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陽光と新月
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『で、若…』
佐伯は昨日から一度も目を覚まさない陽が、本当にただ眠っているだけなのか、それとも意識障害があるのか憂慮しているのだと言う。
『意識障害の判断には痛み刺激を与えるのが一般的なんだけどね』
些か沈痛な面持ちとなった佐伯は、昨日陽に注射してしまったから、できることなら痛みは与えたくないと医師失格とも言えるようなことを宣うのだ。
『それでね』
と続けられた言葉に蒴也も吾妻も呆気にとられた。
『乳頭刺激だよ』
にゅうとう 入湯 乳糖 乳頭?
風呂に入れるのか、少し甘いものでも口にふくませるのか、まさか…
『乳首を刺激してみて欲しいんだ』
歴とした医療行為ではあるが、蒴也の想いを理解している以上、佐伯がそれをすることに抵抗があるのだと言う。
『片方ずつ、最初は弱い刺激からね』
繰り返すようだが、医療行為だ。そう言われれば蒴也とて、そこに邪な気持ちなどない。
たぶん
ない。
蒴也は陽が眠るベッド脇に膝を付き、掛布の中に手を入れる。パジャマの裾から手を忍ばせ、ゴクリと唾を飲む。
陽の左乳首にひたりと指を這わせれば、途轍もなくイケナイことをしているような気がするのだ。
いや。医療行為だ。医療行為なのだから。
指先で何度か乳首を撫でても陽は何も反応してくれない。因みに乳首も反応していない。
『乳首を少し引っ掻いてみて』
佐伯に促されるまま、今度は乳首をカリカリと引っ掻いてみる。それでも陽は反応しない。乳首は可愛く反応したが。
『擦るように摘まんでみて』
指先でクリクリと擦りながら摘まんだところで
『んっ』
陽が声をあげ、蒴也の手を払い除けるような仕草をしたのだ。同時に陽の瞼が、ゆっくりと上がる。
目を覚ましてくれたことに3人がほっと安堵の溜め息をつく。
陽が目を覚ましたのだ。これ程嬉しいことはない。
涙が出るほど嬉しいのだが、手を払い除けられた現実が蒴也を地味に落ち込ませる。
そんな蒴也の落胆は置いてきぼりのまま嬉々とした佐伯が陽の完全な覚醒前にと点滴の留置針を抜いている。あくまで『注射をする怖いオジサン』にはなりたくないのようだ。
当然その前には点滴の必要無しと判断したのだろうが。
僕はまだ、何もしていません。そんな顔で佐伯が診察の用意を始めた。
ベッド脇のスツールに腰をおろし、往診鞄を開けると聴診器を取り出す。
『陽くん。おはよう。僕は佐伯孝介って言うんだ』
よろしくね。と言う言葉は陽に届いているのだろうか。虚ろな瞳は天井に向けられたままで何の反応も示してはいない。
『少しお腹を触るよ』
佐伯の触診にも陽は反応を示さない。慎重に触診を進める佐伯は穏やかな表情を崩さず
『ここ痛い?』
胃の辺りを押さえ、陽に問う。それにも何も反応しない陽に構わず
『聴診器をあてるよ。ちょっと冷たいけどごめんね。』
そのヒヤリとした感触に陽がビクリと反応する。初めて見せた反応だった。蒴也の手を払い除けるような反応を除けば、だが。
『ごめんね。冷たかったね。お腹と胸の音、聞かせてね。』
佐伯は胸よりも腹の音を念入りに聞いているようだ。
『昨日はお腹、痛かったんじゃないかな?』
始めから陽が答えることは想定していなかったのだろう。陽に、と言うよりは蒴也と吾妻に聞かせるように佐伯は言葉を続ける。
『昨日は胃腸の動きが凄く悪かったんだ』
でも今日はよく動いてる、と嬉しそうに笑う。
陽はこの闇医者をたった2日で穏やかな医師へと簡単に変えてしまった。
それにしても…
先程のアレは本当に医療行為だったのだろうか。闇医者・佐伯に胡乱な目を向ける蒴也と吾妻だった。
佐伯は昨日から一度も目を覚まさない陽が、本当にただ眠っているだけなのか、それとも意識障害があるのか憂慮しているのだと言う。
『意識障害の判断には痛み刺激を与えるのが一般的なんだけどね』
些か沈痛な面持ちとなった佐伯は、昨日陽に注射してしまったから、できることなら痛みは与えたくないと医師失格とも言えるようなことを宣うのだ。
『それでね』
と続けられた言葉に蒴也も吾妻も呆気にとられた。
『乳頭刺激だよ』
にゅうとう 入湯 乳糖 乳頭?
風呂に入れるのか、少し甘いものでも口にふくませるのか、まさか…
『乳首を刺激してみて欲しいんだ』
歴とした医療行為ではあるが、蒴也の想いを理解している以上、佐伯がそれをすることに抵抗があるのだと言う。
『片方ずつ、最初は弱い刺激からね』
繰り返すようだが、医療行為だ。そう言われれば蒴也とて、そこに邪な気持ちなどない。
たぶん
ない。
蒴也は陽が眠るベッド脇に膝を付き、掛布の中に手を入れる。パジャマの裾から手を忍ばせ、ゴクリと唾を飲む。
陽の左乳首にひたりと指を這わせれば、途轍もなくイケナイことをしているような気がするのだ。
いや。医療行為だ。医療行為なのだから。
指先で何度か乳首を撫でても陽は何も反応してくれない。因みに乳首も反応していない。
『乳首を少し引っ掻いてみて』
佐伯に促されるまま、今度は乳首をカリカリと引っ掻いてみる。それでも陽は反応しない。乳首は可愛く反応したが。
『擦るように摘まんでみて』
指先でクリクリと擦りながら摘まんだところで
『んっ』
陽が声をあげ、蒴也の手を払い除けるような仕草をしたのだ。同時に陽の瞼が、ゆっくりと上がる。
目を覚ましてくれたことに3人がほっと安堵の溜め息をつく。
陽が目を覚ましたのだ。これ程嬉しいことはない。
涙が出るほど嬉しいのだが、手を払い除けられた現実が蒴也を地味に落ち込ませる。
そんな蒴也の落胆は置いてきぼりのまま嬉々とした佐伯が陽の完全な覚醒前にと点滴の留置針を抜いている。あくまで『注射をする怖いオジサン』にはなりたくないのようだ。
当然その前には点滴の必要無しと判断したのだろうが。
僕はまだ、何もしていません。そんな顔で佐伯が診察の用意を始めた。
ベッド脇のスツールに腰をおろし、往診鞄を開けると聴診器を取り出す。
『陽くん。おはよう。僕は佐伯孝介って言うんだ』
よろしくね。と言う言葉は陽に届いているのだろうか。虚ろな瞳は天井に向けられたままで何の反応も示してはいない。
『少しお腹を触るよ』
佐伯の触診にも陽は反応を示さない。慎重に触診を進める佐伯は穏やかな表情を崩さず
『ここ痛い?』
胃の辺りを押さえ、陽に問う。それにも何も反応しない陽に構わず
『聴診器をあてるよ。ちょっと冷たいけどごめんね。』
そのヒヤリとした感触に陽がビクリと反応する。初めて見せた反応だった。蒴也の手を払い除けるような反応を除けば、だが。
『ごめんね。冷たかったね。お腹と胸の音、聞かせてね。』
佐伯は胸よりも腹の音を念入りに聞いているようだ。
『昨日はお腹、痛かったんじゃないかな?』
始めから陽が答えることは想定していなかったのだろう。陽に、と言うよりは蒴也と吾妻に聞かせるように佐伯は言葉を続ける。
『昨日は胃腸の動きが凄く悪かったんだ』
でも今日はよく動いてる、と嬉しそうに笑う。
陽はこの闇医者をたった2日で穏やかな医師へと簡単に変えてしまった。
それにしても…
先程のアレは本当に医療行為だったのだろうか。闇医者・佐伯に胡乱な目を向ける蒴也と吾妻だった。
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