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4、浮遊

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初めの二週間は偵察に終始した。カラスの指示で偵察隊が動き、結界から出入りする人数や時間、その後の行き先なども、一日中、細かく報告させた。だが結界の外で得られる情報は高が知れていた。
 第一の誘拐は日が昇る少し前、未明に実行することになった。ほとんどエルフの出入りがなく、見咎められにくい時間だ。運が良ければ、行商人がこの時間に村を出立してくれる。村から少し離れたところで襲い、誘拐する算段だ。カラスは少数精鋭でノーラだけを連れて藪の中で息を殺した。
 まだ空は暗いが、真面目な一人の行商人エルフが結界から出てきた。小型の荷馬車に乗っており、どうやら追随する者はいない。性別は男なので、攫っても何の報酬もないが、情報が手に入れば何だって構わない。
 カラスは荷馬車と離れて並走し、村から充分に離れたところで仕掛けた。背後から近づき、音もなく荷馬車に跳び乗ると、後ろから睡眠薬を染み込ませた布で口を抑えつけた。御者を失った荷馬車は後から跳び乗ったノーラにコントロールさせ、無事に停止することができた。その後、荷馬車は丸ごと崖から落とし、行商人だけをダークエルフの里に連れ帰り、拷問してエルフの村の情報を吐かせた。用済みの遺体は森の中に埋めた。
 結界はノーラが言うには、正確な逆位魔法をかけることによって一時的に部分的に無力化できるらしい。一度結界内に入ってしまえば、もう探知されることもないそうだ。村の内部の様子や構造も詳しく分かった。カラスは計画を再考し、次は女の誘拐を実行することにした。
 エルフたちが寝静まった頃、カラスとノーラはエルフの村に侵入した。魔法の街灯が照らすのは、ダークエルフの村と違って瀟洒な建物だった。そこは村というよりは町だった。まっすぐに伸びていく道の両側にきちんと平屋の家々が並び、その先の先には、胴回り数十メートルはあろうかという大樹――聖樹が神々しいまでの枝々を広げている。聖樹の葉は青白い星のように発光し、時を忘れて見入ってしまいそうなほど幻想的な美をたたえていた。その膝元に人間の城を縦に押しつぶしたような平たい宮殿があった。高く空に突き出したものは聖樹を除いて何もない。エルフは謙虚な生き物だと聞いていたが、それが街の景観にもこんなに色濃く表れているとは想像していなかった。
 あの宮殿にエルフの王女がいると思うと、腹の底で黒いものがぞわりと動いたが、カラスは目の前の仕事に意識を戻した。
 今回の狙いは決まっている。フィーネという、商家の娘だ。王家――つまり王女とも多少の親交があり、しかし近すぎないくらいの人物を選んだ。それなりの報酬とともに王女に関する情報も手に入れるためだ。
 裏通りを歩いて誰にも出会うことなく、目的の家にたどり着いた。いわゆる金持ちの家のはずだが、他の家より少し面積が広いくらいで、ほとんど違いはなさそうだ。やはりこれも平屋だ。エルフの家は物理的な鍵と魔法的な鍵の二つによって守られているらしい。その一般的な解除方法は、今は土の下で眠っている商人が洗いざらい吐いてくれた。まずノーラが魔法的に鍵を開ける。これにはダークエルフとエルフの能力差のせいでだいぶ時間がかかったが、両者の魔力の差とはすなわち最大値ではなく加速度であるらしい。時間さえかければノーラにも解錠可能だった。ノーラは極めて優秀な魔術師でもあるのだ。次にカラスが物理的に解錠して侵入路を作った。
