昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ

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二章

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「それで、どういうことなのかな?」
 
 フローリングで正座を十分続けるというのは中々キツい。もう半分足の感覚がない。身の潔白を証明しなきゃいけないのに、説明できないという状況に、普段とは似つかわしくない小田先輩の謎の迫力。ゴゴゴゴゴ・・・・・・! という擬音が背後に流れていると錯覚するレベルで先輩は怒っている。怒っている先輩は初めてだけど、だからこそ凄味がある。

「どうしてずっと黙りこんでいるの? 後ろめたいことでもあるの?」

 後ろめたい。まさにそれがこの状況を長引かせている要因。下着姿のれみを押し倒していたのは不幸な行き違い、タイミングが最悪だったから。簡単な事実。けど、ならどうしてれみは俺と一緒にいたのかそれも説明しなければいけない。傍目から見れば他人である女の子が大学生のアパートにだらしない生活を矯正するためなんて話は突飛すぎて理解されないだろう。俺だって意味不明だもん。

 小田先輩は俺とれみが昔義理の兄妹だったことを知らない。俺たちの関係を説明すればすぐにでも追われる。けど、できないでいる。罪悪感と後悔、まさに後ろめたさが邪魔をしてしまう。先輩に適当な嘘をついてしまうのも嫌だ。ならなんて説明するべきか。

「もう、しょうがないわね~。わかりました。じゃあもういいわよ」
「へ?」

 おもってもない申し出に、俺はさぞ間抜けな顔をしていたに違いない。先輩は俺の頭をぽんぽん、と優しく撫でながら、

「瞬くんは女の子に無理やりえっちなことをする子じゃないっていうのは普段接していればわかるわよ~。きっとなにか話したくない理由があるんだよね~?」
「せ、先輩・・・・・・・・・」

 天使、否。むしろ女神。こっちの事情を汲んであえて終わらせてくれたのか。涙が出そう。

「ありがとうございます先輩・・・・・・・・・・・・俺のことそこまで信じてくれてたんですね・・・・・・・・・」
「ええ。だからあとは取調室で話してね? もしくはこれから呼ぶパトカーの中で~」
「ちょっと待ってわかってくれてなかった!」

 携帯を取り出して電話をしようとする先輩は、よどむ動作も迷う素振りもない。どこに電話しているのかも判断できない俺でも本気だって肌でかんじて即座に土下座をする。

「お願いです待ってください! 違うんです!」
「無罪でも有罪でも、皆そういうんだよ~」
「先輩もさっき言ってくれたじゃないですか無理やりえっちなことをする子じゃないって!」
「それは今日。今この瞬間までの瞬くんのことだよ~。私が会っていない時間で変わっちゃったかもしれないでしょう~?」
「人はそんな短期間で変れませんし変わっていませんよ!」
「一夏の思い出で人は成長するでしょう?」
「学生にありがちなやつ! けど俺なにも思い出作っていないし体験していませんよ! 今も昔もあなたの知ってる上杉瞬のままです!」
「ん~。昔の瞬くんのこと知らないしな~」

 だめだ。埒があかない。さいわいなことに、先輩は電話をまだしていないようだけど時間の問題。どうする、どうすれば!?

「あの、小田先輩。少しいいでしょうか」

 隣にいたれみは、授業中の生徒よろしくビシッと奇麗に挙手をした。

「私から説明してもいいでしょうか。兄さんは私たちの関係をどう説明するべきか迷っているみたいなので」
「兄さん・・・・・・・・・?」
「れみ?!」

 まさか、とれみのほうを向くけど、真剣な面持ちで頷きながらサムズアップするとなにも言えなくなる。れみの口から俺たちの関係をどう説明するのかなんとなく察してしまったから。けど、れみなりに覚悟をしているのだろう。それを俺の勝手な後ろめたさで邪魔をしたりごまかしたりするのは・・・・・・・・・・・・だめだ。

