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不動の二日目
察知
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「そろそろ本題に入るとしようか。結局何の目的で藤城を連れてきたのか知らないが、ここから先は俺とお前の二人だけで話す約束だったはずだ。こちらも神楽耶には席を外させるから、その紫タキシードもさっさと部屋の外に出してくれないか」
「そうですね。皆さん食事は済んだようですし、本題に入りましょうか。藤城さん。連れてきておいて申し訳ないのですが、ここは一度部屋の外に出ていてもらえませんか。そんなに長い時間かかることはないでしょうから」
数珠をなでつつ、隣に座る藤城へと視線を送る。
意外にも藤城はすんなりと首肯し、潔く部屋を出ていった。彼が部屋を出ていくのを見届けてから、神楽耶も椅子から立ち上がる。ただし、藤城の後を追って部屋の外に出るわけではなく、談話室の隅に移動し、そこでしゃがみ込んだ。
一瞬口を開きかけるも、東郷が神楽耶を外に出すことはしないだろうと悟り、文句は胸中に留めておく。
二人が離れた後もしばらく会話は起きず、お互い黙したままの時間が続く。それぞれがこれから話す内容を脳内で選択し、どの情報を相手に掴ませようか、どう相手の動きを支配しようかと考え進める。
数分に及ぶ長い沈黙の末、口火を切ったのは東郷だった。
「銃持ちのプレイヤーの対処も急務だが、それ以上に厄介なことが起きるかもしれない。このまま進むと今日……はないだろうが、明日か、遅くとも明後日には必ず。三人組のチームが生まれる。最悪の場合、そいつらの一斉詠唱でゲームは終了するかもしれない」
「それでは、お先に失礼します」
東郷と神楽耶に向かって軽く頭を下げ、鬼道院は談話室を出た。部屋を出てすぐのところに藤城が待機しており、鬼道院を見るとにやけた笑みを浮かべて壁から背を離した。
特に言葉を交わすでもなく、二人は自然と別館に向けて足を動かし始める。
血命館独特の異常な静けさをしばらく味わってから、藤城が口を開いた。
「んで、どうだったんすか教祖様。東郷の野郎からは何か面白い話でも聞けましたかい」
ちっとも残念そうな表情を浮かべずに、鬼道院は「残念ながら」と首を横に振る。
「愉快な話は全く聞くことが叶いませんでした。彼らの場合、チームを組んでしまったことが仇となり、行動がかなり制限されてしまっているようです。それゆえ、部屋の外に出る時間も短く、ほとんど他のプレイヤーと接触できていないとか。唯一興味深かったのは、橋爪さんが自室で撲殺されていた、という話くらいでしょうか」
「橋爪って昨日すげえ恥かいてた野郎だよな。ちょい地味きつめ女にぼろくそに貶されてた。ふーん、あいつ死んだのか。まあキラースペルを所持してないことを堂々とアピールしちまってたし、狙われても別に不思議じゃなかったけどよ」
「ええ。ただ気になるのは、東郷さん曰く、橋爪さんはワインのボトルで撲殺された様子だったこと、です。この館にある道具を使って殺人を犯しても、ルール違反にならないようなスペル。もしかしたら一井さん以上に危険なプレイヤーが、この館にいる可能性があります」
「それはどうかねえ。普通にスペルで殺してから、偽装工作としてワインのボトル使って撲殺したように見せかけたのかもしれない。ま、東郷の言ってることなんて俺らを騙すための嘘八百だろうし、考えるだけ無駄だろうよ。信じるのは精々、橋爪が殺されたってことぐらいだろ。流石にそこから嘘だってことはねえと思うし」
この話題に興味がないのか、藤城は大きな欠伸などしながら適当に答え返す。そして目尻にたまった涙をぬぐうと、一転笑顔に変わり、声を潜めつつ尋ねてきた。
「それはそうと、俺、あの二人の弱みを見つけちゃいましたよ」
「あの二人、というのは東郷さんと神楽耶さんのことですよね? 弱みとは一体何でしょうか?」
琥珀石の数珠を指で触れながら、鬼道院は首を傾げる。
「教祖様も不思議じゃありませんでしたか。あの神楽耶って女がどうして東郷なんていう見るからに悪人面の優男とチームを組んだのか。そして東郷の野郎にしたって、自分は無実だとかくさい芝居をしている女とどうしてチームを組むことにしたのか。チームを組むってことは、相手に自分の命を預けるような行為。それが、あんな信用ならないもの同士でなぜ組むことに成功したのか」