 暗い部屋の中に、女の寝息がかすかに聞こえ、呼吸に合わせて毛布が上下していた。睡眠薬を使って途中で目が覚めないようにしてしまえば、女を運び出すのは簡単だった。ご丁寧に鍵を掛けなおしてから退散したのは、少しでも今後の警戒レベルを低く維持してもらうためだ。エルフの里の結界にあけた穴も、ノーラに塞がせた。これで一人の娘が忽然と消え失せたわけだ。
 奪ってきたエルフは情報を取りつつ、苗床としてもさっそく利用されることとなった。間近で見たフィーネというエルフは、若く、美しく、清らかだった。体は引き締まって健康的で、乳房の張りもよい。カラスの住む街には、こんなにいい娼婦はいない。全裸の彼女が貧弱なダークエルフの男の上で跳ねるたび、豊かな金髪が躍った。ダークエルフの男はすぐに果ててしまうので、次から次へと交代で精が注ぎ込まれるが、フィーネのほうは物足りないような目でカラスのほうを見るのだった。無論それは軽蔑や嫌悪や絶望の合間に一瞬よぎった程度だったが。
 カラスはエルフの王女、エリシア姫の顔を思い起こし、跳ねる女の姿態に重ね合わせながら、種付けの様子を眺めるともなく眺めた。やがてノーラを連れて、与えられている部屋に戻った。
 フィーネから得た情報を元にして、次の誘拐、および姫をさらう計画を立てる。カラスが文机に向かっている間、ノーラは一言もしゃべらず、じっと待機していた。
 第二、第三の誘拐を実行した。身分が低く、コミュニティとの関わりも薄く、消えてもさほど話題にならないような女だ。そんな女でさえ、驚くほど美しい体をしていた。透き通るような白い肌は染み一つなく、形の良い控えめな胸の真ん中にピンと立った乳首が健康的だ。さらってきた女はすっかりダークエルフの男たちにくれてやった。感謝され称賛され金貨を受け取ってもカラスは表情を変えなかった。体の奥底でくすぶっている黒い生き物が、獲物の匂いを嗅ぎつけて、徐々に扉の向こうからこちら側へ出てこようとしている。
 さらってきたエルフの女を自分で抱かないのかと尋ねられたが、無視した。極上の獲物を前にして、半端なものを口にしたら全てが台無しになる。それに半端なエルフの女を抱かないのはカラスの決意でもあった。ドス黒い生き物が渇望しているのはこんな女ではなく、『あの女』だ。
「こっちに来い」
 カラスはベッドに仰向けに寝転んだままノーラを呼びつけた。
「俺を満足させてみろ」
「はい」ノーラはカラスの下半身に覆い被さった。部屋着の紐をほどき、男のものを露出させる。


 ノーラが丁寧に男をなめあげている間、カラスは次の計画について語った。
「二度目、三度目で街のことは把握できた。次はエルフの姫を狙う」
「んふ」ノーラは口にくわえたまま返事をした。
 カラスが次の作戦のために町の地理や警備の様子を調べていたことは、帯同したノーラは当然知っている。姫の暮らす王宮の周りには、深夜でも警備の兵が立っていた。だが警備は杜撰で、形の上で警戒態勢を取っているに過ぎず、襲撃者など一生現れないだろうという慢心に満ちていた。それもそのはず、魔法の結界を破って侵入してくる可能性があるのは同じ魔法が使えるダークエルフくらい。そのダークエルフに魔力で圧勝しているのだから、襲撃されても返り討ちにできると分かっているのだ。
 だからこそ、カラスのような人間と組むことで、ダークエルフに勝機が生まれる。
