異世界で記憶喪失になったら溺愛された

嘉野六鴉

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10.■■ 理性と自制の意味 ■■

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 闇が我が物顔で世界を占める時間に室内の灯りを少し落とし、この部屋にも薄闇を侵食させる。それはあれから何度躰を重ねても、初めてのように恥ずかしがる想い人のためでもあり、自分のためでもある。
白いシーツに沈む細くしなやかな肢体は、自分のような造り物めいた色ではなく、暖かみを帯びた優しい肌の色をしているというのに、一糸纏わぬだけでこうも劣情を強く煽られるのだから。

 ただ、キスだけで容易く蕩ける薄い体を組み敷いていると、内心複雑な想いも抱く。

 改めて想いを告げた夜、確かな答えと共に初めて贈られた口付け。それに我を忘れたのはそう遠い日ではないとはいえ、あれは失態であったと今でも苦々しく思っている。
あの夜に上手く誤魔化すことは出来たが、一通りの知識の再吸収が終わった時、その不自然さにカナタ自身は気が付くだろうか。
 いくら魔力の相性が良いとしても、こうも乱れる彼自身に疑問を抱かないだろうか?
 一向にかつての記憶を取り戻す気配がないとはいえ、その疑問が彼にとっての最も忌まわしい世界記憶を呼び起こす事はないだろうか?

 なればこそ、カナタの事を真実想うのであれば、決して触れるべきではなかったのだ。この世界での記憶という呪いから解放されたからこそ、《彼》は今、心の底から笑えているのだから。

 シンドウ・カナタという本来の彼が、ここまで明るく穏やかな存在だとは思わなかった。自分の存在が迷惑をかけてはいないかと、未だに少しの遠慮と不安を覗かせる姿が、ここまで愛しいとは思わなかった。
今のカナタと過ごせば過ごすほど、更にこの愛しさが深まるなど、思ってもいなかった。

 《魔導の頂点レグ・レガリア》のままであれば、『愛している』と想いを告げることはおろか、『好きだ』と想いを返されることなど決してなかったはずだ。
何故なら、彼の心を占めているのは唯一人で、その存在に、『私』だけは決して勝てない。

「ふぁ…っんぅ…ろぃ…」

 とろんと黒い瞳を熱に溶かしながら舌足らずに自分を呼ぶ甘い声も、縋りつくように首に回される腕の重みも、直に触れ合う肌の熱も、一度それを知ってしまえば、求めずにはいられなくなる。
繰り返し抱くことで、もしかしたら嫌な記憶すら思い出させるかもしれない。その危険があるとわかっていても。

「んぅ……ん、ふ…」

おずおずと絡めてくる舌も、切なげに眉を寄せて目を閉じる顔も、この先の熱を期待して小さく揺れる腰も、油断すればこちらの理性を即座に殺しにかかるのだから。
 故に、揶揄するように口を開いて自分を落ち着ける。

「カナタ?そんな風に誘われては、朝まで啼かせたくなるが良いのか?」

「へぁ?!……あ、う…だっ、だってさっきからキスばっかりでっ……って違あぁぁ!!!」

途端、ぼんっと音がしたのではないかと錯覚する勢いで、顔の赤みを一気に増したカナタ。羞恥で混乱したまま、つい心の声をそのまま漏らしたのだろう。ぴたりと私に縋りついていた腕が離され、その顔を覆ってしまった。
その仕草にも躰の中の熱がまた一つ煽られるが、余裕をなくさぬよう笑って見せながら、想い人の期待に応えるために、ゆるく自己主張し始めていたカナタの中心へと指を絡めてやる。

「そうか、焦らすつもりはなかったのだが、すまなかった。一度出しておくか?」

「ひぁッ?!あっ…ちょっ!まっ…んぅっ!」

数度扱けばあっという間に成長し、指の腹で先端をゆっくりと捏ねてやれば、すぐに健気に透明な涙を零しながら応えてくる。わざと粘着質な水音を立てるように動かしながら、薄い胸に色づく尖りや、赤みを増した耳朶を唇と残った手で愛撫してやれば、簡単に更に甘やかな声が上がった。

