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王太子編
第7話「お茶会と、ふたたび揺れる王太子の影」
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あの息の詰まる家族食事会から数日。
いつも通り、私は使用人たちと仲良く日常をこなしながら、マナーの勉強も変わらず続けていた。
といっても、祖父母や両親が仕事で屋敷を空けることがほとんどなので、屋敷の空気は平和そのもの。メイド長のシーナに簡単なマナーを教わったり、ロンドとディーオ(傭兵)とおしゃべりしたり、執事長と雑談するのも、いまや私の日常風景だ。
ある日の昼下がり。学習机に向かってマナー書や簡単な魔法理論の本を読んでいた私に、シーナが声をかけてきた。
「お嬢様、実は使用人たちが魔法で屋敷仕事を効率化したいとのことで、いま中庭でいろいろやっているんですよ。一緒に見にいきませんか?」
誘いを受けて外へ向かうと、そこでは庭師が風の魔法を使って枯れ葉を吹き集め、洗濯担当のメイドが水の魔法で洗い物を処理していた。 最初に見たときも思ったけれど、こういう魔法の日常風景は何度見てもワクワクする。
「すごいなぁ……。ねえ、シーナ、私も早く魔法を使ってみたいんだけど、まだ駄目なの?」
ふと強い興味が湧いて尋ねると、そばで聞いていた執事長が穏やかな声で答えてくれた。
「お嬢様、魔法というのは10歳になってからですよ。魔力査定会という神殿行事、そこで、どんな魔力を持つのか正式に判明してから学ぶのが通例なのです。 貴族の子女は先生を屋敷に招いて勉強を始め、平民の子は学校などに通いながら習うことになりますよ」
そう答えてくれた執事長、最近したのだが彼はグイドと言い、60歳手前とは思えないほどの“ダンディー”さを漂わせた紳士で、銀髪をオールバックにまとめている。 実は彼、祖父とは幼馴染み同士で、祖父が王直属の魔法騎士だったころからフローリアス家に仕えてきたのだとか。 その血筋ゆえ、私が生まれる前からの“公爵家の影の歴史”をよく知る人物らしい。
「なるほど……私はまだ8歳だから、魔法は使わず知識を蓄えるしかないんだね。納得」
私が頷くと、シーナが笑顔で「だから今はマナーとお勉強に集中しましょうね!」と相づちを打つ。 ――そんな穏やかな屋敷の一コマが過ぎていく。
ところが、その日の夕方。お茶とお菓子でほっと一息ついていると、侍女のリリアンがそわそわしながら入ってきた。
「お嬢様、大変です。……あの、王妃様からお手紙が届きました!」
「王妃様から? ……ミランダ王妃、だよね?」
ひそかにブレイディアの義母として苦手意識を持っている王妃ミランダからの手紙。 嫌な予感が走るが、リリアンの目は嬉しそうにきらきらしている。
「はい。こちら、宛名はフローリアス公爵家の“お嬢様”宛てとなっています。伯爵以上の貴族令嬢を数人と、その家の夫人を集めたお茶会のお誘いだそうです!」
「お茶会……? どうしてわざわざ……?」
王家主催のパーティーはともかく、王妃が子どもたちを呼び集めるなんてなんのためなんだろう…?。 シーナが横からこっそり顔を出して、意味深な笑みを浮かべる。
「ふふ、噂では今回の王妃様のお茶会、“婚約者候補”を探す場でもあるらしいですよ。昔から、この国の王族や貴族は早いうちに縁組を決める傾向があるんです。 お嬢様、もしかしたらステキな出会いがあるかも……なんてね!」
ええ……
私には全然嬉しい話ではない。 前世のゲームで“エマ・フローリアス”が婚約という形で破滅まっしぐらを迎えた記憶がチラつく。 ――でも、それと同時にブレイディアのことが頭をよぎる。 もし再び会えるなら、あの時の会話(?)のリベンジができるかもしれない。前は突発的に「友達になりましょう!」なんて叫んでしまって後悔してるのだ。
「……うん、行く。せっかくだし、その……ブレイディア殿下とちゃんと話がしたいから」
そう呟くと、リリアンやシーナは「おおっ!」と目を輝かせる。 婚約相手探しという意見と、私の意図はまるでズレているけれど、まあいいか……。
そして2日後、仕事を終えた母・マチルダが屋敷に戻ってきた。 魔法協会の幹部役員らしく、白金のローブにパンツスタイルという姿は、公爵夫人というより凛々しい女性の印象。 前に見たのはあの家族食事会のときだから、こんなオーラを放つ母の姿は初めて見る。 私は“前世の記憶”を思い出してから、改めて母を意識するのはこれが初めてで、少し緊張が走る。
