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第1怪:戦艦亀
ボッチ
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「そう言えば彼女――御園生さん、無事に入隊できたらしいよ。それも第四に」
各地で集められた怪獣情報を整理する中、不意に宗吾が口を開いた。
刹亜は資料を一つずつ確認する作業を続けながら、「御園生って誰だ?」と聞き返した。
「ほら、一週間前にあった入隊試験の日。ちょっと後から来た女性覚えてないかな? 僕口調で、刹亜のこと論破してた」
「ああ……あいつね。あれはまあ第四に行くだろうな。覚悟がんぎまってたし」
「しかも配属先はカラーブラックらしいよ」
「ブラック? あれ御伽噺じゃなかったのか?」
「どうやら違ったみたいだね」
「となるとあの噂もあながちも嘘じゃなかった感じか」
特務隊は、役割から主に六つの部隊に分かれている。
宗吾と刹亜が所属している事務及び雑用担当が第六部隊。怪獣と戦う覚悟か能力、またはその両方が欠けた者が配属される最も位の低い部隊である。因みに二人は第六において、各地から集められた怪獣情報の整理・管理を担当する部署に配属されている。
そして今話題に上がっている御園生が所属する第四は、特務隊の花形である怪獣討伐部隊。その名の通り怪獣を討伐し地上を奪還するために動く、覚悟と能力の双方が極めて高い者だけが配属される部隊である。
各部隊はその中でチームに分けられており、チーム名は色で表現される。そして第四のカラーブラックは、表向きの資料では存在しないことになっているチームだった。
「第四のカラーブラック。噂じゃ怪獣を使役してる部隊だったよな。そんなとこ行って大丈夫なのか?」
「うーん、僕が聞いた噂だと怪獣化する人間を集めたチームって話だったけど。まあ第四である以上危険は高そうだよね」
「ふむ。人間を怪獣化させる技術があるとしたら、実に興味深いの」
「おい、勝手に喋るなって」
不意に、刹亜の首に巻かれている白いマフラーがうねうねと動き出し、そこからやや甲高くも威厳ある声が漏れてきた。
白マフラーは制止する刹亜の呼びかけに対し、「大丈夫じゃ。ここには監視カメラも他の者も誰もおらん」と返し、さらに体をうねうねと動かした。そして刹亜の右耳下からポンと二本の長いひげとマロ眉が特徴的な顔を出し、「会ってみたいのう」と呟いた。
「怪獣化できる人間。会えば我のことについても何か分かるかもしれん」
「どうでしょう? いてもリュウさんとは成り立ちが違うでしょうし、あまり参考にはならないと思いますけど」
白いマフラー、もといリュウはマロ眉をピクリと上下させる。
「そうは言うが現状何も手掛かりを得られておらぬ。少しぐらい期待しても良いじゃろう」
「だからその手掛かりを探していろいろ調べてるだろ。あんまり贅沢言うなよ」
今から約七年前。居住区からこっそり抜け出した際に発見した発光する卵。そこから孵ったのがリュウであった。
当時は今よりもさらに小さく、見た目は白く細長い蛇のような姿をしていた。しかし口元には二本のたなびく髭が生えており、さらに人間で言う見事なマロ眉に、鮫のような牙も生えていた。
明らかに蛇とは違う、既存の動物とは異なる姿。怪獣であることは疑いの余地がなかった。しかも異常なまでに知能が高く、瞬く間に人語を学習し自ら話す能力を身に着けた。
宗吾と刹亜は最初、後にリュウと名付けることにしたその怪獣を特務隊に突き出すつもりでいた。しかしリュウは他の怪獣と違い人間に敵意はなく、それどころか怪獣から二人を助けるような行動を取ってくれた。
さらにリュウは生まれたばかりである自分のことを、「記憶喪失だ」と話した。
――我には何かすべきことがあったはずだ。何者かにそう託され、この地に来た……気がする。それに怪獣も人も、どちらにも見覚えがあるのだ。だが、思い出せん。
そんなリュウの発言から、二人はリュウが怪獣の起源に迫ることのできる鍵であると察した。それと同時に、リュウを特務隊に渡すことはせず、二人だけの秘密としてこっそり保護することを選んだ。
その選択は人類にとって間違いなくマイナス。けれども彼らがこの世界を生き残りたいと考えるうえでは至極当然の選択でもあり、誰にも責めることは出来なかっただろう。
さて、リュウを保護してから数年が経った頃、唐突にリュウが「怪獣についてもっと知りたい」と言い始めた。人間の生活をこっそりのぞき、時に体験してきたが、記憶が戻る気配はない。記憶を戻すにはもっと怪獣について知る必要があるのではないか、と。
それを聞いた刹亜と宗吾は、少しの協議の末に特務隊に入隊することを決めた。怪獣であるリュウを、怪獣討伐の本拠地に連れていくことはかなりの危険が伴うが、特務隊以上に怪獣について知れる場所はない。
居住区の頃から徹底させていた擬態をより一層完璧なものにした後、今からおよそ一年前に特務隊の入隊試験に挑戦。二人そろって希望通りの進路である怪獣情報の管理部に配属されることになり――今に至る。
刹亜の言い分を理解しつつも納得できないリュウは、抗議の意味を込めてかもぞもぞと体を動かし始める。
そのこそばゆさに負け、刹亜は「分かった分かった」とホールドアップした。
「まあ今後も関係が続くようなら、いつか詳細を聞く機会もあんだろ。うまくいけばその時に怪獣人間と話せるさ」
「うぬう。我は今すぐにでも話をしたいんじゃが。というよりここは刺激がなくて退屈過ぎる。記憶が戻る気配もないし、たまには外に出たいのじゃ」
「あんま無茶言うなって。普通地上には特殊な事情でもなきゃ出ることを許されてないんだ。昔いた居住区と違ってここには抜け道もないし、そうそう自由には――」
「あ、それなんだけど、外に行けるかもしれないよ」
「「え?」」
リュウと刹亜が口をぽかんと開けて宗吾を見つめる。
宗吾はポケットから一枚のチラシを取り出し、刹亜に渡した。
「これ、第五の研究員の友達から貰ったんだけどさ。今度第四と第五合同でとある大怪獣の調査に行く予定なんだって。だけど人手がもう少し欲しいらしくて、どの部隊でもいいから手伝ってくれる人を募集してるとか。地上に出る以上死の危険はあるけど、これなら比較的安全に、規則を破ることもなく地上に出られるしで一石二鳥だと思うんだけど、どうする?」
受け取ったチラシを眺めること数秒。刹亜は顔を上げ、しみじみと言った。
「……お前、交友関係めっちゃ広いな」
「ううん。刹亜がボッチなだけだよ」
各地で集められた怪獣情報を整理する中、不意に宗吾が口を開いた。
刹亜は資料を一つずつ確認する作業を続けながら、「御園生って誰だ?」と聞き返した。
「ほら、一週間前にあった入隊試験の日。ちょっと後から来た女性覚えてないかな? 僕口調で、刹亜のこと論破してた」
「ああ……あいつね。あれはまあ第四に行くだろうな。覚悟がんぎまってたし」
「しかも配属先はカラーブラックらしいよ」
「ブラック? あれ御伽噺じゃなかったのか?」
「どうやら違ったみたいだね」
「となるとあの噂もあながちも嘘じゃなかった感じか」
特務隊は、役割から主に六つの部隊に分かれている。
宗吾と刹亜が所属している事務及び雑用担当が第六部隊。怪獣と戦う覚悟か能力、またはその両方が欠けた者が配属される最も位の低い部隊である。因みに二人は第六において、各地から集められた怪獣情報の整理・管理を担当する部署に配属されている。
そして今話題に上がっている御園生が所属する第四は、特務隊の花形である怪獣討伐部隊。その名の通り怪獣を討伐し地上を奪還するために動く、覚悟と能力の双方が極めて高い者だけが配属される部隊である。
各部隊はその中でチームに分けられており、チーム名は色で表現される。そして第四のカラーブラックは、表向きの資料では存在しないことになっているチームだった。
「第四のカラーブラック。噂じゃ怪獣を使役してる部隊だったよな。そんなとこ行って大丈夫なのか?」
「うーん、僕が聞いた噂だと怪獣化する人間を集めたチームって話だったけど。まあ第四である以上危険は高そうだよね」
「ふむ。人間を怪獣化させる技術があるとしたら、実に興味深いの」
「おい、勝手に喋るなって」
不意に、刹亜の首に巻かれている白いマフラーがうねうねと動き出し、そこからやや甲高くも威厳ある声が漏れてきた。
