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もしもクレス島にハロウィンがあったら 夫婦編
しおりを挟む夕刻。
使い魔猫達はそれぞれのバスケットを一杯にして、戻ってきた。
黒猫のカルがやけに疲れたような顔をしていたのが気になったが、猫達はハロウィンを楽しんできたようで、アニエスは嬉しかった。
それだけではない。猫達は、自分達が貰ったお菓子を「御主人様と奥方様にも」と言って、分けてくれたのだ。アニエスは思わず、目の前の猫達をぎゅっと抱きしめた。
そして夕食では、猫達の大好きな魚のパイと、彼らのために作っておいたハロウィン用の、カボチャのプリンを出した。
猫達は美味しいパイとプリンをたっぷりと食べ、疲れたのかぐっすりと、いつもより早い眠りについた。
アニエスも家事を済ませ、入浴も済ませると、ジェダが「お土産ですにゃん」と満面の笑みで渡してくれたチョコレート菓子の箱とブランデーの瓶、それからグラスを二つトレイに載せて、寝室へ向かった。
寝室では夫のサフィールが、いつものように寝台の上で本を読んでいる。
ふふ、とアニエスは笑った。時計の針はまだ夜の十二時を指してはいない。まだ、ハロウィンの夜は終わってはいない。
トレイをサイドテーブルに置き、アニエスはクローゼットの中からごそごそとある物を取り出す。猫達の仮装衣装を作っている時、一緒に作ったものだ。
それを後ろ手に隠しながら、アニエスは寝台の上の夫に近付いた。
「ねえ、サフィール」
「? なに? アニエス」
サフィールの視線が、本からアニエスに向けられる。
アニエスはふふ、と笑って、「あのね」と話を切り出した。
「みんなの衣装を作っていたら、楽しくなって。こんな物も、作ってみたの」
そうして彼女が手に持っていたそれをサフィールに見せる。
それは…、
「…………」
銀色の毛並みの、猫耳と猫尻尾だった。
サフィールは驚きに目を見張り、しばらくそれを見つめた後、再びアニエスに視線を送る。アニエスはサフィールの反応をどきどきしながら待っていた。
「…うん」
サフィールはその猫耳と猫尻尾を手に、囁く。
「アニエスに、すごくよく似合うと思う」
猫耳と猫尻尾をつけたアニエスは、とても愛らしいだろうとサフィールは思った。
どこぞの変態従者の気持ちが、今ならちょっとだけわかる気がする。
サフィールはその猫耳を、そっとアニエスの頭につけてやろうとした。
が、
「? ちがうわ、サフィール」
アニエスは微笑みながら、サフィールの手から猫耳をとった。
「これは、サフィールの猫耳よ」
「!?」
驚愕するサフィールを尻目に、アニエスはいそいそとその猫耳を夫の頭に装着する。
「わあ!! やっぱり!! 良く似合うわサフィール!!」
さらりとした銀の髪の上に、ちょんと立つ銀の猫耳。
サフィールによく似合うと、アニエスは満足気である。
「…アニエス…?」
「衣装を作っている時にね、思い浮かんだの! サフィールにはきっと、銀色の猫耳が良く似合うわ、って。ふふふ!! すごく可愛いわ!! サフィール」
可愛いと言われても、素直には喜べない。
自分には、猫耳をつけて喜ぶ趣味は無いのだ。
「アニエス…」
サフィールは喜ぶアニエスの手を引いて、その身体を寝台に押し倒す。
そして、その耳に低く囁いた。
「トリック・オア・トリック。お菓子はいらない。悪戯、するよ?」
それは、仮装させられてしまったサフィールの意趣返し。
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