ところが、マチルダは想像以上に明るくておしゃべりだった。
「エマ、ただいま! あら、ちょっと見ないうちにまた身長が伸びたんじゃない? どう、屋敷で元気にしてた?」
あれ……食事会のときはもっと無口で、まるで父と同じく表情に乏しい女性だと感じたのに。 私は思わず目を丸くしてしまう。 彼女は私を抱き寄せ、パンツスタイルからは想像もつかないほど柔らかなぬくもりを感じさせてくれる。
(こんな……普通に“母親”らしい面もあるんだ。前回はあんなに黙りがちだったのに)
「……あ、うん、おかえりなさいませ……お母様」
戸惑いつつも返事をすると、マチルダはにっこり笑って「さっそく着替えてくるわね」と部屋へ向かった。 ――その後、屋敷内で二人きりになったとき、私は王妃ミランダからのお茶会のことを切り出してみる。
「お母様、王妃様からお誘いのお手紙が来ていて……一緒に行けないかと思いまして」
すると、マチルダは一瞬だけ顔を曇らせ、それからすぐに笑顔を取り繕う。
「なるほどね、あの方(王妃)からのお誘い……。了解よ。もちろんご一緒させていただくわ。エマも緊張するでしょうし」
その「一瞬の嫌そうな顔」を見逃さなかった私は、何かあるのかと勘繰ってしまう。 あとでシーナに聞いたところによると、母・マチルダと前王妃アリシア様は仲が良く、現王妃ミランダとも同年代のせいで色々あったらしい。 ――とはいえ詳細はシーナも教えてくれない。「当事者にしか分からないのです」って言われて終わってしまった。
こうしてお茶会前日、私は母と一緒に新しいドレスを選ぶことになった。 というのも、私のクローゼットには“元エマ”のわがまま趣味で買い揃えたゴテゴテ派手な服ばかりが並んでいて、今の私には似合わないし着る気もしない。 結局、母と一緒に屋敷に仕立て屋を招いて、落ち着いた色合いの新作を仕立ててもらうことになった。
「可愛らしいものから大人っぽいものまで、お好きな生地を選んでいいわよ、エマ。……まあ、あまりド派手なのはやめてね? 王妃様のお茶会だもの」
「うん、わかってる。この前も白とか銀を選んだけど、また違う色がいいなぁ……」
母の言葉に頷きながら、生地のサンプルを眺める。 母自身も、珍しく公爵夫人らしい落ち着いたドレスを選ぶらしく、普段ローブにパンツスタイルのイメージしかなかった私には新鮮だ。 2人で笑い合いながらドレスを試着していると、まるで普通の仲良し親子みたいな光景が広がる。
(あの冷たい家族食事会とは別人みたい。マチルダお母様ってこんなに生き生きした人だったんだ……)
そう思うと、なぜあんなに夫婦仲がうまくいっていないのか、不思議に感じる。 まあ、ここで触れたら失礼だろうし、今は楽しい気分のまま終わらせよう。 結局、私は深い青色のロングドレスを選び、数日後に仕上げてもらうこととなった。
そしてお茶会当日。 私が身に纏ったのは、幾重ものチュールが柔らかく重なり、パールを散りばめた“深い青のロングドレス”。 ハーフツインにまとめた銀髪には青いリボンを左右につけていて、鏡に映る自分に少し照れる。 対する母・マチルダは、いつもの白金ローブではなく紫色のエレガントなドレスを選んだ。桃色の髪を片側に流し、いつもとは違う“夫人らしい”姿を見せている。
(……うわぁ、母が別人みたいに綺麗……)
正直、母がこれほど華やかだとは思っていなかった。あまりの美貌に、私まで目を奪われてしまう。
「どう? 似合ってるかしら? こういう服装は久しぶりだから落ち着かないわ」
「……すごく似合ってます。まるで別人で……本当に綺麗」
私が正直に伝えると、母は恥ずかしそうに笑い、ちらっと視線をそらす。 その後、母が私の手を取り、馬車へと誘ってくれた。
公爵家の馬車には、今回もロンドとディーオの二人が護衛として付き添ってくれる。 顔見知りの少年護衛たちと馬車の入り口で言葉を交わす私を、母がどこか嬉しそうに眺めている。
「エマ、あなた本当に良い子に育ったのね。なんだか安心したわ」
「そんな……普通ですよ、私」
照れて笑うと、母はそっと微笑み返して馬車に乗り込む。 私も後に続き、ふかふかのシートに腰を下ろして馬車が動き出すのを待つ。
外の景色が流れるなか、ふと思い出すのは、あの夫婦食事会での母の様子。 あのときは物静かで一言も喋らず、今とは別人みたいだった。 ……お母様、どうしてあんなに黙ってたんだろう? もしかしてお父様が原因?