 ノーラは男のものから口を離し、てかてかと光るそれにさらなる唾液を垂らして、手でしごく。小さな両手の中で、たくましい肉の槍が歓喜に脈打つのが分かる。
「姫がセレモニー出席のために王宮から出て、会場に着くまでの間を狙う。おまえにも働いてもらうからな」
 情報は誘拐してきたエルフの女から入手済みだ。時間と予想される移動ルートくらいしか分からないが、この暗殺者にとってその程度で充分なのだろうか。
「ひるま、いっぱんじん」
「そうだ。日中は人目がある。だからこそ油断もある。馬鹿な連中は光の下でも危険が見えやしない」
 カラスがしゃべる間もノーラは槍をしごき続ける。だんだんとその瞬間が近づいてきていることが、手のひらを通して分かる。彼は一流の暗殺者で、実力はノーラの遥かに上のはずだが、今だけはノーラが手を緩めたり激しくしたりすることで、彼をコントロールできる。それが少し面白いような気がしてきた。
 ノーラは熱を感じながら、ゆっくりと手を上下させ、彼の反応を楽しんだ。
 ……もうすぐ。そう思って手を止めた。びくん、びくんと二度手の中で震えた。震えが止まってから、唾液を垂らし、再度手を動かす。動かしながら、先端を口にくわえ、舌で舐める。
 次にもうすぐだと感じたとき、再び手を止めた。震えが収まるまで待ってからしごきを再開する。
「おまえ学習したな。好きなようにやってみろ」
「んふ」
 ノーラは絶妙なところで手を止めては、再開した。カラスの硬い手のひらが、自分の太腿の辺りを撫でている。何かを求めるように、肌を探り、肌に潜り込もうとするように。「もうすぐ」の感覚がだんだんと短くなっている。次は手を止めなかった。最後まで念入りに、根元のほうまでしっかりと撫で上げて、精を思い切り吐き出させた。ダークエルフの男たちとは比べ物にならない量の熱が、一気に口内になだれ込んだ。三口で全部飲み込んだ。
 それでもやはり、カラスのものはまだたくましかった。繁殖力の衰えたダークエルフとは違うのだと、種の違いを認めざるを得ない。
 ノーラはベッドに押し倒された。カラスが上になり、部屋着の上下を乱暴にはだけさせると、乳房が空気に晒された。
 カラスの手が力強く乳房をわしづかむ。カラスの指が食い込んで、乳肉は指と指の間から逃れようとする異形の生物みたいに変形する。顔のほうに押し上げられたかと思うと、円を描くように大きくこねられ、また指を食い込ませる。かと思えば中央の苺をつまみ上げられ、親指と人差し指の腹と腹で挟んで硬さを確かめるようにコリコリと刺激された。ノーラは顔を横に向けて何も考えないようにしていたが、下腹部にかすかな疼きと熱の芯がぼうっと生まれてくる事実から思考を逸らすことはできなかった。いつものように薄く唇を引き結んで、何も思考しない従順な人形を演じた。
 しばらく胸を揉むのを楽しんだカラスは、ノーラの脚をつかみ、強い腕力で股を開かせてきた。ノーラが顔を正面に戻して、豊満な乳房の谷の向こうを見ると、股間にカラスが顔を近づけていくところだった。何をどうやって見られようが問題ではない。舌がいきなり入ってきて、内側を舐めるざらついた感触がちょっと気持ち悪くても、ノーラは抵抗しなかった。カラスが水を吸う音を立てる。短い髪が内股をくすぐる。
「ふぁっ……」不意にいちばん敏感な突起を弾くようになめられて、電撃が走り、声が出てしまった。自分が知っている自分の声とは似ているようで違う声だった。
「感じているならもっと声を出せ」
 感じている……?
