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第百三十話 最大の決心
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セレンさんの言葉でみんながソファーに腰掛け、爽やかなミンティー茶を口にする。
セレンさん達は部屋を出て行き、残されたのは私とクラレシアの騎士達三人だけになった。
きっと、気を利かせてくれたのだろう。
自分の事も忘れるなと言うように、グレンがスタスタと私の足下に来ると隣にピョンとソファーに飛び乗った。
もちろん、忘れていませんよ。グレンのお陰で私は今日まで生きてこられたのだから。
そんな気持ちで私はグレンに目を向けた。
アーニャ、ワシリー、エゴンの三人がその様子をジッと見て徐にハッとして立ち上がった。
「「「もしかして貴方様が神獣様ですか?!」」」
三人が声を揃えて跪いた。
『いかにも、其は女神ラシフィーヌ様の眷属、神獣グレンである』
グレンはクイと顎をあげると偉そうにみんなに向けて念話を発した。
「此度はベアトリーチェ様をお守り頂きありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
エゴンが感謝の意を述べるとアーニャとワシリーが続けて言った。
『礼を言われるまでもない。あのままではカリ……ベアトリーチェの命の灯火が消えておったからな』
グレンの言葉に三人は息を呑んだ。
そのままベアトリーチェが亡くなってしまったことを想像し、恐怖を覚えたのだ。段々と顔が真っ青になっていくアーニャ、ワシリー、エゴン。
『それよりも其の前で跪く必要はない。人の習慣など其の前では無意味。何れにせよ女神ラシフィーヌ様はそれを良しとはしなかっただろう。自分の世界が崩壊してしまうからな。さあ、カリ……ベアトリーチェと話があるのだろう。続けるがよい』
三人は戸惑いがちに立ち上がりソファに座り直した。
「それで、女神ラシフィーヌ様と言うのは?」
『この世界を造った創造の女神様である。ああ、この世界には女神様の名は伝説としてしか周知されてなかったな。ラシフィーヌ様は地球と言う星を参考にこの世界を造ったのだ。神の存在を強く認識させると人々の間で争いが起こると地球の歴史を見てラシフィーヌ様は考えた為だ』
この世界では神の存在もその眷属の存在も伝説として密かに語られているだけだ。私はあまり深く考えなかったけど、確かに地球では宗教による考え方の違いから度々戦争が起こっていた。
それでも、クラレシア神聖王国はドメル帝国に侵略され戦争となった。人間というのは、欲に塗れるとどんな事でも戦争の原因となり得るのだと思った。
考え方の違いは文化を発展させるが、争いも生まれる。人がこの世に存在する限りそれは避けられないことなのかも知れない。
でも、私はここを出来るだけ争いのない世界にしたい。私の出来ることなんて小さいかも知れないけどそれが私の贖罪だと思うから。
「ベアトリーチェ様……先ほど言った通り奴らに侵攻されたのは貴女のせいではありません。私達は奴らの不穏な気配を知っていたのです」
「アーニャの言う通りです。ですが、我々は神の結界があるからと絶対にクラレシアが攻撃されることはないと考えていたのです」
「我々の油断が招いたことなのです。まだ11才だったベアトリーチェ様を責めることはありません。ベアトリーチェ様、全ては守る立場にあった我々の傲りが招いたことなのです」
「「「ベアトリーチェ様、申し訳ございませんでした」」」
私がずっと考え込んでいると、アーニャ、ワシリー、エゴンの三人は声を揃えて謝罪の言葉を述べた。
「アーニャ、ワシリー、エゴン…………。顔を上げて頂戴。過去を振り返ってばかりでは前に進めないわ。これからの事を考えましょう。これからのクラレシアの民達のことを。今更だけど、彼らはきっと先行きを不安に思っているわ。私は彼らの力になりたいの。例えまだ子供でも私はクラレシアの元王女。出来るだけ王族としての責任を負いたいの。あまり大したことは出来ないかもしれないけど、貴方たちにはこれから沢山助けて貰う事になると思うわ。よろしくね」
