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閑話 女神ラシフィーヌと神獣グレン
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アスティアーテを管理する女神ラシフィーヌより地球という世界に派遣されて約五千年、それなりに多くの情報を入手できたと神獣グレンは満足げに自画自賛していた。
特にラシフィーヌは地球にある日本と言う国に興味を示し、グレンはその国を中心に情報を集めていた。ラシフィーヌは地球に存在する植物や動物を参考に自分の世界にも同じような物を顕現させ、そのお陰で地球との共通点も増えていた。
そこへ突然の帰還命令。
グレンは、アスティアーテでよほどの事が起こったのだろうと急遽ラシフィーヌの元へ駆けつけた。
神が座する場所、光が溢れる空間で女神ラシフィーヌと神獣グレンが向き合う。
「我が主よ。急な呼び出し、いかがされた」
「ああ、グレン。大変なのよ。精霊姫がこのままでは死んじゃうわ。彼女が死んでしまえば精霊王の怒りに触れて精霊達が人間界から消えてしまう。そうなったらこの世界が滅んでしまう」
「なんだと? もしかしてその精霊姫とは地球からクラレシア神聖王国に転生させた魂が入った器ではないか!」
「そうよ、グレンが間違って死なせた地球の魂よ」
「ぬぬっ、其の贖罪として最も平和な国に転生させたのではないか? 精霊の血を受け継ぐクラレシアの女王メディアーナの娘として」
「そうなんだけど、あの帝国の馬鹿皇帝がクラレシアを侵略したのよ。メディアーナは自分の命を賭してベアトリーチェを逃がしたんだけど、ベアトリーチェはこのままでは死んでしまうわ。妖精王オルフェがかなりお怒りなのよ!」
ラシフィーヌはもうどうしようもないと言うがの如くグレンに縋るように言った。
「それで女王メディアーナは亡くなったのであるか?」
「亡くなる直前に精霊王が精霊界に連れて行ったわ。でも、人間界での寿命は終わっているからもう人間界では生きることは出来ないわね」
グレンの問いにラシフィーヌは力なく答えた。
メディアーナは愛娘ベアトリーチェを転移魔法で逃がした後、ドメル帝国皇帝フェルカドの手によって致命傷を負った。その事を察知した精霊王オルフェは愛する妻レティアーナの願いを聞き入れ娘であるメディアーナを命の灯火が消える寸前に精霊界に転移させたのだ。
「クラレシア神聖王国には神の結界と言われている強固な守りがあったはずだが? もっともその結界は神ではなく精霊王が施した結界であるが」
「妖精猫の魔力と精霊姫の魔力を混入させて魔導具によってその性質を反転させたみたいね」
「魔導具? そんな魔導具ドメル帝国の者が作れるのか?」
ラシフィーヌの言葉にグレンは、あり得ないことを聞いたかのように単純なる疑問を投げた。
「その魔導具を作ったのは、クラレシアの血を引いた魔導具師よ。それよりもこの映像を見て」
ラシフィーヌはそう言うと、グレンに記録の玉に映った映像を見せた。
「まさか! これがクラレシアだというのか?! まるで死の世界ではないか! んっ? あそこに倒れているのは其が送った地球の魂が入った器……」
「ええ、あの子がクラレシア神聖王国最後の王女ベアトリーチェ、精霊姫よ。以前、帝国がクラレシアにちょっかいを出した時に、罰として帝国に生まれる者の魔力を最低限にしたのが徒になった様なの。皇帝はクラレシア人の魔力と土地を奪ったのよ。まあ、精霊王が帝国から精霊を引き上げさせたから帝国もその内枯れ果てて滅ぶでしょうけどね。自業自得ね」
「それよりもあのままでは精霊姫は死んでしまうぞ」
「ええ、その通りよグレン。私の力は強すぎて人に干渉することは出来ないわ。兎に角、少しだけ彼女の時間を引き延ばすからその間に彼女を救助してくれないかしら?」
「承知。直ぐに精霊姫の所に降り立とう」
グレンはラシフィーヌが座する場所を後にした。
『精霊姫よ、目を開けるのだ。さあ、命の水をやろう。これを飲めば其方の体も回復するであろう』
「だれ……? ああ、猫ちゃん……あなたはとても綺麗……私と違って……私はもうダメ。私は取り返しのつかない罪を犯してしまった。もう……私に生きる価値は……ないの…………」
「でも、猫ちゃん……あり……がとう」