「その答えが、思い浮かんだと――」
見るからに悪人面の優男と云えば、藤城さんの方がよっぽど当てはまるように見えますが……。などと内心で不敬なことを考えつつも、そんな気配はおくびにも出さずうまく合の手を入れる。
藤城は機嫌よく頷くと、体をより密着させながら囁いた。
「おそらくだが、あの二人の協力関係はひどく歪だぜ。東郷だけが神楽耶のキラースペルを知り、神楽耶は東郷のキラースペルを知らない――いや、それ以前に自分のスペルすら既に使用済みになってるんじゃねえかな」
予想外のことを言われ、鬼道院の目がいつもより僅かに大きく開く。すぐに目は元のサイズに戻るも、表情からは困惑の色を隠しきれていなかった。
「なぜ、突然そのような発想に? いくらなんでも、そんな不平等な関係を神楽耶さんが許容するとは思えませんが」
「いやいや教祖様。この場合不平等であることが良い方に働くんだよ。もし俺の言う通りの関係であるなら、神楽耶は東郷を殺す術を持っていないことになる。一方東郷もスペルを持たない無能力者を殺す必要なんてなくなる。結果、お互いがお互いを殺せない、殺す必要のない関係になり、安心してチームを組むことができるようになるってわけだ。
元からあの二人がチームを早々に組んでいたことに違和感があったんだ。加えて今日の話し合い。神楽耶は俺や教祖様の話に乗ってくるどころか、こちらを見ようとすらほとんどしなかった。あれは確実に、東郷に誤解されることを恐れての対応だ。下手に東郷以外のプレイヤーと関われば、スペルの受け渡しをしようとしている――つまり裏切ろうとしてるんじゃないかって勘ぐられるかもしれないからな。実際、俺も教祖様もあの女が一人でいる所を見たことはねえだろ」
にやにやと人を馬鹿にしたようないやらしい笑み。しかし、ことこう言ったゲームでは、想像以上に頼りになるのではと錯覚させる心強い笑み。
鬼道院は数珠を強く握り、ゆっくりと、大きく頷いた。
「言われてみれば、確かに……。もしそれが事実だとするなら、私たちは彼らに対して強力なアドバンテージを得たと言えますね。東郷さんさえ殺してしまえば、神楽耶さんを味方に取り込むことも可能」
「いやいや。ここは無理やりにでも東郷と神楽耶を一度引き離して、疑心暗鬼の芽を育ませんのが一番だろ。おそらく当初予定していた計画が全部ご破算になって、みっともなく取り乱すんじゃねえのかな。くくく、これからが楽しみになってくるぜ」
「そうですね。皆さん食事は済んだようですし、本題に入りましょうか。藤城さん。連れてきておいて申し訳ないのですが、ここは一度部屋の外に出ていてもらえませんか。そんなに長い時間かかることはないでしょうから」
数珠をなでつつ、隣に座る藤城へと視線を送る。
意外にも藤城はすんなりと首肯し、潔く部屋を出ていった。彼が部屋を出ていくのを見届けてから、神楽耶も椅子から立ち上がる。ただし、藤城の後を追って部屋の外に出るわけではなく、談話室の隅に移動し、そこでしゃがみ込んだ。
一瞬口を開きかけるも、東郷が神楽耶を外に出すことはしないだろうと悟り、文句は胸中に留めておく。
二人が離れた後もしばらく会話は起きず、お互い黙したままの時間が続く。それぞれがこれから話す内容を脳内で選択し、どの情報を相手に掴ませようか、どう相手の動きを支配しようかと考え進める。
数分に及ぶ長い沈黙の末、口火を切ったのは東郷だった。
「銃持ちのプレイヤーの対処も急務だが、それ以上に厄介なことが起きるかもしれない。このまま進むと今日……はないだろうが、明日か、遅くとも明後日には必ず。三人組のチームが生まれる。最悪の場合、そいつらの一斉詠唱でゲームは終了するかもしれない」
「それでは、お先に失礼します」
東郷と神楽耶に向かって軽く頭を下げ、鬼道院は談話室を出た。部屋を出てすぐのところに藤城が待機しており、鬼道院を見るとにやけた笑みを浮かべて壁から背を離した。
特に言葉を交わすでもなく、二人は自然と別館に向けて足を動かし始める。
血命館独特の異常な静けさをしばらく味わってから、藤城が口を開いた。
「んで、どうだったんすか教祖様。東郷の野郎からは何か面白い話でも聞けましたかい」
ちっとも残念そうな表情を浮かべずに、鬼道院は「残念ながら」と首を横に振る。
「愉快な話は全く聞くことが叶いませんでした。彼らの場合、チームを組んでしまったことが仇となり、行動がかなり制限されてしまっているようです。それゆえ、部屋の外に出る時間も短く、ほとんど他のプレイヤーと接触できていないとか。唯一興味深かったのは、橋爪さんが自室で撲殺されていた、という話くらいでしょうか」
