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恋のライバル
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私には好きな人がいる、その感情は決して認められるものではない。
言うことは簡単だけれど、それが周りから認められるかなんて別問題。
コンビニで買った唐揚げ棒を食べながら、そんなことを思う。
「私にはお兄ちゃんしかいない……」
過去にしてきた兄に対する好意による行動の数々。
部屋に貼った写真。監視カメラ。配信中に何度も口にした「お兄ちゃん」という言葉。
『さすまた』としての私ならお兄ちゃんに優しく接することができる……でもそれはリアルではない、空想上の中でしか私は素直になれないだけだ。
それにお兄ちゃんの傍には不知火佳澄という人がいる――彼女とお兄ちゃんの関係の溝は私よりもっと深い。幼馴染という、私には絶対に手に入らない繋がり。
私何やってるんだろ、勝手にライバル意識抱いて、勝手に嫉妬してる……。
「バカみたい私」
そう呟いた時だった。
「あれ? 京極さん?」
聞き覚えのある声がした。
ふと、振り向くとそこには手に買い物袋をぶら下げている不知火さんがいた。
「不知火さん……ど、どうも」
私は咄嗟に優等生の仮面を被る。背筋を伸ばして、丁寧な口調で。
「こんにちは。こんばんは、かな?」
ゆったりとした雰囲気のある不知火さん。
私は彼女のおっとりとした空気を前にしていると、不知火さんが口を開いた。
「ちょっとだけ、私と一緒に歩かない? すぐそこまでさ」
そう言って、不知火さんは少し離れた建物のところを指した。
疑問に思いながらも、私は首を縦に振った。
「おうちではお兄さ――京極くんは普段何してるの?」
「ふ、普段ですか? ……勉強とかじゃないですか? あまり兄さんとは関わりがないので」
嘘だ、めちゃくちゃ重い好意を兄に向けている。配信では「お兄ちゃん」と何度も呼びかけている。部屋にはお兄ちゃんの写真が壁一面に貼られている。
「へぇー、確か涼香ちゃんは義妹なんだよね?」
「はい、そうですね」
「お兄さんに対して思うところはないの?」
彼女のその言葉に私は足を止めた。
思うところ……か。
「な、ないです……」
またも嘘。ありすぎる。好きで好きで、たまらない。
「そっか、じゃあ。私が健星くんが好きでも問題ないね」
「――ッ!?」
思わず体が固まった。
す、好き? 何言って……。
「あはは、冗談上手いですね不知火さん」
私は優等生の笑顔で返す。でも、心臓が激しく鳴っている。
「うんうん、これは私の本心だよ」
「……そ、そうですか」
分かっていた、あれだけ私より長く兄といる不知火さんが兄のことが好きなことなんて容易に想像できることだ。
でも好きという気持ちは私も同じだ。負けない。絶対に負けたくない。
「不知火さん、兄さんのどこが好きなんですか?」
私は冷静だった――いや、冷静を装っていた。
優等生の仮面の下で、嫉妬の炎が燃えている。
私は冷静を演じながら不知火さんに問いかけた。
「えっと……言葉にするのは難しいけど。真面目なのに優しいところとか、横顔が凛々しくてカッコイイ。私にないものを沢山持っているから私は昔から健星くんのことが好きなの」
至極真っ当な理由だった。
不知火さんは本気だ。
私を脅すためのわざとや嘘の類じゃない――私と同じ恋している人の目をしている。
……でも。
不知火さんは、お兄ちゃんの部屋に写真を貼ったりしない。
不知火さんは、お兄ちゃんの部屋を監視したりしない。
不知火さんは、VTuberになってまでお兄ちゃんと繋がろうとしたりしない。
私の想いの方が、ずっと重い。ずっと深い。
「そうなんですね……安心してください、兄には言わないので」
「うん、ありがとう。私、涼香さんには負けないつもりだから」
「――えっ? どういう……」
優等生の仮面が、一瞬だけ崩れそうになる。
「さあ? どういう意味でしょうか」
不知火さんは微笑んでいる。でも、その目は――私の本心を見抜いているような気がした。
そんな会話をして、私と不知火さんの話は終わった。
そして、彼女と別れたあと、私は心にあるモヤモヤを晴らすように決心した。
「ライブ配信しなきゃ……!」
『さすまた』として。お兄ちゃんへの想いを、全部吐き出す。
不知火さんには負けない。
