転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

文字の大きさ
64 / 93
連載

第百二十六話 目覚め

しおりを挟む
 ベアトリーチェがメディアーナが発動させた魔術によって光りに包まれた瞬間、目の前の映像が消えた。気がつくと私は再び真っ白な世界に包まれていた。

 クラレシア神聖王国女王メディアーナ、そして私のお母様。

 前世の私は奄美根花櫚‥‥‥だけど現世はベアトリーチェとしてこの世に生を受けた。

 私は本当に記憶喪失だったのだ。

 なぜベアトリーチェの記憶を無くしてしまったのか?

 なぜ私は前世の記憶を取り戻しカリンとして生きることになったのか?

 頭の中がぐるぐるして考えが纏まらない。

 私は13才まで、ベアトリーチェとして生きていた。お母様がドメル帝国から命を賭して私を逃がしてくれるまで。

 カリンの記憶はその時まで蘇っていなかった。

 お母様の魔術によってクラレシアに転移させられたカリンの記憶がない私は自分の罪の重さに絶えきれず生きる気力をなくしていた。

 カリンの記憶が蘇ったのは、その後。

 私が生きる気力をなくして意識を失った後、ラシフィーヌ様の元に召喚されてからだ。だが、その反動か、その時私はベアトリーチェの記憶を無くしていた。

 もしかしたら私はあの時一度死んだのかも知れない。そう、前世で言えば臨死体験というものだ。

 では、何故あの時あのまま命を失わなかったのか?

 考えられるのはラシフィーヌ様が私の命を繋ぎ止めた? 私が精霊姫だから……

 ああ、そうだ。私にはお母様から伝えられていたお役目が有ったのだった。精霊姫としてのお役目が。

 だからラシフィーヌ様は私の生きる力を取り戻すために私の前世の記憶を呼び覚ましたのだろう。きっとベアトリーチェの記憶を失ったのはその反動なのだと思う。

 それが故意なのかそうではないのかは分からないけど……
 
 ベアトリーチェの記憶はあまりにも重たい。

 お母様……私のせいで死んでしまったお母様。いいえ、お母様だけではない。クラレシアの民達は私のせいで生活を脅かされ、命を失った者もいるだろう。

 忘れていた罪悪感が首を擡げて私に襲いかかるようだ。

 ああ、それよりも私は今後どうすれば良いのか?

 取り返しのつかない大罪を犯してしまったベアトリーチェとしての私は、そのあまりの罪深さに心が死んでしまい生きる気力を失った。

 弱かったのだ。

 周りに守られ、悪を知らず人を疑うことも、傷付けられた経験もなかった11才の少女の心はたった一つ、最大の間違いを犯した。

 ただ知らなかっただけ。

 そんな言葉も通じぬ程の間違いは、自国を滅ぼすことになってしまったのだ。

 私は逡巡する。

 でも、でも……

 後悔ばかりでは何も解決しない。

 犯した罪をなかった事には出来ないけど、これから出来るだけのことをしていこう。

 前世だってそうだったではないか?

 ベアトリーチェほどの大きな罪を犯したことはなかったけど、間違ったことなんていくらでもあった。

 その度に、反省をしても後悔はしないと自分の中にルールを作っていた。反省は前に進むためで、後悔は過去を引きずることだから。

 さあ、前を向けカリン。

 ベアトリーチェの罪は私の罪。

 だけど、いいえ、だからこそ前を向くのだ。

 今私には地球で40年近く生きたカリンとしての記憶がある。きっと大丈夫。例え許してくれなくても、恨まれても私は進むことしか出来ないのだから。

 そう思った瞬間、目の前に光りに包まれた扉が現れた。

 私はゆっくりとその扉を開けた。




 体の奥底から今まで閉じ込められていた魔力が解放される。今まで滞っていた血液が廻り始める様に体が徐々に暖かくなって来た。重い瞼をゆっくりと持ちあげると、柔らかな光と共に心配そうに覗き込むセレンさんの顔があった。

「カリンちゃん! ああ、よかった。カリンちゃん、目が覚めたのね。カリンちゃん、3日間も眠っていたのよ」
 瞳に涙を滲ませながら優しく微笑むセレンさんに私はホッと安堵した。

「セレン……さん……」
 ずっと眠っていたせいか声が掠れている。

「カリンちゃん、ちょっと待ってね」
 セレンさんはそう言うと私をゆっくりと抱き起こし、ベッドヘッドと背中の間にクッションを挟んで座らせてくれた。

 セレンさんは一度その場から立ち去ると、直ぐに水が入ったグラスを持って来て飲ませてくれる。

「カリン、目が覚めたのか?」
「カリン!」
 私の目覚めを感じ取ったのか、グラスの中が空になった瞬間ダンテさんとショウがバタバタと部屋に入ってきた。

 二人の方に目を向けると、ダンテさんは心配そうな顔で、ショウは瞳を潤ませて私が座るベッドの傍まで近づいて来た。

「あらあら、いくらカリンちゃんが目覚めたからと言ってレディの部屋に勝手に入るのはいけないわね」
 セレンさんは二人を窘めると困ったように眉を下げた。

「あっ、あのう……セレンさん、ダンテさん、ショウ、心配かけてしまってごめんなさい。私はもう大丈夫です……クゥゥゥ……あっ……」
 三人に謝罪の言葉を述べた瞬間、私のお腹の音が鳴って恥ずかしさに俯く私。

 きっと私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。

「カリンちゃん、お腹が空いたのね。よかったわ、お腹が空いたと言うことは元気だと言うことだもの。ちょっと待っててね。直ぐにパンがゆを作って来るから」
 セレンさんが私に声をかけて部屋を立ち去った。

「カリン。目覚めてくれて本当によかった」
「カリン……よかっ……た……」
 セレンさんの姿が見えなくなると、ダンテさんが目を細めて安堵の表情をしながら私の顔を覗き、ショウは途中から言葉にならないようで、ベッドの脇に立ったままただ大粒の涙をぽろぽろ零したのだった。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。