旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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もしもクレス島にハロウィンがあったら ネリー&ライト編

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「えへへっ。可愛いね、このお洋服」
  茶色猫ネリーはご機嫌で、くるっと回って見せた。
  エメラルドグリーンのワンピースの裾が、ふわっと広がる。
 「騒ぐにゃ、ネリー」
  そう嗜めるのは、灰色猫のライト。
 「ご、ごめんにゃ、ライト。でもボク、嬉しくって」
  なにせ、ずっと憧れていたハロウィンイベントに参加できるのだ。
  去年は、色んな仮装をしながら楽しそうに街を回っている子供達を、羨ましく思いながら見ていた。
 「…女装姿でも喜べるのは、お前とジェダくらいだな」
  ライトはそう嘆息する。つくづく、自分が女装組に当たらなくて良かったと思いながら。
 「ええー? これ、可愛いにゃん。……可愛くにゃい?」
  ネリーはスカートの裾をぎゅっと握って、尋ねた。
  背中に透明な羽をつけ、頭を色とりどりの花で編んだ冠で飾るネリーの仮装は、「妖精」である。自分では結構可愛いと思っているのだが、似合わないのだろうかとネリーは不安になった。
 「いや、似合ってる。可愛いにゃ」
 「…!! ありがとう!! ライトも似合ってるにゃ!!」
  そしてライトは、全身に包帯を巻いた「ミイラ男」の仮装だ。
  似合っている、と言われて素直に喜んでいいものか迷う所である。
 「お菓子、いーっぱい貰えるといいにゃん」
  ネリーはご機嫌で、手に持っている空のバスケットを掲げて見せた。
  このバスケットは、アニエスが持たせてくれたものである。
  島の子供達には親がバスケットを用意して、子供に持たせる。これに、貰ったお菓子を入れて帰るのだ。
  そしてネリー達にも、アニエスが用意してくれた。この衣装も、全て。
 「あのねあのね、お菓子をいっぱい貰ったらね、奥方様にもわけてあげるのにゃん」
 「そうか」
 「アクアとね、キースとね、誰が一番いっぱいお菓子をもらえるのか、競争してるの!!」
 「…そうか」
 「どんなお菓子が貰えるのかにゃ~!! ビスケットかにゃ? クッキーかにゃ? キャンディも良いにゃ~!!」
 「…なあ、ネリー」
 「にゃ?」

 「いいから、もう出発しないか? ここ、まだお店の前にゃん…」

  ライトは嘆息して、ネリーの肩をぽんと叩いた。
  そう、ここはまだスタート地点。アニエスの店の前である。
  他の猫達はとっくに街へ繰り出していった。
  ネリーは念願のハロウィン参加と仮装にすっかり舞い上がってしまって、さっきっからここで自分の仮装姿をお店のガラス窓に映してにこにこしたり、くるくる回ったり、ちっとも出発しないのである。
 「にゃ!?」
 「…大丈夫。今日のネリーは可愛いから、みんな、いっぱいお菓子をくれるにゃん」
 「ライト…」

  そしていつも仲良しの二匹は、今日も仲良く連れだって街へ繰り出していった。
  ライトの言葉通り、街の人は妖精姿のネリーを「可愛い!」と褒めては、美味しそうなお菓子をいっぱいくれた。
  ミイラ男のライトは、「にゃ、言った通りだろ?」と少しだけ得意げに、ネリーに笑いかけた。
  それを見た街の人がさらに「可愛い!!」と絶叫したとか、しなかったとか。


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