お兄ちゃんは、私のものだ。
私だけのものだ。
そう、心の中で叫びながら、私は家に向かって走り出した。
言うことは簡単だけれど、それが周りから認められるかなんて別問題。
コンビニで買った唐揚げ棒を食べながら、そんなことを思う。
「私にはお兄ちゃんしかいない……」
過去にしてきた兄に対する好意による行動の数々。
部屋に貼った写真。監視カメラ。配信中に何度も口にした「お兄ちゃん」という言葉。
『さすまた』としての私ならお兄ちゃんに優しく接することができる……でもそれはリアルではない、空想上の中でしか私は素直になれないだけだ。
それにお兄ちゃんの傍には不知火佳澄という人がいる――彼女とお兄ちゃんの関係の溝は私よりもっと深い。幼馴染という、私には絶対に手に入らない繋がり。
私何やってるんだろ、勝手にライバル意識抱いて、勝手に嫉妬してる……。
「バカみたい私」
そう呟いた時だった。
「あれ? 京極さん?」
聞き覚えのある声がした。
ふと、振り向くとそこには手に買い物袋をぶら下げている不知火さんがいた。
「不知火さん……ど、どうも」
私は咄嗟に優等生の仮面を被る。背筋を伸ばして、丁寧な口調で。
「こんにちは。こんばんは、かな?」
ゆったりとした雰囲気のある不知火さん。
私は彼女のおっとりとした空気を前にしていると、不知火さんが口を開いた。
「ちょっとだけ、私と一緒に歩かない? すぐそこまでさ」
そう言って、不知火さんは少し離れた建物のところを指した。
疑問に思いながらも、私は首を縦に振った。
「おうちではお兄さ――京極くんは普段何してるの?」
「ふ、普段ですか? ……勉強とかじゃないですか? あまり兄さんとは関わりがないので」
嘘だ、めちゃくちゃ重い好意を兄に向けている。配信では「お兄ちゃん」と何度も呼びかけている。部屋にはお兄ちゃんの写真が壁一面に貼られている。
「へぇー、確か涼香ちゃんは義妹なんだよね?」
「はい、そうですね」
「お兄さんに対して思うところはないの?」
彼女のその言葉に私は足を止めた。
思うところ……か。
「な、ないです……」
またも嘘。ありすぎる。好きで好きで、たまらない。
「そっか、じゃあ。私が健星くんが好きでも問題ないね」
「――ッ!?」
思わず体が固まった。
す、好き? 何言って……。
「あはは、冗談上手いですね不知火さん」
私は優等生の笑顔で返す。でも、心臓が激しく鳴っている。
「うんうん、これは私の本心だよ」
「……そ、そうですか」
分かっていた、あれだけ私より長く兄といる不知火さんが兄のことが好きなことなんて容易に想像できることだ。
でも好きという気持ちは私も同じだ。負けない。絶対に負けたくない。
「不知火さん、兄さんのどこが好きなんですか?」
私は冷静だった――いや、冷静を装っていた。
優等生の仮面の下で、嫉妬の炎が燃えている。
私は冷静を演じながら不知火さんに問いかけた。
「えっと……言葉にするのは難しいけど。真面目なのに優しいところとか、横顔が凛々しくてカッコイイ。私にないものを沢山持っているから私は昔から健星くんのことが好きなの」
至極真っ当な理由だった。
不知火さんは本気だ。
私を脅すためのわざとや嘘の類じゃない――私と同じ恋している人の目をしている。
……でも。
不知火さんは、お兄ちゃんの部屋に写真を貼ったりしない。
不知火さんは、お兄ちゃんの部屋を監視したりしない。
不知火さんは、VTuberになってまでお兄ちゃんと繋がろうとしたりしない。
私の想いの方が、ずっと重い。ずっと深い。
「そうなんですね……安心してください、兄には言わないので」
「うん、ありがとう。私、涼香さんには負けないつもりだから」
「――えっ? どういう……」
優等生の仮面が、一瞬だけ崩れそうになる。
「さあ? どういう意味でしょうか」
不知火さんは微笑んでいる。でも、その目は――私の本心を見抜いているような気がした。
そんな会話をして、私と不知火さんの話は終わった。
そして、彼女と別れたあと、私は心にあるモヤモヤを晴らすように決心した。
「ライブ配信しなきゃ……!」
『さすまた』として。お兄ちゃんへの想いを、全部吐き出す。
不知火さんには負けない。
お兄ちゃんは、私のものだ。
私だけのものだ。
そう、心の中で叫びながら、私は家に向かって走り出した。
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