と疑問は膨らむばかりだ。 かと言って、ここでズバリ聞くのもどうか……などと葛藤していると、なぜか言葉が口をついて出てしまった。
「お母様は、お父様のこと……嫌いなんですか?」
(あ、しまった……!!)
言った瞬間、しまったと思う。母の目がぱちくりと見開かれ、数秒の沈黙が落ちる。
「……嫌いなんかじゃないわよ」
母はぽつりと呟いて、どこか寂しそうに目を伏せた。
そのとき、ふと紫のドレスが父・エルビスの瞳と同じ色だと気づく。
――母が父を“嫌い”だったら、わざわざ瞳と同じ色を選ぶとは思えない。この夫婦の間には何か事情があるのだろう。 ――夫婦仲が冷えきっているように見えても、もしかすると母は父をずっと想っているのかもしれない。
「そうですよね。私も、お父様のこと嫌いじゃないです! ま、あまり帰ってこないのはどうかと思いますけど……」
気まずさを払拭するようにおどけてみせると、母はくすっと笑う。
「ふふ、ありがとうエマ。あなたのおかげで、ちょっと気が軽くなったわ」
馬車の中に柔らかい空気が流れる。ロンドとディーオは前席で運転手に話しかけているらしく、こちらには気を遣ってくれているようだ。
そんなやりとりのうちに、王城の正門をくぐり、王妃専用の離れ――通称「クリスタル宮殿」へ向かう。 ここは太陽光を反射するガラスや魔法素材がふんだんに使われ、水色と白の透明感が美しく交じり合う建築物だ。 まるで建物そのものが宝石のように輝き、外観を見るだけで感嘆の息が漏れる。
「ここが……王妃様のお茶会が開かれる場所……」
母が「私も初めて来るわ。綺麗だけど、この王宮は…」と何か言いたげな言葉をそのまま飲み込んだように見えた。 我々は衛兵の案内を受けながら、宮殿内の大きなサロンへと通される。
サロンはまるで夜会用のホールをぎゅっと凝縮したような豪奢さ。 しかしテーブルや椅子はやや低めに調整されており、8~12歳の子どもでも座りやすい設計になっているようだ。 既に何人かの令嬢たちと、その母親らしき夫人たちが集まっており、皆それぞれ綺麗なドレス姿で談笑している。
やがて、一段高い席から王妃ミランダがゆったりと優雅な足取りで歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべて声を発した。
「皆さま、本日はよくお越しくださいました。私はミランダ・ライタンド・ゲバリーンド。 そう、王太子ブレイディアの母を務めさせていただいております」
その隣には、いつものきれいすぎる笑顔を貼りつけたブレイディアが控えている。 「今日は、将来有望な伯爵以上の子女たちをお招きして、お話や交流を深めたいと思っております……どうぞご遠慮なく楽しんでいってくださいね」
(楽しんで、か……)
私はメイド長シーナの言う“婚約者候補を探す場”という推測が頭をよぎり、微妙に居心地が悪くなる。 他の令嬢たちはキラキラした瞳でブレイディアに視線を送り、「殿下、ステキ……!」と早くも盛り上がっているようだ。 ブレイディアは完璧な微笑みのまま、言葉少なに頷いているだけ。 彼を目当てに令嬢がワラワラと群がっていく光景を見ていると、私としてはちょっと嫌気が差す。
(あの仮面笑顔の裏で、きっと今も“冷えきった心”を抱えてるんだろうに……。 この子たちはその本性に気づいてないんだろうなぁ)
少し離れた位置に立っている私を一瞥し、ブレイディアはちらりと会釈する。あのときの「友達になりましょう」事件をまだ覚えているのか、どうにも読み取れない。
ひと段落して、王妃ミランダの隣へ私と母が挨拶をしに行く。 他の貴婦人方もいるので私だけかと思ったが、さすがに公爵夫人のマチルダは特別扱いらしく、先に声をかけられたらしい。
「まあ、マチルダ……そしてフローリアス家のお嬢様。よくいらしてくれたわね。こういう場に慣れていないでしょうけど……失礼がないよう気をつけてちょうだい?」
ミランダの言葉は柔らかいが、どこか含みのある嫌味っぽい響き。 母は微笑して「ええ、ご心配には及ばないですわ。娘は意外としっかりしてますの」と受け流す。 私も「ご招待ありがとうございます」と礼をするだけだが、心中では少し苛立ちを覚えてしまう。
(うっわ、感じ悪い……さすがヒール系王妃。殿下を苦しめてるだけあるな……)
けれど母はまったく動じず、毅然とした態度でその場を去ろうとする。ミランダも追及はせず、「ごゆっくりどうぞ」とにこやかに送り出すだけ。 ――ところが離れた途端、私は抑えきれない怒りを母に打ち明けた。
