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自分の本心
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家に帰宅した私はゆっくりと玄関扉を閉めた。
私の脳裏にはお兄ちゃんへの想いと、不知火さんが放った『好き』という言葉。
お兄ちゃんを独占したいのは私も同じ。だから、少しでも不知火さんとの距離を縮めるためにも私は『さすまた』として配信を続けなきゃ。お兄ちゃんに私の想いを伝え続けなきゃ。
靴を脱いで玄関をあがった時、視線の先にはお兄ちゃんが立っていた。
「お、お兄ちゃん……」
思わず声が震える。
「おかえり、涼香」
優しくお兄ちゃんが言う。その声に、胸が締め付けられる。
「なぁ、涼香。今日は配信しないのか?」
お兄ちゃんはただ自然と聞いてきた。その顔は心配してるような表情で、私は思わずお兄ちゃんの顔を見つめた。
……お兄ちゃん、待っててくれたの?
私のために?
そして、私は口を開いた。
「するよ」
それを聞いたお兄ちゃんは目を見開いた。
「本当か!」
「うん、お兄ちゃんに『さすまた』の――いや、私を見てもらいたいから! お兄ちゃんだけに!」
少しでも不知火さんとの距離を埋めるためにも、私には配信をしなきゃいけないという葛藤があった。『さすまた』としてなら、お兄ちゃんに素直に甘えられる。お兄ちゃんへの想いを、堂々と口にできる。
「だから、お兄ちゃん。手伝ってくれる? 私の隣に、いてくれる?」
「任せろ、俺はお前の兄貴だからな」
お兄ちゃんが、優しく微笑む。
その笑顔を見て、私の心が温かくなる。
ああ、やっぱり私は――お兄ちゃんが好きだ。
不知火さんには、絶対に負けたくない。
「じゃあ、準備しよう。お兄ちゃん」
「ああ」
私たちはお互いを見つめ合い、そして、理解したように頷いた。
私は二階に駆け上がって、自分の部屋に入った。
配信機材が並ぶ部屋。壁一面に貼られた、お兄ちゃんの写真。
この部屋こそが、私の本当の姿。
優等生の仮面を脱いで、お兄ちゃんへの想いを全開にできる場所。
私は素早く着替えて、ピンクのパーカーを着る。眼鏡をかけて、髪を適当に結ぶ。
そして、配信の準備を始める。
モニターを立ち上げて、マイクの接続を確認して、アバターを起動する。
コンコン。
ドアがノックされた。
「涼香、入っていいか?」
「うん、どうぞ」
お兄ちゃんが部屋に入ってくる。
私の配信部屋を見慣れた様子で、お兄ちゃんは配線をチェックし始める。
「音声レベル、大丈夫そうだな」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「画質も問題ない。コメント欄の設定も……よし、完璧だ」
お兄ちゃんの手際の良さに、私は少し見とれてしまう。
昨日から裏方をやってもらってるけど、もうすっかり慣れてる。
「じゃあ、始めるか」
「うん」
私は深呼吸をして、椅子に座った。
モニターには、『さすまた』のアバターが映っている。
ピンク色のツインテール。猫耳ヘッドセット。
これが、私のもう一つの姿。
お兄ちゃんに甘えられる、私の本当の姿。
「いくよ、お兄ちゃん」
「ああ、頑張れ」
お兄ちゃんが、私の肩にそっと手を置いた。
その温もりが、胸に染みる。
「お兄ちゃん……」
「どうした?」
「……ううん、なんでもない」
私は小さく微笑んで、配信開始ボタンを押した。
画面が切り替わる。
コメント欄が流れ始める。
視聴者数が、みるみる増えていく。
「はいどもー! さすまたデース! 今日はね……ちょっと特別な配信にしようと思うんだ」
私は、いつもより少しだけ声を震わせながら言った。
「今日は、お兄ちゃんの話、たくさんしちゃうから……みんな、聞いててね」
コメント欄が一気に加速する。
『きたあああ!』
『ブラコン全開モードか!』
『お兄ちゃん話待ってた!』
私は、画面の向こうのリスナーたちに向かって――いや、部屋の隅にいるお兄ちゃんに向かって、語り始めた。
私の想いを。
全部、全部。
私の脳裏にはお兄ちゃんへの想いと、不知火さんが放った『好き』という言葉。
お兄ちゃんを独占したいのは私も同じ。だから、少しでも不知火さんとの距離を縮めるためにも私は『さすまた』として配信を続けなきゃ。お兄ちゃんに私の想いを伝え続けなきゃ。
靴を脱いで玄関をあがった時、視線の先にはお兄ちゃんが立っていた。
「お、お兄ちゃん……」
思わず声が震える。
「おかえり、涼香」
優しくお兄ちゃんが言う。その声に、胸が締め付けられる。
「なぁ、涼香。今日は配信しないのか?」
お兄ちゃんはただ自然と聞いてきた。その顔は心配してるような表情で、私は思わずお兄ちゃんの顔を見つめた。
……お兄ちゃん、待っててくれたの?