痩せ細った体のベアトリーチェはもう涙も涸れ果て、どんなに哀しくてもどんなに悔いても頬を濡らすことはない。
ゆっくりと瞳を閉じ、己の罪悪感に蝕まれながら次第に息が浅くなり呼吸の音が消えた。
その瞬間、グレンの体から光が弾けベアトリーチェの体を包んだ。
『死なせぬ。このまま絶望の淵に落とされたまま。主よ、精霊姫の魂と肉体が切り離されないように繋いだ。そのままそちらに送るぞ』
グレンがラシフィーヌに念を飛ばすと、ベアトリーチェの体から離れた魂は光りを纏ったままその場から転送させた。
女神ラシフィーヌの元へ……。
「ああ、グレン、やっぱりダメだったのね。でも、このまま諦めないわ。ベアトリーチェの前世の記憶を呼び戻すしかないわね。彼女は地球で一人でも強く逞しく生きていた。きっと生きる力を補えるに違いないわ」
目の前に現れた少女の魂を眺め、ラシフィーヌは決意を述べた。
「前世と言うとあの地球での記憶か。それは良い考えだ」
「でしょう? でもこの方法は世の理を無視するギリギリの手段。少しリスクはあるけどもうそれしかないと思うわ」
ラシフィーヌは最適解を得たように喜々としてベアトリーチェの魂の奥に刻まれている前世の記憶の封印を解いた。
「あら、困ったわ、前世の記憶を呼び戻したらベアトリーチェの記憶が深層意識の方に隠れてしまったわ」
「ふむ、ラシフィーヌ様。今はその方がいいのかも知れぬ。先ずは生きる気力を養ってからベアトリーチェの記憶を取り戻せば良いのではないか?」
「そうね。ではグレン、貴方にベアトリーチェの守護を命じます。これからベアトリーチェの前世の記憶を持つ魂にアクセスして状況を説明しましょう……そうね、ベアトリーチェの記憶を無くした魂には前世の記憶を持ったまま転生させると伝えます」
「了解した。なら、地球で其が原因で命を落としたことも教えた方がすんなり納得してもらえるであろう。彼女の守護は喜んで承ろう」
「では、ベアトリーチェ……前世の奄美根花櫚の意識を解き放ちます」
グレンはラシフィーヌの意を受けると直ぐにベアトリーチェの魂に声をかけた。
真っ白な世界にフワフワと浮いているベアトリーチェ、いや奄美根花櫚の魂は初めて見る場所に困惑した色を浮かべていた。
『申し訳ない……』
グレンは謝罪の言葉を放ちながら前世の記憶しか持たないベアトリーチェの魂と邂逅したのだった。
特にラシフィーヌは地球にある日本と言う国に興味を示し、グレンはその国を中心に情報を集めていた。ラシフィーヌは地球に存在する植物や動物を参考に自分の世界にも同じような物を顕現させ、そのお陰で地球との共通点も増えていた。
そこへ突然の帰還命令。
グレンは、アスティアーテでよほどの事が起こったのだろうと急遽ラシフィーヌの元へ駆けつけた。
神が座する場所、光が溢れる空間で女神ラシフィーヌと神獣グレンが向き合う。
「我が主よ。急な呼び出し、いかがされた」
「ああ、グレン。大変なのよ。精霊姫がこのままでは死んじゃうわ。彼女が死んでしまえば精霊王の怒りに触れて精霊達が人間界から消えてしまう。そうなったらこの世界が滅んでしまう」
「なんだと? もしかしてその精霊姫とは地球からクラレシア神聖王国に転生させた魂が入った器ではないか!」
「そうよ、グレンが間違って死なせた地球の魂よ」
「ぬぬっ、其の贖罪として最も平和な国に転生させたのではないか? 精霊の血を受け継ぐクラレシアの女王メディアーナの娘として」
「そうなんだけど、あの帝国の馬鹿皇帝がクラレシアを侵略したのよ。メディアーナは自分の命を賭してベアトリーチェを逃がしたんだけど、ベアトリーチェはこのままでは死んでしまうわ。妖精王オルフェがかなりお怒りなのよ!」
ラシフィーヌはもうどうしようもないと言うがの如くグレンに縋るように言った。
「それで女王メディアーナは亡くなったのであるか?」
「亡くなる直前に精霊王が精霊界に連れて行ったわ。でも、人間界での寿命は終わっているからもう人間界では生きることは出来ないわね」
グレンの問いにラシフィーヌは力なく答えた。
メディアーナは愛娘ベアトリーチェを転移魔法で逃がした後、ドメル帝国皇帝フェルカドの手によって致命傷を負った。その事を察知した精霊王オルフェは愛する妻レティアーナの願いを聞き入れ娘であるメディアーナを命の灯火が消える寸前に精霊界に転移させたのだ。