私は涙を浮かべる三人に微笑んだ。
「ベアトリーチェ様……いえ、ベティ様、もちろんです」
「出来る限りのことをしましょう」
「何でも仰って下さい」
私の言葉に三人の瞳に力が籠もり、気持ちが浮上したように感じた。
「アーニャ、ワシリー、エゴン、改めてお礼を言うわ。私を捜してくれてありがとう。私は今から貴方たちに伝えなければならない事があります。聞いてくれますか?」
お茶を飲んで一息つくと、私は三人に向かって告げた。
セレンさん、ダンテさん、ショウと相談した結果、私の前世を彼らにだけは話そうと決めたのだ。
「「「もちろんです。ベアトリーチェ様」」」
三人が答えると私は前世の記憶の事を出来るだけかいつまんで話し始めた。
私が話し終わるとアーニャ、ワシリー、エゴンの三人は押し黙って何やら考え込んでしまった。あまりの突拍子のない話に信じられない思いが強いのかも知れない。
私は彼らの心の整理が付くまで何も言わず様子を見る事にした。
「それではベティ様の中には別の人生の記憶があるんですね。何となく以前のベティ様と雰囲気が違うように感じたのはそのせいだったんですね」
アーニャが納得したように口を開いた。
「なるほど、どうりでベアトリーチェ様がとても大人に思えたわけですか……」
エゴンが私の顔をジッと見つめて優しい笑みを零した。
「信じられない話ですが、今のベアトリーチェ様を見れば納得出来ます」
ワシリーは首を左右に振ると私を見つめた。
「それにしても神獣様の結界は強固ですね。私達の念話も通じないしベアトリーチェ様の魔力も全然感じる事が出来ない」
「結界…………?」
私はアーニャの言葉にグレンの方を見て首を傾げた。
『おお、すまぬ。もうカリンの記憶も戻ったし其の護りがあるカリンには必要ないだろう』
クラレシアの民同士はお互いに認められた者同士は離れていても念話によって意志の疎通が出来る。
私がカリンとして蘇生してからは、グレンの結界によって阻まれていたためアーニャ達の念話を受け取ることも魔力を感じる事もできなかった。
グレンには私の中にあるベアトリーチェの記憶を封印する意図もあったのだろう。
『これでカリンにも念話が届くはずだ』
アーニャはグレンの言葉を受け、試すように私に念話を送り、それが通じると安心したように微笑んだ。
「ベアトリーチェ様、再会したばかりでこんなことを言うのは申し訳無いのですが、一度クラレシア王城にお戻り頂きたいのです」
「ええ、分かっているわ、エゴン。精霊樹のことですね」
私はエゴンの言いたいことが直ぐに分かった。精霊樹の事は以前お母様から聞いていたからだ。
年に一度精霊の血を引く者が魔力を捧げなければ精霊樹は枯れてしまうと。
もう、三年近く経ってしまった今はきっと枯れてしまっているだろう。
私はカリンとして目覚めたばかりのクラレシアの荒れ果てた風景を思い出し心に痛みが走るのを感じた。ベアトリーチェの記憶に残されていた美しく神秘的なクラレシアの平和な風景とのあまりの違いに絶望的な気持ちになる。
精霊樹が枯れただけでクラレシアが荒涼と化したのではないだろう。破魔の筐体から放たれた黒霧が精霊達を死滅させ草木の命さえ奪ったのだ。
私が精霊樹に魔力を注げば新たな精霊がそこからこの世界に放たれるだろう。
でも…………
私は逡巡する。
例えクラレシアが復活したとしても人がそこにいる限りまた同じようなことが起こるかも知れない。
それなら………………
私は精霊姫として最後の仕事をするために最大の決心をした。
その時、私がベアトリーチェとしてずっと守ってくれた彼らを真っ直ぐ見て私は口を開く。
「私はあの頃のベアトリーチェではありません。だから、これからは私の事はカリンと呼んで欲しいのです」
私の言葉に三人は一瞬戸惑ったような素振りを見せたが、私の強い視線を受け
「「「畏まりました。カリン様」」」