「今の……王妃様、なんだか腹立ちますよね。あんなのわざわざ呼び出しておいて……」
「エマ、しっ……! 声が大きいわ。王妃様に聞こえたら面倒よ」
母はそう言いながらも、くすくす笑っている。 「でも気持ちはわかるわ。あの方は昔からあんな調子。私なんかもっと辛辣に言われたこともあるし……」
母曰く、前王妃アリシアと仲良くしていたせいで、ミランダと不仲状態になったらしい。 詳細は母も語らないまま、「ま、いろいろあったのよ」と苦笑するだけ。 (やっぱり嫌いだわ、あの王妃……)と心のなかで強く思う。
そんなこんなで母との会話もひと段落し、次は私がほかの令嬢たちと交流をはかる時間がやってきた。 母は「エマ、せっかくだから友達をつくりなさい。お茶会なんだし」と背中を押す。
(正直ブレイディア殿下も気になるけど、あの人混みに突っ込む勇気はないしなぁ……)
見ると、大半の令嬢たちはブレイディアにアピールしたいらしく、我先にと群がっている。誰もが笑顔で「殿下、殿下!」と呼びかけては、ライバル同士で火花を散らす構図……。 ちょっと気後れした私は、端のほうでぽつんと立っているおとなしそうな女の子を見つけて声をかけた。
「あの……こんにちは。わたし、エマ・フローリアスっていいます。初めまして!」
相手は深い青髪のボブヘアで、頬と鼻筋に小さなそばかすがある、可愛らしいけれど少し恥ずかしそうに俯く少女。
「……あ、えと……は、初めまして……。わたしは、ラウラ・ネロート……ネロート伯爵家の三女、です……」
控えめな声が震えているあたり、きっと社交が苦手なのだろう。 「かわいいそばかすだな」と思いつつ、フローリアス家の名を聞いてビクッとしたラウラを、私は気さくに笑顔で励ます。
「ネロート伯爵家……素敵な家じゃない。ラウラさん、そばかすも可愛いよ。そんなに俯いてたら綺麗な顔が見えないよ!」
「え……そ、そう……ですか? ありがとうございます……」
その言葉にラウラは少しだけほころんだ。まだ緊張で顔が赤いが、初対面にしては会話が続いているほうだ。
ところが、そのとき。横から突然別の令嬢がすり抜けてきて、ラウラの肩にぶかってしまった。 そして、ぶつかった相手の持っていたジュースが相手令嬢自身のドレスにかかってしまい――その娘は「きゃぁぁっ!」と悲鳴を上げて大激怒。
「な、なによ! あんた、そんなところに突っ立って! このドレスは高級仕立てなのに……どうしてくれるの!」
相手も悪意があったわけではなさそうだが、自分の失敗をラウラに責任転嫁している様子。 ラウラは小動物のように怯え、涙目でうつむいてしまった。
「ちょ、ちょっと待って。ぶつかったのはそちらが先のように見えたけど……」
私がそばに入って中断を促すと、相手の令嬢は私の顔を見て一瞬バツが悪そうな表情をするが、すぐに上から目線に戻る。 「な、なによ……フローリアス家の方ってことは、アンタも偉いんでしょ? なら、弁償してよ!」
(こりゃややこしい……でも大人の対応をしなきゃ)
なんせ私は中身が前世社畜OLの経験者。理不尽なクレーム対応も少しは心得がある。 「まぁ、落ち着いてください。まずはそのシミをどうやって落とせるか考えてみませんか? ここは王妃様のお茶会だし、ゴタゴタするのも……」などなど穏やかに提案していく。
相手令嬢がなおもごねていたが、そこへブレイディアがすっと現れた。 令嬢たちの派手な声に気づいたらしく、仮面の王子様の笑顔をたたえながら彼女を落ち着かせる。
「大丈夫だよ。このあたりに取り扱いが上手い使用人がいるはずだから、すぐにシミ抜きの応急処置をしてもらえる。ね?」
彼女がブレイディアにときめいたのか、怒りもどこへやら……あっという間に事態は収束。泣きそうなラウラをかばう手間もほとんど省けてしまい、私としては拍子抜けするくらい。 ブレイディア、こういう場では本当に完璧すぎる対応をするな……と思いながら、私は複雑な気持ちを噛みしめる。
「……では、本日のお茶会はこれにてお開きです。皆さま、お気をつけてお帰りください」
ミランダ王妃の声が響き、参加者たちは一斉に帰り支度へ。しかし、そのときブレイディアがつかつかと私のほうへ来て、穏やかに微笑みをくれる。
「フローリアス嬢――君だけ、少し残ってもらっていいかな?」
「え……?」
なぜ私だけ? まわりの令嬢も「なんでエマ様が?」といぶかしげに視線を投げてくる。 私もすっかり混乱し、目を瞬かせるだけ。 “友達”宣言したことが影響しているのか、あるいはミランダ王妃から何か命令があったのか……?