「クラレシア神聖王国には神の結界と言われている強固な守りがあったはずだが? もっともその結界は神ではなく精霊王が施した結界であるが」
「妖精猫の魔力と精霊姫の魔力を混入させて魔導具によってその性質を反転させたみたいね」
「魔導具? そんな魔導具ドメル帝国の者が作れるのか?」
ラシフィーヌの言葉にグレンは、あり得ないことを聞いたかのように単純なる疑問を投げた。
「その魔導具を作ったのは、クラレシアの血を引いた魔導具師よ。それよりもこの映像を見て」
ラシフィーヌはそう言うと、グレンに記録の玉に映った映像を見せた。
「まさか! これがクラレシアだというのか?! まるで死の世界ではないか! んっ? あそこに倒れているのは其が送った地球の魂が入った器……」
「ええ、あの子がクラレシア神聖王国最後の王女ベアトリーチェ、精霊姫よ。以前、帝国がクラレシアにちょっかいを出した時に、罰として帝国に生まれる者の魔力を最低限にしたのが徒になった様なの。皇帝はクラレシア人の魔力と土地を奪ったのよ。まあ、精霊王が帝国から精霊を引き上げさせたから帝国もその内枯れ果てて滅ぶでしょうけどね。自業自得ね」
「それよりもあのままでは精霊姫は死んでしまうぞ」
「ええ、その通りよグレン。私の力は強すぎて人に干渉することは出来ないわ。兎に角、少しだけ彼女の時間を引き延ばすからその間に彼女を救助してくれないかしら?」
「承知。直ぐに精霊姫の所に降り立とう」
グレンはラシフィーヌが座する場所を後にした。
『精霊姫よ、目を開けるのだ。さあ、命の水をやろう。これを飲めば其方の体も回復するであろう』
「だれ……? ああ、猫ちゃん……あなたはとても綺麗……私と違って……私はもうダメ。私は取り返しのつかない罪を犯してしまった。もう……私に生きる価値は……ないの…………」
「でも、猫ちゃん……あり……がとう」
痩せ細った体のベアトリーチェはもう涙も涸れ果て、どんなに哀しくてもどんなに悔いても頬を濡らすことはない。
ゆっくりと瞳を閉じ、己の罪悪感に蝕まれながら次第に息が浅くなり呼吸の音が消えた。
その瞬間、グレンの体から光が弾けベアトリーチェの体を包んだ。
『死なせぬ。このまま絶望の淵に落とされたまま。主よ、精霊姫の魂と肉体が切り離されないように繋いだ。そのままそちらに送るぞ』
グレンがラシフィーヌに念を飛ばすと、ベアトリーチェの体から離れた魂は光りを纏ったままその場から転送させた。
女神ラシフィーヌの元へ……。
「ああ、グレン、やっぱりダメだったのね。でも、このまま諦めないわ。ベアトリーチェの前世の記憶を呼び戻すしかないわね。彼女は地球で一人でも強く逞しく生きていた。きっと生きる力を補えるに違いないわ」
目の前に現れた少女の魂を眺め、ラシフィーヌは決意を述べた。
「前世と言うとあの地球での記憶か。それは良い考えだ」
「でしょう? でもこの方法は世の理を無視するギリギリの手段。少しリスクはあるけどもうそれしかないと思うわ」
ラシフィーヌは最適解を得たように喜々としてベアトリーチェの魂の奥に刻まれている前世の記憶の封印を解いた。
「あら、困ったわ、前世の記憶を呼び戻したらベアトリーチェの記憶が深層意識の方に隠れてしまったわ」
「ふむ、ラシフィーヌ様。今はその方がいいのかも知れぬ。先ずは生きる気力を養ってからベアトリーチェの記憶を取り戻せば良いのではないか?」
「そうね。ではグレン、貴方にベアトリーチェの守護を命じます。これからベアトリーチェの前世の記憶を持つ魂にアクセスして状況を説明しましょう……そうね、ベアトリーチェの記憶を無くした魂には前世の記憶を持ったまま転生させると伝えます」
「了解した。なら、地球で其が原因で命を落としたことも教えた方がすんなり納得してもらえるであろう。彼女の守護は喜んで承ろう」
「では、ベアトリーチェ……前世の奄美根花櫚の意識を解き放ちます」
グレンはラシフィーヌの意を受けると直ぐにベアトリーチェの魂に声をかけた。
真っ白な世界にフワフワと浮いているベアトリーチェ、いや奄美根花櫚の魂は初めて見る場所に困惑した色を浮かべていた。
『申し訳ない……』
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