星降堂の魔女の弟子

LeeArgent

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僕のヒミツを教えてあげる。

僕のヒミツを教えてあげる。④

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 映像の中のアーサー君は、泣いてべソをかいていた。

『魔法学校なんて、行かなきゃいいのに』

 わかった。アーサー君は、ダイアン君を学校に行かせたくないんだ。
 でもなんで? この世界の魔法使いは、魔法学校に通うのが普通なんでしょ?

『……折っちゃえば良かった……でも、折ったら返せない……でも、杖があったらお兄ちゃん学校に行っちゃうんだ……』

 アーサー君は、口を動かさずにつぶやいた。多分これは、モノローグってやつだと思う。映画やアニメの主人公が、心の声をつぶやくアレだ。
 それを聞いたとたんに、ダイアン君はキレた。

「あいつ……とっちめてやる!」

 ダイアン君は部屋を出て行って、バタバタと階段をかけ下りる。僕はとっさの出来事になんにもできなくて、「あっ、ちょ……」みたいなマヌケな声しか出なかった。
 魔女さんはダイアン君を止めることなく、腕組みしてため息をついた。

「あとは、二人が仲直りするのを祈るだけだね」

 なんて、のんきなこと言ってる。
 だめだよ、それじゃ!

「魔女さん、僕はダメだと思います!」

 僕は魔女さんにそう言った。魔女さんは、僕をじっと見て首をかしげる。

「なぜ?」

「なぜ、って……」

 なんだか、魔女さんの様子がおかしい。
 いつもはひょうひょうとしてて、お気楽で、なんだかんだ言いながらもお客様の手伝いをしてくれるのが魔女さんだ。でも今は、なんだかイライラしてるみたいで、まるでアーサー君に怒ってるみたい。

「魔女さん、今のままじゃ、ダイアン君とアーサー君の仲が悪くなっちゃうと思います」

 僕は言う。でも魔女さんは、わざとらしくあくびをしてみせた。

「あとは、アーサー君とやらがちゃんと謝れるかどうかだよ。子供は素直なんだから、きっとちゃんとやるさ」

「そんなことないよ!」

 僕は敬語も忘れて魔女さんに反発した。

「大人が思ってる以上に、子供ってガンコなんだよ。だから、アーサー君がもし謝らなかったら、きっと仲悪いままケンカ別れになっちゃう。僕はそんなのイヤだ」

 僕が、魔女さんの弟子をあきらめなかったように。
 メロウちゃんが、絵をあきらめなかったように。

 アーサー君がダイアン君の入学阻止をあきらめなかったら……どうなる?
 きっと二人は、これからずっとお互いのことがキライなままだ。
 僕はそんなの絶対イヤだ。

 魔女さんは僕を見る。値踏みの目だ。
 僕は魔女さんの目をじっと見つめ返した。

「……わかった。杖のかくし場所まで行こうじゃないか」

 やった。魔女さんが折れた。
 早足で星降堂ほしふりどうの階段を下りる魔女さんを、僕はかけ足気味に追いかける。

「箒で行くよ」

「箒で?」

 僕は思わず声をふるわせた。
 箒にはイヤな思い出がある。日本で、いじめっ子三人にからかわれた時のこと。それが頭をよぎったんだ。

「魔法使いを目指してたなら、箒にまたがったことくらいはあるだろう。箒の操縦そうじゅうは私がするから」

 星降堂ほしふりどうのカウンターに立てかけられた、そうじ用の箒。魔女さんはそれをつかんでまたがった。いや、そうじ用じゃなかったらしい。これは、魔女さんが空を飛ぶための箒だったんだ。

「ほら、後ろに乗って」

 魔女さんに言われて、僕はハッとする。あわてて魔女さんの後ろについて箒にまたがった。

 ☆彡

 夜の七時は夜ご飯の時間。どこからともなく、お肉を焼くいいニオイがただよってくる。お肉だけじゃない、ハーブみたいな、さわやかなニオイも混じっているから、きっと洋食なんだろう。
 魔女さんの箒に乗せられてやってきたのは、とある家のうら庭。商店街からあまりはなれていなかった。
 魔女さんが操縦そうじゅうする箒は全くゆれなくて、いつもものいしちゃう僕でも全然平気だった。

「魔女さん、本当にここにあるんですか?」

 箒から降りながら、僕はたずねる。魔女さんは箒を木に立てかけながらうなずいた。

「おそらく、この木のうろだ」

 魔女さんは、木の幹にできた小さな穴をのぞき込む。でもすぐに首をふって、うらめしそうに空を見上げた。
 今は夜。月の明かりがあるとは言っても、あんまり暗すぎる。うろの中が見えないんだ。

「空、ちょっと」

 僕は魔女さんに手まねきされた。

「私がうろを照らすから、中を見てくれるかい?」

 魔女さんは指をふって、小さな星を作り出す。それでうろを真上から照らした。
 僕は木の根っこに足をかけて、うろの縁にしがみついてのぞき込んだ。

 見つけた。
 僕の二の腕と同じくらいの長さ。全体的に白っぽい色をした杖だ。きっとあれが、ダイアン君の杖なんだろう。

「ど、ドロボー!」

 僕の後ろから声が聞こえた。僕はびっくりしてしまって、頭を上げると同時に、根っこからすべり落ちて尻餅しりもちをついた。
 いたいお尻をさすりながら、僕はふり返る。

「それは兄ちゃんの杖だ。持っていくなんて許さないぞ!」

 いつの間にか、アーサー君がそこにいて、すごく怒った顔で僕に近付いてきた。僕はすっかりビビっちゃって、あわあわと言葉にならない声をもらしてた。
 対して魔女さんはすごく冷静で、アーサー君に対してこう言ったんだ。

「ドロボウは君だろう。お兄さんの杖を盗んで、かくしてしまうだなんて」

 アーサー君はギクリと体をびくつかせて、僕と同じようにあわあわしてる。それを見ていたら何だか落ち着いてきちゃって、僕は深呼吸をしてうろにニワトコの杖を向けた。

「ふわり、ふわふわ。うかび上がれ」

 うろの中からカタカタカタッて音がして、白い杖がうかび上がってきた。僕はそれをにぎると、うろの中から取り出した。

「あー! なんてことするんだ!」

 アーサー君はすごくあわててた。そりゃそうだよね。ダイアン君の杖が見つかったら、アーサー君がかくしていたってことがバレてしまう。そうなったらダイアン君は今以上に怒るし、悪くすれば絶交かもしれない。
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