太陽と月

曙

166

吾妻の調査でガジュマルの家の清廉さは当然のこと証明された。

強いて言うなら、スポンサーの工藤総合病院からはギリギリの予算したか出されておらず、少ない生徒からの学費も大した金額にはならないため、懐事情は良いとは言えない。
総勢4名の教諭の人件費と月々の固定経費を支払えば釣がくることは、ほぼない。
南雲が身銭を切っている節もあり、辰星会の工藤も度々寄付をしているようだ。
もっとも工藤の名前は出来ないよう、従兄弟の名前での寄付となっている。
やはり、極道との関わりは表向きだけでも隠したいのだろうか。

しかし、朔也が陽を預けるにあたって問題となるような調査結果は何一つ上がってはこない。

工藤とて現状を精査した上で寄越した話なのだから当然の調査結果と言えば、それまでなのだが。

そして、陽自身が「がっこうに  いきたい」と言っている以上、それを止める理由はない。

相変わらずグルグル考えている朔也に代わり、吾妻が入学手続きも必要な物の購入も済ませていた。

しかも、バッグやペンケースは、陽の意向を踏まえて用意したらしい。

『来週の月曜日から登校できるよう段取りはついています』

吾妻から報告を受けたのは、金曜日のことだった。随分と急な話だと思うのは朔也だけで、周囲は陽の心身の様子を見ながら決めていたのだが。

周囲が決めなければ、何やかんやと理由をつけて、いつまでも踏ん切りがつけられない朔也は、明星会の若頭とは思えないほどのポンコツ加減だった。

長谷美由紀と2人きりの狭いアパートが陽の全てだった。

そして今は、朔也と咲恵と、そして楠瀬や鹿島も。時には吾妻や麻生がいる生活。
子供医療センターで大方の予防接種も済ませ、まさに今、もう少し大きなコミュニティへデビューしようとしている。

来週からは、朔也の出勤と同時に陽も登校となる。
さすがに放課と同時に朔也の仕事が終わる日ばかりではないため、帰りは吾妻や麻生に任せることが多くなるが、陽を家に置いて出ることを考えれば、一緒に出かけるのも悪くない。

誰かに優しくされ、陽も優しくなり、誰かに傷つけられ、陽が強くなる。

傷つけないように育むのではなく、傷ついたら癒して上げられる場所を用意してあげましょうとは、咲恵の言葉だ。

陽を癒す場所、陽が帰る場所は朔也の腕の中。

入学を前にして朔也が陽に伝えられるのは、それだけだった。