アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん

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第二章 大魔女の遺産

48, ルカの兄

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『森の守護者ミカ殿
 先日は解呪薬を譲っていただき感謝する。

 貴殿のおかげで、先日身柄を引き受けた冒険者ルシアの呪紋を解呪することが叶った。
 彼は、我々が推測した通り我が国の民であった。

 幼い頃、無理やり帝國に連れ去られたらしい。
 また、解呪薬の製作者である大魔女エアデ殿にも感謝しているとお伝えいただきたい。

 謝礼を用意したので近いうちに再会できれば嬉しく思う。
 都合のいい日時があればお教え願いたい。
 アドニス・カイル・エアーレイより』

 あの騎士宿舎でアドニス様と会ってから一週間ほど経った頃、彼からお礼の手紙が届いた。
 読み終わった私は、その手紙の内容をソファーでくつろぐ師匠に伝えた。
「師匠、アドニス様の手紙にあの冒険者の呪紋が解呪できたって書いてあったよ。師匠にも感謝しているって」

「当然じゃ。妾が作った薬じゃからな」

「本当にあの傷薬って万能だね。こんな使い道があるなんて知らなかったよ。でもよかったぁ。あの冒険者、まだ若そうだったし、これから人生やり直してもきっと大丈夫だよね」
 私は森で倒れた冒険者……私のせいなんだけど……を思い出し、心から彼の幸せを願わずにはいられなかった。

 少し気になるのは”謝礼”を用意したと書かれていたことだ。
 金銭とかだろうか?
 お金がたくさんあっても困ることはないだろうが……むしろお願いしたいのは、森の保護と遺産の噂の沈静化だった。
 
 私はアドニス様への返事にそうお願いすることにした。
 すると、この森を特別保護区域と指定し、大魔女の遺産は存在しないことを国から発表する、という返答が返ってきた。

 これで今まで通り森での静かな生活が維持されると思う。

 時々、町に買い物に行ってその帰りにまほろば亭でご飯を食べて、時々ルネと遊んだりする生活が再び訪れる。
 
「よかったぁ。これで平穏な生活……」
「安心するのはまだ早いのじゃ。ミカはディースラ帝國のことをすっかり忘れておるようじゃな」
 私の呟きを師匠の言葉がかき消す。

 そうだ、そもそもアドニス様たちが大魔女の遺産目的に森に侵入してきたのは帝國の侵略を阻止する手がかりを求めていたからだ。

「そうだね、師匠。でも、心配してたって仕方ないよね。帝國が侵略してくるとは限らないし。ほら、考えが変わったり……それに皇帝が代わることもあるかもしれないでしょ?」

「可能性はゼロではないじゃろうが、アドニスの様子じゃ限りなくゼロに近いことは確かじゃ」
 師匠の言葉には反論の余地がない。

 王族自ら危険を顧みずこの魔獣の森に足を踏み入れたのだ。
 帝國の侵略が刻一刻と迫っているのは間違いないだろう。
 それでも、私はこの平穏な生活が続くことを願ってしまう。

「そうかもしれないけどさぁ、でもそのことばかりを考えていてもどうしようもないよね」
「まあ、そうじゃな。ミカのその切り替えの良さは賞賛に値するな。まあ、それまでは平穏な生活を享受するのもいいじゃろう」

「そうよね。じゃあ早速、明日は久々にルネのところに遊びに行こうかな。魔法もだいぶ上達してきたし、また魔法の見せ合いっこでもしよう」

 翌日、私はお昼前からルネに会うために港の外れにあるいつもの小さな丘で魔法の練習をしていた。
 風が心地よく頬を撫でる。ゲンは相変わらず人形師匠を乗せたまま草に覆われた大地を駆け回っている。

 私は丘の向こうを見つめルネが来ないか期待して待っていた。
 でも、一向に彼女が来る様子がない。

 うーん、今日はここには来ないのかなぁ?
 別に待ち合わせの約束をしているわけではない。
 でも、ルネは毎日この場所でこの時間に魔法の練習をすると言っていた。

 もう少しだけ魔法の練習をしながら待ってみようかな。
 私は魔法で足元に小さな旋風を作り始めた。

 そうだ! いくつ作れるか試してみよう。
 一つ、二つ、三つ……
 十三個目の旋風を作った時だった。

「すごいな……しかし、この魔力は……」
「でしょう? ミカってすごいのよ!」
 その声たちに弾かれるように後ろを振り返った。

 そこにはルネと一緒に彼女と髪色も瞳の色も同じ青年が立っていた。
「ミカ、紹介するね。私のお兄ちゃん」

「……え? お兄ちゃん?」
「そう、私のお兄ちゃんでロイドっていう名前なの。海で亡くなったと思ってたんだけど、お兄ちゃん帰ってきたんだよ。海で助けられて、記憶を失ってずっと孤児院で暮らしてたんだって。お父さんは助からなかったみたいだけど……ほら、お兄ちゃん、さっき話してた友達のミカだよ」

「あ、ああ……君がミカ。君は……」
 目の前にいるルネのお兄さんーーロイドさんは驚きの表情で私を見ている。
 私の方も固まったままロイドさんを凝視してしまった。

 髪の色は異なっていたが、彼の魔力は紛れもなく、魔獣の森のガラスの防御壁の前で私が昏倒させてしまったあの冒険者のものだった。

 ということは、帝國の呪紋が肩に刻まれていたのはロイドさんだったということになる。
 呪いから解き放たれ、自由の身になったロイドさんは失った記憶を取り戻し、家に帰ってきたということなのだろう。

 でも、さっきまで魔法の練習をしていた私は魔力を抑えていなかった。
 あの森で放った魔力と同じ魔力を私が持っていることに彼が気づいたのだと見ていいだろう。

 その証拠に彼は驚きに固まっている。
 もっとも、固まっているのは私も同じだった。

 さて、どうすべきか……?
 ロイドさんが何か言うまでは黙っておこう……

 そう思った途端、
「クニャン!」
 人形を乗せたゲンが一声鳴いてこちらに駆けてきた。

「一角玄虎……? やはり……」
 ロイドさんの呟きを私は聞き逃さなかった。

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