ブレイディアの完璧な笑みが私を見つめるなか、心臓が不穏な高鳴りを刻んでいく。 ――嫌な予感半分、期待半分。 こうして、王妃主催のお茶会は幕を閉じ、新たな波乱(?)が私を待ち受けている……。
ある日の昼下がり。学習机に向かってマナー書や簡単な魔法理論の本を読んでいた私に、シーナが声をかけてきた。
「お嬢様、実は使用人たちが魔法で屋敷仕事を効率化したいとのことで、いま中庭でいろいろやっているんですよ。一緒に見にいきませんか?」
誘いを受けて外へ向かうと、そこでは庭師が風の魔法を使って枯れ葉を吹き集め、洗濯担当のメイドが水の魔法で洗い物を処理していた。 最初に見たときも思ったけれど、こういう魔法の日常風景は何度見てもワクワクする。
「すごいなぁ……。ねえ、シーナ、私も早く魔法を使ってみたいんだけど、まだ駄目なの?」
ふと強い興味が湧いて尋ねると、そばで聞いていた執事長が穏やかな声で答えてくれた。
「お嬢様、魔法というのは10歳になってからですよ。魔力査定会という神殿行事、そこで、どんな魔力を持つのか正式に判明してから学ぶのが通例なのです。 貴族の子女は先生を屋敷に招いて勉強を始め、平民の子は学校などに通いながら習うことになりますよ」
そう答えてくれた執事長、最近したのだが彼はグイドと言い、60歳手前とは思えないほどの“ダンディー”さを漂わせた紳士で、銀髪をオールバックにまとめている。 実は彼、祖父とは幼馴染み同士で、祖父が王直属の魔法騎士だったころからフローリアス家に仕えてきたのだとか。 その血筋ゆえ、私が生まれる前からの“公爵家の影の歴史”をよく知る人物らしい。
「なるほど……私はまだ8歳だから、魔法は使わず知識を蓄えるしかないんだね。納得」
私が頷くと、シーナが笑顔で「だから今はマナーとお勉強に集中しましょうね!」と相づちを打つ。 ――そんな穏やかな屋敷の一コマが過ぎていく。
ところが、その日の夕方。お茶とお菓子でほっと一息ついていると、侍女のリリアンがそわそわしながら入ってきた。
「お嬢様、大変です。……あの、王妃様からお手紙が届きました!」
「王妃様から? ……ミランダ王妃、だよね?」
ひそかにブレイディアの義母として苦手意識を持っている王妃ミランダからの手紙。 嫌な予感が走るが、リリアンの目は嬉しそうにきらきらしている。
「はい。こちら、宛名はフローリアス公爵家の“お嬢様”宛てとなっています。伯爵以上の貴族令嬢を数人と、その家の夫人を集めたお茶会のお誘いだそうです!」
「お茶会……? どうしてわざわざ……?」
王家主催のパーティーはともかく、王妃が子どもたちを呼び集めるなんてなんのためなんだろう…?。 シーナが横からこっそり顔を出して、意味深な笑みを浮かべる。
「ふふ、噂では今回の王妃様のお茶会、“婚約者候補”を探す場でもあるらしいですよ。昔から、この国の王族や貴族は早いうちに縁組を決める傾向があるんです。 お嬢様、もしかしたらステキな出会いがあるかも……なんてね!」
ええ……
私には全然嬉しい話ではない。 前世のゲームで“エマ・フローリアス”が婚約という形で破滅まっしぐらを迎えた記憶がチラつく。 ――でも、それと同時にブレイディアのことが頭をよぎる。 もし再び会えるなら、あの時の会話(?)のリベンジができるかもしれない。前は突発的に「友達になりましょう!」なんて叫んでしまって後悔してるのだ。
「……うん、行く。せっかくだし、その……ブレイディア殿下とちゃんと話がしたいから」
そう呟くと、リリアンやシーナは「おおっ!」と目を輝かせる。 婚約相手探しという意見と、私の意図はまるでズレているけれど、まあいいか……。
そして2日後、仕事を終えた母・マチルダが屋敷に戻ってきた。 魔法協会の幹部役員らしく、白金のローブにパンツスタイルという姿は、公爵夫人というより凛々しい女性の印象。 前に見たのはあの家族食事会のときだから、こんなオーラを放つ母の姿は初めて見る。 私は“前世の記憶”を思い出してから、改めて母を意識するのはこれが初めてで、少し緊張が走る。
ところが、マチルダは想像以上に明るくておしゃべりだった。
「エマ、ただいま! あら、ちょっと見ないうちにまた身長が伸びたんじゃない? どう、屋敷で元気にしてた?」
