94 / 197
朔也の葛藤
94
しおりを挟む
翌朝、いつもと同じ時間に家を出る朔也を玄関で陽と咲恵が見送ってくれる。
いつの頃からか始まった朝の儀式は、「待ってる」と言う陽の額に朔也が口づけると言うカップルや新婚夫婦の間ではありがちなものだった。
もっとも朔也からすれば、その当事者に自分がなろうなどと想像したことすらなかったのだが。
今日も今日とて朝の儀式を済ませ組事務所に車が寄せられた瞬間にエントランスでは若衆の先頭に吾妻の姿が確認できた。
昨夜、話があるとメッセージを送っておいたからだろう。陽が眠った後、吾妻に電話をすればよかったのだが、万が一にも陽の耳には入れたくない内容だったのだ。
吾妻と2人、執務室に籠った朔也は
『維新、午後は体空くよな?』
つまりは空けろと、午後は付き合えと言っているのだ。それにしても仕事では下の名前で呼ぶことはない。
プライベートな用事で付き合わせようとしているのかと考えれば
『陽くんに何かあっあのか?』
幾分前のめりになるのは仕方あるまい。吾妻とて陽のことは常に気にかけているのだから。
『あー まぁ、陽に関係あるような無いような…』
珍しく歯切れの悪い朔也に眉を寄せる吾妻の脳内は忙しく回転し始めた。
陽は育ってきた環境が環境だった為、体が丈夫ではない。つい10日程前にも熱を出し佐伯の世話になっている。
それとも実母である長谷美由紀に何かあったのか。実父を名乗るも烏滸がましい前田達也のことなのか。
いや、長谷美由紀や前田達也のことであれば、朔也はこんなにも言葉に詰まるはずなどない。
『朔也 何があった?』
そこで朔也がことの顛末を白状したことで吾妻はホッと胸を撫で下ろす。と同時に呆れのような怒りのような感情も沸き上がる。
『それで、お前は俺に風俗に付き合えと?』
中坊の連れションでもあるまい、とも思うのだが実際朔也に単独行動をさせる気はない。
朔也の身に危険が及ぶ可能性も高いが、この若頭、命を狙われれば倍返しをする輩なのだ。後処理が面倒なことこの上ない。吾妻が同行することで厄介事が避けられるのであれば、それに越したことはない。
『わかった』
了承し、吾妻は自身の執務室へと向かった。護衛に麻生と他何人か腕の立つ者を連れて行けば良い。
風俗店には予め連絡しておけば、少々無理をさせてもその時間は貸し切り状態で危険は少ない。
『俺は朔也の為に段取りしてるわけじゃねぇ』
朔也の魔の手から陽を守るための手段なのだ。
『まったく』
未成年の陽よりも倍の時間を生きているはずの若頭の方が手がかかるのだ。
それでも、陽と朔也の安寧を守るために費やす時間も労力も惜しいとは思わない。
眉間に皺を寄せながらも、どことなく嬉しそうな表情でスマートフォンをタップする吾妻の表情筋はなかなかに器用だ。生憎吾妻独りの為に用意された執務室では、そのことに気付く人間はいないのだが。
いつの頃からか始まった朝の儀式は、「待ってる」と言う陽の額に朔也が口づけると言うカップルや新婚夫婦の間ではありがちなものだった。
もっとも朔也からすれば、その当事者に自分がなろうなどと想像したことすらなかったのだが。
今日も今日とて朝の儀式を済ませ組事務所に車が寄せられた瞬間にエントランスでは若衆の先頭に吾妻の姿が確認できた。
昨夜、話があるとメッセージを送っておいたからだろう。陽が眠った後、吾妻に電話をすればよかったのだが、万が一にも陽の耳には入れたくない内容だったのだ。
吾妻と2人、執務室に籠った朔也は
『維新、午後は体空くよな?』
つまりは空けろと、午後は付き合えと言っているのだ。それにしても仕事では下の名前で呼ぶことはない。
プライベートな用事で付き合わせようとしているのかと考えれば
『陽くんに何かあっあのか?』
幾分前のめりになるのは仕方あるまい。吾妻とて陽のことは常に気にかけているのだから。
『あー まぁ、陽に関係あるような無いような…』
珍しく歯切れの悪い朔也に眉を寄せる吾妻の脳内は忙しく回転し始めた。
陽は育ってきた環境が環境だった為、体が丈夫ではない。つい10日程前にも熱を出し佐伯の世話になっている。
それとも実母である長谷美由紀に何かあったのか。実父を名乗るも烏滸がましい前田達也のことなのか。
いや、長谷美由紀や前田達也のことであれば、朔也はこんなにも言葉に詰まるはずなどない。
『朔也 何があった?』
そこで朔也がことの顛末を白状したことで吾妻はホッと胸を撫で下ろす。と同時に呆れのような怒りのような感情も沸き上がる。
『それで、お前は俺に風俗に付き合えと?』
中坊の連れションでもあるまい、とも思うのだが実際朔也に単独行動をさせる気はない。
朔也の身に危険が及ぶ可能性も高いが、この若頭、命を狙われれば倍返しをする輩なのだ。後処理が面倒なことこの上ない。吾妻が同行することで厄介事が避けられるのであれば、それに越したことはない。
『わかった』
了承し、吾妻は自身の執務室へと向かった。護衛に麻生と他何人か腕の立つ者を連れて行けば良い。
風俗店には予め連絡しておけば、少々無理をさせてもその時間は貸し切り状態で危険は少ない。
『俺は朔也の為に段取りしてるわけじゃねぇ』
朔也の魔の手から陽を守るための手段なのだ。
『まったく』
未成年の陽よりも倍の時間を生きているはずの若頭の方が手がかかるのだ。
それでも、陽と朔也の安寧を守るために費やす時間も労力も惜しいとは思わない。
眉間に皺を寄せながらも、どことなく嬉しそうな表情でスマートフォンをタップする吾妻の表情筋はなかなかに器用だ。生憎吾妻独りの為に用意された執務室では、そのことに気付く人間はいないのだが。
10
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる