旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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ころころトリュフチョコレート

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こちらはバレンタインにWEB拍手にて公開していたお話です。
『もしもクレス島にバレンタインがあったら』
長くなったので二話に分けました。
********************************************

 二月十四日はバレンタインデー。
 女性が意中の男性にチョコレートを贈って気持ちを伝える日だ。
 しかし最近では、友人同士で贈り合ったり、また逆に男性から女性に贈ったりと、たくさんの人がチョコレートを贈り合う日になっている。
 この時期クレス島では、たくさんの店がチョコレート菓子を取り扱うようになる。
 それは、アニエスのパン屋も例外ではなかった。

「それじゃあ、みんな。チョコレート作りを始めましょうか」
「「「「「「「にゃー!!!」」」」」」」
 二月十三日の夜。
 早めの夕食を終えたアニエスと使い魔猫達七匹は厨房に揃っていた。
 猫達はみな人型になり、色違いでおそろいのエプロンをつけている。
 さらには、エプロンと同色の三角巾を頭に巻き、マスクまでする徹底ぶり。
 マスクは、猫にとって毒であるチョコレートが万が一にも口に入らないようにするための防護策だ。
 明日はバレンタインデー。それに合わせ、二月からチョコレートを使ったパンに力を入れてきたアニエスのパン屋だったが、それとは別に、明日はバレンタイン限定でチョコレートをお客さんに配ろうと計画していた。
 売り物とは別の、日頃の感謝を込めたチョコレートだ。
 アニエスはたくさん仕入れた材料を前に、てきぱきと猫達に指示を出していく。
「それじゃあ、最初はチョコレートを細かく刻みましょう」
「「「「「「「にゃー!!!」」」」」」」
 猫達の前にそれぞれ製菓用のチョコレートを置いていく。
 彼らはそれを一つずつ自分のまな板の上に乗せると、慣れた手付きで丁寧に刻んでいった。
 その間にアニエスは、小鍋に生クリームを入れて温め始める。
 沸騰直前まで温めたら、それを刻んだチョコレートの入ったボウルにゆっくりと注ぎ込む。
 刻んだチョコは、まとめ役の黒猫カルが率先してボウルに入れていってくれた。
 おかげで作業がスムーズに進む。
 チョコレートと生クリームをゆっくりと混ぜ合わせたら、今度は無塩バターを入れて、またゆっくりとかき混ぜながら粗熱をとっていく。
 あとはゆるゆると固まるまで、室温で冷やす。
 次々と刻まれていくチョコレートを、同じ要領で生クリーム、バターと混ぜ合わせていくアニエス。
 作業台の上にはたくさんのボウルが並べられ、全てのチョコレートを混ぜ終えた頃には最初のボウルが程良く冷えていた。
「うん、上出来だわ。それじゃあ今度はこれを、くるくる丸めていきましょう」
「「「「「「「にゃー!!!」」」」」」
 猫達は手を洗って綺麗にすると、並んで両手を差し出した。
 アニエスはその掌の上に、スプーンですくったチョコレートを置いていく。
「にゃにゃ~♪」
 猫達は鼻歌を歌いながら、ころころころころとチョコレートを丸めていった。
 そうして、大きなバットの上には丸いチョコレートがころころと並べられていく。
 猫達は楽しそうに、チョコレートをころころ。
 まるで泥遊びをしているようで、楽しいのだ。
 黒猫カルと灰色猫ライト、三毛猫セラフィは真剣な顔で。
 白猫ジェダは自分の作り出す綺麗な丸いチョコレートにうっとりしながら。
 茶色猫ネリーと縞猫アクア、ブチ猫キースはにこにこと。
「奥方様~、次の下さいにゃ~」
「にゃ~」
 競うように手を差し出す猫達。
「はい、どうぞ。みんな上手ね」
「「「「「「「にゃ~!!!」」」」」」」
 大好きな奥方様に褒められて、猫達はマスクの下でにこ~っと笑った。
 自分達はチョコレートを食べることはできない。
 けれど、この甘い匂いに包まれていると、何だかとっても幸せな気分になれるのだった。

  
 丸め終えたチョコレートを冷やしている間に、使ったボウルや道具を洗って片付けていく。
 一度お茶とビスケットで休憩をとって、明日のパンの仕込みをして…。
「よし、固まったわ」
 丸めたチョコレートをツンと手でつつき、しっかりと固まっていることを確認する。
 あとはココアパウダーをまぶせば、完成だ。
 猫達はまるで砂遊びを楽しむように、チョコレートにココアパウダーをまぶしていく。
 それを微笑ましげに見守りながら、アニエスもてきぱきとチョコレートにココアパウダーをまぶしていった。
「完成!!」
「「「「「「「にゃー!!!」」」」」」」
 そうして出来上がったトリュフチョコレートを、今度は包装していく。
 透明な小さな袋に三つずつトリュフを入れて、リボンで口を縛る。
 猫達は真剣な顔で、丁寧にトリュフを摘まんでは袋に入れ、リボンを結ぶ。
 包装が終わったものを、バスケットに入れて店のカウンターに運んで…を何度か繰り返せば、明日のバレンタインの準備は完璧だ。
「みんな、ご苦労さま。手伝ってくれてありがとう」
 アニエスは猫達一匹一匹の頬にキスをして、明日もお手伝いよろしくね、と微笑んだ。
 明日もきっと、たくさんのお客さんが来てくれるだろう。
 猫達はもちろんですにゃー! と口々に言って、厨房を後にした。
 あとはゆっくり休んで、明日に備えるのだ。
 彼らを見送り、アニエスは「さて…」と袖をまくる。
 これからもう一仕事。
 サフィールや猫達に贈る、バレンタインのチョコレート作りをするのである。
 もちろん、猫達にチョコレートは厳禁なので、彼らには別のお菓子を作る。



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