旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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もしもクレス島にハロウィンがあったら セラフィ&アクア編

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「…セラフィ?」
  おずおずと、三毛猫のセラフィに声を掛けてきたのはララだった。
  ララは可愛らしい魔女の仮装をしている。
  そしてその隣には、ララが想いを寄せる少年、アンディが。
  アンディのローブ姿は、きっとララと対の、魔法使いの仮装なのだろう。
 「ララか? …可愛いな、その魔女の仮装。アンディも良く似合ってる」
 「…っ!!」
  ララはかあっと、頬を赤らめる。
  だって、今日のセラフィは、いつもより、いや、いつもカッコイイけれど、でも、
 「〜〜っ、どうしたの!? その恰好!!」
 「ん? ああ、『吸血鬼』の仮装だ。変か?」
  恰好良すぎ、なのだ。
  すらっとしたセラフィに良く似合う、黒を基調としたスーツにマント。
  猫耳も、貴族がよく使うような黒い帽子に覆われている。
  ちらりと、口元から覗く鋭い牙。赤く彩られた唇。細かいところまで、凝っている。
  それがまた、ちょっと色っぽくて、カッコいい。
  こんな吸血鬼になら噛まれても構わないと思う女性は多いだろう。
 「へ、変じゃない!! カッコイイよ!! セラフィ」
 「ありがとう」
  照れたように、くしゃっと笑うセラフィ。
  ララはさらにぽおっとなって、セラフィを見つめる。
  そんな少女に、傍らのアンディはむっとしたようにセラフィを睨みつけた。
 「…セラフィは、お菓子もらいに行かないのか?」
 「ああ。私はほら、こんなナリだろう…?」
  人型になったセラフィは、他の猫達よりも年嵩の少年である。
  ちょうど、少年と青年の中間。15か、16の年頃に見える。
 「街の人は、私も参加して良いと言ってくれたけど。私くらいの歳の子は、参加していないだろう? 気後れしてしまって」
  仮装だけ楽しむことにした、というセラフィ。
  アンディはむすっとした顔のまま、徐に自分のバスケットから一掴みお菓子を握ると、それを空のセラフィのバスケットに入れた。
 「アンディ?」
 「いいじゃないか、別に。せっかくそんな恰好してるんだから、楽しめよ」
  すると、ララも慌てて自分のバスケットからお菓子を掴んで、セラフィのバスケットに入れた。
 「わたしもあげる! セラフィには、いつもおせわになってるから!!」
 「ララ…」
  ありがとう、とセラフィは微笑んだ。
  心優しい、良い子達に。

 「いいにゃ〜、セラフィ」

 「「!!??」」
  突然現れた人影に、子供達は揃って絶句する。
  くぐもった声。無理もない。目の前の人物は。
 「おれにゃんか、何故か子供達に指差されて大爆笑にゃん」
 「「…もしかして、アクア……?」」
  子供達が疑問形なのは、目の前の人物がすっぽりと顔を隠しているからである。
  なんとなく、声の感じでアクアかもと思うが、くぐもっているので確証が持てない。
 「そうにゃよー!! ララ、アンディ。トリック・オア・トリート!!」
 「馬鹿。それは大人相手に言う決まりだろう?」
  ぼかっと、セラフィが横に並んだその人物の頭を叩く。
  ぐらっと、頭が揺れた。
  そう、目の前のアクアは、巨大なカボチャを頭に被っているのだ。
  目と口の部分を綺麗に切り抜いた、巨大なカボチャ頭に緑のマント。
  『ジャックランタン』の仮装である。
  確かにジャックランタンは、ハロウィンの定番だ。
  しかしいかんせん、アクアの小柄な体に対し、カボチャ頭が巨大すぎる。
 「おれは結構気に入ってるんだけどにゃ〜」
  何せ昨日の晩、アニエスと一緒にせっせとくり抜いたカボチャだ。ちなみに、中の身は美味しいカボチャのお菓子に変身している。
  ララとアンディは、まじまじと仮装するセラフィとアクアを見つめた。
  物語の登場人物のように、カッコイイセラフィと。
  巨大なカボチャ頭の、アクア。
  アクアが動くたび、そのカボチャ頭がガクガクと揺れる。
 「「…っぷっ」」
  そして二人は、思わず吹き出してしまう。
 「ア、アクア、頭、重くないの…?」
  笑いを堪えながらララ。
 「あははははは!! デカ過ぎだろ!! バランス悪っ!!」
  ぐらぐらと揺れる頭を指差して、笑うアンディ。

 「にゃにをっ!! デカイ方がかっこいいだろーがっ!!」

  アクアは笑いながら逃げ出した二人を追って、走り出した。
  走る度、その巨大なカボチャ頭がガクガクガクと揺れるのを見つめながら、セラフィは思った。
 (いや、デカ過ぎにゃ…)
  と。


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