あれ……食事会のときはもっと無口で、まるで父と同じく表情に乏しい女性だと感じたのに。 私は思わず目を丸くしてしまう。 彼女は私を抱き寄せ、パンツスタイルからは想像もつかないほど柔らかなぬくもりを感じさせてくれる。
(こんな……普通に“母親”らしい面もあるんだ。前回はあんなに黙りがちだったのに)
「……あ、うん、おかえりなさいませ……お母様」
戸惑いつつも返事をすると、マチルダはにっこり笑って「さっそく着替えてくるわね」と部屋へ向かった。 ――その後、屋敷内で二人きりになったとき、私は王妃ミランダからのお茶会のことを切り出してみる。
「お母様、王妃様からお誘いのお手紙が来ていて……一緒に行けないかと思いまして」
すると、マチルダは一瞬だけ顔を曇らせ、それからすぐに笑顔を取り繕う。
「なるほどね、あの方(王妃)からのお誘い……。了解よ。もちろんご一緒させていただくわ。エマも緊張するでしょうし」
その「一瞬の嫌そうな顔」を見逃さなかった私は、何かあるのかと勘繰ってしまう。 あとでシーナに聞いたところによると、母・マチルダと前王妃アリシア様は仲が良く、現王妃ミランダとも同年代のせいで色々あったらしい。 ――とはいえ詳細はシーナも教えてくれない。「当事者にしか分からないのです」って言われて終わってしまった。
こうしてお茶会前日、私は母と一緒に新しいドレスを選ぶことになった。 というのも、私のクローゼットには“元エマ”のわがまま趣味で買い揃えたゴテゴテ派手な服ばかりが並んでいて、今の私には似合わないし着る気もしない。 結局、母と一緒に屋敷に仕立て屋を招いて、落ち着いた色合いの新作を仕立ててもらうことになった。
「可愛らしいものから大人っぽいものまで、お好きな生地を選んでいいわよ、エマ。……まあ、あまりド派手なのはやめてね? 王妃様のお茶会だもの」
「うん、わかってる。この前も白とか銀を選んだけど、また違う色がいいなぁ……」
母の言葉に頷きながら、生地のサンプルを眺める。 母自身も、珍しく公爵夫人らしい落ち着いたドレスを選ぶらしく、普段ローブにパンツスタイルのイメージしかなかった私には新鮮だ。 2人で笑い合いながらドレスを試着していると、まるで普通の仲良し親子みたいな光景が広がる。
(あの冷たい家族食事会とは別人みたい。マチルダお母様ってこんなに生き生きした人だったんだ……)
そう思うと、なぜあんなに夫婦仲がうまくいっていないのか、不思議に感じる。 まあ、ここで触れたら失礼だろうし、今は楽しい気分のまま終わらせよう。 結局、私は深い青色のロングドレスを選び、数日後に仕上げてもらうこととなった。
そしてお茶会当日。 私が身に纏ったのは、幾重ものチュールが柔らかく重なり、パールを散りばめた“深い青のロングドレス”。 ハーフツインにまとめた銀髪には青いリボンを左右につけていて、鏡に映る自分に少し照れる。 対する母・マチルダは、いつもの白金ローブではなく紫色のエレガントなドレスを選んだ。桃色の髪を片側に流し、いつもとは違う“夫人らしい”姿を見せている。
(……うわぁ、母が別人みたいに綺麗……)
正直、母がこれほど華やかだとは思っていなかった。あまりの美貌に、私まで目を奪われてしまう。
「どう? 似合ってるかしら? こういう服装は久しぶりだから落ち着かないわ」
「……すごく似合ってます。まるで別人で……本当に綺麗」
私が正直に伝えると、母は恥ずかしそうに笑い、ちらっと視線をそらす。 その後、母が私の手を取り、馬車へと誘ってくれた。
公爵家の馬車には、今回もロンドとディーオの二人が護衛として付き添ってくれる。 顔見知りの少年護衛たちと馬車の入り口で言葉を交わす私を、母がどこか嬉しそうに眺めている。
「エマ、あなた本当に良い子に育ったのね。なんだか安心したわ」
「そんな……普通ですよ、私」
照れて笑うと、母はそっと微笑み返して馬車に乗り込む。 私も後に続き、ふかふかのシートに腰を下ろして馬車が動き出すのを待つ。
外の景色が流れるなか、ふと思い出すのは、あの夫婦食事会での母の様子。 あのときは物静かで一言も喋らず、今とは別人みたいだった。 ……お母様、どうしてあんなに黙ってたんだろう? もしかしてお父様が原因?
と疑問は膨らむばかりだ。 かと言って、ここでズバリ聞くのもどうか……などと葛藤していると、なぜか言葉が口をついて出てしまった。
「お母様は、お父様のこと……嫌いなんですか?」
(あ、しまった……!!)
