9 / 18
09-リナリアの困惑
しおりを挟む
あの斗真だって言うの? 前世で私を裏切った。
まさか第三王子に斗真が転生したなんて誰が信じようか?
でも何故? 私を捜してたってどういうこと? 斗真は私を裏切ったじゃない! 転生してまで捜すのなんておかしいわ。
「君は誤解している。俺は君を裏切っていない。彼女は俺の幼馴染みで付き合ってはいない」
「へぇー、斗真は幼馴染みの女を自分の部屋に簡単に入れるんだ。それに、斗真はあの時まだ帰ってきてなかったから。あの娘は斗真のマンションのカードキーを持っていたってことよね。それはどう説明するの?」
「あれは俺の母親が勝手にあいつに渡したんだ」
「ふーん、あいつって随分親しそうに言うんだ。そうやって人のせいにすれば私が納得するとでも思ったの? 生憎、私はもう貴方に騙されないわ!」
私はタダの嫉妬心と知りつつ、斗真の言葉に憤りを感じた。私があの時どんなに絶望したのか斗真には絶対に分からない。
震える声が斗真を糾弾する。
「違う! 本当に騙してなんかいない! 愛しているんだ今でも。君だけなんだ。君を見つけたとき俺がどんなに歓喜に震えたか分かるか? どんなに君を捜したか……」
「勝手なことを言わないで! 私はもう貴方を忘れたんだから。もう貴方に絆されないんだから!」
「じゃあ、どうして君は涙を流しているの?」
私は斗真の言葉にハッとして手で頬を触れた。そうしてやっと斗真を糾弾しながらも自分が泣いていたことに気付いた。
どうしてこんなに哀しいの? あれはもう既に封印した前世の記憶なのに。それでも私の瞳からは後から後から涙が零れてきた。
ポタポタと床に落ちる涙は私の哀しみを洗い流すばかりか、忘れ去った記憶を連れてくるように止まることはなかった。
「泣くな、リナ。あれは勝手に俺の母親がカードキーを渡したんだ。あの女と俺に既成事実を作る為に。」
いつの間にか私はすっぽりと斗真の腕の中に包まれていた。泣きじゃくる私の頭を優しく撫でる掌の温かさにやっと心が落ち着き斗真の言った言葉が頭の中に浸透してきた。
既成事実を作る為に……? どういうこと?
どうして斗真の母親がそこまでして私を排除しようと言うの?
「俺の祖父はグループ病院の創設者の一人で理事長だった。そして、父親は総合病院の院長、母親は医薬会社の令嬢だった。母親は選民意識が強く、それは俺の結婚相手にまで意識を向けていたんだ。婚約者は生まれたときからもう既に決められていたんだ」
私は顔を上げ斗真の瞳を見つめた。
どこかの病院の息子だったことは人づてに聞いていたけどまさかグループ病院の血筋だったなんて知らなかった。それにしても生まれたときから婚約者がいたなんて一般庶民だった私には別の世界の住人だとしか思えないわ。
今世でだって生まれたときから婚約者が決められていることなんて稀なのにどこの時代錯誤の世界よ!
やっぱり私は斗真の言うことを真っ正直に信じることはできなかった。
「俺の幼馴染みの婚約者は母親の従姉妹の子供だった。俺が生まれて直ぐにもし従姉妹の子供が女だったら俺と婚約させると言う事になったらしい。だから、幼い頃からしょっちゅう家を行き来して交流させられていたんだ」
斗真は眉間に皺を寄せながら苦しそうな表情でそう述べた。
「最初はずっと母親同士が仲が良いために交流していたと思っていたんだ。でも、ある時から何故か俺達を二人きりにしたり、一緒に出かけるように促されたりしたんだ。おかしいと思って問いただしたら、俺達を結婚させる魂胆だったことが分かった。俺は結婚相手は自分で決めると言ったんだが中々分かっては貰えなかった」
言葉を続ける斗真に私は何て言い返したらいいのか分からなかった。
「だから、俺は技術習得を掲げて暫く留学することにしたんだ。それで諦めてくれるかと思っていたのにまさかあんな強硬手段に出られるとは……」
斗真は唇を噛みしめながら悔しそうな表情をした。
「リナ、今世では絶対に幸せにする。だから俺の婚約者になって。」
斗真はそう言って強く抱きしめてきたが、私は混乱のあまり人形の様に微動だに出来ない。斗真はゆっくりと腕の力を緩め、私の瞳を見つめるのだった。私の返事を期待するかのように……。
まさか第三王子に斗真が転生したなんて誰が信じようか?
