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正義躍動する三日目
平穏な夜
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「それでは、お邪魔しましたのです」
ぺこりと頭を下げ、秋華が来た時と同じぼんやりとした表情のまま部屋を出ていく。
彼女が去ってからも数分は油断することなく扉を見つめ続ける。何も起こらず五分が過ぎたあたりで、明はようやく緊張を解いた。
少しだけ疲れた表情を浮かべた神楽耶が、「どうにも彼女は苦手です」とため息を漏らした。
「秋華さん、全然表情が動かないから何を考えているのかさっぱり分かりません。私たちの考えが正しければ藤城さんを殺したのは彼女のはずなのに、それをちっとも顔に出さない。それに時々ドキリとするような怖い発言を挟んできますし。今も結局何が目的だったんでしょうか?」
「あいつの言葉を素直に受け止めるなら、宮城に対する好感度調査みたいな話だったが。まさかそれが目的なわけもないしな。おそらくは誰が宮城を殺したカウンタースペルの持ち主だったか探りに来たんじゃないのか。秋華は誰ともチームを組んでいないようだから、誰と誰が実際にチームを組んでいるのか判断しきれていないだろうからな」
「まあ、そこら辺が妥当な考えなんですかね……」
どこか納得できない様子の神楽耶。実のところ明自身も、自分の言葉を信じてはいなかった。
鬼道院ほどでないにしろ、秋華からも他とは違う不気味な雰囲気が感じられる。加えて受け答えの速さからしても、彼女の地頭の良さは窺い知れた。そんな彼女が、あの状況で俺たちが宮城を殺したなどと判断するとは思えない。
あくまで確認のためだけに来たのか。それとも何か別の目的があったのか。
別の目的があったにしても、彼女が聞いてきたことと言えば宮城の正義の使者としての活動や、大広間で行われた裁判について。後は宮城の服装の話ぐらいしかなかったはずなのだが――
「いや、一つだけあったか」
「え、何の話ですか?」
黙り込んだと思っていた明が急に口を開き、神楽耶が驚いた顔を浮かべる。
明は「何でもない」と軽く告げ、再び思考の世界に戻った。
秋華がわざわざ明たちに会いに来た本当の目的。正義の使者による裁判についてどう思うかを尋ねられた際、彼女は虚言致死についての信憑性も聞いてきた。結果としてあのスペルで死んだ者はいないし、実はあのスペルはブラフだったんじゃないか。スペル自体は本物だとして、宮城はどんなイメージを持ってそれを使用していたのだろうか、など。さらに秋華はそれに関連して、こんなことを言ったはずだ。
曰く、「彼が裁いてきた悪人たちの中には、自身すら欺くような嘘を得意とするものもいたと思うのです。だから宮城さんなら、そんな相手のごまかしに惑わされないようなイメージを持ってスペルを唱えていたと思うのです」と。
それは一瞬納得してしまいそうになる考えだが、佐久間があれだけ長々と話しても死ななかったことからすぐに否定できる考え。いや、否定したくなる考えのはず。
まさか秋華とて佐久間のあの発言が全て真実だったとは思っていないだろう。鬼道院に論破され何も言えなくなった佐久間を見て、彼の言葉が信用性に足るものだと思うのはどう考えても無理な話だ。
にも関わらず、秋華はそんな考えを述べて見せた。単に思ったことを口にしただけで深い考えがあったわけではないと、そう断じるのは容易い。が、どうにもそれだけの気がしない。ここに彼女が来訪してきた真の意図が隠されているように思える。
明は今日まで血命館で得てきた情報から、彼女の真意を探ろうと頭をフル回転させる。
そしてふと、とある事象に対して荒唐無稽な考えが浮かんできた。いや、その考えも、この場においては荒唐無稽とは言えないかもしれない。
思いついた仮説がどこまで信じられるのか考えをまとめていると、明とは対照的に思考を放棄したらしい神楽耶が腕を大きく前に伸ばした。
「うーん、なんか考えるの疲れちゃいました。東郷さんはまだいろいろと考えているみたいですけど、一度休憩にしませんか。もう結構な時間ですし、あんまりゆっくりしてると連絡通路が閉まってしまいます。夕飯もお風呂もまだですし、ここらで一度ちゃんとした休息をとった方がいいんじゃないでしょうか。皆さん疲れているのは同じでしょうから、たぶん今日はもう何も起きないでしょうし」