「橋爪って昨日すげえ恥かいてた野郎だよな。ちょい地味きつめ女にぼろくそに貶されてた。ふーん、あいつ死んだのか。まあキラースペルを所持してないことを堂々とアピールしちまってたし、狙われても別に不思議じゃなかったけどよ」
「ええ。ただ気になるのは、東郷さん曰く、橋爪さんはワインのボトルで撲殺された様子だったこと、です。この館にある道具を使って殺人を犯しても、ルール違反にならないようなスペル。もしかしたら一井さん以上に危険なプレイヤーが、この館にいる可能性があります」
「それはどうかねえ。普通にスペルで殺してから、偽装工作としてワインのボトル使って撲殺したように見せかけたのかもしれない。ま、東郷の言ってることなんて俺らを騙すための嘘八百だろうし、考えるだけ無駄だろうよ。信じるのは精々、橋爪が殺されたってことぐらいだろ。流石にそこから嘘だってことはねえと思うし」
この話題に興味がないのか、藤城は大きな欠伸などしながら適当に答え返す。そして目尻にたまった涙をぬぐうと、一転笑顔に変わり、声を潜めつつ尋ねてきた。
「それはそうと、俺、あの二人の弱みを見つけちゃいましたよ」
「あの二人、というのは東郷さんと神楽耶さんのことですよね? 弱みとは一体何でしょうか?」
琥珀石の数珠を指で触れながら、鬼道院は首を傾げる。
「教祖様も不思議じゃありませんでしたか。あの神楽耶って女がどうして東郷なんていう見るからに悪人面の優男とチームを組んだのか。そして東郷の野郎にしたって、自分は無実だとかくさい芝居をしている女とどうしてチームを組むことにしたのか。チームを組むってことは、相手に自分の命を預けるような行為。それが、あんな信用ならないもの同士でなぜ組むことに成功したのか」
「その答えが、思い浮かんだと――」
見るからに悪人面の優男と云えば、藤城さんの方がよっぽど当てはまるように見えますが……。などと内心で不敬なことを考えつつも、そんな気配はおくびにも出さずうまく合の手を入れる。
藤城は機嫌よく頷くと、体をより密着させながら囁いた。
「おそらくだが、あの二人の協力関係はひどく歪だぜ。東郷だけが神楽耶のキラースペルを知り、神楽耶は東郷のキラースペルを知らない――いや、それ以前に自分のスペルすら既に使用済みになってるんじゃねえかな」
予想外のことを言われ、鬼道院の目がいつもより僅かに大きく開く。すぐに目は元のサイズに戻るも、表情からは困惑の色を隠しきれていなかった。
「なぜ、突然そのような発想に? いくらなんでも、そんな不平等な関係を神楽耶さんが許容するとは思えませんが」
「いやいや教祖様。この場合不平等であることが良い方に働くんだよ。もし俺の言う通りの関係であるなら、神楽耶は東郷を殺す術を持っていないことになる。一方東郷もスペルを持たない無能力者を殺す必要なんてなくなる。結果、お互いがお互いを殺せない、殺す必要のない関係になり、安心してチームを組むことができるようになるってわけだ。
元からあの二人がチームを早々に組んでいたことに違和感があったんだ。加えて今日の話し合い。神楽耶は俺や教祖様の話に乗ってくるどころか、こちらを見ようとすらほとんどしなかった。あれは確実に、東郷に誤解されることを恐れての対応だ。下手に東郷以外のプレイヤーと関われば、スペルの受け渡しをしようとしている――つまり裏切ろうとしてるんじゃないかって勘ぐられるかもしれないからな。実際、俺も教祖様もあの女が一人でいる所を見たことはねえだろ」
にやにやと人を馬鹿にしたようないやらしい笑み。しかし、ことこう言ったゲームでは、想像以上に頼りになるのではと錯覚させる心強い笑み。
鬼道院は数珠を強く握り、ゆっくりと、大きく頷いた。
「言われてみれば、確かに……。もしそれが事実だとするなら、私たちは彼らに対して強力なアドバンテージを得たと言えますね。東郷さんさえ殺してしまえば、神楽耶さんを味方に取り込むことも可能」
「いやいや。ここは無理やりにでも東郷と神楽耶を一度引き離して、疑心暗鬼の芽を育ませんのが一番だろ。おそらく当初予定していた計画が全部ご破算になって、みっともなく取り乱すんじゃねえのかな。くくく、これからが楽しみになってくるぜ」
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