 れみの意志を尊重しよう。

「それでは、コホン。小田先輩もなんとなく気づいていらっしゃるかもしれませんが」

 ゴクリ。俺と先輩の生唾を飲む音が重なった。

「私と上杉瞬さんは結婚前提の男女交際をしています」
「ちょっとまてえええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 想定しうるかぎり一番最悪なことをほざきやがったこいつ・・・・・・・・・!
「ちょ、おま、え!? なんで! なんでだ!」
「瞬くんうるさいよ?」

 先輩に高速で両足の指を突かれて悶絶。十分痺れていた足にはそれだけで甚大なダメージすぎて身動きできなくなる。
 
「この人が以前、オープンスクールのとき私をナンパしていたのはご存じですよね? それから以前しゅ、兄さんの家に泊った翌日、挨拶に伺ったのです。そのとき改めて謝罪とプロポーズをされました」
「まぁ」

 なに言ってんだこいつ。

「正直ドン引きしました。女子高生の制服を着ている私が理想の女の子像ぴったりだったと。けど、もう私しか考えられない。好きだ。君のためならなんでもすると熱烈な愛の言葉をぶつけられ、そして私の素敵なところを百個例にあげてくれたので」

 なに言ってんだれみおいこら。それじゃあ俺が女子高生フェチみたいじゃねぇか。けどいくらなんでも先輩ならそんなの嘘だって気づくはず。何故なら俺たちには絆がある。先輩後輩として仲良くやってきた時間がある。それは義理の兄妹として過ごしていた俺たちとはまた違う間柄。ある種の信頼関係があるんだ。

「あらあらそうだったの。ごめんなさいね。じゃあ私お邪魔しちゃったのね」

 ちょ、先輩疑ってください。俺を疑ったのと同じくらいれみを疑ってください。出会って二年間培われた後輩との信頼関係よりもここ数日前に知り合った女の子への信頼を優先しないでくださいお願いします。

「いえ。あのときは助かりました。私もそういうのはまだ早いとおもっていたので。雰囲気とムードに流されちゃいました」
 
 そこは別に正直に話していいんじゃないかな!? ごまかさなくていいんじゃないかな!?

「じゃああの、兄さんっていうのは?」
「そ、それは・・・・・・・・・」

 そう、そこだよ。普通恋人を兄さん呼びしないだろ。れみは一瞬躊躇ったように顎を引いて口に手を隠す。そのままもじもじと恥ずかしがる。つい言ってしまったから、もう本当に言うしかない。口を開こうとしたら、急(おそらくれみ)に足の指に激痛が。走り、また悶絶する。

「瞬さんにこう呼ぶようお願いされまして。どうも年下の女の子にどうしても兄として呼ばれたいと。できれば妹と結婚するのが夢だと」

 名誉が。俺の築きあげていたものが音をたててガラガラガラ! と一気に崩れていく。

「・・・・・・・・・・・・」
「年上よりも断然年下だと力説していました」
「・・・・・・・・・・好みって人それぞれだしねぇ~」

 受け入れられた! 先輩の中の俺が年下好きの女子高校生好きの架空の妹好きって人物像に塗り替えられる!

「ちょ、違うんですよ先輩」
「いいのよ瞬くん。いえ五十嵐くん」
「なんで呼び方改めたんですか!」
「五十嵐くんも男の子ってことよねぇ~。まぁあの長井くんとお友達だし」

 くそ、健のやろう! こんなところでやつとの友情が足を引っ張りやがった! あいつのせいか!