「皆が疲れている今だからこそ行動を起こそうと思う者もいるだろうが……、仮にそんな奴がいたとしても俺たちにできることは同じか。そうだな。取りあえず飯と風呂ぐらいは済ませて、英気を養っておくか」
「はい! 是非そうしましょう!」
元気良く神楽耶が賛同の声を上げる。
よくよく考えてみれば今日は朝から何も食べていなかった。起きた途端に宮城が来訪し大広間に移動。広間と厨房は繋がっているのだから食料をとってくるのは容易かったのだが、場の雰囲気的に食事をとる気分にもならず何も口にしなかった。
不思議なことにこうしたことは意識した途端、急に欲求が強くなる。
二人は特に準備をすることもなく、一応の警戒だけして厨房へと食事をとりに向かう。特に他プレイヤーに遭遇することもなく食事を済ませると、寄り道はせずすぐさま自室に帰還した。
部屋に戻るとまず明が風呂に入った。明が風呂に入っている間は、神楽耶が他プレイヤーと接触できないよう扉越しに待機してもらっている。
烏の行水とまでは言わないが、十分とかからずに体を洗い終えると、風呂の使用権を神楽耶に譲る。風呂場に隠し扉などがなく、外部に移動したり他プレイヤーとコンタクトをとれないのは調べ済み。そのため神楽耶が風呂に入る際は、明が扉越しに待機することなどなくソファで火照った体を冷ましていた。
女性であればそこまで珍しくもないのかもしれないが、およそ一時間もの時間をかけてから神楽耶は風呂を出る。風呂上がりの神楽耶を見るのもこれで三回目のことであるが、いまだ彼女が放つ艶めかしさに耐性はつかず、しばらくは距離をとってやり過ごす。
恒例の就寝前作戦会議を行い、明日こそ動き出すであろう六道、姫宮、佐久間の三人チームに対抗する手段を話し合う。橋爪から奪った銃の隠し場所や、いざという時の偽キラースペル。全てのプレイヤーが使えるようになった『虚言致死』の有効利用及びその対策。
作戦会議は十一時を少し過ぎた所で終わり、その後すぐ神楽耶は睡眠薬を飲んで眠りについた。
明は十二時を過ぎるまで部屋でじっと待機し、神楽耶の寝顔を見守る。十二時を過ぎ、自分にも神楽耶にも異変がないことを確認。その後、明は静かに部屋を出て、鬼道院がいるⅡ号室に向けて歩き出した。
ぺこりと頭を下げ、秋華が来た時と同じぼんやりとした表情のまま部屋を出ていく。
彼女が去ってからも数分は油断することなく扉を見つめ続ける。何も起こらず五分が過ぎたあたりで、明はようやく緊張を解いた。
少しだけ疲れた表情を浮かべた神楽耶が、「どうにも彼女は苦手です」とため息を漏らした。
「秋華さん、全然表情が動かないから何を考えているのかさっぱり分かりません。私たちの考えが正しければ藤城さんを殺したのは彼女のはずなのに、それをちっとも顔に出さない。それに時々ドキリとするような怖い発言を挟んできますし。今も結局何が目的だったんでしょうか?」
「あいつの言葉を素直に受け止めるなら、宮城に対する好感度調査みたいな話だったが。まさかそれが目的なわけもないしな。おそらくは誰が宮城を殺したカウンタースペルの持ち主だったか探りに来たんじゃないのか。秋華は誰ともチームを組んでいないようだから、誰と誰が実際にチームを組んでいるのか判断しきれていないだろうからな」
「まあ、そこら辺が妥当な考えなんですかね……」
どこか納得できない様子の神楽耶。実のところ明自身も、自分の言葉を信じてはいなかった。
鬼道院ほどでないにしろ、秋華からも他とは違う不気味な雰囲気が感じられる。加えて受け答えの速さからしても、彼女の地頭の良さは窺い知れた。そんな彼女が、あの状況で俺たちが宮城を殺したなどと判断するとは思えない。
あくまで確認のためだけに来たのか。それとも何か別の目的があったのか。
別の目的があったにしても、彼女が聞いてきたことと言えば宮城の正義の使者としての活動や、大広間で行われた裁判について。後は宮城の服装の話ぐらいしかなかったはずなのだが――
「いや、一つだけあったか」
「え、何の話ですか?」
黙り込んだと思っていた明が急に口を開き、神楽耶が驚いた顔を浮かべる。
明は「何でもない」と軽く告げ、再び思考の世界に戻った。