言った瞬間、しまったと思う。母の目がぱちくりと見開かれ、数秒の沈黙が落ちる。
「……嫌いなんかじゃないわよ」
母はぽつりと呟いて、どこか寂しそうに目を伏せた。
そのとき、ふと紫のドレスが父・エルビスの瞳と同じ色だと気づく。
――母が父を“嫌い”だったら、わざわざ瞳と同じ色を選ぶとは思えない。この夫婦の間には何か事情があるのだろう。 ――夫婦仲が冷えきっているように見えても、もしかすると母は父をずっと想っているのかもしれない。
「そうですよね。私も、お父様のこと嫌いじゃないです! ま、あまり帰ってこないのはどうかと思いますけど……」
気まずさを払拭するようにおどけてみせると、母はくすっと笑う。
「ふふ、ありがとうエマ。あなたのおかげで、ちょっと気が軽くなったわ」
馬車の中に柔らかい空気が流れる。ロンドとディーオは前席で運転手に話しかけているらしく、こちらには気を遣ってくれているようだ。
そんなやりとりのうちに、王城の正門をくぐり、王妃専用の離れ――通称「クリスタル宮殿」へ向かう。 ここは太陽光を反射するガラスや魔法素材がふんだんに使われ、水色と白の透明感が美しく交じり合う建築物だ。 まるで建物そのものが宝石のように輝き、外観を見るだけで感嘆の息が漏れる。
「ここが……王妃様のお茶会が開かれる場所……」
母が「私も初めて来るわ。綺麗だけど、この王宮は…」と何か言いたげな言葉をそのまま飲み込んだように見えた。 我々は衛兵の案内を受けながら、宮殿内の大きなサロンへと通される。
サロンはまるで夜会用のホールをぎゅっと凝縮したような豪奢さ。 しかしテーブルや椅子はやや低めに調整されており、8~12歳の子どもでも座りやすい設計になっているようだ。 既に何人かの令嬢たちと、その母親らしき夫人たちが集まっており、皆それぞれ綺麗なドレス姿で談笑している。
やがて、一段高い席から王妃ミランダがゆったりと優雅な足取りで歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべて声を発した。
「皆さま、本日はよくお越しくださいました。私はミランダ・ライタンド・ゲバリーンド。 そう、王太子ブレイディアの母を務めさせていただいております」
その隣には、いつものきれいすぎる笑顔を貼りつけたブレイディアが控えている。 「今日は、将来有望な伯爵以上の子女たちをお招きして、お話や交流を深めたいと思っております……どうぞご遠慮なく楽しんでいってくださいね」
(楽しんで、か……)
私はメイド長シーナの言う“婚約者候補を探す場”という推測が頭をよぎり、微妙に居心地が悪くなる。 他の令嬢たちはキラキラした瞳でブレイディアに視線を送り、「殿下、ステキ……!」と早くも盛り上がっているようだ。 ブレイディアは完璧な微笑みのまま、言葉少なに頷いているだけ。 彼を目当てに令嬢がワラワラと群がっていく光景を見ていると、私としてはちょっと嫌気が差す。
(あの仮面笑顔の裏で、きっと今も“冷えきった心”を抱えてるんだろうに……。 この子たちはその本性に気づいてないんだろうなぁ)
少し離れた位置に立っている私を一瞥し、ブレイディアはちらりと会釈する。あのときの「友達になりましょう」事件をまだ覚えているのか、どうにも読み取れない。
ひと段落して、王妃ミランダの隣へ私と母が挨拶をしに行く。 他の貴婦人方もいるので私だけかと思ったが、さすがに公爵夫人のマチルダは特別扱いらしく、先に声をかけられたらしい。
「まあ、マチルダ……そしてフローリアス家のお嬢様。よくいらしてくれたわね。こういう場に慣れていないでしょうけど……失礼がないよう気をつけてちょうだい?」
ミランダの言葉は柔らかいが、どこか含みのある嫌味っぽい響き。 母は微笑して「ええ、ご心配には及ばないですわ。娘は意外としっかりしてますの」と受け流す。 私も「ご招待ありがとうございます」と礼をするだけだが、心中では少し苛立ちを覚えてしまう。
(うっわ、感じ悪い……さすがヒール系王妃。殿下を苦しめてるだけあるな……)
けれど母はまったく動じず、毅然とした態度でその場を去ろうとする。ミランダも追及はせず、「ごゆっくりどうぞ」とにこやかに送り出すだけ。 ――ところが離れた途端、私は抑えきれない怒りを母に打ち明けた。
「今の……王妃様、なんだか腹立ちますよね。あんなのわざわざ呼び出しておいて……」
「エマ、しっ……! 声が大きいわ。王妃様に聞こえたら面倒よ」
母はそう言いながらも、くすくす笑っている。 「でも気持ちはわかるわ。あの方は昔からあんな調子。私なんかもっと辛辣に言われたこともあるし……」
