20 / 39
第一部 三章
不死身ファンファーレ
しおりを挟む
これは、今、俺が見ているのは。
「これは、夢だ」
朦朧とした意識が鮮明になり、視界にかかった霧が晴れて。
そして、明晰になる。
そうだ、夢だ。
なんの夢か? そんなの答えは簡単だ。
昨日観たばかりじゃないか。
四人で。確かこれがその通りに進んでいるのだったら、本当に夢なら、確か、確か次は。
「………………次は落とされるんだよな」
絶対にそんなことはないはずなのに、背後のドラゴンに嘲笑われた気がしてから一瞬、ふわぁっと宙に浮いた。
体を掴まれていた圧迫感が消え、軽くなったと思うと、先ほどまで見下ろしていた雲がすぐ横にあった。そしてポツンと小さく見えていた島が迫ってくる。恐ろしいほどの風圧で目が開けられない。
少年は、空に落ちる。そんなゲームのキャッチコピーがあったら素敵じゃない?
勢いよく落下し、上に上がっているのか下に下がっているのか感覚が分からなくなる。スカイダイビングをしているようだった。
一つだけ違うのはパラシュートを持っていないことだろうか。
しかし焦りや恐怖は全く感じない。
むしろ、この状況を楽しんでいる。
だって、人が作った命綱なんかよりよっぽど良いものを持っているから。
できるだろうか、俺に。
大丈夫、心の中で優しい男の声が聞こえる。
なれるだろうか、俺に。
なれる、なれるに決まってるだろう。
今度は確かに力強い自分の声だった。
不安を振り払うように俺は無理やり両目をこじ開けた。
そして滾る思いを胸の奥から手繰り寄せて、溢れる情熱そのままに口を開く。
「物語の主人公は、この俺だあああああああああああ!」
それは言葉になったのかわからない。
なんせこの風圧の中だ、叫び声というよりただの慟哭だったかもしれない。
ただ、俺の、心よりもさらに奥にある魂に、ゆらり炎が灯された。
孤島がただの緑色ではなく、その色をした森林の部分と、肌けた地面の部分やら流れる川が見えるくらいに近づいた。
そろそろだ。
そろそろあの場面が来る。
いくら主人公とは言え、このまま落ちたら死ぬ。
伝説の勇者だって魔界の覇者だってなんの補正もなく見るも無残な肉塊へと姿を変える。唯一死なない主人公がいるとしたら不死身の能力を持ったやつか、落ちてもバイーンと横に広がり、また元に戻るアメリカの漫画くらいだろう。
瞳を閉じながら五感と、頭の先からつま先までの全神経を集中させる。
脳裏で描く、夢見た光景。
そして頷く、夢見る中で。
アブラカタブラに代わる魔法の言葉を唱えた。
「全身硬化」
身体中からまばゆい光が溢れ出す。
体を包むその炎の色は。
きらめく銀色をしていた。
☆ ☆ ☆
人は何メートル以上の高さからから落ちたら死ぬ、という明確なデータはない。
なんと6700メートルから落下しても生存していた事例もあるらしい。
きっと相当な五接地転回法の使い手だったに違いない。
一般人ならば紛うことなく死ぬだろう。そもそも転落死する人のほとんどは、落下する直前にショック状態になり既に心肺停止に陥っているらしい。
だがもしも、遥か彼方の上空から雪や植え込みなしの地面に落とされても傷一つなかったら……。
それはまさしく、奇跡と呼ぶにふさわしい。
「これは、夢だ」
朦朧とした意識が鮮明になり、視界にかかった霧が晴れて。
そして、明晰になる。
そうだ、夢だ。
なんの夢か? そんなの答えは簡単だ。
昨日観たばかりじゃないか。
四人で。確かこれがその通りに進んでいるのだったら、本当に夢なら、確か、確か次は。
「………………次は落とされるんだよな」
絶対にそんなことはないはずなのに、背後のドラゴンに嘲笑われた気がしてから一瞬、ふわぁっと宙に浮いた。
体を掴まれていた圧迫感が消え、軽くなったと思うと、先ほどまで見下ろしていた雲がすぐ横にあった。そしてポツンと小さく見えていた島が迫ってくる。恐ろしいほどの風圧で目が開けられない。
少年は、空に落ちる。そんなゲームのキャッチコピーがあったら素敵じゃない?
勢いよく落下し、上に上がっているのか下に下がっているのか感覚が分からなくなる。スカイダイビングをしているようだった。
一つだけ違うのはパラシュートを持っていないことだろうか。
しかし焦りや恐怖は全く感じない。
むしろ、この状況を楽しんでいる。
だって、人が作った命綱なんかよりよっぽど良いものを持っているから。
できるだろうか、俺に。
大丈夫、心の中で優しい男の声が聞こえる。
なれるだろうか、俺に。
なれる、なれるに決まってるだろう。
今度は確かに力強い自分の声だった。
不安を振り払うように俺は無理やり両目をこじ開けた。
そして滾る思いを胸の奥から手繰り寄せて、溢れる情熱そのままに口を開く。
「物語の主人公は、この俺だあああああああああああ!」
それは言葉になったのかわからない。
なんせこの風圧の中だ、叫び声というよりただの慟哭だったかもしれない。
ただ、俺の、心よりもさらに奥にある魂に、ゆらり炎が灯された。
孤島がただの緑色ではなく、その色をした森林の部分と、肌けた地面の部分やら流れる川が見えるくらいに近づいた。
そろそろだ。
そろそろあの場面が来る。
いくら主人公とは言え、このまま落ちたら死ぬ。
伝説の勇者だって魔界の覇者だってなんの補正もなく見るも無残な肉塊へと姿を変える。唯一死なない主人公がいるとしたら不死身の能力を持ったやつか、落ちてもバイーンと横に広がり、また元に戻るアメリカの漫画くらいだろう。
瞳を閉じながら五感と、頭の先からつま先までの全神経を集中させる。
脳裏で描く、夢見た光景。
そして頷く、夢見る中で。
アブラカタブラに代わる魔法の言葉を唱えた。
「全身硬化」
身体中からまばゆい光が溢れ出す。
体を包むその炎の色は。
きらめく銀色をしていた。
☆ ☆ ☆
人は何メートル以上の高さからから落ちたら死ぬ、という明確なデータはない。
なんと6700メートルから落下しても生存していた事例もあるらしい。
きっと相当な五接地転回法の使い手だったに違いない。
一般人ならば紛うことなく死ぬだろう。そもそも転落死する人のほとんどは、落下する直前にショック状態になり既に心肺停止に陥っているらしい。
だがもしも、遥か彼方の上空から雪や植え込みなしの地面に落とされても傷一つなかったら……。
それはまさしく、奇跡と呼ぶにふさわしい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる