吉田定理の短い小説集(3000文字以内)

吉田定理

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『そうだ、地球へ行こう』 約2500文字 エブリスタ妄想コン

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 私は旅行が趣味でして、ほら、旅行って、計画の段階で、どうやって行くか考えたり、泊まる場所を比べたり、その土地の名産やローカルフードっていうんですか、ソウルフード? そういう、そこだけにしかないものを調べたりして、ああでもない、こうでもない、やっぱりああでもない、って、こねくり回すのが、私は昔から好きなんですよ。人によっては、こういうことを面倒くさがって、パック旅行とかにしちゃう人もいるでしょう? それはそれで楽だし、いいんですけど、私としては、それではあまりに味気ないというか、醍醐味はもっと別のところにあると思うんですよねえ。決まった時間に、みんなで同じ場所を訪れて、同じ店で同じ料理を食べてっていうよりも、時には予定のコースから外れて迷ってしまって、全然違うほうへ行ってしまったり、その結果、地元の人間しか知らないような大衆食堂をたまたま見つけて、そこで食べる平凡な料理に意外に感動したり、ちょっとした出会いがあったりして、そういう予定外の嬉しさっていうものが、やっぱり醍醐味だと思うんです。そんなのは時間の無駄だ、必要な情報だけくれ、っていう人もいますけど、一見無駄に見えるこういうところから、意外に価値のある情報が取れたりするわけです。観光地っていうのは、いわば外向きに飾られた場所、虚構じゃないですか。だけど、観光地から外れたような場所は、観光客は滅多に訪れなくて、地元の人間が素のままで暮らしている、生活しているところでしょう? 建物とか、庭とか、人間の格好とか、畑で何を育てているかとか、生活全般、文化全般、風俗風土、そういうもので気になったことがあれば何でも、いちいち私はじっくりと眺めてみて、時には一匹や二匹くらいは詳しい分析のために採取させてもらったりもするんですけど、ああ、ここはこういう場所なんだなって自分で発見したいんですよ。ガイドブックに書いてあるようなことは、ガイドブックを読めば分かるんだから、わざわざ現地まで行く必要ないじゃないですか。ガイドブックに書いてないことこそ、実際に行って、自分の足でその土地を回ってみて、自分の目で発見する価値のあることだと思うんですよねえ。まあ、私の場合は、もちろんガイドブックも事前にきちんと目を通しますよ。『地球の歩き方』っていう本のシリーズがあるんですが、あれは本当に素晴らしいですよ。あれに載っているのは、まあときにはおかしな情報もあるみたいですが、あれを隅から隅まで読んで、その上で現地に行って、紙面に書けなかったようなことまで、自分の目や耳や肌で感じるんです。そうすると、その土地の本当の価値、そこの人間の本当の性質が分かる。真実というのは、手間をかけて確かめないとダメですよ。ここは住みやすそうだとか、いい栄養成分が生産されそうだとか、こっちの人間は従順でよく働きそうだとかね、聞いた情報なんかは、みんな誇張されたりしていて、下手をしたら一度も現地に行ったことのないような素人みたいなのが、データだけ見ながら知ったふうに説明するわけですよ。そんなのは、完全には信用できないですから。その点、現地で直接目で見れば一目瞭然、百聞は一見に如かず、っていうものがたくさんあるんですよ。あとはね、wikipediaってWEBサイトがあるんですけども、これも必ず目を通しますよ。あれは非常に分かりやすく、各国の情報が、詳しくまとまっていますからね。歴史的にね、複雑なことがあったりした地域は、いろんなしがらみが邪魔して、やはりなかなかうまくやり繰りすることは難しいですから、そういうところはできるだけ避けて、誰だって扱いやすいところを選びたいでしょう? 戦争なんかが頻発してるような地域をつかまされたら、大変ですから。まあ、基本的には、地球っていう星は、どこもかなり魅力的ですから、ほとんど砂漠しかないようなところとか、戦争紛争をやっている地域をのぞけば、非常に価値ありですよ。それでも、やっぱり事前に足を運んでみて、ああ、やっぱり地球はいいな、その中でも、この地域は自分の性格とか、やり方に合っていそうだな、利用できそうだな、っていうことで、絞っていくわけです。もう私は、二十回以上、現地を見に行ってますよ。いや、危険なことなんて何もありません。せいぜい銃や爆弾で武装した連中にちょっかいをかけられるくらいですから、よほどのヘマをしない限りは、怪我をすることもないでしょう。それも一部の地域だけで、たいていの場所は、人間という生き物はフレンドリーで、我々のような存在を疑うこともないものです。ええ、まあ、そういうわけで、多様な文化、文明の根付いた地球と人類を、せっかく分割支配するんですから、ちゃんと視察をしてから、自分が支配したい地域を選んだほうが、得策なんじゃないですかね。表面的な情報だけ鵜呑みにして、全部の分割が決まったあとで、そっちの地域のほうが良かったとか、こっちの人種のほうが使えそうだとか言っても、遅いということです。みなさん、損をしないように、労力をかけるべきところには、きちんと労力をかけましょうよ、っていうことですね。では、もしも今日、私の話を聞いて、地球に足を運んでみたいなと思ったら、来週、『地球分割支配セミナー ~そうだ、地球へ行こう~』の第二回が開催することになっていまして、また私がこんなようなことをしゃべりますので、受講してもらうのがいいと思います。そこで、人間の振りをして地球の現地視察をするためのノウハウとか、見ておくべき最重要地域のリストとかもお教えしますし、地球の支配権って本当に価値があるのか、人類なんて支配したところで実際に役に立つのか、どうやったら使いこなせるのか、っていう疑問にも、明確にお答えしますから。冒頭にもちょっとお話しましたけど、私はね、もう十個以上の文明惑星の支配事業とか、異星人の支配事業に関わっているので、間違いないですから。そういうわけで、今日はこのへんで終わりにしますけど、興味があるかたは、ぜひ来週のセミナーも予約してみてください、お金はかからないのでね、聞いて損するってこともないでしょうから。じゃあこれで、『地球分割支配セミナー ~そうだ、地球へ行こう~』の第一回は、終わらせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。


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エブリスタさんの妄想コンテストに出したもの。
お題は『そうだ、○○へ行こう』でした。
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