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第一部 二章
ハミングバードでごまかして
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そんな感覚を覚えた。
一年前の俺は恥ずかしいと思った。
こういうアニメだったり、特撮や漫画を未だに好きだということは。作品について話し合っていた友達がいつしかサッカーやバスケの話をするようになって、いつからかブランドや古着の話を好むようになって。
その中で、今期は何が覇権だの、声優さんがどうのと話す自分がひどく幼く感じた。
恥ずかしいと思った。だからやめたんだ。
そんな自分が間違っていたのかはわからない。
いや、正解不正解の話ではない、自分がそう思ったからそうしただけ。けれど、流れるエンドロールを眺めながら、昔から変わらないエンディングのテーマソングを聴きながら、俺は涙が流れそうになっていた。
そして心に一つの感情を抱いた。
それはどんな言葉にしていいかわからない。いや、もしかしたら既にその言葉の正体を俺は分かっているのかもしれない。
最近使ってないから忘れてしまっただけかもしれない。頭の中にチラチラと浮かぶそれは、あまりにもシンプルだがあまりにも言いづらいそんな言葉かもしれない。
頭とは別に人の体にあるかもしれない場所が勝手に命令して、何か口にしてしまわないよう必死に唇を強く噛み締めた。
☆ ☆ ☆
「素晴らしい。最高だったよ。戦闘シーンは言うまでもなく演出が素晴らしかったね。渾身の出来だ。序盤での伏線も見事に回収していたし、最近ありがちな続編を匂わす終わり方でもなくいい締めだったね。ミトゥーはどうだい? 何を感じたんだい!?」
「いやーこういうの初めて見たけど面白かったね! お兄ちゃんは?」
「ねぇ~はーちゃん。マー君は?」
二時間という長編を見終わりロビーへと続くエスカレーターを降りる。ここの映画館は広く、俺たちがいた八番のスクリーンは二階にあった。長らく喋ることを禁じられたからなのか、皆親子や友達同士で楽しそうに感想を言い合っていた。
ここに来てから初めて騒々しさを感じた瞬間である。そして例に漏れず俺たちも各々口を開き、一斉に俺の意見を求めてくる。
「ん。まぁ……そこそこ」
「もーー素直じゃないんだからーー」
ぷっくり頬を膨らませ両手でやれやれと首を横に振る初。
一階のロビーまでついて一度ソファーに腰掛けた。上映前に購入した飲み残しのジュースや余ったポップコーンを片付けるためだ。
ピークが過ぎたのか先ほどよりか人が減り、四人でも十分に座れるほどのスペースがあった。近くの大きなモニターにはちょうどさっきまで見ていたナンバー戦争の予告編が流れている。
「ミトゥーあっちにグッズが売ってあるみたいだよ! 行こう行こう!」
「いや、グッズとかマジそーいうのいいから」
ごにょごにょと自分でも聞き取れない呟きはもちろん龍太郎に届くわけもなく、腕を掴み強引に引っ張る。
「行ってきなよお兄ちゃん」
「私たちは待ってるよー」
いってらっしゃーいとひらひら手を振る千和子。「いや、ちょ、待って、財布」とカバンから長財布を取り出して俺は龍太郎に連れて行かれる。
しょ、しょーがねーな。全く。
二人の呆れた笑い声を背中に感じ、少し頬を上気させながら俺は売店へと向かう。
「素直じゃないんだから」
「素直じゃないねー」
一年前の俺は恥ずかしいと思った。
こういうアニメだったり、特撮や漫画を未だに好きだということは。作品について話し合っていた友達がいつしかサッカーやバスケの話をするようになって、いつからかブランドや古着の話を好むようになって。
その中で、今期は何が覇権だの、声優さんがどうのと話す自分がひどく幼く感じた。
恥ずかしいと思った。だからやめたんだ。
そんな自分が間違っていたのかはわからない。
いや、正解不正解の話ではない、自分がそう思ったからそうしただけ。けれど、流れるエンドロールを眺めながら、昔から変わらないエンディングのテーマソングを聴きながら、俺は涙が流れそうになっていた。
そして心に一つの感情を抱いた。
それはどんな言葉にしていいかわからない。いや、もしかしたら既にその言葉の正体を俺は分かっているのかもしれない。
最近使ってないから忘れてしまっただけかもしれない。頭の中にチラチラと浮かぶそれは、あまりにもシンプルだがあまりにも言いづらいそんな言葉かもしれない。
頭とは別に人の体にあるかもしれない場所が勝手に命令して、何か口にしてしまわないよう必死に唇を強く噛み締めた。
☆ ☆ ☆
「素晴らしい。最高だったよ。戦闘シーンは言うまでもなく演出が素晴らしかったね。渾身の出来だ。序盤での伏線も見事に回収していたし、最近ありがちな続編を匂わす終わり方でもなくいい締めだったね。ミトゥーはどうだい? 何を感じたんだい!?」
「いやーこういうの初めて見たけど面白かったね! お兄ちゃんは?」
「ねぇ~はーちゃん。マー君は?」
二時間という長編を見終わりロビーへと続くエスカレーターを降りる。ここの映画館は広く、俺たちがいた八番のスクリーンは二階にあった。長らく喋ることを禁じられたからなのか、皆親子や友達同士で楽しそうに感想を言い合っていた。
ここに来てから初めて騒々しさを感じた瞬間である。そして例に漏れず俺たちも各々口を開き、一斉に俺の意見を求めてくる。
「ん。まぁ……そこそこ」
「もーー素直じゃないんだからーー」
ぷっくり頬を膨らませ両手でやれやれと首を横に振る初。
一階のロビーまでついて一度ソファーに腰掛けた。上映前に購入した飲み残しのジュースや余ったポップコーンを片付けるためだ。
ピークが過ぎたのか先ほどよりか人が減り、四人でも十分に座れるほどのスペースがあった。近くの大きなモニターにはちょうどさっきまで見ていたナンバー戦争の予告編が流れている。
「ミトゥーあっちにグッズが売ってあるみたいだよ! 行こう行こう!」
「いや、グッズとかマジそーいうのいいから」
ごにょごにょと自分でも聞き取れない呟きはもちろん龍太郎に届くわけもなく、腕を掴み強引に引っ張る。
「行ってきなよお兄ちゃん」
「私たちは待ってるよー」
いってらっしゃーいとひらひら手を振る千和子。「いや、ちょ、待って、財布」とカバンから長財布を取り出して俺は龍太郎に連れて行かれる。
しょ、しょーがねーな。全く。
二人の呆れた笑い声を背中に感じ、少し頬を上気させながら俺は売店へと向かう。
「素直じゃないんだから」
「素直じゃないねー」
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