吉田定理の短い小説集(3000文字以内)

吉田定理

文字の大きさ
4 / 17

『少女とロボット』 約2000文字

しおりを挟む
 小雨の降る夜、赤い傘を差した少女が巨大なロボットを見上げていた。
 ロボットの全身は鈍色にくすんだハイドレンジア合金の装甲に覆われ、高さは建物の三階に達する。胴体は太っちょで、肩幅は広く、胴体に対してやけに細長い手足を二本ずつ持っている。頭部は胴体に埋め込まれており、目のような緑色のライトがひとつ、胸のあたりで心臓の鼓動のように規則正しい明滅を繰り返している。頭のない不格好な人間とでもいうような姿だった。装甲には傷や汚れや焦げ跡があちこちにあり、戦闘の激しさをうかがわせた。
 そんなロボットを見上げる少女は、まだ十二、三くらいで、戦闘とは無縁のあどけない顔をしている。
 ここは町のはずれの、比較的戦闘の少ない地域だ。それでも少女の立っている道の真ん中から、被害の様子をいくらでも探すことができる。ひび割れたアスファルト、積み上がった瓦礫の山、焼け焦げて骨組みだけになった自動車、横っ腹にミサイルが命中してえぐれた五階建てのマンション。遠くで聞こえる砲撃の音、物悲しい犬の遠吠え。
 町は夜の闇と冷たい雨とに包まれて、死んだように静まり返っている。
「そんなところにいたら濡れちゃうよ」
 少女は友人にでも話しかけるような調子で、ロボットの胸で明滅しているライトにむかって言った。
 ロボットは巨体をぴくりとも動かさず、何も答えなかった。合金に覆われた表面を、雨粒が滴り落ちていく。
「もしかして、誰かを待っているの?」
 少女はめげずに問いかけた。
「レオナ、やめておけ」
 同じくらいの年の少年がどこからともなく現われて、少女の隣に並んだ。雨に濡れた短い髪の下で、鋭い目がロボットの腕の先にむいた。指がない代わりに、銃弾を発射するための穴がハチの巣状に並んでいる。
「こいつは解放軍の自律思考型の殺人ロボだ。こんなところを役人に見られたら疑いをかけられるぞ」
「自律思考型だから、おしゃべりだってできるのでしょう?」
 少女はようやく少年の方をむいた。
「できるだろうけど、壊れちまったんだろ。まともに動かなくなったから、こんなところに放置されてるんだ」
「なんだか、かわいそう」
 言いながら、ロボットの明滅するライトを再び見上げる。一定の機械的なリズムには、何の意図も読み取れない。
「なに言ってんだ、行くぞ」
 少年が道を横切って建物と建物の間に駆け込み、姿を消す。
 少女は数秒間、じっと目に焼きつけるようにロボットを注視すると、少年のあとを追って歩き出す。


 その日も分厚い雲が太陽を隠し、しとしとと雨が降っていた。
 道の真ん中に立ち塞がるように立っているロボットを、赤い傘を差した少女が見上げていた。
「私のお父さん、戦争で死んじゃったんだって。本当かどうかわからないけれど。すごく優しくて、大きくて、大好きだったのに。実はまだ、どこかで生きているのかも」
 ロボットはやはり何も答えず、細長い手足を一ミリたりとも動かしもせず、胸のライトを一定の間隔で明滅させているだけである。
 左脚のハイドレンジア合金の装甲と装甲の隙間から、黄色やピンクや白の花の束が飛び出している。自然に生えてきたものではなく、今朝、少女が生けたのだ。
 一台の大型トラックが町の外の方向からむかってきた。トラックはロボットと少女の手前で、けたたましい音を立てて止まった。荷台にはクレーンのような重機が設置されているが、それでもまだかなりの荷物が積めそうな広いスペースがあった。
 運転席からひげの老人が降りてきた。
「お前さん、何をしとるんだ?」
 老人が古いエンジンみたいなガラガラした声で尋ねた。少女は指の数が少ない老人の手を見て、
「おしゃべり。それから、お花をあげたの」
 老人は眉根を寄せ、少女からロボットの脚へと視線を移した。脚の装甲の間から花が飛び出しているのを見て、
「おかしな奴だな。どけ、仕事の邪魔だ」
 ロボットに近づいてくる老人に、少女は下がって道をゆずり、
「ロボットをどうするの?」
「こいつに乗せて工場に運ぶ。修理してまた戦場に送り出す」
 老人は場違いな生け花には目もくれず、ロボットの周りを歩き回って状態を確かめていた。それが済むと、運転席に乗り込み、トラックを動かして荷台をロボットの側にむけ、さらにクレーンの位置を調整して、ロボットを動かす作業を始めた。
 少女は道を渡って建物の軒下に移動し、その様子を眺めていた。老人は運転席のドアを開けて、何度も振り返って位置を確かめながら、ロボットを完璧に荷台に寝かせた。脚の花はそのまま刺さっていた。
「悪いな。じゃあな」
 老人は最後まで作業を見ていた少女にそれだけ言って、大音量のエンジンを響かせ、去っていった。
 ロボットがいなくなった道の真ん中に歩み出て、少女は赤い傘ごしに灰色の雲に覆われた空を見上げた。
「またどこかで会えるかな」
 そのつぶやきは、しとしとと降る雨に消えていく。
 遠くで砲撃の音が鳴っていた。


おわり


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お題は「雨とSF」でした。
SFは普段書かないジャンルなので、とりあえずロボット出しとくか、みたいな安易な発想。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛

MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...