母曰く、前王妃アリシアと仲良くしていたせいで、ミランダと不仲状態になったらしい。 詳細は母も語らないまま、「ま、いろいろあったのよ」と苦笑するだけ。 (やっぱり嫌いだわ、あの王妃……)と心のなかで強く思う。
そんなこんなで母との会話もひと段落し、次は私がほかの令嬢たちと交流をはかる時間がやってきた。 母は「エマ、せっかくだから友達をつくりなさい。お茶会なんだし」と背中を押す。
(正直ブレイディア殿下も気になるけど、あの人混みに突っ込む勇気はないしなぁ……)
見ると、大半の令嬢たちはブレイディアにアピールしたいらしく、我先にと群がっている。誰もが笑顔で「殿下、殿下!」と呼びかけては、ライバル同士で火花を散らす構図……。 ちょっと気後れした私は、端のほうでぽつんと立っているおとなしそうな女の子を見つけて声をかけた。
「あの……こんにちは。わたし、エマ・フローリアスっていいます。初めまして!」
相手は深い青髪のボブヘアで、頬と鼻筋に小さなそばかすがある、可愛らしいけれど少し恥ずかしそうに俯く少女。
「……あ、えと……は、初めまして……。わたしは、ラウラ・ネロート……ネロート伯爵家の三女、です……」
控えめな声が震えているあたり、きっと社交が苦手なのだろう。 「かわいいそばかすだな」と思いつつ、フローリアス家の名を聞いてビクッとしたラウラを、私は気さくに笑顔で励ます。
「ネロート伯爵家……素敵な家じゃない。ラウラさん、そばかすも可愛いよ。そんなに俯いてたら綺麗な顔が見えないよ!」
「え……そ、そう……ですか? ありがとうございます……」
その言葉にラウラは少しだけほころんだ。まだ緊張で顔が赤いが、初対面にしては会話が続いているほうだ。
ところが、そのとき。横から突然別の令嬢がすり抜けてきて、ラウラの肩にぶかってしまった。 そして、ぶつかった相手の持っていたジュースが相手令嬢自身のドレスにかかってしまい――その娘は「きゃぁぁっ!」と悲鳴を上げて大激怒。
「な、なによ! あんた、そんなところに突っ立って! このドレスは高級仕立てなのに……どうしてくれるの!」
相手も悪意があったわけではなさそうだが、自分の失敗をラウラに責任転嫁している様子。 ラウラは小動物のように怯え、涙目でうつむいてしまった。
「ちょ、ちょっと待って。ぶつかったのはそちらが先のように見えたけど……」
私がそばに入って中断を促すと、相手の令嬢は私の顔を見て一瞬バツが悪そうな表情をするが、すぐに上から目線に戻る。 「な、なによ……フローリアス家の方ってことは、アンタも偉いんでしょ? なら、弁償してよ!」
(こりゃややこしい……でも大人の対応をしなきゃ)
なんせ私は中身が前世社畜OLの経験者。理不尽なクレーム対応も少しは心得がある。 「まぁ、落ち着いてください。まずはそのシミをどうやって落とせるか考えてみませんか? ここは王妃様のお茶会だし、ゴタゴタするのも……」などなど穏やかに提案していく。
相手令嬢がなおもごねていたが、そこへブレイディアがすっと現れた。 令嬢たちの派手な声に気づいたらしく、仮面の王子様の笑顔をたたえながら彼女を落ち着かせる。
「大丈夫だよ。このあたりに取り扱いが上手い使用人がいるはずだから、すぐにシミ抜きの応急処置をしてもらえる。ね?」
彼女がブレイディアにときめいたのか、怒りもどこへやら……あっという間に事態は収束。泣きそうなラウラをかばう手間もほとんど省けてしまい、私としては拍子抜けするくらい。 ブレイディア、こういう場では本当に完璧すぎる対応をするな……と思いながら、私は複雑な気持ちを噛みしめる。
「……では、本日のお茶会はこれにてお開きです。皆さま、お気をつけてお帰りください」
ミランダ王妃の声が響き、参加者たちは一斉に帰り支度へ。しかし、そのときブレイディアがつかつかと私のほうへ来て、穏やかに微笑みをくれる。
「フローリアス嬢――君だけ、少し残ってもらっていいかな?」
「え……?」
なぜ私だけ? まわりの令嬢も「なんでエマ様が?」といぶかしげに視線を投げてくる。 私もすっかり混乱し、目を瞬かせるだけ。 “友達”宣言したことが影響しているのか、あるいはミランダ王妃から何か命令があったのか……?
ブレイディアの完璧な笑みが私を見つめるなか、心臓が不穏な高鳴りを刻んでいく。 ――嫌な予感半分、期待半分。 こうして、王妃主催のお茶会は幕を閉じ、新たな波乱(?)が私を待ち受けている……。
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