俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

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第一部 二章

君が呟く明晰夢

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隅にあった販売スペースには上映中の様々な作品のグッズが並んでいた。

 タンブラーやTシャツにストラップ。ナンバー戦争のタイトルロゴが入ったトートバックを自然と手にする。正面から、背面から、側面から。様々な角度から凝視し吟味する。
 
 ここは夢の国ですか。何時間でもここに居られる気がした。

 それは龍太郎も同じだろう。あちらこちら、店内を東奔西走とし、時折文字に出来ない感嘆の声をあげ、時折「生きる喜びってこういうことなんだね」と達観しだし、時折「キャーちょ~ヤバーイ」と退行しだす。様々な商品を値段も見ずにカゴに入れるその姿は豪快であった。

「あ、このアニメ」

 そう呟いて彼はパンフレットを手に取る。ナンバー戦争とは違う、他の公開している作品だった。桜舞う坂道を歩いている四人の制服を着た男女が描かれていた。タイトルは頭に入ってこなかったが、その脇に主張少なめに書かれた「まどろみのなか、紐解かれていく青春群青劇」というキャッチコピーが印象に残った。

「好きなのか?」
「ミトゥー知らないの? 冗談でしょ」

 その瞳は、信じられない。嘘でしょ。童貞は小学生まででしょ? とでも言いたげだ。

「俺はなぁ、もーそういうのやめたの」

「そうだったね」あははと一通り笑うと「はぁーあ」一つため息。空気と一緒に何か別のものまで吐き出したように精悍な顔つきをすると、今度は一変し恥しそうに自身の頬をポリポリと掻く。

 表情がよく変わる、喜怒哀楽に富んだ忙しい奴なんだ、こいつは。けれど今目の前で行われたそれは、普段の彼がやるワザとらしさというか、あー可愛いと思ってやってるでしょ君。みたいなあざとさがなかった。

「ミトゥーは……」照れた顔とは裏腹に声音はどこか沈んでいる。
 龍太郎は真面目な話を嫌い、肝心なことはさり気なく告げるタイプだ。

 今までもそう、どこの高校に進学するだとか、おばあちゃんが亡くなったとか。そういう話題を、アニメの感想を言う時みたいにさらり、平然とした口調で話す人間だ。

 そのせいで俺は何度も聞き逃してしまい、聞き返してしまう。その度、「人の話はちゃんと聞きましょうって小学校で習わなかったの」と小言を言われるのだ。
 だから、また彼はいつものように何か大事なことを口にするのではないかと、少し身構え続きを待つ。

「……やっぱり、なんでもないよ」
「へ?」

 呆気にとられ釈然としないが、それでこの話は終わり、とでも言わんばかりに涼しい顔で口笛を吹く龍太郎。その姿を見て、聞いても無駄だなと判断する。

 そんな彼は他の話題を探すかのように、ペラペラ手元の冊子をめくる。横でなんとなく眺めているとポツリ「かっこいいな」と呟いた。
 それは俺に向けられた言葉か定かではない。

 ん、と目だけで問いかける。

「いやぁこんなアニメに関われたらいいね」
「憧れだよ」俯いて手元のパンフレットを眺める。開かれたページには、インタビューの書き起こしだろうか。文字が無数に羅列している。眼差しはパンフレットに向いているがどこか別のもの見ているようだった。

 その顔つきは柔らかく緩んでいるものの、明るい面持ちとは違う。

「なればいいじゃん」

 何に、なのかは自分でもわからなかった。普段はおちゃらけていて、先ほどまでお菓子の家に連れて来られた子供のようにはしゃいでいたのに、突然葬式に来たような顔をし出す。今まであまり見たことのない龍太郎の表情が不安だったのかもしれない。

 早く元に戻ってほしくて、焦って言葉にしてしまって、後からその気持ちを誤魔化すように微笑む。

「そうだね。もしなれたら夢のような気分だろう。…………そうだ、夢といえば、ミトゥー、ねぇ知ってる?」
「何をだよ」

 豆しばかお前は。
 問い返す俺は自然と破顔していた。それはきっと、いつもの明るい口調につられたからだろう。彼の中で何か納得したのか。俺の言葉で、というよりは自分の中で整理がついたような。理由はわからないが、すっかりいつもの調子に戻っていた。

明晰夢めいせきむだよ。今話題じゃないか」
「めーせきむ? 何それ美味しいの?」

「本当に知らないの? 夢の中で『これは夢だな』って自覚しながら見る夢のことで、自分の思い通りに行動が出来るらしいよ」

 目を輝かして説明してくる龍太郎に、俺が真っ先に聞いたのは「そんなことできるのか?」でも「お前はみたことあるのか」でもなく「––––それの何がすごいのか」だった。

「すごいよ! 頑張っても見れないんだよ?」
「その、めーせきむが見れたらいいことでもあんの? 片思いが叶うとかテストで満点取れるとか」
「寝ている時間に起きてられるんだよ? しかも自分の思った通りに動けるんだよ? 言うならば告白の練習やテスト勉強の続きも出来ることだろうね」

「ふーん」

 ふーん、と本当に、ふーんと口にした。それほどまでに、あまり関心がなかった。便利ではあるのだろうけれど。俺はあまり計画性のない人間だから、明日に備え落ち着いて眠りにつくことよりも、享楽的きょうらくてきに漫画を読みふけったりゲームをしたりして力尽きて寝落ちしてしまうことの方が多い。

 そんな疲れ切った状態で、休息を取るはずの睡眠中にまで行動をしていたらさらに寝不足になってしまうことだろう。明晰夢なんて見ていたら授業中なんてずっと机と口付けしているんじゃなかろうか。

「で、なんでいきなりめーせきむが出てきたんだよ」
「このアニメが明晰夢をテーマにしたんだよ。本当に知らないんだね。もっとニュース見たほうがいいよ」
「うるせぇ」

 ムカついたので一発頭を小突くが、なかなか龍太郎のいう通りだ。もう高校生になるわけだし。ニュースか、たまに目にした時に映る再現映像のCGは見ていて面白いんだけどな。

 パンフレットを綺麗に戻した龍太郎は隣で「僕も見てみたいなぁ」と独り言を呟いた。
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