上 下
23 / 30

幕間 救世主はそこにいる/Kの対話

しおりを挟む
 「平本…さん?」

 私が声をかけても、平本さんは一向に私の方を向いてくれない。少し悲しいけれど、私はその理由を知っている。

 「平本さん?大丈夫?」

 私がもう一度声をかけると、やっと平本さんは反応してくれた。

 「は、はい。なんでしょうか?」
 「怖いの?」
 「え?」
 「怖いの?徳丸先生が」

 私はいきなり核について聞いてみた。平本さんとは記憶を失う前からの付き合いだから、どのように接すればいいかぐらいわかっている。平本さんはいい意味でも悪い意味でも忖度ができないタイプだから、遠回しに聞くよりストレートに聞いたほうが良いのだ。性格が変わっていなければ、だが。

 「徳丸、さん…スクールカウンセラーの、あの方、ですか?」
 「そう。君、襲われたんだよ?」
 「まあ、確かにそうですけど…」

 平本さんはどうにも言葉を濁らせる。彼女ではありえないことだ。

 「何か、あるの?」
 「……はい。なんだか、」
 「なんだか?」
 「…なんだか、徳丸さんが意図して私を襲ったようには思えないんです」

 平本さんが何やら訳のわからないことを言った。

 「へ?」
 「あ、いや。確かに徳丸さんが私を襲って、その、酷いことをしたのは事実ですけど」
 「?」

 平本さんは真っ直ぐ私の目を見た。

 「なんだか、本能のままの行動というか、そんな感じに思えて」
 「本能、ですか」
 「はい。ほら、3大欲求の中に性欲があるぐらいですし。人には1つや2つ歪んだ性癖があってもおかしくはないじゃないですか」
 「いや、まあ、そうだけど?」
 「だから、あんまり徳丸さんを責めるってことはしたくないなって。なんとなく、ですけど」

 私は話を聞き終わって、大きなため息をついてしまった。
 なんというか、この子は本当にガードが弱い気がする。

 「平本さんは男を侮りすぎだよ、全く」
 「…それは、どういう?」

 平本さんはキョトンと首をかしげた。

 ああ、なるほど。
 あの少年が惚れてしまうのもわかった気がした。

 「言っておくけど、男なんてヒーローとクズの2種類しかいないんだからねー?」
しおりを挟む

処理中です...