と口を揃えて言ったのだった。
本当は様もいらないんだけどね。
心の中でそっと呟き私は意識をクラレシアの地へと向けた。
セレンさん達は部屋を出て行き、残されたのは私とクラレシアの騎士達三人だけになった。
きっと、気を利かせてくれたのだろう。
自分の事も忘れるなと言うように、グレンがスタスタと私の足下に来ると隣にピョンとソファーに飛び乗った。
もちろん、忘れていませんよ。グレンのお陰で私は今日まで生きてこられたのだから。
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アーニャ、ワシリー、エゴンの三人がその様子をジッと見て徐にハッとして立ち上がった。
「「「もしかして貴方様が神獣様ですか?!」」」
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『いかにも、其は女神ラシフィーヌ様の眷属、神獣グレンである』
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「「ありがとうございました」」
エゴンが感謝の意を述べるとアーニャとワシリーが続けて言った。
『礼を言われるまでもない。あのままではカリ……ベアトリーチェの命の灯火が消えておったからな』
グレンの言葉に三人は息を呑んだ。
そのままベアトリーチェが亡くなってしまったことを想像し、恐怖を覚えたのだ。段々と顔が真っ青になっていくアーニャ、ワシリー、エゴン。
『それよりも其の前で跪く必要はない。人の習慣など其の前では無意味。何れにせよ女神ラシフィーヌ様はそれを良しとはしなかっただろう。自分の世界が崩壊してしまうからな。さあ、カリ……ベアトリーチェと話があるのだろう。続けるがよい』
三人は戸惑いがちに立ち上がりソファに座り直した。
「それで、女神ラシフィーヌ様と言うのは?」
『この世界を造った創造の女神様である。ああ、この世界には女神様の名は伝説としてしか周知されてなかったな。ラシフィーヌ様は地球と言う星を参考にこの世界を造ったのだ。神の存在を強く認識させると人々の間で争いが起こると地球の歴史を見てラシフィーヌ様は考えた為だ』
この世界では神の存在もその眷属の存在も伝説として密かに語られているだけだ。私はあまり深く考えなかったけど、確かに地球では宗教による考え方の違いから度々戦争が起こっていた。
それでも、クラレシア神聖王国はドメル帝国に侵略され戦争となった。人間というのは、欲に塗れるとどんな事でも戦争の原因となり得るのだと思った。
考え方の違いは文化を発展させるが、争いも生まれる。人がこの世に存在する限りそれは避けられないことなのかも知れない。
でも、私はここを出来るだけ争いのない世界にしたい。私の出来ることなんて小さいかも知れないけどそれが私の贖罪だと思うから。
「ベアトリーチェ様……先ほど言った通り奴らに侵攻されたのは貴女のせいではありません。私達は奴らの不穏な気配を知っていたのです」
「アーニャの言う通りです。ですが、我々は神の結界があるからと絶対にクラレシアが攻撃されることはないと考えていたのです」
「我々の油断が招いたことなのです。まだ11才だったベアトリーチェ様を責めることはありません。ベアトリーチェ様、全ては守る立場にあった我々の傲りが招いたことなのです」
「「「ベアトリーチェ様、申し訳ございませんでした」」」
私がずっと考え込んでいると、アーニャ、ワシリー、エゴンの三人は声を揃えて謝罪の言葉を述べた。
「アーニャ、ワシリー、エゴン…………。顔を上げて頂戴。過去を振り返ってばかりでは前に進めないわ。これからの事を考えましょう。これからのクラレシアの民達のことを。今更だけど、彼らはきっと先行きを不安に思っているわ。私は彼らの力になりたいの。例えまだ子供でも私はクラレシアの元王女。出来るだけ王族としての責任を負いたいの。あまり大したことは出来ないかもしれないけど、貴方たちにはこれから沢山助けて貰う事になると思うわ。よろしくね」