秋華がわざわざ明たちに会いに来た本当の目的。正義の使者による裁判についてどう思うかを尋ねられた際、彼女は虚言致死についての信憑性も聞いてきた。結果としてあのスペルで死んだ者はいないし、実はあのスペルはブラフだったんじゃないか。スペル自体は本物だとして、宮城はどんなイメージを持ってそれを使用していたのだろうか、など。さらに秋華はそれに関連して、こんなことを言ったはずだ。
曰く、「彼が裁いてきた悪人たちの中には、自身すら欺くような嘘を得意とするものもいたと思うのです。だから宮城さんなら、そんな相手のごまかしに惑わされないようなイメージを持ってスペルを唱えていたと思うのです」と。
それは一瞬納得してしまいそうになる考えだが、佐久間があれだけ長々と話しても死ななかったことからすぐに否定できる考え。いや、否定したくなる考えのはず。
まさか秋華とて佐久間のあの発言が全て真実だったとは思っていないだろう。鬼道院に論破され何も言えなくなった佐久間を見て、彼の言葉が信用性に足るものだと思うのはどう考えても無理な話だ。
にも関わらず、秋華はそんな考えを述べて見せた。単に思ったことを口にしただけで深い考えがあったわけではないと、そう断じるのは容易い。が、どうにもそれだけの気がしない。ここに彼女が来訪してきた真の意図が隠されているように思える。
明は今日まで血命館で得てきた情報から、彼女の真意を探ろうと頭をフル回転させる。
そしてふと、とある事象に対して荒唐無稽な考えが浮かんできた。いや、その考えも、この場においては荒唐無稽とは言えないかもしれない。
思いついた仮説がどこまで信じられるのか考えをまとめていると、明とは対照的に思考を放棄したらしい神楽耶が腕を大きく前に伸ばした。
「うーん、なんか考えるの疲れちゃいました。東郷さんはまだいろいろと考えているみたいですけど、一度休憩にしませんか。もう結構な時間ですし、あんまりゆっくりしてると連絡通路が閉まってしまいます。夕飯もお風呂もまだですし、ここらで一度ちゃんとした休息をとった方がいいんじゃないでしょうか。皆さん疲れているのは同じでしょうから、たぶん今日はもう何も起きないでしょうし」
「皆が疲れている今だからこそ行動を起こそうと思う者もいるだろうが……、仮にそんな奴がいたとしても俺たちにできることは同じか。そうだな。取りあえず飯と風呂ぐらいは済ませて、英気を養っておくか」
「はい! 是非そうしましょう!」
元気良く神楽耶が賛同の声を上げる。
よくよく考えてみれば今日は朝から何も食べていなかった。起きた途端に宮城が来訪し大広間に移動。広間と厨房は繋がっているのだから食料をとってくるのは容易かったのだが、場の雰囲気的に食事をとる気分にもならず何も口にしなかった。
不思議なことにこうしたことは意識した途端、急に欲求が強くなる。
二人は特に準備をすることもなく、一応の警戒だけして厨房へと食事をとりに向かう。特に他プレイヤーに遭遇することもなく食事を済ませると、寄り道はせずすぐさま自室に帰還した。
部屋に戻るとまず明が風呂に入った。明が風呂に入っている間は、神楽耶が他プレイヤーと接触できないよう扉越しに待機してもらっている。
烏の行水とまでは言わないが、十分とかからずに体を洗い終えると、風呂の使用権を神楽耶に譲る。風呂場に隠し扉などがなく、外部に移動したり他プレイヤーとコンタクトをとれないのは調べ済み。そのため神楽耶が風呂に入る際は、明が扉越しに待機することなどなくソファで火照った体を冷ましていた。
女性であればそこまで珍しくもないのかもしれないが、およそ一時間もの時間をかけてから神楽耶は風呂を出る。風呂上がりの神楽耶を見るのもこれで三回目のことであるが、いまだ彼女が放つ艶めかしさに耐性はつかず、しばらくは距離をとってやり過ごす。
恒例の就寝前作戦会議を行い、明日こそ動き出すであろう六道、姫宮、佐久間の三人チームに対抗する手段を話し合う。橋爪から奪った銃の隠し場所や、いざという時の偽キラースペル。全てのプレイヤーが使えるようになった『虚言致死』の有効利用及びその対策。
作戦会議は十一時を少し過ぎた所で終わり、その後すぐ神楽耶は睡眠薬を飲んで眠りについた。
明は十二時を過ぎるまで部屋でじっと待機し、神楽耶の寝顔を見守る。十二時を過ぎ、自分にも神楽耶にも異変がないことを確認。その後、明は静かに部屋を出て、鬼道院がいるⅡ号室に向けて歩き出した。
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