白マフラーは制止する刹亜の呼びかけに対し、「大丈夫じゃ。ここには監視カメラも他の者も誰もおらん」と返し、さらに体をうねうねと動かした。そして刹亜の右耳下からポンと二本の長いひげとマロ眉が特徴的な顔を出し、「会ってみたいのう」と呟いた。
「怪獣化できる人間。会えば我のことについても何か分かるかもしれん」
「どうでしょう? いてもリュウさんとは成り立ちが違うでしょうし、あまり参考にはならないと思いますけど」
白いマフラー、もといリュウはマロ眉をピクリと上下させる。
「そうは言うが現状何も手掛かりを得られておらぬ。少しぐらい期待しても良いじゃろう」
「だからその手掛かりを探していろいろ調べてるだろ。あんまり贅沢言うなよ」
今から約七年前。居住区からこっそり抜け出した際に発見した発光する卵。そこから孵ったのがリュウであった。
当時は今よりもさらに小さく、見た目は白く細長い蛇のような姿をしていた。しかし口元には二本のたなびく髭が生えており、さらに人間で言う見事なマロ眉に、鮫のような牙も生えていた。
明らかに蛇とは違う、既存の動物とは異なる姿。怪獣であることは疑いの余地がなかった。しかも異常なまでに知能が高く、瞬く間に人語を学習し自ら話す能力を身に着けた。
宗吾と刹亜は最初、後にリュウと名付けることにしたその怪獣を特務隊に突き出すつもりでいた。しかしリュウは他の怪獣と違い人間に敵意はなく、それどころか怪獣から二人を助けるような行動を取ってくれた。
さらにリュウは生まれたばかりである自分のことを、「記憶喪失だ」と話した。
――我には何かすべきことがあったはずだ。何者かにそう託され、この地に来た……気がする。それに怪獣も人も、どちらにも見覚えがあるのだ。だが、思い出せん。
そんなリュウの発言から、二人はリュウが怪獣の起源に迫ることのできる鍵であると察した。それと同時に、リュウを特務隊に渡すことはせず、二人だけの秘密としてこっそり保護することを選んだ。
その選択は人類にとって間違いなくマイナス。けれども彼らがこの世界を生き残りたいと考えるうえでは至極当然の選択でもあり、誰にも責めることは出来なかっただろう。
さて、リュウを保護してから数年が経った頃、唐突にリュウが「怪獣についてもっと知りたい」と言い始めた。人間の生活をこっそりのぞき、時に体験してきたが、記憶が戻る気配はない。記憶を戻すにはもっと怪獣について知る必要があるのではないか、と。
それを聞いた刹亜と宗吾は、少しの協議の末に特務隊に入隊することを決めた。怪獣であるリュウを、怪獣討伐の本拠地に連れていくことはかなりの危険が伴うが、特務隊以上に怪獣について知れる場所はない。
居住区の頃から徹底させていた擬態をより一層完璧なものにした後、今からおよそ一年前に特務隊の入隊試験に挑戦。二人そろって希望通りの進路である怪獣情報の管理部に配属されることになり――今に至る。
刹亜の言い分を理解しつつも納得できないリュウは、抗議の意味を込めてかもぞもぞと体を動かし始める。
そのこそばゆさに負け、刹亜は「分かった分かった」とホールドアップした。
「まあ今後も関係が続くようなら、いつか詳細を聞く機会もあんだろ。うまくいけばその時に怪獣人間と話せるさ」
「うぬう。我は今すぐにでも話をしたいんじゃが。というよりここは刺激がなくて退屈過ぎる。記憶が戻る気配もないし、たまには外に出たいのじゃ」
「あんま無茶言うなって。普通地上には特殊な事情でもなきゃ出ることを許されてないんだ。昔いた居住区と違ってここには抜け道もないし、そうそう自由には――」
「あ、それなんだけど、外に行けるかもしれないよ」
「「え?」」
リュウと刹亜が口をぽかんと開けて宗吾を見つめる。
宗吾はポケットから一枚のチラシを取り出し、刹亜に渡した。
「これ、第五の研究員の友達から貰ったんだけどさ。今度第四と第五合同でとある大怪獣の調査に行く予定なんだって。だけど人手がもう少し欲しいらしくて、どの部隊でもいいから手伝ってくれる人を募集してるとか。地上に出る以上死の危険はあるけど、これなら比較的安全に、規則を破ることもなく地上に出られるしで一石二鳥だと思うんだけど、どうする?」
受け取ったチラシを眺めること数秒。刹亜は顔を上げ、しみじみと言った。
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