リースス・レーニス

責任

「逃げたい…」
ペディは心の奥底から吐き出すようにそう言った。ペディの瞳からは涙がこぼれ、苦しそうな顔をしていた。
「ガキっぽい顔するやん。」
シャンスはニコッと微笑みながらペディの頭を優しく撫でた。
「僕は…ガキですよ。」
ペディはシャンスの手を払ったが、払っても払ってもシャンスが撫で続けるので、諦めて素直に撫でられ続けた。
「お前くらいの年頃は…自分のやりたい事をやればええんよ…本来は。まぁ…その機会を大人が排除しとるんやけどな。だから…お前はやりたい事をやればええ。」
シャンスは少し悲しそうな顔をしながらペディにそう言った。その時に、少しだけペディを撫でる手が止まってしまった。ペディはそんなシャンスの様子に違和感を覚え、シャンスの顔を覗こうとしたが、シャンスがペディの頭を力強く下に押したので、ペディはシャンスの顔を見る事ができなかった。
頭を押し込まれたペディは少し考え、か細い声でポツリと独り言のように呟いた。
「やりたい事…。でも逃げたら…責任が…」
「なんの責任？」
シャンスはそんなペディの独り言を聞き逃さず、素早く聞き返した。ペディは少し驚いた顔をすると、先程よりも大きな声でシャンスに心の内を打ち明けた。
「ミシェーニさんにお金を返す…責任…」
ペディは苦しそうな顔をしながらそう言った。その顔はあどけない子供の顔ではなく、責任に侵された大人のような顔をしていた。
「子供なんやから、責任なんて捨てて逃げればええのに…」
シャンスは顔をキョトンとさせて、ペディの顔を見つめた。すると、ペディは頭に乗っているシャンスの手をパシッと強く振り払い、キッと鋭い視線を送った。
「そんな無責任な事出来ませんよ！アイツらも…ミシェーニさんも裏切ることになるんですよ！」
ペディは顔を真っ赤にして、ボロボロと涙を零しながらシャンスを睨んだ。シャンスはそんなペディの顔を見て、少し黙り込んだ。そしてフゥ…と小さくため息をつくと、ペディの顔を見て諭すような口調で静かにこう言った。
「裏切る…か。無責任ってお前は言うたけど、1人で背負える荷物には限界があるんよ？これからも一生その荷物を1人で背負っていくんか？」
シャンスはペディの両肩を掴み、ペディの瞳を真っ直ぐに見て、心配そうな顔をした。
目を合わせられる事に慣れてないペディは、俯いて切羽詰まった様子でこう言った。
「でも…約束を破ってしまうのは…」
「はぁ～、頑固な奴やな。俺らを頼れって言うとるん！1人で背負えん荷物は何人かで分散して持てばええやろ。」
シャンスは頭をガシガシと搔くと、真っ直ぐな目でペディをジッと見た。
「え…？」
ペディはポカンと口を開けて、素っ頓狂な声を上げた。
「労働で借金を返すって…そんなん出来るわけないやろ。知っとるか？世の中には利息ってもんが存在すんねん。一気にバーって返金出来んと借金は膨大する一方なんやぞ。…借金って、何万くらいや。」
シャンスは早口でまくしたてるようにそう言った。その目には、少し哀愁が漂っていた。
「分からない…です…」
ペディはおどおどしながら、ボソッと呟いた。ペディの眼差しには、期待と諦観が入り交じっていた。ペディがそう言うと、シャンスは顎に手を当て、黙り込んでしまった。二人の間にしばらくの沈黙が流れた。