 ノーラが言葉の意味を考える間もなく、カラスは舌で執拗に突起を転がし始めた。明滅する灯かりのように、頭が痺れる感覚が断続的に襲ってくる。それは不規則で予想できなくて、ノーラは口からさっきの奇妙な声が漏れそうになるのを耐えるだけで精一杯だった。
「おい、その手を放せ。痛いだろうが」
 不機嫌な声と不機嫌な顔で、谷越しにカラスがこちらを見ていた。言われてノーラは気づかぬうちに自分がカラスの頭を、髪を両手でつかんでいたと知った。パッと両手を放した。すると合図もなく無礼な舌がまた突起を弄び、舐め回し、秘所に忍び込んでは出鱈目に吸い付いてくるのだった。両手を伸ばして乳首も同時に刺激してきて、突起を思い切り吸われたときには意識ごと口の中に吸い込まれて消えてしまいそうな感覚が一瞬襲ってきた。自分の体と魂がベッド上にあって、天井を見つめていると分かったとき、ノーラはほっとして涙が出そうになった。
 死を恐れてはいない。ではどうしてこんなにもほっとしたのだろうか。その疑問についてじっくりと考える暇はなかった。カラスの肉棒が秘所を割り進んできたからだった。
「うー……」
 この前よりはマシだったが、相変わらず圧迫感がすごくて、奥に入ってこられるほど痛みが強くなって、息もまともにできない。
「ふー……ふー……ふー……」
 自分を落ち着けるように呼吸のリズムとスピードを意識する。だがそれも、カラスが急に腰を大きく突き出したことで壊されてしまった。
「うあっ! あっ……や!」
 カラスが腰を前後に動かす。痛い。体が無数の槍によって串刺しにされている。ノーラは首を振って、カラスが止まってくれるように頼む。カラスはこちらを見ているのに、むしろ動きを速める。
「んぅあっ! あっ! あぁう! まつ! カラス、まっ……、やめっ……!」
「まだ半分しか入れてないぞ」
 半分のわけがない。だってそれは奥まで届いていて、内側からノーラの全身を突き上げている。「はんぶん、んぁ……、ちがっ……」
「違わんぞ。全部ってのはこうだ」
「あっ――ぁぁぁああああっ!!」一瞬、意識が途切れて、戻ってきた。逆光の中、ぼんやりとした視界に男の顔が浮かんでいる。……笑っている。初めて見たカラスの笑みだった。
「分かったか?」カラスの声が耳に届いても、理解に時間がかかった。「声も出ないか? ダークエルフの男どもは、だいぶ貧弱みたいだが、人間はおまえたちと違って世界で最も繁栄した種族だ。その事実が体で理解できるだろう?」
 なんと答えればいいのか、考えようとしても無駄だった。カラスが本気で動き始めると、体と魂が分離したみたいにふわっと浮き上がる感覚があって、思考するどころではなかった。この前の――初めてカラスに貫かれたときとはまた違う感覚だった。痛みはあるが、浮き上がって落ちそうな、不安と心地よさのほうが強い。パンパンと互いの体がぶつかりあって、脳髄が揺さぶられて、その激しい振動でここでないどこかへ飛ばされてしまいそうだ。その恐怖。その解放感。その幸福感。上下の感覚も消えて、意識は溶け出して流れていきそうな脳の中へと落ちていく。大きなものに包まれていく。
「ふぅっ、はっ……、はぅ……♡」
「顔が蕩けてるぞ」
「あっ♡ んんぁ♡ んふぅ♡ んお♡」
「もう何も聞こえないってか。とんだビッチめ」
 カラスが抽挿を加速させる。滑らかで力強い腰の動き。体のぶつかり合う音も、カラスの体温も、汗ばんだ肌の感触も、直接ノーラの頭蓋に流れ込んでくる。混ざり合って一つになって熱の塊になっていく。その熱の中ではもう痛みをこれっぽっちも感じなかった。自分の喉から何かしらの声が出ていることは分かるが、もはや声として認識することは不可能だった。カラスのものをしっかりと咥え込んだ肉襞を通じて、その時が近づいていることは分かっていた。途切れては一瞬後に繋ぎ直される意識。もう少しでぶつりと断絶してしまいそうなのに、肉襞だけははっきりとカラスの存在を捉えて離さない。押し寄せる巨大なものの気配が色濃くなっていく。何かが来る。体と意識の奥底から――。
「んんぁああああああああああっ♡」
 限界まで膨らみ切ったものが弾けて割れて、ドッと精液が放出されるのが分かった。ノーラの膣は歓喜に打ち震えて、一滴たりとも逃すまいと、蠕動して竿を絞ろうとする。その動きに合わせてカラスもさらに大量の精子を吐き出した。ビクンビクンと跳ねる体を止められない。限界まで仰け反らせた体は、まだ膣の奥にカラスを感じている。絶叫の残りのような枯れた音が、喉から最後に転がり出た。
 意識がまともに戻ってきたときには、いつの間にかカラスは膣から竿を抜いていた。ねっとりとしたものが股の間から垂れていくのが分かった。まだ体は言うことを聞かず、空気のかすかな動きにさえ翻弄されるように、ガクガクと震えた。
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