でも何故? 私を捜してたってどういうこと? 斗真は私を裏切ったじゃない! 転生してまで捜すのなんておかしいわ。
「君は誤解している。俺は君を裏切っていない。彼女は俺の幼馴染みで付き合ってはいない」
「へぇー、斗真は幼馴染みの女を自分の部屋に簡単に入れるんだ。それに、斗真はあの時まだ帰ってきてなかったから。あの娘は斗真のマンションのカードキーを持っていたってことよね。それはどう説明するの?」
「あれは俺の母親が勝手にあいつに渡したんだ」
「ふーん、あいつって随分親しそうに言うんだ。そうやって人のせいにすれば私が納得するとでも思ったの? 生憎、私はもう貴方に騙されないわ!」
私はタダの嫉妬心と知りつつ、斗真の言葉に憤りを感じた。私があの時どんなに絶望したのか斗真には絶対に分からない。
震える声が斗真を糾弾する。
「違う! 本当に騙してなんかいない! 愛しているんだ今でも。君だけなんだ。君を見つけたとき俺がどんなに歓喜に震えたか分かるか? どんなに君を捜したか……」
「勝手なことを言わないで! 私はもう貴方を忘れたんだから。もう貴方に絆されないんだから!」
「じゃあ、どうして君は涙を流しているの?」
私は斗真の言葉にハッとして手で頬を触れた。そうしてやっと斗真を糾弾しながらも自分が泣いていたことに気付いた。
どうしてこんなに哀しいの? あれはもう既に封印した前世の記憶なのに。それでも私の瞳からは後から後から涙が零れてきた。
ポタポタと床に落ちる涙は私の哀しみを洗い流すばかりか、忘れ去った記憶を連れてくるように止まることはなかった。
「泣くな、リナ。あれは勝手に俺の母親がカードキーを渡したんだ。あの女と俺に既成事実を作る為に。」
いつの間にか私はすっぽりと斗真の腕の中に包まれていた。泣きじゃくる私の頭を優しく撫でる掌の温かさにやっと心が落ち着き斗真の言った言葉が頭の中に浸透してきた。
既成事実を作る為に……? どういうこと?
どうして斗真の母親がそこまでして私を排除しようと言うの?
「俺の祖父はグループ病院の創設者の一人で理事長だった。そして、父親は総合病院の院長、母親は医薬会社の令嬢だった。母親は選民意識が強く、それは俺の結婚相手にまで意識を向けていたんだ。婚約者は生まれたときからもう既に決められていたんだ」
私は顔を上げ斗真の瞳を見つめた。
どこかの病院の息子だったことは人づてに聞いていたけどまさかグループ病院の血筋だったなんて知らなかった。それにしても生まれたときから婚約者がいたなんて一般庶民だった私には別の世界の住人だとしか思えないわ。
今世でだって生まれたときから婚約者が決められていることなんて稀なのにどこの時代錯誤の世界よ!
やっぱり私は斗真の言うことを真っ正直に信じることはできなかった。
「俺の幼馴染みの婚約者は母親の従姉妹の子供だった。俺が生まれて直ぐにもし従姉妹の子供が女だったら俺と婚約させると言う事になったらしい。だから、幼い頃からしょっちゅう家を行き来して交流させられていたんだ」
斗真は眉間に皺を寄せながら苦しそうな表情でそう述べた。
「最初はずっと母親同士が仲が良いために交流していたと思っていたんだ。でも、ある時から何故か俺達を二人きりにしたり、一緒に出かけるように促されたりしたんだ。おかしいと思って問いただしたら、俺達を結婚させる魂胆だったことが分かった。俺は結婚相手は自分で決めると言ったんだが中々分かっては貰えなかった」
言葉を続ける斗真に私は何て言い返したらいいのか分からなかった。
「だから、俺は技術習得を掲げて暫く留学することにしたんだ。それで諦めてくれるかと思っていたのにまさかあんな強硬手段に出られるとは……」
斗真は唇を噛みしめながら悔しそうな表情をした。
「リナ、今世では絶対に幸せにする。だから俺の婚約者になって。」
斗真はそう言って強く抱きしめてきたが、私は混乱のあまり人形の様に微動だに出来ない。斗真はゆっくりと腕の力を緩め、私の瞳を見つめるのだった。私の返事を期待するかのように……。
432
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる