養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
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第3話 お試し絵画教室①
私たちが店の中を見て回っている間、店員は常になにがしかの作業をしていて、決して私たちに声をかけてはこなかった。
芸術家には気難しい人が多いからということと、店内で自由にくつろいで欲しいという理由から、あえてそうしているんだそうですよ?とアンが教えてくれた。
確かにおかげでとてもくつろいでいた。私は既にこの店が好きになっていた。
絵を長めながら2階の一番奥にたどり着くと、私はそこに置かれた看板に目を留めた。
「──お試し絵画教室?」
声に出してそう言うと、室内にいた髪の毛を後ろで1つに束ねた若い女性が椅子から立ち上がり、笑顔で私に近付いて来た。
なんだか、とてもホッとする笑顔だった。人懐っこくて。それでいて押し付けがましさのない穏やかな雰囲気。こんなにも優しい性格が見た目にあらわれている人を見るのは、アンとアンの母親以来かも知れなかった。
私も思わず笑顔を返す。すると若い女性は改めて目を細めてニコッとしてくれた。
「絵を描くことに興味がおありですか?
よろしければ中にお入りになりませんか?
今なら無料で魔石の粉末入りの絵の具を使って絵を描いてみることが出来ますよ。」
貴族の屋敷にでも勤めていなければ、平民はきちんとした敬語なんて使えないものだけれど、その彼女は柔らかな物腰で、小ぶりで愛らしい唇から丁寧な敬語をつむいだ。
「はい……ぜひ、お願い致します。」
私は心惹かれるまま、お試し絵画教室の中へと入って行った。お連れの方もどうぞ、と言われて、アンも中に入る。途端に開いた窓から吹き込む柔らかな風に乗って、絵の具の匂いが濃くなった。
「おふたりとも描いてみますか?お子さま用のベビーベッドがありますので、よろしければお子さまはこちらに。」
そう言って、ミリアムと名乗った女性は、可動式のベビーベッドを、2つの台の上にそれぞれ置かれた小さなキャンバスの、前に置かれた椅子と椅子の間へと置いてくれた。
アンはいたくそれに感動して、ベビーベッドにニーナを寝かせた。だが椅子には座ろうとしない。どちらに座ってもいいわよ?と言うと、お嬢様を放っておいてそんなこと出来ません、と焦るように言った。イザークと違って、アンはやめても私を気にしてくれる。
私が従者も護衛もつけずに現れた時、アンはドアの前で一瞬だけ驚き、悲しげな表情を浮かべたあとで笑顔になった。ロイエンタール伯爵家での、私の置かれている状況を想像してしまったのだろう。やめるべきではなかったと思ってしまったのかも知れない。
ここにいる間は自分が守ろうと思っていてくれたのだろう。私はアンのその気持ちが嬉しかった。私の愛する妹のような幼なじみ。
「構わないわ。あなたはもう私のメイドではないのだから。私の乳姉妹として、一緒に楽しんでくれたら嬉しいわ。」
私に笑顔でそう言われたことで、アンは自分も絵を描いてみることにしたようだった。
私が窓際の日当たりのよいキャンバスの前の椅子、アンがニーナを寝かせたベビーベッドを挟んで隣に座ることになった。
それにしても、こんなサービスをしてくれる店が存在するのだなと私も感心した。
高級なレストランには何度か私も行ったけれど、基本小さなお子さまは入店拒否の為、こんなことをしてくれる店はない。子どもが泣いたら静かな店の雰囲気にはそぐわないからなのだろうけど、こういう場所がもっと増えてくれたら、子連れでの外出を楽しめる人が増えるのにと私は思った。
「まずはこちらで下絵を描いて下さい。果物と彫像をご用意しておりますが、モチーフは自由に選んで下さっても構いませんよ?」
そう言って木炭のペンのようなものを手渡してくれる。すぐに絵の具を使うわけではないと知り、少しだけガッカリしたが、顔には出さず、何を描こうかと考えていた。
アンは果物と彫像とを見比べてにらめっこしていたが、結局果物にすることにしたようだ。私は彫像を選ぶことにした。
「あっ!今日は駄目よザジー!」
そこに開いた窓からスルリと、茶色と黒のぶちの子猫が入って来たかと思うと、彫像の乗せられた台の上に飛び乗ってしまう。
そしてそのまま、日当たりのいい場所に置かれた台の上を、今日のお昼寝場所に決めてしまったようだった。
「もう……。困ったわね。
──あ、近所のおばあさんが飼っている猫なんですけど、こうして時々潜り込んで来るんです。絵にイタズラをしないから、普段は放っておいているんですが……。」
ミリアムさんは困ったように眉を下げて小首を傾げた。
「このまま描いてもよろしいですか?」
「あ、はい。お客様がそれでよろしければ問題ありません。」
「とても可愛いらしいわ。この子を描いてみたくなりました。」
私はスヤスヤと眠るザジーをまっすぐに見つめ、キャンバスの上へと落とし込んでいった。しばらく下絵を描いたあとで、
「はい、とてもよいですね。本来ならもう少し時間をかけるのですが、本日はお試しですので、このまま絵の具をのせてみましょう。皆さまも絵の具を使ってみたいですよね?」
────────────────────
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芸術家には気難しい人が多いからということと、店内で自由にくつろいで欲しいという理由から、あえてそうしているんだそうですよ?とアンが教えてくれた。
確かにおかげでとてもくつろいでいた。私は既にこの店が好きになっていた。
絵を長めながら2階の一番奥にたどり着くと、私はそこに置かれた看板に目を留めた。
「──お試し絵画教室?」
声に出してそう言うと、室内にいた髪の毛を後ろで1つに束ねた若い女性が椅子から立ち上がり、笑顔で私に近付いて来た。
なんだか、とてもホッとする笑顔だった。人懐っこくて。それでいて押し付けがましさのない穏やかな雰囲気。こんなにも優しい性格が見た目にあらわれている人を見るのは、アンとアンの母親以来かも知れなかった。
私も思わず笑顔を返す。すると若い女性は改めて目を細めてニコッとしてくれた。
「絵を描くことに興味がおありですか?
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今なら無料で魔石の粉末入りの絵の具を使って絵を描いてみることが出来ますよ。」
貴族の屋敷にでも勤めていなければ、平民はきちんとした敬語なんて使えないものだけれど、その彼女は柔らかな物腰で、小ぶりで愛らしい唇から丁寧な敬語をつむいだ。
「はい……ぜひ、お願い致します。」
私は心惹かれるまま、お試し絵画教室の中へと入って行った。お連れの方もどうぞ、と言われて、アンも中に入る。途端に開いた窓から吹き込む柔らかな風に乗って、絵の具の匂いが濃くなった。
「おふたりとも描いてみますか?お子さま用のベビーベッドがありますので、よろしければお子さまはこちらに。」
そう言って、ミリアムと名乗った女性は、可動式のベビーベッドを、2つの台の上にそれぞれ置かれた小さなキャンバスの、前に置かれた椅子と椅子の間へと置いてくれた。
アンはいたくそれに感動して、ベビーベッドにニーナを寝かせた。だが椅子には座ろうとしない。どちらに座ってもいいわよ?と言うと、お嬢様を放っておいてそんなこと出来ません、と焦るように言った。イザークと違って、アンはやめても私を気にしてくれる。
私が従者も護衛もつけずに現れた時、アンはドアの前で一瞬だけ驚き、悲しげな表情を浮かべたあとで笑顔になった。ロイエンタール伯爵家での、私の置かれている状況を想像してしまったのだろう。やめるべきではなかったと思ってしまったのかも知れない。
ここにいる間は自分が守ろうと思っていてくれたのだろう。私はアンのその気持ちが嬉しかった。私の愛する妹のような幼なじみ。
「構わないわ。あなたはもう私のメイドではないのだから。私の乳姉妹として、一緒に楽しんでくれたら嬉しいわ。」
私に笑顔でそう言われたことで、アンは自分も絵を描いてみることにしたようだった。
私が窓際の日当たりのよいキャンバスの前の椅子、アンがニーナを寝かせたベビーベッドを挟んで隣に座ることになった。
それにしても、こんなサービスをしてくれる店が存在するのだなと私も感心した。
高級なレストランには何度か私も行ったけれど、基本小さなお子さまは入店拒否の為、こんなことをしてくれる店はない。子どもが泣いたら静かな店の雰囲気にはそぐわないからなのだろうけど、こういう場所がもっと増えてくれたら、子連れでの外出を楽しめる人が増えるのにと私は思った。
「まずはこちらで下絵を描いて下さい。果物と彫像をご用意しておりますが、モチーフは自由に選んで下さっても構いませんよ?」
そう言って木炭のペンのようなものを手渡してくれる。すぐに絵の具を使うわけではないと知り、少しだけガッカリしたが、顔には出さず、何を描こうかと考えていた。
アンは果物と彫像とを見比べてにらめっこしていたが、結局果物にすることにしたようだ。私は彫像を選ぶことにした。
「あっ!今日は駄目よザジー!」
そこに開いた窓からスルリと、茶色と黒のぶちの子猫が入って来たかと思うと、彫像の乗せられた台の上に飛び乗ってしまう。
そしてそのまま、日当たりのいい場所に置かれた台の上を、今日のお昼寝場所に決めてしまったようだった。
「もう……。困ったわね。
──あ、近所のおばあさんが飼っている猫なんですけど、こうして時々潜り込んで来るんです。絵にイタズラをしないから、普段は放っておいているんですが……。」
ミリアムさんは困ったように眉を下げて小首を傾げた。
「このまま描いてもよろしいですか?」
「あ、はい。お客様がそれでよろしければ問題ありません。」
「とても可愛いらしいわ。この子を描いてみたくなりました。」
私はスヤスヤと眠るザジーをまっすぐに見つめ、キャンバスの上へと落とし込んでいった。しばらく下絵を描いたあとで、
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