【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり

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「愛している」という言葉を、私はまだ、シキズキ先輩に伝えたことがない。

それは、先の見えない道に対する、不安だったのか。彼が何度も伝えてくれたその愛に、応えることを拒否していたのか。

 あれだけ、濃密な時を過ごしていたのに、私は好き、とは言えても、愛している、とは、言えなかった。

 それは、最後の日にも、言えなかった。



 卒業式の日は、快晴だった。この日、シキズキ先輩は魔術研究科の首席卒業として、代表として別れの言葉を述べた。留学生で、主席卒業も学園初であり、ダブルディグリーとして、騎士科の卒業資格を得たのも、初の快挙であった。

「先輩、卒業おめでとうございます」

「ん、ありがとう」

 他の卒業生たちは、家族がお祝いに来ているが、先輩の家族は遠くにいる。私だけでも、傍にいてあげたいと思って、しばらく何の予定も入れていない。

「アユ、話がある。‥‥あの、研究室に行こうか。鍵は、今日返せばいいから」

 先輩と、毎日のキスをしたあの部屋は、今日までしか使えない。思い出もいっぱいある、個人研究室。

「うん、いこっか」

 父からの提案の答えをくれるのだろうか。怖いけど、今日、聞かないと。

 制服姿の先輩を見ることができるのは、今日で最後。他にも、先輩に話しかけたがっている人たちもいたけれど、私と手をつないで、他を寄せ付けない雰囲気を醸し出している先輩には、誰も話しかけられなかった。

「アユ、入って」

 少し寒いけど、先輩がすぐに魔法で暖かくしてくれた。二人で、よくキスしたソファーに、今日も並んで座る。

「今日で卒業だけど、俺、明日からスレイヤール王国へ帰る必要がある」

 シキズキ先輩は、思いつめた顔をしていた。苦し気に顔を暗くさせ、私の瞳から目をそらし、話し出した。

「卒業する今日まで、アユが傍にいて、支えてくれた。…ありがとう」

「先輩、私、幸せですよ」

「アユ‥‥キスしたい」

 もしかしたら、これが最後のキスになるのかもしれない、でも、戻ってきてくれるかもしれない。そんな期待と悲しみが混ざったような、複雑な思いに蓋をするかのように、先輩の唇が私の唇の上に優しく重なった。

 長いこと、先輩の唇は私の唇に重なっていた。気づくと、先輩の唇が震えはじめ、そして―――嗚咽が聞こえてきた。

「アユ、すまない、アユ…ううぅ、アユ…ううう…」

 男の人が、先輩が泣くのを初めて見た。先輩は綺麗な顔をぐしゃっとして、涙を流して泣いている。

すまない、その一言で、私は理解した。―――先輩は、帰ってこない。
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