私のために?
そして、私は口を開いた。
「するよ」
それを聞いたお兄ちゃんは目を見開いた。
「本当か!」
「うん、お兄ちゃんに『さすまた』の――いや、私を見てもらいたいから! お兄ちゃんだけに!」
少しでも不知火さんとの距離を埋めるためにも、私には配信をしなきゃいけないという葛藤があった。『さすまた』としてなら、お兄ちゃんに素直に甘えられる。お兄ちゃんへの想いを、堂々と口にできる。
「だから、お兄ちゃん。手伝ってくれる? 私の隣に、いてくれる?」
「任せろ、俺はお前の兄貴だからな」
お兄ちゃんが、優しく微笑む。
その笑顔を見て、私の心が温かくなる。
ああ、やっぱり私は――お兄ちゃんが好きだ。
不知火さんには、絶対に負けたくない。
「じゃあ、準備しよう。お兄ちゃん」
「ああ」
私たちはお互いを見つめ合い、そして、理解したように頷いた。
私は二階に駆け上がって、自分の部屋に入った。
配信機材が並ぶ部屋。壁一面に貼られた、お兄ちゃんの写真。
この部屋こそが、私の本当の姿。
優等生の仮面を脱いで、お兄ちゃんへの想いを全開にできる場所。
私は素早く着替えて、ピンクのパーカーを着る。眼鏡をかけて、髪を適当に結ぶ。
そして、配信の準備を始める。
モニターを立ち上げて、マイクの接続を確認して、アバターを起動する。
コンコン。
ドアがノックされた。
「涼香、入っていいか?」
「うん、どうぞ」
お兄ちゃんが部屋に入ってくる。
私の配信部屋を見慣れた様子で、お兄ちゃんは配線をチェックし始める。
「音声レベル、大丈夫そうだな」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「画質も問題ない。コメント欄の設定も……よし、完璧だ」
お兄ちゃんの手際の良さに、私は少し見とれてしまう。
昨日から裏方をやってもらってるけど、もうすっかり慣れてる。
「じゃあ、始めるか」
「うん」
私は深呼吸をして、椅子に座った。
モニターには、『さすまた』のアバターが映っている。
ピンク色のツインテール。猫耳ヘッドセット。
これが、私のもう一つの姿。
お兄ちゃんに甘えられる、私の本当の姿。
「いくよ、お兄ちゃん」
「ああ、頑張れ」
お兄ちゃんが、私の肩にそっと手を置いた。
その温もりが、胸に染みる。
「お兄ちゃん……」
「どうした?」
「……ううん、なんでもない」
私は小さく微笑んで、配信開始ボタンを押した。
画面が切り替わる。
コメント欄が流れ始める。
視聴者数が、みるみる増えていく。
「はいどもー! さすまたデース! 今日はね……ちょっと特別な配信にしようと思うんだ」
私は、いつもより少しだけ声を震わせながら言った。
「今日は、お兄ちゃんの話、たくさんしちゃうから……みんな、聞いててね」
コメント欄が一気に加速する。
『きたあああ!』
『ブラコン全開モードか!』
『お兄ちゃん話待ってた!』
私は、画面の向こうのリスナーたちに向かって――いや、部屋の隅にいるお兄ちゃんに向かって、語り始めた。
私の想いを。
全部、全部。
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