私は涙を浮かべる三人に微笑んだ。
「ベアトリーチェ様……いえ、ベティ様、もちろんです」
「出来る限りのことをしましょう」
「何でも仰って下さい」
私の言葉に三人の瞳に力が籠もり、気持ちが浮上したように感じた。
「アーニャ、ワシリー、エゴン、改めてお礼を言うわ。私を捜してくれてありがとう。私は今から貴方たちに伝えなければならない事があります。聞いてくれますか?」
お茶を飲んで一息つくと、私は三人に向かって告げた。
セレンさん、ダンテさん、ショウと相談した結果、私の前世を彼らにだけは話そうと決めたのだ。
「「「もちろんです。ベアトリーチェ様」」」
三人が答えると私は前世の記憶の事を出来るだけかいつまんで話し始めた。
私が話し終わるとアーニャ、ワシリー、エゴンの三人は押し黙って何やら考え込んでしまった。あまりの突拍子のない話に信じられない思いが強いのかも知れない。
私は彼らの心の整理が付くまで何も言わず様子を見る事にした。
「それではベティ様の中には別の人生の記憶があるんですね。何となく以前のベティ様と雰囲気が違うように感じたのはそのせいだったんですね」
アーニャが納得したように口を開いた。
「なるほど、どうりでベアトリーチェ様がとても大人に思えたわけですか……」
エゴンが私の顔をジッと見つめて優しい笑みを零した。
「信じられない話ですが、今のベアトリーチェ様を見れば納得出来ます」
ワシリーは首を左右に振ると私を見つめた。
「それにしても神獣様の結界は強固ですね。私達の念話も通じないしベアトリーチェ様の魔力も全然感じる事が出来ない」
「結界…………?」
私はアーニャの言葉にグレンの方を見て首を傾げた。
『おお、すまぬ。もうカリンの記憶も戻ったし其の護りがあるカリンには必要ないだろう』
クラレシアの民同士はお互いに認められた者同士は離れていても念話によって意志の疎通が出来る。
私がカリンとして蘇生してからは、グレンの結界によって阻まれていたためアーニャ達の念話を受け取ることも魔力を感じる事もできなかった。
グレンには私の中にあるベアトリーチェの記憶を封印する意図もあったのだろう。
『これでカリンにも念話が届くはずだ』
アーニャはグレンの言葉を受け、試すように私に念話を送り、それが通じると安心したように微笑んだ。
「ベアトリーチェ様、再会したばかりでこんなことを言うのは申し訳無いのですが、一度クラレシア王城にお戻り頂きたいのです」
「ええ、分かっているわ、エゴン。精霊樹のことですね」
私はエゴンの言いたいことが直ぐに分かった。精霊樹の事は以前お母様から聞いていたからだ。
年に一度精霊の血を引く者が魔力を捧げなければ精霊樹は枯れてしまうと。
もう、三年近く経ってしまった今はきっと枯れてしまっているだろう。
私はカリンとして目覚めたばかりのクラレシアの荒れ果てた風景を思い出し心に痛みが走るのを感じた。ベアトリーチェの記憶に残されていた美しく神秘的なクラレシアの平和な風景とのあまりの違いに絶望的な気持ちになる。
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私が精霊樹に魔力を注げば新たな精霊がそこからこの世界に放たれるだろう。
でも…………
私は逡巡する。
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それなら………………
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その時、私がベアトリーチェとしてずっと守ってくれた彼らを真っ直ぐ見て私は口を開く。
「私はあの頃のベアトリーチェではありません。だから、これからは私の事はカリンと呼んで欲しいのです」
私の言葉に三人は一瞬戸惑ったような素振りを見せたが、私の強い視線を受け
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