは自分が後ろめたいことをしていることを自覚しているかのようだった。
だが、アーニャは既にその箱に気がついていた。
「ベアトリーチェ様、今後ろに隠したのは何ですか?」
「えっと……何でもないのよ。私の伯父様に頼まれただけだから」
「伯父様……?」
「ええ、私のお父様のお兄様よ」
「!!……ベティ様! もしかしてドメル帝国の皇帝に会ったんですか? どこで?」
アーニャはベアトリーチェの言葉に驚愕し、声を荒げた。
「えっと……ごめんなさい……森で……」
「まさか!! 結界の外に出たんですか?」
「ごめんなさい……ちょっとだけよ。すぐに帰ってきたもの。伯父様も優しそうな方でしたわ」
「そういうことではありません!!」
額に手をやり苦悩の表情を浮かべるアーニャ。
私はその様子をただ固唾を呑んで眺めることしか出来なかった。
「兎に角、その箱を見せて下さい」
そう言いながらアーニャはテーブルの上にある黒い箱に近づいて行った。
「最初は、白かったのよ。でも魔力を注いだら黒くなってきたの」
「黒く? なぜ魔力を注いだの?」
ベアトリーチェの説明にアーニャは眉間に皺を寄せた。ベアトリーチェはどうしてそんなにアーニャが表情を歪めているのか分からない様子だった。
「そうなの。伯父様の国の人は魔力が少ないからこの箱に魔力を溜めて欲しいって頼まれたのよ」
「魔力を……?」
その時だった。
テーブルの上に置かれた黒い箱が突然ガタガタと震え、真ん中から四方に割れるように蓋が開いた。するとじわじわと黒い霧が溢れ出てきた。
「何事だ!?」
「えっ? なに?」
アーニャとベアトリーチェは驚きに固まった。
ああ……とうとう始まった……
心が震え、絶望の影に飲み込まれるのをもはや防ぐことはできないと私は悟ったのだった。
直ぐに私もベアトリーチェの後を追う。白亜の城の周辺にある庭園に足を踏み入れると、私がこの夢の中の扉を開けて最初に見た景色が目に入った。
色とりどりの花々の周りに精霊達が纏う景色は幻想的で、この世界がファンタジーに溢れていることを実感する。だというのに、私の心の中には不安ばかりが押し寄せて来る。
ベアトリーチェは白銀のガゼボの中にある白い椅子に座るとさっき手にしたばかりの白い箱をテーブルに置いてじっくりと眺めている。
私はガゼボの外側に立ちベアトリーチェの様子を覗う。
お願い、その箱に魔力を流さないで。その箱を結界の外に捨ててきて。
そんな私の願いが届くはずもなくベアトリーチェはフェルカドの指示に素直に従ってしまう。
「えーと、この箱に魔力を流せばいいのね」
ベアトリーチェは箱に魔力を流そうと手を翳す。
それを見ていた私は思わず届かない言葉を投げかけた。
ーーーーベアトリーチェ! ダメよ! それに魔力を流してはダメ!
心が締め付けられるように苦しい。これ以上見ていられないのに目が離せない。この先に訪れる最悪の事態を知っているかのように私の心の中に不安の影が渦巻いた。
ああ、ベアトリーチェが「破魔の筺体」に魔力を注いでいく……
破魔の筐体……? なぜ私はその魔導具の名称を知っているのかしら?
そんなことがチラリと頭に過ぎったが、私はそれどころではなかった。ただベアトリーチェがそれに魔力を注ぐのを見ていることしか出来ない事がもどかしかった。
もう過ぎてしまった事なのにそれを認めるのが怖い。
ベアトリーチェが魔力を流すと次第に白い箱の色が変化していった。
白から黒へ……
その時だった。
「ベティ様、こちらにいたんですね。探しましたよ」
焦った声をあげながら、藍色の髪を後ろの高い位置で一つに結んだ女性アーニャがベアトリーチェに近づいて来た。
「アーニャ……あっ……」
ベアトリーチェはテーブルに置いてあった箱を後ろに隠すように立ち上がった。アーニャの目を逸らすベアトリーチェは自分が後ろめたいことをしていることを自覚しているかのようだった。
だが、アーニャは既にその箱に気がついていた。
「ベアトリーチェ様、今後ろに隠したのは何ですか?」
「えっと……何でもないのよ。私の伯父様に頼まれただけだから」
「伯父様……?」
「ええ、私のお父様のお兄様よ」
「!!……ベティ様! もしかしてドメル帝国の皇帝に会ったんですか? どこで?」
アーニャはベアトリーチェの言葉に驚愕し、声を荒げた。
「えっと……ごめんなさい……森で……」
「まさか!! 結界の外に出たんですか?」
「ごめんなさい……ちょっとだけよ。すぐに帰ってきたもの。伯父様も優しそうな方でしたわ」
「そういうことではありません!!」
額に手をやり苦悩の表情を浮かべるアーニャ。
私はその様子をただ固唾を呑んで眺めることしか出来なかった。
「兎に角、その箱を見せて下さい」
そう言いながらアーニャはテーブルの上にある黒い箱に近づいて行った。
「最初は、白かったのよ。でも魔力を注いだら黒くなってきたの」
「黒く? なぜ魔力を注いだの?」
ベアトリーチェの説明にアーニャは眉間に皺を寄せた。ベアトリーチェはどうしてそんなにアーニャが表情を歪めているのか分からない様子だった。
「そうなの。伯父様の国の人は魔力が少ないからこの箱に魔力を溜めて欲しいって頼まれたのよ」
「魔力を……?」
その時だった。
テーブルの上に置かれた黒い箱が突然ガタガタと震え、真ん中から四方に割れるように蓋が開いた。するとじわじわと黒い霧が溢れ出てきた。
「何事だ!?」
「えっ? なに?」
アーニャとベアトリーチェは驚きに固まった。
ああ……とうとう始まった……
心が震え、絶望の影に飲み込まれるのをもはや防ぐことはできないと私は悟ったのだった。
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