喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク

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自業自得とお詫びの品

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「すまない、取り込み中だろうか」

 いつのまにか騎士団長のクレイグ様が受付カウンターにいらしておりました。

 クレイグ様は、身長は180センチを超える長身の細マッチョ。髪の毛は黒く、目は青色で落ち着きのある容姿に加え、近年騎士としての功績が認められ3年前、26歳の最年少で騎士団長にまで上り詰めたという才能の持ち主です。ハイスペックイケメンとして城内、城外問わずファンがとても多いのです。

「は~い、今行きますぅ」

 待っていましたとばかりにラーラが猫なで声で返事をします。

「先輩、私、先輩がクレイグ様を狙っていること知ってるんですよ。毎回毎回、楽しそうにしていますもんね。でも、私渡しませんよ?クレイグ様にふさわしいのは私。クレイグ様も私と会話すればすぐに好きになってくれるわ。では、クレイグ様がお待ちしているので失礼」

「……」

 確かに、私はクレイグ様をお慕いしているわ。

 本来ならば、騎士団長自ら手続きのために事務室に来る必要はないはずなのですがクレイグ様は毎回来られます。用事がない場合でも、ちょっと立ち寄っただけだとか、変わったことはないかとか見回りを兼ねてとか何かしら理由をつけて。しかも、毎回くすりと笑えるネタを持って。そんな、毎日交わすやり取りに心躍らせているのは間違いない。

 でも、狙うだなんてそんな恐れ多いことはしません。なぜなら、クレイグ様は未だ独身で、お見合いの話も出ているようですが全てお断りしているようなのです。風の噂ではどうやら心に決めた人がいるとか。なので私の出る幕はないのです。

 私ができることは仕事面でクレイグ様を支えること。それだけなのです。

 ちなみに、もちろんクレイグ様以外の方にも同じように対応しています。私的な事情は仕事には持ち込みません。




 さて、今回がいつもの挨拶のみなら大丈夫でしょう、と席に着いたその時。

「セシルを呼んでくれ。受付はセシルのはずだが」

 クレイグ様がめずらしく大きな声を出しています。

 あら、どうやらお仕事の用事の方でしたのね。ラーラはどう対応するのかしら。

「今日からラーラが担当になりましたぁ。こんなの無能な先輩じゃなくてもできますよぉ。この腕輪を保管するだけですよね? それにしても綺麗な腕輪! 着けてみようかしら」
「あ、ちょっと待て……!」

 あ、これは一番やってはいけないやつ……声が出せないので見守るしかありません。

「きゃぁ! 外れないし、動けないっ! 先輩、図ったわね!」

 いや、図るも何もあなたが自分から、勝手に腕輪を嵌めたのが悪いんじゃない。私は何もしていないわよ。

「それは、罪人捕縛用の仕掛けが付いた腕輪だ。キミみたいな他人の物を勝手に触るような者を逮捕するためのな。解除するには魔導士隊のところへ行かねばならない。後で頼みに行ってやるから、しばらくそのままでいてくれ。」

 やはり、ラーラがやらかしをして、大変なことになってしまいましたね。騎士団の所有する重要物を勝手に触ったのですから、自業自得。同情の余地は全くありません。人の物を勝手に触ったらどうなってしまうのか良い勉強になったでしょう。そして私の仕事がいかに重要なものなもかも。

「室長、あなたは一体部下にどのような教育をしているのですか。扱うものの重要さ、重大さがわかっていないものには任せることができません。本来であれば業務執行妨害、窃盗などの罪で逮捕のところですよ。今後も担当は必ずセシルで、くれぐれもお願いします」

「あぁ、わかったよ。セシル、君は今まで通りの業務に戻るように。ラーラもだよ」

 やはり、一日どころか、10分も持たなかったわね。
 魔導士隊は優先順位をきっちりつけているから、ラーラが解放されるのはいつになるのかしら。それまではカウンター横からしっかりと私の仕事について見ていただくことにするわ。動けなくても、見て覚えるのも仕事の内よ。

 とまぁ、これで一件落着したようですね。これでラーラも反省してくれると良いのだけれど。

 色々ありましたが、私はクレイグ様から信頼を得ていることがわかったので、たとえラーラがこちらを睨みつけてこようが、室長が仕事をさぼろうが全く気になりません。私は、私の仕事をやるのみです。




 次の日。

 クレイグ様がいつものように事務室へいらっしゃいました。また何やらお持ちのようです。私がカウンターへ行くといつものようにさわやかな笑顔で話しかけてくれました。

「おはようセシル、調子はどうだい?」

 あなたに会えたから嬉しいですよ、の気持ちを少し込め、私はにっこりと笑顔で返事をします。

「昨日はあの後輩の件で職場を騒がせてしまって申し訳なかった。セシルが担当だと思っていて油断して箱を開けた状態で持ってきた私にも落ち度があった。ところで、セシルは花は好きかい?」

 花が嫌いな令嬢はほぼいないでしょう。私もお花は綺麗で生命力が溢れるようで大好きです。なので首を縦に振って肯定します。

「よかった。それでだ、迷惑をかけたお詫びと言ったらなんだがこの花と花瓶をもらっていただけないだろうか」

 クレイグ様が取り出したのは、ピンク色で小さい鐘のような形をした珍しいお花と幾何学模様の入った15センチほどの花瓶です

「実はこれ、魔導士隊で研究している花が枯れにくくなる花瓶の試作品なんだ。せっかくだからセシルに観察してもらおうかと思って。よかったらセシルの机にでも飾ってほしい」

 わぁ嬉しいとジェスチャーをして、私の机の上に運びます。
 後方にいるラーラから激しい嫉妬の視線を感じますが、気にしません。ありがたくいただきます。

「セシルが喋れなくなって、そろそろ5年か……」

 ぼそっと聞こえたクレイグ様の発言に思わず振り向いて目を見開いてしまいました。

 覚えていてくださったのですか?

「俺はセシルと初めて出会った時のこと、覚えているよ」

 そう、クレイグ様との出会いは5年前。私が喋れなくなる前日でした。


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