 そうして一度カナタの熱を先に開放させた後、力の抜けた躰の奥をゆっくりと暴いていく。
 流石に毎夜、という程ではないが、かなりの頻度でこうして躰を重ねているとはいえ、元よりカナタの肉体はその魔力量故に回復が早い。慎ましく閉じる入口やその奥を傷つけぬよう、この手順は念入りに丁寧に行わなければならないのだが、

「ぅやぁぁっ…!もっ、やらやらぁッ!!それっ…たりないっからぁッ!」

「もう少し、だ。カナタ。これではまだ、きついぞ?」

 カナタが好んだ花の香りと同じ香油をたっぷりと、そして解れやすくする房事専用の魔法を少しばかり指先に灯して、熱い胎内に埋めた二本の指をくるりと回す。なるべく辛くないよう、快楽の強い箇所には触れないようにしているのだが、それでも黒く艶やかな髪がぱさぱさと大きくシーツに振り乱される。

「っはぁッ…もっもぅいいからぁっ…ろぃぃっ」

雄弁に期待と欲を語る濡れた黒い瞳も、荒い息で小さく上下する薄っすら赤く染まった躰も、喰い締めるように指に絡みつく胎内も、耐えに耐えてきた理性に止めを刺すには十分すぎた。
 思わず小さく舌打ちを零してしまいながらも指を引き抜き、ほっそりとした両足の膝裏を掴み大きく開かせる。その刺激だけでも甘く声を上げるカナタに構わず、性急に自らの熱をその胎内に一気に打ち付けた。

「っあぁ―――ッ!?~~~~~~ッッ!!」

「…カナタっ!悪いがっ、動くぞ」

 腹にかかる粘ついた熱い飛沫と痙攣するかのように絡みつく胎内は、快楽に弱い彼が挿れられて即達した証だろう。だがそれでも、その刺激を息をつめてやり過ごしてしまったこちらは、カナタを気遣える余裕がない。
なけなしの理性で一言そう告げてから、しっかりとその細い腰を抱え直した。

「ひぁあぁッ!!あぅんッ!やっぁあッ…まっ…まらまっッ…!ぅにゃぁああぁッ!!」

 何度も中心から白濁を少しずつ噴き上げながら、ビクビクと震える躰に己の熱を刻みつけるように深く深く奥を穿つ。
例え何を思い出そうとも、今宵その躰に触れているのは私なのだと。
 
「カナタ…愛している…っ」

 そうしてしばし己の悦楽も追いながら、甘く蕩けた啼き声を堪能した。
幾年もただただ焦がれるだけだった存在を、この腕の中にしっかりと抱き締めてようやく熱を放てば、一際高い嬌声がすぐ傍で奏でられ、言いようのない充足感が満ちる。
 しばらく短く痙攣のような震えを繰り返していた躰がゆっくりと弛緩し、おそらく無意識にこちらの腰に絡みついていた足がずるずると外れていく。それに少し名残惜しい気もしながら、まだ傷が完治してはいないカナタにあまり負担もかけられない、と体を起こそうとした直前

「…れもっ……ろぃ、すきぃ…」

そう、蕩けきった顔でふわりと優しい笑みを最愛の存在から送られた。

 それで自制をできなかったのだから、私もまだまだ青臭い餓鬼なのだろう。結局、その夜の睦み合いが終わったのは、カナタが意識を手放した明け方近くの事だった。
今のカナタの前では、比類なき大人の男として在りたいと絶えず努力しているというのに、こうして夜を重ねる度にそれが難しくなる。
これでは日頃、何かと目障りに思っている年下の王の事も嗤えぬ。そう自嘲と共にあの鳥頭の存在を思い出したのが、何かの虫の知らせだったのだろうか。

 よもや一国の王でありながらこの皇都に、しかも皇宮最奥にある我が宮に直接乗り込んでくるほどの愚か者だとは、さすがにこの私でも知らなかったのだから。

空からあの黒い害鳥が降ってきたのは、それから二度、夜を迎えた後だった。




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