「でも安心して? それなら私も納得できるし。そういう事情なら中々言えないもんね~」
「いや、あの先輩」
「大丈夫。そういうことなら私誰にも喋らないから。愛の形ってそれぞれだし」
「話を聞いて?」
「重ねて聞くけど、もちろんお互い合意なのよね?」
「ええ。もちのろんです」
「れみお前こらああ!! ちょっとこっちこい!」

 いい加減辛抱たまらなくなって、手を引いて別室へ。仕切り戸をしっかりとして先輩と隔離する。

「お前どういうことだ? なんででたらめ言ったんだ?」
「なにか不都合でも?」
「不都合しかないわ!」

 一応聞こえないようにひそひそ話をしているけど、どうしてもツッコミはおさえられない。

「俺とお前が恋人とか・・・・・・・・・・嘘はだめだろ」
「いやなんですか? 私がふさわしくないと? あのと・し・う・え! の先輩にはと・し・し・た! の私と付き合っていると誤解されるのはお嫌だと?」
「なんでそここだわってるの!?」
「とにかく。私はあなたみたいなだらしのない人と私が義理の兄妹だったと知られたくないのです。私の品性と生活態度まで疑われます」
「とんでもない変態の求愛を受け入れて変態と付き合ってるって事実しかのこらねぇぞ!? そっちのほうがいやじゃないか!?」

 俺だったら後者のほうが嫌だよ。

「しょ、しょうがないじゃないですか。先程は焦っていてそんなことしか思い浮かばなかったんですから」

 今更だけど、れみ結構後悔しているな。

「だったら兄さんはさっさと矯正されて真人間になってください。そうすれば私が兄さんのところに来ることもなくなって大学の人たちと会う機会も話す機会も減るでしょう。つまり私があんな嘘をついたのは兄さんのせいです。兄さんが悪いです」
「暴論すぎるだろそれ」
「二人ともいつまで話しているの~?」

 ビク! と二人揃って飛び上がるほど驚いてしまう。訝しんだ先輩が俺たちのところへ。小声で話していたつもりだけど、聞かれていなかっただろうか。

「あの、先輩」

 一歩前に出て、先輩と対峙する。やっぱり嘘はよくないんじゃないかって衝動的に。まだ真実を話すかどうか決めていないけど。

 ぎゅううううう! と袖を引っ張られる。見るとれみが悲しそうな顔をしていた。不安で悲しくて後ろめたくて俺を頼っていて俺を信じていた、義妹の顔。言っちゃうんですか? 言わないでください、と語りかけてくる。この顔はずるい。この顔を小さい頃何度も見ている兄だった俺にとって、どうしようもなく無視できることじゃない。自分の気持ちを消し去ってしまえるくらいに。

「瞬くん?」
「いえ、なんでもありません」

 れみのついた嘘に付き合うことに決めた。ばつが悪いとき。嘘をついたとき。隠し事をしたいとき。れみに合わせていた。そして、あとでバレて二人で盛大に叱られまくっていた。

「それで? 俺の愛しのマイ・スウィートエンジェル、リトルシスター&ソウルワイフとのラブラブタイムになにか文句でも?」
「急にどうしたの!?」
「いえ、もうれみが言っちゃったんで隠しておく意味ないなって開き直ったんですよ」

 もうどうにでもなれだ。

「あ、ああ。そう。正直ちょっと疑ってたんだけど本当だったんだね~。ちょっと作戦会議みたいなのしてるのかな~っておもったんだけど」

 はっはっは。もうなるようになれだ。先輩との接し方とか距離とかは置いといて。さいわい今まだ先輩しか知られていない。できるだけ釘をさして他言しないでもらって。これ以上の被害を増やさないように――――。

「いまきたさんぎょう~。ちょっと聞いてくれよ瞬~。俺またフラれちまってさぁ~」
「健てめぇこのやろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「え!? なんで怒ってんの!? あれ、というか先輩とれみちゃんなんでここいんの!?」
「うるせえええええええええええええ!!! 空気よめごらあああああああああ!!!」
「え? なになに?」
「? あなたは誰でしたっけ?」
「あ、聞いてよ長井くん! 実は瞬くんと竹田れみちゃんね!?」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 もうおわった。いろいろと。そして俺は諦めた。
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